(2008年7月26日 グジャラート州の主要都市アーメダバードで起きたイスラム過激派によるとされる連続爆弾テロ(死者49人)の現場で、シン首相(右)に状況を説明するのモディ・グジャラート州政府首相 “flickr”より By Shailendra Pandey http://www.flickr.com/photos/7372345@N08/2757544424/in/photolist-5cF8To-5Co93o-5Co9gm-5FEQWi-5VxAwP-5VBX1C-5XbcQi-5XbcSR-5XbcVk-5XbcZx-5Xbd32-5Xbd54-5Xbd8K-5Xbdca-5XfrYd-6a6JV3-6bKmRM-6dwU4m-6eryd8-6erydn-6erydr-6it5AR-6nWeWR-6nWeWT-6o1qPC-6Zqu8u-77QhBB-77UcgL-7qukLu-7Fahjg-ahWBSp-d4YfxW-8GzyVG-8afUMJ-8ag3Lb-bDAXVB-8mRP5S-8GwoA6-8Gwoot-8Gzz5y-8Gwp1V-8GwoVF-8GwoYe-8Gwot2-8GzzaL-8Gzz1j-8GwopV-8GwpaR-8Gwp8V-8GwoQa-8Gzzjb)
【インドと中国のオセロ・ゲーム】
7月にヒマラヤの「幸せの国」ブータンで行われた総選挙では、中国と接近する姿勢を見せた政権に対し、伝統的にこの地域に強い影響力を持つインドが経済支援を一部停止するという圧力をかけ、対インド関係を重視する野党の勝利に導きました。
****ブータン総選挙、政権交代 外交姿勢に不満増大****
ヒマラヤの小国ブータンで国民議会(下院、定数47)選挙があり、選管が14日、結果を正式発表した。野党の人民民主党(PDP)が32議席を確保して圧勝し、政権につくことが決まった。
下院選は2度目。民主化後、2008年から政権を担ってきたブータン調和党(DPT)は15議席と惨敗した。有権者数は38万1790人。投票率は66・2%と前回の79・4%を下回った。
2大政党が掲げる政策に大きな違いはない。国民総幸福(GNH)という国是に従い、物質的豊かさだけなく精神的な充足も重視した発展を目指す方針や、立憲君主制は維持される。
PDPの地滑り的な勝利の背景には、都市に集まる若者の失業増といった社会問題への不満に加え、DPT政権の対インド政策への懸念があったと見られる。
政治的にも経済的にも強い影響力を持つインドが最近、ブータンへの経済支援の一部を停止。この影響で家庭用ガスのブータンでの料金が今月から2倍に跳ね上がり生活を直撃した。インドと緊張関係にある中国に接近するDPT政権への警告、との見方が広がった。昨年、ブータンと中国の当時の首相が会談したのを機に、「国交樹立を目指すのでは」と一部で取りざたされていた経緯がある。
DPTは選挙戦で「対印関係を最も重視する姿勢は変わらない」と火消しに走ったが、PDPは外交政策への批判を強めていた。【7月15日 朝日】
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9月7日には、インド洋の島国モルディブで大統領選挙が行われ、現職のワヒド大統領は惨敗、昨年2月の軍と警察によるクーデターで失脚した前大統領のナシード氏が首位に立ち、ガユーム元大統領の弟、ヤミン氏との決選投票が28日に行われます。
この大統領選挙では、昨年2月のクーデターに対する国民の反発があらわれた形になっていますが、インド洋に積極進出する中国、これをけん制するインド・・・という両大国の影響を受けた選挙でもありました。
****モルディブ大統領選投票 中印との外交バランスに影響****
・・・・ワヒード政権下では、インドとの関係が後退。ナシード氏は、対印関係の改善を訴えている。中国の存在感が増す中、選挙結果は中印との外交バランスに影響を与えそうだ。
モルディブでは昨年、当時のナシード大統領が反政権派の判事を逮捕したため野党支持者の抗議デモが激化し、大統領は辞任に追い込まれた。同氏はクーデターだと非難している。
ワヒード副大統領が大統領に昇格し、その後、首都マレの空港のインド企業との運営開発契約を破棄。インドがモルディブ人の入国要件を厳しくした。富裕層がインドの病院を訪問するのが難しくなる中、中国は病院船を派遣し影響力を強めた。選挙は、過半数を獲得した候補がなければ決選投票が行われる。【9月7日 産経】
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ブータンと同様に、中国と接近した政権側が敗北し、インドの巻き返しと連動した野党側が勝利(まだ決選投票は行われていませんが)という構図ののようです。
