
(表情・仕草はそれぞれ国内外の評価を念頭に置いた演出であり、それ以上のものでもありませんが、習近平国家主席の無表情ぶりはいささか滑稽でもありました。【11月10日 日経】)
【G20議長国は日本ではなく中国へ】
日本にとって快いものではありませんが、日本の置かれている状況を示すものでしょう。
****G20、16年議長国は中国=日本、今回も逃す―豪紙****
20カ国・地域(G20)の議長国を務めているオーストラリア政府は、2016年の議長国に中国を選ぶことを決めた。オーストラリアン紙が15日報じた。議長国就任を以前から希望してきた日本は今回も名乗りを上げたが、実現を逃したもようだ。
15年の議長国はトルコに決まっている。豪政府は当初、16年の議長国として、アボット首相が「アジアの親友」と公言して良好な関係にある日本を推す意向だった。
ところが、G20構成国の間では、経済的な影響力を強める中国を支持する声が多く、日本推薦を断念したという。【11月15日 時事】
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【「あいまい決着」と、その危うさ】
日中首脳会談については周知のとおりです。
****2年半ぶり、北京の人民大会堂で25分間会談****
安倍晋三首相は10日昼(日本時間同日午後)、中国の習近平国家主席と北京の人民大会堂で約25分間会談した。
日中首脳会談は2012年5月に当時の野田佳彦首相と温家宝首相が行って以来、約2年半ぶり。
両首脳は、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海を念頭に、日中防衛当局間のホットライン設置など「海上連絡メカニズム」の運用を早期に開始することで一致した。
会談では双方とも首相の靖国神社参拝には言及しなかったが、首相は「安倍内閣は歴代内閣の歴史認識の立場を引き継いでいる」と表明した。(後略)【11月10日 毎日】
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政治・経済的に、また、安全保障上も、極めて重大な関係を持つ隣接する両国が、首脳同士の会談すらできないという異常な事態の改善につながる第1歩として、喜ばしいことです。
会談の内容・評価については各紙が詳しく論じていますので、ここでは細かいところは取り上げません。
総じて言えば、“それぞれ国内世論を気にする日中が「あいまい決着」で手を打ったこ”ということでしょう。
****日中“無表情”会談、あいまい合意の危うさ 国内世論に配慮した玉虫色の決着****
・・・・今回の首脳会談はギリギリまで実現が危ぶまれた。中国がホスト国である以上、少なくとも両首脳の立ち話程度はできるというのが基本的な相場観だ。
しかし、正式な首脳会談を開くために中国側は、尖閣諸島をめぐって日中間に領土問題が存在することを日本側が認める、安倍首相が今後、靖国神社を参拝しないことを表明する、という2つを条件にしてきたとされる。
どちらも受け入れがたい安倍首相側は「前提条件なしの首脳会談開催」を主張してきた経緯がある。それだけに実現への調整は困難とみられてきた。
隘路を突破できた理由は、それぞれ国内世論を気にする日中が「あいまい決着」で手を打ったことだ。
会談に先立つ7日に両国政府が発表した4つの合意事項に、そのあたりの事情が反映されている。同日に谷内正太郎・国家安全保障局長と中国外交のトップである楊潔※(※=竹カンムリに褫のツクリ)・国務委員(副首相級)が会談してまとめたものだ。
4つの合意点のうちポイントとなるのは、①両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた、②双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が続いていることについて異なる見解を有していると認識、という2点だ。
①は靖国神社に代表される歴史認識の問題、②は中国が主張している「領土問題の存在の受け入れ」を指してしているとみられる。
しかし、その表現は極めてあいまいで、日中双方が自国民に対して「こちらは譲歩していない」と説明できるようにしてある。(後略)【11月11日 東洋経済online】
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“異なる見解を有していると認識で合意した”・・・・いかにも外交的な表現でユーモラスでもありますが、まあ、それで“手打ち”ができるなら“大人の智慧”と言うべきでしょう。
今回の“手打ち”が今後更に内容のあるものに深まるかどうかについては、尖閣諸島の問題は、中国側の今後の出方にかかっていますが、靖国については、日本側・安倍首相の対応にかかってきます。
今回の会談に至る流れをお膳立てしたのは、7月28日の福田元首相の訪中であったと言われています。
実際、この頃から日中関係者の発言には“潮目が変わった”ものが窺えました。
****日中首脳会談、パイプつなぎ直した政治家のワザ *****
・・・・福田(元首相)、谷内(安倍首相の信頼が厚い国家安全保障局長)、王(外相)、楊(国務委員)の4人の会談に、習が姿を現した。
福田が習と会うのは昨年4月以来だ。日中関係者によると、福田はここで踏み込んだ発言をした。安倍の靖国参拝の可能性について、否定的な認識を示したのだという。
