孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国:「一人っ子政策」緩和も出生数はそれほど増えず  インド:避妊手術奨励のひずみ

2014-11-12 23:02:49 | 人口問題

(インド北部アリーガルで無料の避妊手術に登録する女性たち(資料写真、2011年)【11月12日 WSJ】)

中国:「多くの人が2人目の出産を選択しないのは、理性的な判断」】
中国は長年「一人っ子政策」によって人口抑制をおこなってきましたが、人口抑制に一定の目途が立ってきたこと、一方で人為的な人口抑制によって人口構成がいびつとなり、今後急速な高齢化が進展することなどを踏まえ、「一人っ子政策」の緩和も近年は行われきました。

昨年末には更に踏み込んで、“どちらか一方が一人っ子の夫婦に第2子出産を認めていく”緩和策が決定されています。

****一人っ子政策、来春から緩和 中国が決定 ****
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は28日、人口抑制のため導入していた「一人っ子政策」の緩和を決めた。

地方政府が2014年春から順次、どちらか一方が一人っ子の夫婦に第2子出産を認めていく。年間出生数は例年の1割超に当たる200万人ほど増えるとの見方が多く、いびつな人口構成の修正が動き出す。(中略)

中国は食糧危機を避けるために1979年に一人っ子政策を導入し、「4億人分の人口増を抑制できた」(担当官庁の国家衛生計画生育委員会)。結果として人口構成がゆがみ、国連の推計では65歳以上の比率が35年に19.5%と、現在の日本並みに高齢化する見通しとなっていた。

12年には、「世界の工場」を支えてきた労働年齢人口(15~59歳)が初めて減少に転じた。ゆがみを解消するため、11年までに全土で夫婦双方が一人っ子なら第2子を認めるまで制限を緩和してきたが、さらに踏み込むことにした。

ただ、張徳江全人代委員長は28日、「産児制限は我が国の基本的な国策であり、長期にわたって堅持せねばならない」と演説した。現在は約13億5000万人の総人口を33年ごろのピーク時でも15億人程度に抑える方針。第3子を許可しないなど一定の制限は当面は続く見通しだ。【2013年12月28日 日経】
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この緩和策によって、毎年の出生数が200万人増加すると見られていましたが、実際の伸びは遥かに低い数字にとどまるようです。

子育てに要する費用・負担が大きく、2人目を望まない夫婦が増えていることが背景にあり、そのあたりは少子化に悩む日本と同じです。

****少子高齢化にたまりかね、中国政府が「一人っ子政策」緩和・・・・それから1年、人々「この社会じゃ2人目無理****
中国政府・国家衛生和計画生育委員会(衛生と計画出産委員会)が、いわゆる「一人っ政策」を大幅に緩和してから約1年間が立つ。

しかし2人目の子を産む申請をした夫婦は70万組で、政府の当初予想だった200万組を大幅に下回る状態だ。生活や社会状況を考え、「尻ごみ」してしまう夫婦が多いという。中国新聞社が報じた。(中略)

政策転換に際して、国家衛生と計画出産委員会は、毎年の出生数が200万人増加するとの見方を示した。しかし実際には、2人目の子を希望する夫婦は70万組強にとどまっている。

2人目の子を設ける資格がある夫婦の多くが、生活や社会状況を考えて「尻ごみ」してしむという。

まず、養育費の高さだ。学費や病気やけがをした際の医療費。さらに男の子の場合、年ごろになれば親が住居や自動車などをそろえてやることが一般的だ。医療費について言えば、女性が妊娠してからの各種検査や出産費用なども高額だ。また、医療機関が混み合うなどで、肉体的な疲労も著しいという。

若い夫婦では、「子どもはいらない。夫婦2人だけの生活をしていく」という考えの人も増えつつあるという。

遼寧省社会科学院の張思寧研究員は、「若い人は家庭、仕事、社会の圧力をかなり強く受けている。生活費は高い。子どもの養育費はさらに高い」として、「多くの人が2人目の出産を選択しないのは、理性的な判断。社会の現状からして、2人目の選択は無理なのだ」と評した。

張研究員は、「長期にわたり、社会保障、収入の配分、戸籍制度、医療、衛生、教育についての(政府側の)手配と、大衆が現実に求める期待に大きな距離があった。そのため、人々は(2人目の子を設けた場合の)後顧の憂いを消し去ることが難しいのだ」と、事実上の政府批判をした。【11月11日 Searchina】
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インド:女性教育水準が高い南部では低い出生率
一方、中国と並ぶ人口大国であり、2030年までに中国の人口を抜くと見られているインドでは、中国のような強権的な「一人っ子政策」はとられていませんが、自治体が車や電化製品の贈呈と引き換えに避妊手術を促すような施策がとられています。

ただ、そこでは医療・衛生上の問題もおきているようです。

****インド 避妊手術受けた11人が死亡****
インド中部で、人口の増加を抑制するため政府が進めている避妊のための手術を受けた女性60人が吐き気などの症状を訴えて次々に病院に運ばれ、これまでに11人が死亡し、モディ首相は徹底した原因究明を指示しました。

インド中部のチャッティスガル州のビラスプールで合わせて60人の女性が10日から吐き気や腹部の痛みなどを訴えて複数の病院に運ばれ、これまでに11人が死亡しました。

地元の保健当局によりますと、60人はいずれも今月8日に同じ医療施設で避妊のための手術を受けたということです。

手術は、インド政府が人口の増加を抑制するため女性と男性、双方を対象に州政府を通じて行っており、保健省によりますと、ことし3月までの1年間に400万人近くが手術を受け、このうち98%が女性でした。

