(9月9日 ワシントン シリア攻撃反対論には、リベラルな戦争反対という考え方と、草の根保守に強い「シリアのことなど、シリア人にやらせておけ。アメリカの税金を使う必要はない」という考え方の、両極の反対論が混在しています。 “flickr”より By Jamelle Bouie http://www.flickr.com/photos/40050039@N02/9710089019/in/photolist-fN3KaV-fLrggY-fMu251-fM7tP5-fNT7Xy-fJSwJX-fNh8QF-fNyEMC-fLSJjV-fNfWhR-fNfW5i-fNxvs9-fNxvkY-fNfWdH-fNfVRe-fNfW9P-fKsfvr-fKTTai-fNK3yP-fNK3wX-fKxSkD-fKQu3j-fKxS2B-fKxVZ6-fKQwd1-fKQvqh-fKxVKH-fKxUy4-fKxR4P-fKxWen-fKQref-fKQxBN-fKxRUn-fKQtVA-fKQuG3-fKQxnd-fKQua7-fKQrn7-fKxV4t-fKQv3N-fLc8Cq-fLqzs4-fNh9bH-fNyJeG-fNhaGP-fNyJx3-fNyFQU-fNyF5Y-fNh7ai-fLduZs-fKWyWY)
【「米国は世界の警察官ではない」が、国際規範を維持する必要性も強調】
アメリカ・オバマ大統領はシリア問題に関する10日のテレビ演説で、シリアの化学兵器を国際管理するとしたロシア提案を受け、アサド政権の保有する化学兵器の完全廃棄に向けた国連安保理決議の成立を目指す考えを明らかにしました。
アサド政権への圧力継続のため攻撃態勢の維持しながらも、シリア攻撃を承認する決議案の採決延期を議会に求め、当面は外交努力を優先させる考えです。
ロシア提案の沿った外交で決着できれば、シリア攻撃という、心ならずも振り上げたこぶしをうまくおろすことができます。
ロシア提案が現実化するのか、シリアの時間稼ぎに終わるのかはこれからの交渉次第ですが、オバマ大統領はこの演説のなかで、これまでアメリカが担ってきた「世界の警察官」の役割を今後は担わないという考えを明らかにしています。
****米大統領:「世界の警察官」否定****
オバマ米大統領はシリア問題に関する10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べ、米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にした。
ただ、「ガスによる死から子供たちを守り、私たち自身の子供たちの安全を長期間確かにできるのなら、行動すべきだと信じる」とも語り、自らがシリア・アサド政権による使用を断言した化学兵器の禁止に関する国際規範を維持する必要性も強調。「それが米国が米国たるゆえんだ」と国民に語りかけた。
大統領は、「(シリア)内戦の解決に軍事力を行使することに抵抗があった」と述べつつ、8月21日にシリアの首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用され大量の死者が出たことが攻撃を表明する動機だと説明した。「世界の警察官」としての米国の役割についても「約70年にわたって世界の安全保障を支えてきた」と歴史的貢献の大きさは強調した。【9月11日 毎日】
****************
【「中東の小国にかまっている時間はない」】
シリアの問題にかかわらず、イラク・アフガニスタンで疲弊したアメリカ社会において内向き志向が強まっていることは以前から指摘されてるところです。
そうした社会の雰囲気を背景に、すでにリビアでも、英仏を全面にたててアメリカは背後に回る姿勢をとっていました。
****戦争嫌だ、冷める米市民 同時多発テロから12年****
2001年9月に起きた米同時多発テロから11日で12年。テロは米国の軍事・外交政策を変えただけでなく、市民の意識も大きく揺さぶった。
米国は今、シリアへの軍事介入を検討しているが、世論の支持は際立って低い。一方、米国がテロの報復として攻撃したアフガニスタンでは、平和はまだ戻らない。
■シリア反戦デモ相次ぐ
