孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  恒例の財政問題再燃

2013-09-05 23:41:45 | アメリカ

(米議会に早期の債務上限引き上げを求めるルー財務長官 【8月27日 TV TOKYO digital】)

今回も土壇場で回避されるとの見方は根強い一方、「その保証はどこにもない」】
シリアの化学兵器使用疑惑への懲罰的攻撃をめぐって、アメリカではオバマ政権が議会の承認を求める交渉が行われています。

報道されているように、米上院外交委員会はいろいろ制約をつけながらも武力行使を承認し、上院での採決には一応の目途が立ちつつあります。
ただ、中間選挙での全員改選を控えた下院は、シリア攻撃に消極的な世論の動向により敏感でもあり、承認されるか予断を許さない状況が続いています。

国連の承認がない武力行使の妥当性、アサド政権側の犯行とする証拠の信ぴょう性、限定的攻撃の有効性に対する疑問、紛争の泥沼に引きずり込まれる可能性・・・などのほか、ティーパーティーからの支持を受けている共和党保守派などには、「なぜアメリカの税金をシリアのために使わなければならないのか?」といった強固な内向き志向もあります。

ただ、米議会が対シリア軍事攻撃を承認しなければ「私に対する信頼が揺らぐのではなく、国際社会に対する信頼が揺らぐ」「アメリカの威信に関わる問題だ」というオバマ大統領側の説得は、党派を超えて各議員が独自に判断する状況で、アメリカ国内にあってはそれなりの賛同を得ることも可能でしょう。

オバマ大統領にとって、シリア問題以上に議会説得が難しいのは、毎度おなじみになった感もある財政問題ではないでしょうか。
民主党対共和党という党派対立、下院における共和党優位の現状から、身動きがとれない状況が続いています。

2014会計年度(13年10月~14年9月)予算が9月中に成立しなければ、政府期間閉鎖・職員解雇の事態に陥いります。
また、10月半ばまでに連邦債務の法定上限が引き上げられなければ、デフォルト(債務不履行)危機に再度直面します。

****上院共和党との協議暗礁に=米、財政交渉の道険しく****
オバマ政権と一部の上院共和党議員との財政問題をめぐる協議が、暗礁に乗り上げた。米メディアが30日までに報じた。政権と野党側との限られた交渉窓口だっただけに、連邦債務上限などの期限が迫る中、問題解決への道のりが一層険しくなると予想される。

オバマ大統領は、共和党幹部との交渉決裂を受けて強制歳出削減を発動した3月以降、上院の共和党議員を食事に招くなどして接触。政府高官も議員らと協議を重ねてきた。

報道によると、マクドノー大統領首席補佐官やバーウェル行政管理予算局(OMB)長官らが29日、マケイン議員ら8人と会談した。

議員側が高齢者・障害者向け医療保険(メディケア)の抜本的な見直しを求めたのに対し、補佐官らは、メディケアの小幅な改正や、強制削減措置停止に向けた歩み寄りの必要性を訴えた。議員の1人は会談終了後「共通点はなく、協議を続ける理由はない」と述べたという。(後略)【8月31日 時事】
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ただでさえ歩み寄りが難しい問題ですが、昨今のシリア問題に関する審議に時間を取られていることや、中間選挙を控えていることなどから、ますます先行き不透明な情勢です。

****デフォルト危機、再燃 オバマ政権、交渉否定 野党と壁、進展困難****
米国でデフォルト(債務不履行)危機が再燃している。10月半ばにも連邦債務が法定上限に達するためで、オバマ政権は「交渉はしない」と議会に上限引き上げを強硬に要求するが、歳出削減を訴える野党共和党は反発。
3日から与野党の攻防が本格化するが、シリア問題や中間選挙をめぐる駆け引きが絡み、事態の進展は難しい状況だ。

「国の信頼を守る責任は議会にある。(債務上限を引き上げなければ)米経済は回復不能の傷を被る」
 ルー財務長官は議会指導部への書簡で債務が10月半ばに上限に達し、新たな借り入れができずデフォルトに直面すると警告。上限引き上げに無条件で一刻も早く同意するよう議会に求めている。

