孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核開発問題  今月24日の交渉期限を控えて動きはあるものの、米中間選挙を受けて不安も

2014-11-05 22:24:36 | イラン

(イラン・テヘランにある化粧品店でコスメをチェックするイラン女性(2014年5月6日撮影)【8月12日 AFP】)

【「ウラン銀行案」】
主要6カ国(米英仏中露独)とイランの間で交渉が行われているイランの核開発問題に関しては、昨年11月24日にイラン側の「濃縮度5%超のウラン製造凍結」や「西部アラクの実験用重水炉の建設中断」、6カ国側の「一部禁輸の停止」などを含む「第1段階の措置」で合意し、最終合意に向けた交渉が行われています。

しかし、イランは「核の平和利用の権利」を主張し、ウラン濃縮能力の将来的な拡大を要求。核の軍事転用を懸念し、濃縮活動の大幅な制限を求める6カ国側との溝は深く、交渉期限とされていた7月20日を前に、「いくつかの核心的問題で、著しい隔たりが依然存在し、時間と努力が必要」(イランのザリフ外相)と、11月24日まで4か月間の期限延期がなされました。

その“11月24日”も間近に迫ってきている状況で、先月末、やや動きが見られました。

****イラン核開発、米が譲歩 ウラン国外搬出条件 兵器転用の阻止図る****
イランの核開発をめぐる協議で、米国がイランに対し、製造した低濃縮ウランの国外搬出を条件に、一定の核開発を認める意向を示した。

イラン政府関係者が明らかにした。核開発を続けるイランに強硬な姿勢を取ってきた米国が歩み寄った可能性がある。イラン核協議の交渉期限である11月24日を控え、交渉が前進するか、注目される。

この関係者によると、提案は今月15日、ケリー米国務長官とイランのザリフ外相、欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表の協議で示された。

イランが国内の施設でつくった低濃縮ウランを国外に運び出し、核兵器に転用できない発電用の燃料棒などにして戻すとの内容。ウランを外国に預けるため、米国は「ウラン銀行案」と呼んでいるという。

イランは核兵器を持つ意図はないとした上で、発電や医療に必要な低濃縮ウランの開発まで妨げるのは不当だと主張してきた。

米国は、国外搬出でウランを必要以上に濃縮できない状態にすることで、イランに核兵器をつくらせない担保としたい考えとみられる。

米国などによる経済制裁の早期解除を狙うイランは、この提案の受け入れに前向きで、搬出先の候補にフランス、ロシア、トルコが挙がったという。ただ、イランは2~3年程度の時限措置としたい意向。米国は少なくとも10年は必要としているという。

一方、制裁緩和の時期や内容、建設中の重水炉の軽水炉への設計変更では、米国とイランの隔たりはなお大きいという。

低濃縮ウランの国外搬出案は、2009年に国際原子力機関(IAEA)が草案を提示。イランもいったんは同意したが、国内強硬派が反対したり、ウラン濃縮活動の継続に米国が難色を示したりしたため、頓挫した経緯がある。

イランは対外融和路線のロハニ政権になった後の昨年11月、米英独仏中ロの6カ国と「第1段階の合意」を結び、核開発の規模を縮小。双方は今年7月までに最終合意を結ぶ予定だったが、条件面で折り合わず、交渉期限を延長した。【11月30日 朝日】
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上記“低濃縮ウランの国外搬出案”との関係はよくわかりませんが、イランの高濃縮ウラン製造能力に関するアメリカ側の考えも示されています。

****<イラン核交渉>原爆原料製造期間「最低1年へ延長」目標****
◇米国務長官、異例の言及
ケリー米国務長官は10月30日、11月24日に交渉期限を迎えるイラン核交渉の目標について、イランが原子爆弾1個分の核分裂性物質の製造に要する期間を「最低1年間」に引き延ばすことだと述べた。

ワシントン市内のシンポジウムで質問に答えた。ケリー氏が公の場で核交渉の具体的な目標に言及するのは異例だ。

原爆の原料には、濃縮度90%以上の高濃縮ウランや、使用済み核燃料の再処理によって得られるプルトニウムが使われる。

イランは原子力の平和利用を主張し、発電用原発などの燃料用としてウラン濃縮を続けてきた。使用済み核燃料の再処理は確認されていない。

イランが保有するウラン濃縮用の遠心分離機は、稼働中約9400基と設置済み1万基の計約1万9000基。米欧はこれを1500基に減らすよう求めるとされる。

イランメディアは今月、同国が濃縮ウランを兵器化に不向きな核燃料などに転換することなどを条件に、「欧米側が分離機の上限を4000基にする提案を行った」などと報じている。

