孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  男児両目くりぬき事件と地方に残存する貧困・格差の問題

2013-09-06 21:43:39 | 中国

(“何者かに両目の眼球をくりぬかれた中国の6歳男児は、自分の目が見えなくなったことを理解しておらず、家族に「なんでまだ太陽が昇っていないのか」と尋ねている”【8月29日 AFP】
写真は【8月28日 YAHOO!ニュース】)

日本でも、外国でも、ときに猟奇的な事件は起きますが、先月末に中国で起きた男児の両目がくりぬかれるという事件はショッキングでした。

****中国:売買目的? 6歳男児、両目くりぬかれる****
中国メディアは27日、山西省南部の臨汾(りんふん)市で24日、6歳の男児の両目が何者かにくりぬかれる事件が起き、地元警察が捜査していると伝えた。

報道によると、男児は24日夕に外で遊んでいたが、午後10時ごろに自宅近くの野原で倒れているのが見つかった。大量に出血して昏睡(こんすい)状態だった。眼球は近くで見つかったが、角膜がなくなっており、売買目的の可能性もある。男児は命に別条はないが失明し、治療が続いている。

地元警察は10万元(約160万円)の懸賞金を出し、関与したとみられる、地元の方言ではない女の行方を追っているという。【8月28日 毎日】
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違法臓器売買が横行する中国社会ということで、事件発生時は、角膜を売買する目的でくりぬかれたのでは・・・との憶測もありましたが、“警察は28日、眼球は角膜がついた状態で見つかったと発表し、臓器売買が動機という見方を否定”【8月29日 AFP】とのことでした。

その後、男児の伯母が容疑者と発表されましたが、その伯母は井戸に身を投げて自殺しているとのことです。

****自殺の伯母が容疑者=男児両目くりぬき事件―中国山西省****
3日夜の新華社電によると、中国山西省臨汾市汾西県で8月24日に6歳の男児が、何者かに両目をくりぬかれた事件で、地元警察当局は、男児の伯母(41)を容疑者と断定した。伯母は30日に井戸に身を投げて自殺している。

警察によれば、男児は伯母に野外に連れて行かれ、両目をくりぬかれ、失明した。警察がDNA鑑定などを実施したところ、伯母の衣服に男児の血痕が確認された。

4日付の中国紙・新京報によると、男児の両親と伯母一家の間には半身不随の老いた父親の介護をめぐり争いが生じていた。伯母は事件発生後、警察が事情聴取に来た際もおびえた様子だったという。

事件直後から男児の元には各地から寄付が寄せられ、2日までに10万元(約160万円)を超えた。【9月4日 時事】 
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事件の真相は未だよくわかりませんが、事件が起きた地域は貧富の格差が拡大する中国の貧困を代表するような地域でもあり、そのことが注目を集めているとのことです。

****男児両目くりぬき事件、地方貧困の実態に注目 中国****
中国山西省汾西県で6歳の男児、グオ・ビン君が両目をくりぬかれた事件は、人々を震撼(しんかん)させると共に、同国でも最貧地域に数えられる同県の実態に注目を集めている。

事件が起きた汾西県は、繁栄する沿岸地域からはほど遠い山岳地帯にある。政府統計によると、汾西の農家の年収はわずか1944元(約3万2000円)。だが、同地域では農業以外に稼げる産業はほとんどない。

事件では、DNA鑑定の結果、グオ・ビン君の伯母の衣服についていた血液がグオ・ビン君のものと判明したことから、伯母が容疑者とされたが、事件の数日後、伯母は井戸に身を投げて自殺した。

事件が起きた当時、伯母は別の場所にいたとの証言もあり、親戚らは一様に伯母は無実だと主張している。また、被害者のグオ・ビン君の証言も矛盾している。

グオ・ビン君に対しては香港の医師が義眼を提供すると申し出ている他、多くの寄付がグオ・ビン君に寄せられている。

■容疑者とされた伯母家族の苦悩
一方、容疑者とされた伯母の家族の暮らしは一変したと、伯母の夫は涙ながらに語る。夫婦は鶏肉処理業を営んでいたが、昨年に夫が仕事中の事故で負傷してからは妻が主な働き手となっていた。今後は3人の娘を1人で養っていかなければならない

中国で小学校は無料だが、地元住民たちは幼稚園への通園費や高校の学費を工面している。「教育費の問題が一層、大きくのしかかってくる。私には、ほとんど収入がないというのに、あまりに不公平だ」と、この夫は嘆く。

山岳地帯で土壌も乾燥した汾西県には、農地に適した土地は、ほとんどない。かろうじて飼料用のトウモロコシが栽培できる程度だ。住民は山肌に堀った洞穴式の住居に暮らしている。

■地方で広がる貧困
中国国家統計局によれば、汾西県は、目覚ましい成長の世紀にありながら、国内人口の9900万人が1日1ドル(約99円)以下で暮らしているという、中国指導部が直面する貧困の問題を体現している場所でもある。

地方の農村地域などでは、この10年間、大量の住民が都会に移住したため学校の閉鎖が相次いでいる。汾西県も例外ではない。教育省によれば、地方での学校数は2000年の44万284校から、2010年には52.1%も減少し21万894校まで落ち込んだ。

有識者らは、こうした学校の閉鎖が貧困家庭を経済的に苦しめていると指摘する。

体の不自由な親の医療費をめぐってグオ・ビン君の両親と伯母が言い争っていたとの報道もある。

中国政府は5年間かけて、地方を中心に大規模な保険制度を導入してきた。政府は農村人口の99%が保険制度で保護されていると主張する。だが、汾西県の住民らは、政府の政策も貧困から抜け出すには、ほとんど効果がないと話す。