現在の法定上限は約16兆7千億ドル(約1660兆円)。財務省は自治体への財政支援の縮小などでしのいできたが、それもまもなく限界だ。

だが、共和党のベイナー下院議長は「政府が(社会保障の見直しなど)歳出削減を真剣に検討しない限り、引き上げには応じない」と反発。
9月中に可決が必要な2014会計年度の予算案協議でも、増税を探る政府、与党民主党と共和党が対立している。

野党の強気の背景には、来年秋に控える中間選挙への思惑がある。
昨年の大統領選に敗北した共和党は、「財政の崖」をめぐる与野党協議で富裕層増税を容認した。
債務上限引き上げ問題でも政権に寄り切られれば、支持者や支持団体の反発は必至。とくに徹底した歳出削減と増税反対を旗印に掲げる草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持頼みの議員は「危機感が強い」(議会筋)とされる。

もっとも民主党も一枚岩ではない。政治専門サイトのポリティコは、中間選挙で劣勢が予想される一部議員が財政問題の採決で共和党に同調する可能性を伝える。
共和党にも、上限引き上げの条件としてオバマ大統領肝いりの医療保険改革の延期を求め政権を揺さぶろうとする動きがある。

さらにシリアへの軍事介入をめぐる審議に時間が多く割かれるため、「財政問題の決着は先送りされる可能性が高まった」(ロイター通信)との見方もあり、視界は一段と不明瞭だ。

米国は11年にも財政協議のもつれからデフォルト寸前に陥った。今回も土壇場で回避されるとの見方は根強い一方、「その保証はどこにもない」(米紙ワシントン・ポスト)状況だ。【9月4日 産経】
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民間セクター拡大で相殺された歳出強制削減
ただ、2011年春の政府機関閉鎖(シャットダウン)騒ぎ、同年夏の債務上限引き上げ問題をめぐるデフォルト(債務不履行)危機、2012年末の「財政の崖」、今年3月の歳出強制削減発動・・・・と財政危機・問題先送りを繰り返すなかで、危機感も薄れてきている、あるいはマンネリ化しているという側面もあるように見えます。
(巨額債務が膨れる一方の日本は、財政問題とその対応について他国をとやかく言う立場にはありませんが)

また、3月から始まった歳出強制削減に関して、当時言われていたほどの影響は今のところ出ていない・・・という現実もあります。

その背景には、縮小する公的部門の愛嬌を、拡大する民間セクターの押上げ効果が相殺していることが指摘されています。

****米歳出の強制削減、痛みが今後増す可能性も****
米連邦歳出の包括的削減の実施から3カ月がたった。

「これら削減は賢明ではない。公正ではない。われわれの経済を痛めつけるだろう」。オバマ大統領は2月にこう述べ、さらに「これによって数十万人の米国民が失業者名簿に加わることになるだろう。これは抽象的な概念ではない。国民は職を失うことになるだろう。失業率は再び上昇する可能性がある」と語った。

この大統領の発言以降、失業率は7.9%から7.5%へとやや下がっている。63万5000以上の職が増えた。この数字には7日発表予定の5月の数字は含まれていない。

ワシントン・ポスト紙とABCニュースによる世論調査では、63%が歳出削減の影響は受けていないと回答した。また、影響を受けたと回答した人の半数が影響は「わずか」だと回答した。
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では、案じられていた歳出削減がもたらすはずの痛みはどうなったのか。

歳出削減は痛みをもたらしているが、それに気づいているのは直接影響を受けている人たちだけだ。

十分過ぎるほどの働きをしてくれているにもかかわらず、全米の連邦公選弁護人が10月1日までに最大20日間の自宅待機を余儀なくされている。
国防総省はその約65万人の文民職員に7月初めから9月末までの期間に最大11日間の無給の一時帰休を取ることを命じた。
また、国立衛生研究所(NIH)によると、臨床センターが今年新たに受け入れる患者数は昨年よりも7%、750人減るとともに、NIHが今年受給する競争的研究助成金の数は昨年よりも703減り、8%の削減となる。

