孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  言論、思想への引き締めを強化する習近平指導部

2013-09-29 23:19:16 | 中国

(“flickr”より By Once upon a time http://www.flickr.com/photos/88925006@N00/9679489506/in/photolist-fKkV17-fHnrij-fMHD4K-fKXcuG-fMTtbb-gck7c1-fJ73wB-fKGZ8z-fQkx8P-fVV2DR-fVVb9Y-fVVrP2-fVVb5E-fVVryc-fVVrtx-fVVs4a-fVV7Fd-fVV2Xr-fVV7jb-fTpCQw-fWHp5p-fKaQty-fP3kGd-fSZMm7-fYkwE7)

左派のカリスマ薄熙来を無期懲役に
収賄、横領、職権乱用の罪に問われた中国の薄熙来元重慶市共産党委員会書記(元政治局員、64)に対する判決公判が22日、山東省済南市中級人民法院(地裁)で開かれ、法院は無期懲役の判決を下しました。併せて、政治権利の終身剥奪と全財産没収も言い渡しました。

「天安門事件以来、最大」と言われた政治スキャンダルに対し、習近平政権は中国版ツイッター「微博」による裁判の「実況中継」という大胆な手法を使うことで「密室裁判」との批判を避けながら、国民の一部に人気がある薄元書記のイメージを落とし、11月に控える党中央委員会第3回全体会議(3中全会)に向けて政権基盤を固めようとしています。

一方、薄熙来被告は当局側の裁判公開を逆手に取る形で、容疑を全面否認して抵抗しました。
今後、薄被告は「悲劇の英雄」として、保守派と貧困層の間で影響力が拡大する可能性もあるとのことで、将来、政治的動乱が生じた際に復権することを狙っているとも言われています。

薄元書記の事件は、単なる収賄、横領、職権乱用といったものではなく、中国共産党指導部における権力闘争であり、路線対立を背景にしています。

「改革開放」政策のもとで急激な成長を遂げた中国においては、経済格差が拡大し、腐敗・汚職も蔓延しており、強い民衆の不満が存在します。そうした不満を背景に薄元書記は毛沢東主席をまねた政治手法を展開し、保守派や貧困層などの根強い共感を得たと評されています。

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・・・・薄煕来はその並外れたカリスマ性と政治手腕を駆使して現状を批判し、国家の役割拡大を訴えてきた。

重慶市共産党委員会のトップに君臨した4年半の間に、政治的・財政的資源を動員する巧みな手腕を発揮。 犯罪組織の撲滅という名目を掲げて、自分に従わない官僚や起業家たちをつぶし、統制的な手法で同市の経済を立て直してみせた。

その過程では建国の父・毛沢東へのノスタルジアを巧妙にかき立て、市職員に革命歌を歌わせたりもした。左派すなわち国家統制派に属する薄は、天安門事件後に小平が確立した路線のうち、「改革開放」の側面に批判をぶつけてきた。・・・・【4月25日号 Newsweek日本版】
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【“左”を制しても“右”へは傾かず
国家の役割・格差是正を重視する、いわゆるニューレフト・左派勢力の代表格である薄元書記を潰した習近平国家主席ですが、習主席自身の経歴、政策、政治手法が薄元書記のそれとよく似ていることもしばしば指摘されるところです。

****反体制派の動きを封じ込める習主席****
薄被告をよく知る人々は、彼がひとたび指導部入りすれば、同志を追放し、競争相手のいないリーダーとして突出した地位を築くだろうことを恐れた。

習主席の経歴は驚くほど薄被告と共通点が多く、トップ就任以来の政策も異様なほど薄被告の政策と似ている。
習主席は汚職や不満、党の方針への批判に対する厳しい弾圧を指示してきた。それは、薄被告が重慶市時代に手掛けた暴力団や腐敗一掃の「打黒」運動を強く連想させる。
また習主席は、好んで毛沢東の言葉を引用し、共産党の過去を賛美してきた。

習主席が権威主義に傾斜し、薄被告の政策を模倣するのは、根強く残る同被告の影響力を中和し、党内部から政治的変化を引き起こす可能性があり、党が最大の脅威と見なす反体制派の動きを封じ込めることが狙いだと党幹部は認める。(後略)【9月24日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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習近平指導部による左派封じ込めは、民主化を要求する勢力への助長を意味せず、むしろ左派同様に右派・民主化勢力に対しても厳しい弾圧姿勢をとっています。
要は、左であれ右であれ、党の方針への批判は一切許さない・・・という姿勢にも見えますが、習主席と薄元書記の相似性にみられるように、習指導部は全体的には“左傾的”であるとも指摘されています。

****左”の薄煕来を制圧しても“右”へは傾かず “左傾化”懸念は残る****
・・・しかしながら、“政治の左傾化”(路線闘争)→“新権力の奪還”(権力闘争)を恐れた党指導部が薄煕来氏、及びその支持者を制圧することが、昨今の中国政治に福音をもたらし、健全な方向に導くことにつながるかといえば、少なくとも懐疑的にならざるを得ない。