オセロ・ゲームのように近隣諸国の政権を自国影響の強い政権にひっくり返すことを外交的成果と呼んでいいかは疑問もありますが、最近のインド外交はそうした意味の“成果”は出しているようです。
もっとも、インドと中国のオセロ・ゲームは続いていますので、最終的にどちら側にひっくりかえるかはゲームが終わってみないとわかりません。
ブータンでは、インド政府は8月1日、停止した家庭用ガスなどへの補助金を1カ月ぶりに復活させています。
また、インドを初訪問したブータンのトブゲイ首相は8月31日、インドのシン首相と初会談しましたが、ブータンの第11次5カ年開発計画と経済刺激策にインドが計500億ルピー(750億円)を支援することを定めた共同声明が発表されています。
再びひっくり返らないように・・・というところでしょうか。
【「国家財政の破綻を招いてでも権力にしがみつこうとしている」】
一方、インドの国内経済の方は、調子がよくありません。
そうした国内経済・社会情勢については、8月20日ブログ「インド 社会が貧しいまま、高齢化が進む」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130820)でも取り上げたところです。
****インド政府の経済諮問委、今年度の成長率見通し5.3%に下方修正****
インド首相の経済諮問委員会は13日、今2013/14年度(2014年3月末までの1年間)の成長率予想を5.3%と、従来予想の6.4%から大幅に下方修正した。
下方修正した予想は、中銀や民間エコノミストの予想とほぼ一致する。(後略)【9月13日 ロイター】
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インド経済の問題としては、財政赤字と通貨ルピーの下落が指摘されていますが、来年の総選挙を控えて、与野党あげて“バラマキ政策”に走っており、問題はますます拡大しているようです。
****印、8億人超に食糧供給 財政懸念 ルピー下落に拍車****
インドで通貨ルピーの下落に拍車がかかっている。
米金融緩和策が縮小に向かうとの観測により新興国から資金が流出する中、インド下院が国民の低所得層8億人以上にほぼ無料で穀物を支給する食糧安全法案を可決したからだ。
識者からは来年の総選挙へ向けた「シン政権のバラマキ政策」との批判が強く、市場が厳しく反応した形だ。
ルピーは最近、対ドルで史上最安値を更新してきたが、27日に3・7%の下落率を記録し、28日にはさらに下げ幅を広げて1ドル=68・8ルピーとなった。
26日夜に下院で可決された食糧安全法案は、人口の3分の2に当たる約8億2千万人に、コメなら1キロ3ルピー(約4円)、パンの材料となるモロコシなら1ルピーで上限を定めて供給するとした内容だ。
約1兆3500億ルピー(1兆9千億円)の予算が必要となるため、インドの財政赤字をさらに悪化させるとの懸念が広がり、28日にはシリア情勢の緊迫化が追い打ちをかけルピーは一層値を下げた。
野党は、貧困層による支持が確実な法案に反対すれば、来年の総選挙に向けて自ら首を絞めることになりかねず、多くが法案の修正を求めただけで賛成票を投じた。同法は今後、上院での可決などを経て発効される見通しだ。
インドは国内総生産(GDP)成長率が約5%と低迷。政府は昨年秋以来、総合小売業や通信業などで相次いで外資規制の緩和策に乗り出しているが、数々の別の規制や汚職体質が障壁となり、投資促進に至っていないばかりか、資金は流出している。
政治評論家のグルマシー氏は地元紙で、「法案は、与党連合が国家財政の破綻を招いてでも権力にしがみつこうとしているとの認識を市場に与えている」と批判している。【8月29日 産経】
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【「次期総選挙はラフル氏とモディ氏のどちらをトップとして選択するかの選挙」】
経済的に不調な「国民会議派」シン政権ですが、来年総選挙では野党「インド人民党」による政権交代も予想されています。
****インド人民党:次期首相候補にモディ氏擁立 来年総選挙で****
インドの最大野党・インド人民党は13日夕、国会議員による会合を開き、来年実施予定の総選挙へ向け、西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相(62)を次期首相候補に擁立することを決めた。
ビジネス界やヒンズー教徒を中心にカリスマ的な支持を集めるモディ氏は、ニューデリーの人民党本部で幹部や支持者の祝福を受け、「選挙での勝利を期し、全力を尽くす」と述べた。