7日、全米各地でシリア攻撃に反対するデモが繰り広げられた。
ホワイトハウス前では100人以上が「シリアに手を出すな」などと連呼した。大学生のサム・バルネスさん(23)は「イラク戦争でもNSA(米国家安全保障局)の情報収集でも、ウソをついた政府を信用できない」。メデア・ベンジャミンさん(60)は「この10年余りで米市民は戦争に疲れたのではなく、学んだ。同じことを繰り返すのはもう嫌だ」と話した。
12年前にやはりテロの標的となったニューヨークでも約千人がタイムズスクエアに集まり、行進。過去2度の大統領選でオバマ氏に投票したというウォルター・ドーンさん(73)は「ブッシュが始めた戦争を終わらせるため、私はオバマを支持した。新たな戦争を始めるためじゃない」。
03年に始まったイラク戦争の前と比べ、各地のデモの規模はずっと小さい。ただ今回は、軍事行動を積極的に支持する人が極端に少ない。デモ行進の脇で記念写真を撮っていた男性観光客(32)はシリアに関心がないという。「なぜ米国だけが『世界の警察官』の役割を担わなければならないのか。この国には大学を出ても就職できない若者がごまんといる。中東の小国にかまっている時間はない」
■武力行使、反対が過半数
今回の軍事行動への支持の少なさは、世論調査などの数字からも明白だ。
ギャロップ社が6日に発表した調査では武力行使賛成が36%に対し、反対は51%。9日公表のCNNの調査では「米議会は武力行使を承認すべきでない」が59%だった。
アサド政権による化学兵器使用は多くの人が事実だと思っているが、「空爆は米国にとって成果をあげない」「シリア内戦にかかわるのは国益にそわない」とした人がともに約7割いた。アフガニスタンやイラク戦争の教訓が意識に染みこんでいるようだ。
8月末以降、世論調査では一貫して武力行使への反対が賛成を上回る。これは近年見られない傾向で、過去30年の主な武力行使への支持率をまとめたギャロップ社によると、11年のリビア空爆を除くすべてで、賛成が過半数を占めていた。例えば01年のアフガニスタン攻撃では90%が賛成。リビア空爆ですら賛成は47%に上っていた。
ニューヨーク・タイムズ前編集主幹で現在はコラムニストのビル・ケラー氏は「米国民がイラクとアフガンで戦争に疲れているのは事実だが、それだけではない」と分析。景気低迷と政治の機能不全による自信喪失や排他的な動きもあり、内向きの「孤立主義」につながっているとみる。
今年1月、ピュー・リサーチセンターが行った調査で、「オバマ大統領が集中すべき問題」に「外交」と答えたのは6%に対し「内政」は83%。07年は両者がほぼ同率だったのと比べると意識の変化は大きい。
同センター設立者のアンドリュー・コーハット氏は「米国民に国際問題に関心を持たせることは、今や最も難しい状態にある」と指摘する。【9月11日 朝日】
*******************
【自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない】
「オバマ大統領が集中すべき問題」に「外交」と答えたのは6%に対し「内政」は83%・・・・という状況では、新たな戦争など始める訳にはいきません。
ただ、大統領自ら「米国は世界の警察官ではない」と明言する意味合いは小さくないでしょう。
****アメリカが警官をやらなくなると世界は困る****
イギリス帝国主義の代表的な詩人ラドヤード・キップリングは1899年、アメリカあてに詩文を数行書いた。「白人の責任を担え」と。そして、「平和のための野蛮な戦いを 飢餓の口を満たし 病を食い止めよ」と。現在のアメリカでは、大統領は黒人だし、キップリング的な帝国主義の表現をあえて使ってみせる知識人など表舞台にはいない。
しかし世界の治安維持においてアメリカは特別な責任を負っているという考え方は、今なお健在だ。シリアへの軍事行動を呼びかけたバラク・オバマもそういう発想だった。
「我々はアメリカ合衆国なのだ」と大統領は宣言し、アメリカは1945年以降の世界秩序を創り、守るという特別な役割を担ってきたのだと説明した。
しかしアメリカは今でも世界の警察官の役割を演じ、「平和のための野蛮な戦い」に加わる意思があるのだろうか? 米連邦議会がシリア介入を審議する間、この疑問は影を落とし続ける。