(中略)習近平国家主席就任後の言動をウォッチする限り、現段階では改革派、保守派、市場派、軍部、大衆などあらゆるプレイヤーに“いい顔”をして足元が若干おぼつかない様相を呈しているが、全体的には“左傾的”であると私は分析している。

習氏は就任後、随時・随所に渡って「社会主義」を強調し、政治体制改革には言及することもなく、党の方針と相反する言論を展開するような進歩的、即ち右傾的な言論人や弁護士、知識人、人権活動家を抑圧・拘束している。

一方で、左傾化を意識的に、あるいは無意識のうちに受け入れる傾向にある一般大衆にアプローチする、「群衆路線」を大々的に展開している。

“左傾化”を恐れる党指導部が、それを進めようとした薄煕来氏を失脚させたが、同じ太子党出身の習近平氏は近年ひとつの潮流として社会に浸透する“左傾化”の流れを断ち切れないどころか、薄煕来氏と手法や程度は違えど、そこに迎合する気配を見せている。

“左傾化”のという潮流は、必然的に保守的で対外強硬的な党員や軍部を勢いづかせ、狭隘で膨張するナショナリズムを増殖させる。今後の中国社会を占う上での不安要素として見るべきだろう。【9月10日 DIAMOND online 加藤嘉一】
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相次ぐ「新公民運動」関係者拘束
習近平政権は言論、思想への引き締めを強化し、法治、人権擁護、民主化などを要求する「新公民運動」にかかわる人物を次々と拘束しています。

****活動家ら200人を拘束=習主席就任後、引き締め強化―「新公民運動」弾圧・中国****
中国で習近平政権が発足して以降、憲法に基づく政治や法治、人権擁護、民主化などを要求し、公安当局に拘束された人権活動家や弁護士、陳情者、企業家、記者らの数が約200人に上ったことが分かった。
政治犯や陳情者の拘束・逮捕に関する詳細な名簿を作成している複数の人権活動家らの集計で19日までに明らかになった。

特に幹部の財産公開や不公平な教育制度の是正など理性的かつ穏当な要求や行動で社会を変えようとする「新公民運動」を推進した人権活動家・許志永氏や企業家・王功権氏らの拘束は、改革派知識人の強い反発を招いた。これに対して習政権はさらに弾圧を続けており、体制維持への危機感の表れとの見方も強い。

米コロンビア大学訪問研究員で、社会活動家の温雲超氏が集計したリストによると、昨年11月の習政権発足後に拘束された政治犯(チベット・ウイグル関係などは除く。釈放も含める)は146人。
一方、別の人権活動家が公安当局に拘束された陳情者を集計した名簿などによれば、5月以降の拘束者は63人に達した。

両リストでは重複して記載された拘束者もいるものの、計200人近くが拘束された計算。両リストは拘束者の氏名や罪名、拘束日などが記されており、正確な情報とみられる。さらに習政権が最近強化しているインターネット上の発言に対する取り締まりも加えると、拘束者がさらに膨らむのは確実だ。【9月19日 時事】 
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****新公民運動」の女性人権活動家を起訴…中国****
中国江西省の著名な女性人権活動家・劉萍氏(49)が、違法に集会を開いた罪など三つの罪で同省新余市の裁判所に起訴されていたことがわかった。

法曹関係者らが28日、読売新聞に明らかにした。劉氏は、憲法を根拠に人権擁護を訴える「新公民運動」に加わっており、同運動の関係者が起訴されたのは初めて。 習近平 ( シージンピン )指導部の同運動への徹底弾圧姿勢を示すものだ。

法曹関係者らによると、劉氏は「違法集会」の容疑で先に逮捕、起訴され、邪教組織を利用して法の支配を妨げた罪と公共秩序を乱した罪でも23日付で起訴された。有罪となれば、十数年間服役する可能性がある。

逮捕容疑は「違法集会」だけで、人権活動家は「当局は複数の罪に問うことで長期間服役させ、劉氏の影響力を失わせようとしている」と指摘した。【9月29日 読売】
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“憲法に基づく政治や法治”を求める「新公民運動」のどこがいけないのか・・・日本的な感覚では理解できませんが、憲法を超えた存在である共産党による恣意的な人治が行われている中国にあっては“反社会的思想”となります。

****中国の毛沢東主義と 社会に蔓延する「7つの危険****
8月19日付New York Times紙にて、Chris Buckley同紙記者は、中国では、経済成長の減速等もあり、経済改革と共に政治改革が必要であるのに対して、共産党幹部は、逆に、民主主義は共産党の敵であるとし、毛沢東主義を復活させるなど、保守化傾向を強めている、と述べています。

すなわち、中国全土で共産党幹部を集めて開催された秘密会議では、中国社会で蔓延している7つの危険を潰さなければ、共産党は権力を失うということが言われた。

その7つの危険とは、習近平お墨付きの「文書第9号」で列挙され、第1は「西側的立憲民主主義」、第2は「普遍的価値」、第3は「市民社会」、第4は市場原理重視の「新自由主義」、第5は「西側的報道の自由」、第6は中国の唱える「歴史への批判」、そして第7は「中国式改革への疑問」である。

