(8月26日 パキスタンを訪問したアフガニスタン・カルザイ大統領(左)とパキスタン・シャリフ首相(右) ”flickr”より By hafeez Anwar http://www.flickr.com/photos/57927482@N07/9605619720/in/photolist-fCPj67)
【対タリバン:「パキスタンにできることは限られている」との指摘も】
アフガニスタンにおけるタリバン、アフガニスタン政府、アメリカの和平交渉について、8月9日ブログ「アフガニスタン タリバンが和平交渉に意欲 女性教育についても方針転換か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130809)で、交渉開始に向けた前向きな動きを取り上げたのですが、結局うまくいかず、現在はとん挫した形になっています。
****アフガン和平協議:タリバン代表団、カタールから引き揚げ****
アフガニスタンの和平に向けた米政府との協議のため、今年6月に中東・カタールの首都ドーハ入りしていた旧支配勢力タリバンの代表団が先週半ばまでに全員カタールから引き揚げたことが21日、分かった。
アフガニスタンの首都カブールに住む旧タリバン政権の元外交官が毎日新聞に明らかにした。元外交官は「タリバンが米軍など占領軍の完全撤退を求めたのに対し、米政府が来年以降も軍駐留を計画しているため、代表団が和平に見切りをつけた」と、理由を説明した。
米国は、2015年以降もアフガン軍・警察の訓練を目的に米軍の一部を残す計画だが、これにタリバンが強く反発している。今回、タリバン代表団が引き揚げたことで、ドーハを舞台にした和平協議は発表から2カ月で頓挫した形となった。
米政府は14年末までの駐留軍の任務終了を見据え、タリバンとの和平を画策。タリバンも6月、ドーハに交渉窓口となる事務所を開設した。だが、タリバンが旧政権時代に自称した「イスラム首長国」の看板と旗を事務所に掲げたことからカルザイ大統領が激怒。交渉は始まっていなかった。
タリバンのムジャヒド報道官は、毎日新聞の電話取材に対し「和平について今はコメントできないが、近く発表する」と述べた。タリバンが協議打ち切りを正式に発表する可能性がある。
さらに、ムジャヒド報道官は「カブールの現体制と付き合う意義はない」と述べ、カルザイ政権との交渉も否定した。タリバンは、ドーハ事務所を開設した際に「アフガン人とも協議する用意がある」と、初めてカルザイ政権と協議する姿勢を示していたが、これを撤回した。
カルザイ政権側は、サウジアラビアやトルコを舞台にしたタリバンとの新たな和平協議を模索しているが、難しい状況だ。【8月21日 毎日】
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これを受けて、アフガニスタン・カルザイ大統領はパキスタン・シャリフ首相に、タリバンとの新たな交渉の仲介を依頼しています。
****アフガニスタンのカルザイ大統領、パキスタンにタリバンとの和平仲介を要請****
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は26日、パキスタンの首都イスラマバードを訪問し、ナワズ・シャリフ首相と初めて会談した。
カルザイ大統領はパキスタンに、アフガン政府とアフガンの旧支配勢力タリバンの和平交渉の仲介を要請するとともに、対イスラム過激派の共同作戦を両国内で実施することを呼びかけた。
パキスタンは、一部の政府機関がタリバンを操り、資金や潜伏場所も提供しているとして批判されている。
だがパキスタン政府は公式には、アフガニスタンにおけるタリバン勢力との戦いを終結させるためにどんな協力もいとわないという立場を取っている。
カルザイ大統領は、アフガニスタンとしてはパキスタンがアフガン政府の高等和平評議会とタリバンの交渉の機会や下地を作ることを期待していると述べた。
これに対しシャリフ首相は、アフガニスタンが北大西洋条約機構(NATO)から治安権限を引き継ぐプロセスの成功を願うと述べるとともに、アフガン主導の和平への協力を改めて表明した。
しかし専門家の間では、パキスタンにできることは限られているとの声が上がっている。
タリバンとの和平交渉を促したり後方支援したりすることはできるが、彼らの意思に反して交渉を強制することはできない。タリバンはカルザイ政権を米国のかいらい政権とみなし、いかなる接触も拒否している。【8月27日 AFP】
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“パキスタンは、一部の政府機関がタリバンを操り、資金や潜伏場所も提供しているとして批判されている”・・・・「一部の政府機関」は軍統合情報局(ISI)を指しています。
記事にもあるように、“タリバンを操り、資金や潜伏場所も提供している”と言われてきていますが、“彼らの意思に反して交渉を強制することはできない”というような関係なのかどうか、そこらはよく知りません。
本気で動けば、相当な影響力を発揮できそうにも思えますが・・・。
軍に基盤を持たないシャリフ首相が国軍や軍統合情報局(ISI)を動かすことができるのか疑問であるという問題もあります。
かつての首相時代に当時のムシャラフ陸軍参謀長によって解任され、国外追放になった経緯があり、軍との関係は今回復職時から危ぶまれています。
パキスタンでは帰国したムシャラフ前大統領が、ブット元首相暗殺事件などで起訴されています。