オバマ氏自身が攻撃をためらったように、そしてアメリカ国内の世論調査結果が示すように、アメリカ人の多くは警察官としての役割に深い疑問を抱いている。
イギリスはシリアへのいかなる軍事介入にも参加しないという英議会の決断しも、アメリカの判断に影響するだろう。
イギリス人の多くは英下院の決定について、世界の治安維持は自分たちの仕事だというポスト帝国主義的な発想をこれでイギリスはついに捨て去ったと受け止めている
(イギリスではこれまで、たとえそれがアメリカという保安官に従う保安官代理との立場だったとしても、イギリスも世界の治安維持の一翼を担うべきだという発想があったのだ)。
それが、キップリングの没後約80年の、今のイギリスの状況だ。イギリスは世界4位の軍事大国だし、国連安全保障理事会の常任理事国だ。それだけに、イギリスが世界の警察官を止めるとなれば、それは世界中に影響を与える。
しかし仮にアメリカが同じような道を選んだりしたら、それは文字通り世界を揺るがす。けれどもその可能性は明らかにあるのだ。
アメリカはイラクとアフガニスタンでの戦いに疲弊しているし、経済も景気後退のせいで失速している。シェールガス革命のおかげで中東への依存度はぐっと減っている。
そしてオバマ氏をはじめとしてアメリカ人は、自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない。むしろ、キップリングが警告したように、「より良い暮らしを与えた相手から責められ 守ってやる相手からは憎まれる」という状況の方を、アメリカ人は覚悟するようになっている。
イギリス同様アメリカでも、外交政策担当者と一般市民の間にギャップが生じているようだ。外交政策担当者たちは未だに、自分たちの国が世界の治安を維持するのだと当然のように思っている。
けれども一般市民はこれに懐疑的だ。世論調査によると、イギリス国民の75%近くが、シリアに関する議会の判断を支持していた。
一方でアメリカでは、大統領が計画する巡航ミサイル攻撃について世論はまっぷたつに割れているようだ。
そうした世論調査結果を背景に、連邦議会の議論は行なわれる。シリアに対する諸々の懸念はよく分かる。限定的な攻撃しか考えていないとオバマ氏は再三強調しているが、大統領にも答えようのない疑問が色々あるのだ。
たとえば、シリアのバシャル・アル・アサド大統領が攻撃に屈せず、化学兵器をまた使用したらどうなるのか?
シリアで起きているほかの人権侵害はどれも無視するのか?
シリアの未来についてアメリカは実効性のある政治ビジョンを描いているのか?
ダマスカスにミサイルを数発打ち込めばそれで事態は改善すると期待するのは、あまり上等な戦略とは言いがたい。
もっと大きな問題もある。アメリカは1945年以降、自分たちは世界の安全保障の請負人だと自認してきた。しかしだからといって全ての紛争に介入したり全ての人権侵害を食い止めようとはしなかった。
アメリカは1980年代のイラン・イラク戦争には介入しなかった。アメリカは紛争当事者のどちらも信用していなかったし、化学兵器が使われたという意味で、イラン・イラク戦争は今のシリア戦争と似ていたのだが、アメリカは介入しなかったのだ。
とりわけ残酷な内戦には介入するとか、特定の兵器が絶対に使われないようにするとか、それもアメリカの役割の一部だと言う考えは、1990年代に根付いたばかりだ。
ルワンダ虐殺やボスニア戦争がその始まりだったし、対テロ戦争の一環として「大量破壊兵器」について構築された新ドクトリンも、アメリカの新たな役割の論拠となっている。
リベラルな介入というこのドクトリンの構築に大いに貢献したのが、トニー・ブレア元英首相だ。そのブレア氏は2009年の演説で、答えを求めるでもなくこう問いかけた。
「我々は今、より伝統的な外交政策に戻るべきなのか? 今までより大胆なところがなく、より慎重で、理想を前ほど強く掲げず、より現実的で。そして介入が引き起こすかもしれない予測不能な展開を恐れるあまり、前よりもさらに耐えがたきを耐えようという、そういう外交政策に?」。