また、メリーランド州ハイアッツビルのメソジスト教会によると、同教会が奉仕する自宅療養者や老人などへの食事配達の連邦予算は、これまでの1四半期当たり1200ドルから年間1100ドルへと削減されたという。
教会は30年に及ぶその取り組みを放棄する寸前にまで追い込まれたが、ワシントン・ポストがそれを報じたおかげで教会に寄付が殺到した。

カリフォルニア州サンタクララでは、住宅開発当局の低所得者向け家賃援助制度の年間予算が約6%、1600万ドル(約15億8500万円)削られた。
当局は今週、援助金の受給者数を減らす代わりに、受給者が負担する家賃の割合を引き上げることを決定した。
この結果、年間所得が平均1万6000ドルの受給者の大部分にとって、毎月の負担が50-150ドル増えることになる。

米国経済全体としては、民間セクターの復調によって連邦予算引き締めの影響の一部は相殺されている。

だが、成長のペースは損なわれてきた。オバマ大統領の財政刺激策の効果が薄れてきたことに加え、大統領と議会が同意した歳出削減が実施、さらに1月1日付で給与税が引き上げられたためだ。

商務省によると、地方や州、連邦の各政府による購買額の減少で1-3月期の経済成長率は1ポイント近く引き下げられた。ただし、それでも成長率はプラス2.4%となった。

なぜか。民間セクターの好調な業績が政府の予算削減のショックを和らげたためだ。住宅価格と株価の上昇が消費意欲を下支えしている。米国民全体としては豊かさが増し、経済への自信を強めている。(中略)

その痛みは今後悪化する可能性がある。

連邦予算の強制削減の影響が見出しを飾ったのは、スタッフの自宅待機や歳出削減が実際に行われるはるか前だ。今週サンタクララ当局が承認した家賃負担の引き上げが実施されるのは9月以降だ。住宅開発当局はその前にワシントンの承認を得る必要がある。

ゴールドマン・サックスのエコノミストの試算によると、その他の増税や予算改定はもとより、歳出の強制削減だけでも12年10-12月期から13年にかけての成長率は0.6ポイント押し下げられる可能性がある。
その成長の鈍化の大部分は4-6月期から7-9月期にかけて表れるとエコノミストらはみている。大方の予想では、4-6月期から7-9月期にかけての米国の成長率は1-3月期よりも減速する見通しだ。(中略)

歳出の強制削減が米経済に悲惨な影響を及ぼすとの恐怖をかき立てるような予測は大げさだった。しかし、その締め付けは始まっている。政府職員に軽い傷を負わせ、生活が最も苦しい米国民の一部の人々を圧迫している。

今後年末まで、連邦財政政策による景気下押し圧力と、民間セクターによる景気押し上げ力(ただし、住宅・株式市場が堅調に推移することを前提とする)との間で綱引きが続く見通しだ。後者が勝つことを期待しよう。【6月6日 WSJ】
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もっとも、国防省は国防費削減に不満を募らせています。

****米国防費:強制削減 兵器近代化か人員維持かの選択****
ヘーゲル米国防長官は31日、記者会見で、国防費の強制削減が今後10年間続く場合、兵器などの近代化と人員規模のどちらかを優先せざるを得なくなるとし、二つの選択肢を提示した。

近代化をとる場合、陸軍兵力は現在の57万人から約2〜3割削減する必要があるなどと説明。ヘーゲル氏は「我々の見積もりは誇張でも誇大宣伝でもない」と危機感を強調した。(中略)

一方、人員規模を維持する場合は、「軍の近代化を10年間の休業」(ヘーゲル氏)にし、兵器開発計画の中止や抑制のほか、特殊部隊も削減する必要があるとした。【8月1日 毎日】
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シリア問題に割くカネはなさそうですが、ヘーゲル米国防長官は、シリアに対する限定的な軍事攻撃のコストは数千万ドルとの試算を述べています。また、国防省の報道官は、既存の国防予算で賄うことができ、新たに資金調達は必要ないとの認識を示しています。

アメリカ国内である程度カバーできる歳出強制削減はともかく、デフォルトとなると、世界経済に激震が走ります。
それだけに、そんなことにはなるまい・・・と皆高をくくっているとも言えます。
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