安倍とどこまで擦り合わせていたかは不明だが、同席していた谷内が「そんなことまでは……」と慌てたとされる。第2のカードだ。(後略)【11月11日 日経】
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福田元首相の発言内容、それを中国側がどのように評価したのか・・・そのあたりは知りませんが、いずれにしても中国側は今回“手打ち”で、当面安倍首相の靖国参拝はないものと判断しているのでしょう。
靖国については、日中間というよりは、国内でも異なる見解・立場がある、すぐれて国内的な問題でもあります。
その内容についてはここでは触れませんが、私個人の立場だけ言えば、戦争に突き進んだ戦前日本の流れをそのまま継承しているように思われる靖国神社への参拝を、単に“国のために命をささげた英霊への敬意”ですますことはできないと考えています。
もちろん「馬鹿を言うな!」という立場もあるでしょう(そっちの方が最近は主流のようですから)。
それはさておき、少なくとも中国側は、今後再び首相の靖国参拝という事態になったとき、“メンツを潰された”と激しく反発し、日中関係は今以上に修復が困難な状態となることが懸念されます。
****時間稼ぎには限界がある****
今回の会談で両首脳は東シナ海などでの衝突回避のための海上連絡メカニズム構築などで合意しており、首脳交流を再開することの意義は大きい。
「これで日本とのビジネスは”解禁”。中国の官も民も、日本側との接触がやりやすくなった」(経済産業省幹部)のは確かだろう。
しかし、ここから本格的に日中の関係が改善していくかどうかは予断を許さない。
8年前と現在の大きな違いは、中国と日本の関係性の変化である。
10年に日中の経済規模は逆転し、13年の中国の名目GDP(国内総生産)は日本の2倍だ。また、中国の輸出や輸入における日本の比重は8年の間に大きく低下した。
こうした変化は、中国側の日本への姿勢をどんどん強気にさせている。それだけに、日本には中国との関係をどう再構築していくかのしっかりした構想が必要だ。「あいまい戦術」はあくまで時間稼ぎでしかない。【11月11日 東洋経済online】
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【“日本にとって不快な目覚め”】
日中関係がこじれやすい背景には、両国の変化に日本側の認識がついていきかねていることがあるように見えます。
****アジア・ナンバーワンの地位****
・・・・中国は安倍氏のことを、日本の軍事的過去を否定したいと願う修正主義者として描くキャンペーンを繰り広げてきた。
一方、安倍氏は東南アジア諸国を訪問し、やはり中国との海洋紛争に対処する各国に支援の手を差し伸べてきた。
米国は、中国との対立に自国が巻き込まれかねない紛争の可能性を懸念している。
朝日新聞の元主筆、船橋洋一氏は、アジアは今、日本が1894~95年の日清戦争で中国を破った時と性質がよく似た「地殻変動」を目の当たりにしていると話す。
日清戦争での勝利とその10年後のロシアに対する勝利は、日本を1世紀にわたるアジア支配に導いた。だが、30年に及ぶ比類なき成長によって力をつけた中国は立ち直り、この地域でかつて占めていた地位を取り戻しつつある。
「日本がこの新しいパワーシフトに適応するのは、心理的、政治的に非常に難しい」と船橋氏は言う。
「日本は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を一度も信じなかったが、『アジアにおけるジャパン・アズ・ナンバーワン』は信じてきた。これは日本にとって不快な目覚めだ」(後略)【11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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そして今、中国は“アジアのナンバーワン国家”として認識されることを求めています。
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習氏は前任者よりもはるかに強硬な外交政策を打ち出した。一部のアナリストはこれを、東シナ海から米国を追い出し、日本を弱小国の地位に追い落とす試みとして解釈した。
「中国は他国を服従させる具体的な政策を考え出したわけではないが、指導部は間違いなく、中国はアジアのナンバーワン国家として認識されるべきだと考えている」。中国人民大学米国研究所の時殷弘所長はこう話す。
「実際問題としては、これは中国が日本より力があることを示さなければならないこと、そして米国政府にアジア地域における自国の優位性を認めてもらう必要があることを意味している」【同上】
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冒頭のG20議長国をめぐるエピソードも、こうした日中双方の状況を示すもののひとつでしょう。
日本を今後待ち受けているのは少子高齢化社会の進行、人口減少です。
今後中国によほどの大事が起きないかぎりは、日中の国力・影響力の差は、ますます大きなものとなるでしょう。
仮に共産党政権が崩壊するような大事・一時的混乱があったとしても、長期的に見れば流れはかわらないでしょう。
“日本にとって不快な目覚め”“不都合な真実”であったとしても、目を背けていては道を誤ります。