****ムシャラフ氏を「赤いモスク事件」でも捜査****
パキスタン・メディアによると、パキスタン警察は2日、自宅軟禁中のムシャラフ前大統領について、2007年にイスラマバードのモスク(イスラム教礼拝所)で100人余りが特殊部隊に殺害された「赤いモスク事件」でも殺人容疑で捜査を始めた。ムシャラフ氏はすでにブット元首相暗殺事件を含む3件の容疑で起訴などされている。【9月2日 産経】
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ムシャラフ前大統領の起訴に、かつての宿敵シャリフ首相の意向がどれだけ関与しているかは知りませんが、かつての軍のトップが裁かれることを現在の軍部は快く思っていないでしょう。
【国内でも破綻しつつある対話路線】
タリバンとの交渉におけるシャリフ首相の役割については、“今年6月に発足したシャリフ政権はタリバンと連携するパキスタンのイスラム武装勢力との和平交渉も実現できておらず、タリバンとの交渉の糸口を提供するのは容易ではなさそうだ。”【8月27日 産経】と、自国のイスラム過激派とさえ交渉できていないのに・・・という懐疑的な見方もあります。
“シャリフ氏は、政権発足前から唱えてきたイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平協議すら行えていない。それどころか、タリバン運動のテロ攻撃は続発しており、今月19日の国民向け演説では、テロ対策で初めて軍事的選択肢にも言及し、持論の対話路線は破綻しつつある。”【同上】
パキスタン国内でイスラム過激派によるテロが頻発し“テロ地獄”の様相を呈していることは、これまでも何回か取り上げてきました。
“(シャリフ)新政権誕生後からこれまで(約2か月間)に少なくとも70件以上のテロが発生し、犠牲者は350人を超える。1日1件以上のテロが発生している計算になる”【選択 9月号】”
パキスタン国内の「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平協議が進まない理由には、“当初はTTP側も政府との対話に色気を見せていたが、再び対決姿勢に転じている”【同上】と、TPPが和平交渉に背を向けていることがあります。
加えて、政権内での方向性が一致しておらず、対応が遅れている事情もあるようです。
“シャリフ首相によるテロへの対応も鈍い。首相は内務相に対して政府内調整を早期に済ませて、各党の承認を得るように指示しているというが、遅々として進まず、対テロ方針すらいまだ示していない。首相のお膝元であるパンジャブ州の有力閣僚や州政府がテロ組織との対話に消極的であることが原因だという。”【同上】
【アルカイダの誘いをタリバンは無視】
「パキスタンのタリバン運動(TTP)」はアルカイダとの連携を強めており、パキスタンがアルカイダの拠点と化し、世界各地で復活を始めたテロリストの一大供給源「テロ輸出国」となっていることが指摘されています。
興味深いのはアフガニスタンのタリバンとアルカイダの関係です。
****パキスタンが再び「テロ輸出国」に****
・・・・かつてアルカーイダの巣窟となったアフガニスタンや、本家タリバンはその役割を終えて久しいという。
そもそも国際テロ組織であるアルカーイダに対して、タリバンはアフガンのローカル組織に過ぎない。厳密に言えば、かつてタリバンの最高指導者オマル師が指摘したように、アフガン国境エリア限定の集団といえる。
オサマ・ビンラディンとの蜜月は一時的なものに過ぎなかった。特に、米政府とタリバンの対話は両者の間の溝を広げている。
アルカーイダはタリバンに対して共にジハードを戦おうと呼びかけているが、タリバンはこれを無視している。
タリバン側は、アルカーイダのメンバーを「ラクダ乗り」という呼称で揶揄しており、両者の関係が復活することはなさそうだ。
結果としてパキスタンが新たなアルカーイダ復活の「揺り籠」(前出イスラム専門家)になっているのだ。(後略)【選択 9月号】
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こうした指摘からすれば、アフガニスタン・タリバンとの和平交渉の方が現実性があると言えます。
しかし、“(タリバンと)オサマ・ビンラディンとの蜜月は一時的なものに過ぎなかった”ということであれば、アルカイダを匿ったことへの報復としてアフガニスタンを攻撃したアメリカは、今現在なんのためにアフガニスタンで戦い続けているのか?アメリカは戦う場所と相手を間違えているのではないか?・・・という疑問にもなります。
アメリカ自身がその疑問を感じているので、なるべく早くアフガニスタンから抜け出したいと、14年末撤退に向けた動きを起こしているとも言えます。
なお、アメリカはイスラム過激派の温床となっているパキスタン北西部への無人機攻撃を続けているようです。
****米無人機攻撃で3人死亡 パキスタン北西部****
アフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で31日、米国の無人機によるミサイル攻撃があり、武装勢力のメンバー少なくとも3人が死亡した。AP通信などが伝えた。
3人の国籍は不明。米国は部族地域での武装勢力掃討に無人機を使用し続けているが、民間人も巻き込まれておりパキスタンでは反発が強まっている。【9月1日 共同】
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