英下院はこの問いに対して今回はっきり「イエス」と答え、ブレア時代の継承を拒絶した。米議会がシリアへの関与を否決すれば、より伝統的な外交政策にアメリカも回帰しつつあるというシグナルになる。つまり外国がいったい何をすればアメリカの軍事力行使が正当化されるのかについて、狭く解釈しようとする、伝統的な外交政策のことだ。
ゆえにたとえシリア問題では行動しないとなったとしても、それ即ちアメリカが世界の警察官の役割からそっくり退くという意味にはならない。理論上は。しかしアメリカが何もしないと決断してしまえば、それはアサド政権によるさらなる残虐行為を助長することになる。それが問題だ。
加えてアメリカの判断は、より大きいメッセージとして解釈されるのは間違いない。なぜならアメリカが「レッドライン(赤い線=越えてはならない一線)」と言うからにはそこには何か意味があると世界が信じればこそ、世界の安全保障構造は成り立っているからだ。
太平洋からペルシャ湾、ロシア・ポーランド関係に至るまで。良くも悪くもオバマ氏はシリアについてレッドラインを引いた。
オバマ氏が週末に示唆したように、アメリカがシリア問題で行動しなければ、アメリカに敵対する各国はそこから一定の結論を導きだすだろう。
アメリカの同盟国も同じだ。いくつか例を挙げるならたとえば日本、イスラエル、ポーランドの政府はどれも、もし米連邦議会が対シリア攻撃を否決したりしたら、自分たちの安全保障について不安を抱くに違いない。世界は思っている以上にアメリカという警察官を頼りにしているのだ。【9月3日 ギデオン・ラックマン フィナンシャル・タイムズ 翻訳gooニュース】
******************
“リベラルな介入”を求める地域が世界には多すぎ、とてもアメリカだけでは対応できません。
特に、“アメリカ人は、自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない”というのが重要なところでしょう。
感謝されない努力はむなしいものに思えてきます。
感謝されないのは、場所と方法を間違えているのかも・・・という話にもなりますが。
シリアのように、助けを求める国民がいるのは間違いないが、反体制派にも全面的に支援しかねる要素がある・・・といった場合は特に対応が困難です。
いずれにしても、アメリカにはアメリカの事情がありますが、現に暴力の脅威にさらされている人は誰に助けを求めたらいいのか?という切実な問題は残ります。
【アメリカ頼みの日本は?】
アメリカの「世界の警察官」としての行動には、立場によって賛否両論が絶えずありました。
ただ、「世界の警察官」がいなくなると、なかなかもめ事が収まらない、アメリカが退いてできた力の空白を埋めるように出てくる国があるかもしれない・・・という不安があるのも事実です。
アメリカの存在を基軸としている日本が一番関心があるのは、日中間のレッドラインを中国が超えようとしたときアメリカがどのように行動するか・・・ということでしょう。
もちろん、シリアと日本では異なります。日本のような同盟国を見離せば、アメリカの国際的信頼は地に落ちてしまいます。アメリカの存在を頼りにしてきた多くの国が考え・行動を改めるでしょう。
しかし、一方では、アメリカがはたして中国とことを構える危険を敢えて冒すだろうか・・・という疑念もあります。
警察官がいなくなれば「自警団を組織・強化しないといけない」という話にもすぐなりますが、その前に、隣近所との付き合いの仕方を見直し、そもそもそんなレッドライン云々の問題が起きないようにする努力も必要でしょう。
****日中、日韓改善にも情熱を=自民・二階氏***
自民党の二階俊博総務会長代行は11日、名古屋市で講演し、中韓両国との関係について「五輪招致のために努力した情熱の半分でもいいから、中国、韓国に対していろいろやるべきだ」と述べ、改善に向けた一層の努力を政府に促した。
二階氏は、五輪の東京開催を訴えた安倍晋三首相らのスピーチを引き合いに「あれだけ練習して行くのなら、中韓に対してスピーチを練習したらどうか。努力もしないで遠ぼえのようなことを互いに続けているのはまずい」とも語った。【9月11日 時事】
*****************