ケリー長官は今年4月の時点で、イランが原爆1個分の濃縮ウランを得るまで2カ月しかかからないとの見方を示していた。

核交渉の目標期限は今年7月に4カ月間延長されたばかり。ケリー長官は交渉期限内に合意に達することができるかどうかについては明言しなかった。サキ国務省報道官は30日の定例会見で「期限内の合意は可能だと信じる。今は山場だ」などと説明した。【10月31日 毎日】
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イランに関するイメージと現実の乖離
イランと欧米との交渉が進展しない背景として、“イランと米国がお互いを信頼していれば、この隔たりは容易に埋まるはずだ。両者の関係がここまで悪化している一因として、イランに対する西側の一般的な見方が、もはや戯画の域に達するほどに時代遅れになっている点が挙げられる。”【英エコノミスト誌 2014年11月1日号】という指摘があります。

****イラン:革命はもう終わった****
・・・・イランのやっていることの多くは、間違っている。

イランはレバノンやパレスチナ自治区のテロリストや武装組織に資金を提供しているほか、残忍なバシャル・アル・アサド大統領率いるシリアの政権も支援している。イランの政治家は、イスラエルには存在する権利がないと発言することもしばしばだ。

また、現体制に異を唱える自国民に対しても、残虐かつ不当な仕打ちを続けている。10月25日(現地時間)には、殺人で死刑判決を受けた女性に対し、被害者から性的暴行を受けたためだとの主張があったにもかかわらず、絞首刑が執行された。数日後には、国連の特使が、イランにおける死刑執行件数の急増と女性の取り扱いについて糾弾した。

また、国連傘下の国際原子力機関(IAEA)の高官も最近、イランは核開発に関してすべてを明らかにせず、そのほかにも言い逃れと欺瞞が繰り返されていると、不満の意を示した。

これらの行動は確かに間違っているとはいえ、西側の非難も、イランを他に類を見ないほどの邪悪な存在に仕立て上げている。

西側いわく、イランは無慈悲な敵であり、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が「悪の枢軸」と呼んだ国の1つでもある。イランの独裁政権は革命の輸出に熱意を燃やし、さらには終末論を奉じる危険なイスラム思想に取り憑かれ、核による終末を歓迎してもおかしくないほど理性を欠く存在だというのだ。

米国のバラク・オバマ大統領は、このような世界の嫌われ者と交渉の機会を持ったというだけで、非難を受けているほどだ。

米国の高官が最後にイランを公式訪問してから35年が経った。その間に、イランは変化を遂げている。本誌(英エコノミスト)今週号の特集記事には、革命の火がすでに消え失せた国の様子が綴られている。

大きな変化を遂げたイラン
イラン国民は、かつて住んでいた村落を離れ、都市部に移動するにつれ豊かになり、消費財や欧米の技術の魅力に目覚めてきた。5年前には3分の1だった大学進学率が、今では50%以上に増えている。

マフムード・アフマディネジャド前大統領時代の悲惨な状況や、その前大統領を政権の座から追い落とそうとして失敗に終わった2009年の「緑の革命」、さらには中東に混乱をもたらしたアラブの春を経て、一時的にせよ、急進的な政治主張は支持を失い、代わって現実路線を取る中道派が台頭した。

イスラム教指導者が夢見た伝統的な宗教社会は、その影響力を弱めつつある。時間が経つとともに、モスクは空き始めた。塔の上から祈りの時間を知らせる呼びかけも、その声がうるさいとの苦情により、以前ほどは聞かれなくなった。宗教勢力の中心地であるゴムの街でも、神学校よりもはるかに巨大なショッピングモールが建設された。