子どものいる家族は学校がないために村を去り、人がいなくなった家屋や土地は荒れていくだけだという。
ある住民は次のように語った。「政府の政策は素晴らしいが、われわれのもとにお金は届かない。いつも言葉だけだ」【9月6日 AFP】
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こうした貧困、教育の荒廃、セイフティーネットの未整備といった中国社会の抱える問題が、今回事件にどのように関係しているかはわかりません。
両目を生きたままくりぬくという猟奇性は、社会的背景だけでなく、犯人の精神的な問題が大きくかかわっているように思えます。

その点、冒頭でも触れた違法臓器売買の問題は、ストレートに貧困・格差という社会問題に直結するものです。

****中国で、腎臓を違法に売買し、移植するケースが後を絶たない****
8月には湖北省武漢で別荘を「手術室」とした犯罪グループが摘発された。当局は取り締まりを強化しているが、貧富の格差や蔓延(まんえん)する拝金主義を背景に、インターネット上には売買に関する情報があふれる。
仲介業者も暗躍し、当局の対応が追いつかないのが実情だ。

膵臓(すいぞう)がんで入院中の妻の治療費20万元(1元は約16円)をどうしても工面できない。自分の腎臓を売るしかないんだ」。池州市郊外の山間部。喫茶店で待ち合わせた無職の男性(42)はあきらめきった表情だ。

男性は今春、激しい痛みに頻繁に襲われる妻(40)の看病のため会社を辞めた。高額の治療費で貯金があっという間に底をつき、知人らからの借金も30万元を超えた。男性はやむなく最近、中国版ツイッター・微博に「腎臓を売ります」と書き込んだ。

腎臓の相場は30万~40万元。仲介業者を通すと、ヤミの医師や業者の取り分が引かれ、手元に2万~3万元しか残らないことが多い。男性は「40万元での直接取引」を希望し、連絡を待つ日々だ。

中国で臓器の売買は法で禁じられている。臓器提供は死後ならば第三者間でも認められるが、生体移植は基本的に親族間に限られる。そうした規制にもかかわらず売買が横行するのは、貧富の格差の存在が大きい。

「腎臓を売るしかないまで追いつめられた人がいる一方で、臓器提供を待てない患者が、富裕層を中心に非合法な売買を求めている」。腎臓売買に詳しい報道関係者は事情を明かした。

中国には約100万人の腎臓移植対象者がいるが、合法的な移植は年4000件程度。臓器提供者の大半を占めていた死刑囚からの摘出が、国際社会の批判もあって、近年大幅に減り、提供者不足が深刻化していることも違法売買が相次いでいる理由とみられる。

仲介業者によれば、金欲しさに、「腎臓は二つあるので、一つ売っても問題ない」と安易に売る人も多い。一昨年には、安徽省の少年(当時17歳)が「iPadが欲しいから」と、ネット上で知り合った仲介業者を通して摘出手術を受け、重い障害が残る事件があった。

当局は違法売買の摘発に躍起になっている。だが、ネットで「腎臓を売る」と中国語で入力すると、売りたい人や仲介業者の書き込みが表示される。事実上野放しになっているようだ。【9月6日 読売】
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2008年に国産粉ミルクの化学物質汚染事件が起きた中国では、国産品への不信が強く、乳製品の輸入市場が拡大していることや、海外での中国人による粉ミルク買占めなどが起きていることはしばしば報じられています。

その国産乳製品への不信感と格差問題が組み合わさると、ちょっといびつで薄気味悪いことも広まるようです。

****ポリ袋で売られ、成人男性に吸われる母乳****
中国で粉ミルクの需要が高い理由の一つとして、母乳育児率の低さがあげられる。生後6カ月まで母親が母乳で育児する割合は世界平均では40%とされているのに対して中国全土では28%。都市部に限れば16%まで落ち込むという。

中国では共働き家庭が多い一方で、母親の育児休暇が短かったり、外出先で授乳施設が整備されていないことなどから、母乳で育児をする母親は少ないとされている。

だが、粉ミルク騒動が加熱するなか、母乳をポリ袋に詰めて数十元で、母乳が出ない母親向けに販売するケースも。これには、感染症にかかっている女性の母乳だと、母乳を介して感染症が子供に移る危険が指摘されている。

また、中国の一部地域では古来、「母乳は消化がよく手軽な栄養源」とされてきたことから、裕福なビジネマンらの間では、疲労回復や栄養補給のために乳母を自宅に雇うことがはやっているという。

中国紙によると、深センの人材派遣会社は、母乳が出ない母親を持つ新生児だけでなく、栄養価の高い「乳製品」を求める富裕層向けに女性スタッフを派遣している。

派遣会社の社長は「大人でも、スタッフの胸から直接、母乳を飲むことができる」と説明。女性スタッフの収入は1カ月約1万5千元(約24万円)で、農村部の平均年収の約2倍にあたる。「健康で美人」なら、さらに収入は高くなるという。

乳母として派遣されるのは、四川省や黒竜江省などの貧しい家庭の出身。生活費などを稼ぐため、出産直後の子供を親に預けて出稼ぎにきているとされる。

中国では、貧しい家庭の赤ちゃんは、化学物質や細菌の混入などの汚染が疑われる国産粉ミルクを飲み、金持ちの大人が代わって、赤ちゃんの母親の乳房を吸って栄養をつけている。【8月27日 産経】 
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国家統制を重視する左派路線で社会がうまく機能するとは思いませんが、薄熙来や毛沢東の肖像を掲げるニューレフトが今の中国社会を批判するのも当然とも言えます。
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