与党・国民会議派は、初代首相ネールのひ孫、ラフル・ガンジー党副総裁(43)を中心に選挙を戦おうとしている。「次期総選挙はラフル氏とモディ氏のどちらをトップとして選択するかの選挙」(政治アナリストのK・G・スレーシュ氏)の様相となっている。
総選挙の期日は発表されていないが、来年5月ごろに実施される見通しだ。
2001年からグジャラート州政府首相を務めてきたモディ氏は、外国企業誘致に積極的で、グジャラートを国内で最も高い成長率の州に育て上げたと評価されている。インドの経済紙「エコノミック・タイムズ」が今月6日に発表したインド財界トップ100人のアンケートでは、75%がモディ氏を次期首相として支持、ラフル氏の7%を大きく引き離した。
近年9%の高成長を続けてきたインドだが、今年は4%台と過去10年で最低となり、通貨ルピーも急落している。シン政権の経済政策の失敗が指摘されており、財界や中産層の間ではモディ氏への期待が高まっている。
モディ氏は、父が雑貨店主で、ごく一般的な家庭の出身。若いころからヒンズー至上主義組織「RSS」の活動家として頭角を現した。
主にヒンズー教徒の間で支持を得る一方、国民の13%を占めるイスラム教徒の間ではモディ氏への反発が強い。02年にグジャラート州で起き、イスラム教徒を中心に住民1000人以上が死亡した暴動で、「モディ氏が警察を出動させず、イスラム教徒の大量殺りくを許した」と非難されているからだ。
国民会議派のラフル・ガンジー氏は、曽祖父、祖母、父がインド首相を経験し、「ガンジー王朝の継承者」といわれている。だが、演説に覇気がなく、「経験不足」が指摘されている。
04年以降、在任期間が10年近くになるシン首相(80)は、選挙の結果に関わらず来年の任期満了で退任する見通しだ。【9月14日 毎日】
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インド人民党の首相候補に擁立されたグジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相については、6月14日ブログ「インド 次期首相候補として注目されるモディ・グジャラート州政府首相の消えない過去」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130614)で取り上げました。
経済手腕に期待する向きが多い一方で、過去のイスラム教徒虐殺への関与の疑惑が消えない人物です。
****2ケタの経済成長*****
・・・・インド経済が急速に鈍化しているにもかかわらず、グジャラート州は2ケタの成長を遂げている。インドの大半の地域を苦しめている恒常的な電力不足も、グジャラート州では無縁だ。
企業関係者は、モディ首相によってグジャラート州でのビジネスがスムーズに進むようになったと評価している。同州では、工場建設のための土地取得が順調に進むほか、インドの他の州で見られがちな官僚主義的対応による遅れが比較的少ないという。(中略)
もっとも、グジャラート州は以前からインド経済の牽引役を果たしてきたとして、同州の経済的成功はモディ首相の手柄ではないと指摘する向きもある。
ただ、モディ首相を批判する人々ですら、グジャラート州に新規事業を勧誘し、大企業を誘致するため2年ごとに投資家向け会合を開いてきた首相の姿勢は評価に値するとしている。【2012年 10月 30日 ロイター】
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死者が2000人にも達したとも言われる2002年暴動への関与については本人は否定していますが、当時、モディ政権の閣僚だった人物がヒンズー教徒に凶器を渡してイスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けています。
ただ、選挙戦でモディ氏のイスラム教徒への対応を批判すれば、結果的に、多数派のヒンズー教徒をモディ氏支持へ動かすことになるのかも。
なお、“今でも、母親は小さなアパートに住み、兄弟も政府の事務員や小さな小売店の店主。家族ぐるみの汚職が大きな問題となっているインド政界で、クリーンなイメージも人気の理由の一つだ”【ウィキペディア】という側面もあるようです。
モディ氏の成長戦略で、イスラム教徒の経済・社会的地位が改善されるかどうか疑問を感じますが、“覇気がなく、「経験不足」が指摘されている”ラフル・ガンジー氏では、「ガンジー王朝の継承者」の威光をもってしても、モディ氏へインド経済立て直しを期待する空気を覆すのは難しいように思えます。
来年5月頃の話ですから、まだわかりませんが。