このような中国共産党の警告は、習近平の自信に満ちた顔の裏には、経済の減退、汚職への国民の怒り及び政治改革を求める人々に対して、党が脆弱であるとの不安が存在していることを示している。

文書第9号は、共産党中央委員会によって4月に発出されたものだが、それによると、「反中の西側勢力や国内の反体制派は、常に、イデオロギーを浸透させている。」とか、一党体制に反対する者は、「役人の財産を暴露したり、インターネットを活用して汚職や検閲等を批判したりして、党や政府への不満を煽っている。」と書かれている。

文書第9号は、発出されただけではなかった。その後、党の機関紙やウェブサイトでは、立憲主義や市民社会というものが、激しく非難された。また、役人達は、党や政府への批判が書かれたインターネットへのアクセスをブロックするのに力を注いだ。

改革派は、習近平のこのような強硬路線に失望している。彼らは、当初、習近平は、長く停滞していた政治改革を推進してくれるのではないかと期待した。ところが、習近平は、より保守的で、伝統的な左派の立場を取るようになった。そして毛沢東主義を擁護するように、毛沢東がかつて1950年代に党の立て直しに着手した歴史的場所を訪問した。

このような習の運動は、幾つかのリスクも伴う。彼自身、指摘しているように、減速している経済は、より市場主導型の新たな機会を必要とするが、それには、国家の影響力を弱めなければならない。

中国の政界の中では、より西側に近い経済改革を推奨する者は、法の支配やより開放された政治制度の推進者でもあるが、一方、伝統重視派は、経済でも政治でも、より多くの国家による管理を望む。

このような意見の対立は、習近平にとっても良いことではない。失望し不満に思っているリベラル改革派の中には、起業家や知的階層も含まれる。こうなると、党が意図する政治の安定さえ守れなくなるかもしれない、と言われる。

文書第9号の発出以来、共産党系の機関紙には、論評や記事が溢れるようになった。多くは、近年では見られなくなった毛沢東の階級闘争を想起させるものだ。中には、立憲主義やそれに準ずる概念は、ソ連を崩壊させたような西側の策略で、中国も今そのような脅威に直面している、と述べたものもある。

しかし、元気づいた左派も、習政権にとっては問題である。習近平は、市場原理を拡大して、経済改革を推進したいと思っているが、党内のマルクス主義者たちは反対している。
習近平は、今年末、毛沢東の生誕120周年を機会に、そのイデオロギーが試される、と述べています。(後略)【9月26日 WEDGE】
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反腐敗運動と経済改革で現状打開を狙う
“左”も“右”も抑えながら、社会に鬱積する不満をなだめるべく、習近平主席は政治性の比較的薄い「ハエも虎も叩く」反腐敗運動を展開しています。
もっとも“ハエ叩き”はともかく、薄元書記や、現在追及が進んでいる江沢民元国家主席派の大物で前党中央政法委員会書記・政治局常務委員だった周永康氏周辺といった“虎退治”になると、すぐれて政治的な問題となります。

一方、不透明感を強めている経済の打開については李克強首相が主導で改革が進められており、金融や貿易などの分野で規制を大幅に緩和する「上海自由貿易試験区」を設立することが発表されています。
こうした経済改革が「文書第9号」が挙げている市場原理重視の「新自由主義」に当たらないのか・・・よくわかりませんが、おそらく左派からの反発はあるでしょう。

****中国:自由貿易試験区29日設立 李首相手腕問う試金石に****
・・・・習指導部は発足以来、改革の必要性を強調してきたが、公民運動を進める人権活動家やそれを支援する企業家まで拘束するなど政治面では後退している。

中国の政治学者は「手を付けられる改革は経済面しかない。李首相が3月下旬に構想を打ち出してから短期間で実現にこぎ着けたことは、李首相の路線が指導部でも一定の支持は得られていることを示す」と指摘する。

中国政府は、将来的に試験区の成功例を全国に拡大させたい考えだ。だが、香港紙によると、中国銀行業監督管理委員会などは意見聴取の場で、試験区の構想に公然と反対を表明した。
李首相は机をたたいて怒鳴ったといい、規制に守られてきた国有企業など既得権益層の強い抵抗があることを物語っている。

李首相は遼寧省大連で開かれた夏季ダボス会議で経済体制改革の意気込みを問われ、「既得権益とぶつかるかもしれないが、(全体のために果敢に一部を切り捨てる)“壮士断腕”の決心で改革を推進する」と強調した。だが、李首相の改革の第一歩である試験区の成否によっては、党内での立場を弱める可能性も残されている。【9月27日 毎日】
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周永康氏周辺の不正追及、「上海自由貿易試験区」の成り行き次第では、習近平指導部が大きく揺れることもあるかも。
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