カリフ制を信奉する動きがイラクやシリアに根付く中で、宗教が退潮しつつあるイスラム国家、それが今のイランの姿だ。

イランは、単純な独裁国家ではない。最終的な決定権を持つのは、同国の最高指導者、アヤトラ・アリ・ハメネイ師だ。

しかし、同師の役割は、多くの政治家や聖職者、軍幹部、学術研究者、実業界の人々から構成されるエリート層の、さまざまな主張を裁定することにある。これらのエリート層は、派閥を作って対立したかと思うと、お互いに手を結ぶなど、傍目には難解な合従連衡を繰り返している。

民主主義として機能しているとはとても言えないが、これはいわば、政治的な取引が繰り広げられる市場のようなもので、アフマディネジャド大統領が思い知ったように、こうした層のコンセンサスから乖離するような政策は長続きしない。

2013年にイランがハサン・ロウハニ師を大統領に選んだのは、まさにそれが理由だった。ロウハニ大統領は、開放政策を志向し、強硬派で知られるイスラム革命防衛隊も自らの統制下に収めている。

当然ながら、ロウハニ大統領は既存のエリート層に属しているが、その内閣に占める米国の大学の博士号取得者の数がオバマ政権よりも多いという事実は、今日のイランについて多くを物語っている。(後略)【英エコノミスト誌 2014年11月1日号】
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イランがイスラム思想に取り憑かれた「悪の枢軸」といった国ではなく、宗教が退潮しつつあり、異なる主張のエリート層の間で政治的な取引が繰り広げられている国であることは、“結局のところイランは、世界秩序を覆すという救世主的な使命感からではなく、自国にとっての利害関係に従い、現実的に行動するようになるということだ。そうなれば、同国は交渉する価値のある相手となる。”【同上】ということを意味します。

更に、経済制裁に苦しむイランにとっては、最近の原油価格下落(代表的指標とされるWTI原油先物は80ドルを割り込み、一時1バレル=75ドル台に急落し、およそ3年1か月ぶりの安値水準となりました。)は原油輸出に頼る国家財政に大きな負担となっており、イラン側に交渉を促す方向で働いています。

なお、イラン産原油の採算ラインは1バレル=100ドル超とも言われており、現在の水準はかなり厳しい数字です。

アメリカ:共和党勝利で交渉進展は困難に
いずれにせよ外交交渉は、どちらに正義があるかを論じるのではなく、お互いが譲歩することでしか成立しませんが、イラン・ロウハニ政権が国内保守強硬派を抑えて譲歩できるか・・・という問題と同時に、アメリカ・オバマ政権もイランに敵対的な共和党を抑えて譲歩できるか・・・という問題があります。

特に、アメリカの問題は、中間選挙が共和党勝利の結果となったことで、今後難しくなることが予想されます。

****中東外交、一層困難に=過激派伸長に拍車も―米中間選挙****
米中間選挙でオバマ大統領の与党・民主党が敗北を喫したことで、大統領が過激組織「イスラム国」やイラン核問題への対応など中東外交で指導力を発揮するのは一層困難となった。米国の対応が後手に回れば、中東各地で過激派の伸長に拍車が掛かる恐れもある。

中東地域では、オバマ大統領の外交への評価は低い。昨年夏にシリアでの空爆を見送ったことで結果的にイスラム国の勢力拡大を許し、今年9月にシリア領内でも空爆に踏み切らざるを得なくなったことから「ちぐはぐ」との見方が強い。

エジプトの外交アナリスト、ホサム・ハサン氏は、共和党が上下両院を制したことで「大統領は今後2年間、イスラム国への作戦強化など重要な決断をさらに下しにくくなった」と指摘する。かねてオバマ政権の外交姿勢に不信感を抱いてきたサウジアラビアなど親米アラブ諸国の懸念を増幅させかねない状況だ。

イラン核協議での進展も望みにくい。イスラエル・バルイラン大のエタン・ギルボア教授は「共和党の方が民主党よりイスラエル寄りだ」と指摘。イランと敵対するイスラエルが、核協議でイランに譲歩しないように「米国に圧力をかけるのは容易になった」と分析した。【11月5日 時事】 
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交渉が決裂するような事態となれば、交渉進展による制裁解除を期待されていた保守穏健派のロウハニ政権は国内で厳しい立場に立たされ、保守強硬派が勢いを増すことが想定されます。

そうなれば、イランの民主化も遠のき、イランとイスラエルの対立など、国際関係も再び緊張することになります。
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