手術を受けた人は政府から現金が支給され、この地区ではそれぞれ1400ルピー、日本円でおよそ2600円を受け取っていたということです。

11人の女性が死亡した原因は明らかになっておらず、モディ首相は州政府に対し徹底した調査を指示しましたが、こうした手術は一度に多くの人に行われているため、専門家などは、以前から医療器具が適切に消毒されていないケースがあるのではないかと指摘していました。【11月12日 NHK】
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“昨年には、インド東部で集団不妊手術を受けた後、意識を失った状態の女性が多数、屋外に放置されている映像をニュース専門局が暴露し、自治体当局が激しい非難を浴びた。この時は女性たちが、患者を多数受け入れるための設備がない病院で手術を受けさせられていた。”【11月11日 AFP】といったこともありました。

今回の事件は、避妊手術を集中的に行う「避妊手術キャンプ」で起きたものです。
手術チームは女性83人に卵管を縛る腹腔鏡手術を行いましたが、1件の腹腔鏡手術にかかる時間は5分未満で、女性たちはその日に退院したそうです。

なぜ規則を大幅にオーバーする多数の患者を処置したのか、避妊手術を行う者を集めてくる業者や手術を行う医者への報奨金(医師は患者が手術を受けるごとに約2ドルを受け取る)が目的だったのか・・・という疑問も出されているようです。

“1年間に400万人近くが手術を受け、このうち98%が女性”ということについては、日本同様、妊娠・出産に関することは“男性は関知しない女性のこと”という意識もあるのでしょう。

インドは、レイプ事件多発にみるように、“男尊女卑”的な風潮が根強い国でもありますので。

もっとも、かつてインディラ・ガンジー首相の頃は、男性の不妊手術(いわゆるパイプカット)を政策的に推し進めたこともあったようですが、その強引さもあって、国民には不人気だったようです。

****70億人の地球****
・・・・1952年、英国から独立してわずか5年後、インド政府は世界に先駆けて人口抑制政策を打ち出した。以来、何度も野心的な目標を掲げてきたが、そのたびに成功とは言えない結果となった。

2000年には新たな政策を導入。2010年までに出生率を人口置換水準の2.1に下げることを目指したが、目標は達成できず、実現には少なくともあと10年はかかりそうだ。

国連の中位推計では、インドの人口は2050年までに16億人強に達するという。「2030年までに中国の人口を抜くのは避けられない」と、市民団体「インド人口財団」の元理事長A・R・ナンダは話す。

避妊手術は今のインドで主流の避妊法で、女性が受けるケースが圧倒的に多い。政府はこの現状を変えようとしている。男性が受ける精管結紮(けっさつ)(いわゆるパイプカット)はメスを使わず、女性が受ける卵管結紮よりも、はるかに手術代が安く、簡単な処置で済む。(中略)

(男性の避妊)手術は7分足らずで終わり、患者は歩いて病院を後にした。パイプカット手術を受けた男性には、労働者の1週間の賃金に当たる1100ルピー(約2000円)が政府から奨励金として支給される。

インド政府は、人口の増加を危ぶむ声が最も高まった1970年代にも、パイプカット手術を推進しようとした。
当時のインディラ・ガンジー首相とその息子サンジャイは、人口増は国家の非常事態に当たるとして、政府の権限で国民に避妊手術を受けさせようとしたのだ。

1976年から77年までに手術件数は3倍に増え、800万件以上に達したが、うち600万件余りがパイプカットだった。

数値目標を達成するため、当局の家族計画担当者にはノルマが割り当てられた。一部の州では、避妊手術を受けないと、住宅などの公的補助が受けられなくなった。警官が貧しい人々を捕まえて、強制的に避妊手術を受けさせるといったやり方までまかり通った。

こうした行き過ぎがあったために、家族計画そのもののイメージが悪くなった。「その後の歴代の政権はこの問題に触れたがらなくなりました」と国立人口安定化基金(NPSF)の元理事長シャイラジャ・チャンドラは話す。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2011年1月号 】
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それでも中国ほど急速なペースではないものの、インドでも出生率は右肩下がりに低下しています。
合計特殊出生率でみると、1980年の4.68が2012年には2.51に低下しています。

ただ、その内実は州によって大きく異なるようです。

****北部では「産んで一人前****
・・・・南西部のケーララ州では、州政府が公衆衛生と教育に力を入れたおかげで、出生率は1.7に下がった。

専門家によると、この成功の鍵を握ったのは、女性の識字率だ。
ケーララ州では90%前後で、インドでは抜きん出て高い。学校に通うことで出産年齢が高まる傾向があるほか、教育を受けた女性は避妊にさほど抵抗がなく、避妊の知識や情報も得やすい。

ケーララ州の取り組みは成功例として各国から注目されているが、デリーのすぐ南の一帯、「ヒンディーベルト」と呼ばれる北部の貧しい諸州では広まっていない。

この一帯にあるラージャスターン州、マディヤ・プラデーシュ州、ビハール州、ウッタル・プラデーシュ州は今でも出生率が3~4で、この地域がインドの人口増加分の半分近くを占めている。

女性の半数以上が読み書きができず、多くは法律で婚姻が認められる18歳より前に結婚する。この地域では、女性は子供を産まなければ一人前に扱ってもらえない。しかも男児が歓迎されるため、男の子が生まれるまで次々に子供を産む。

ケーララ州の事例に代わるものとして、南部のアーンドラ・プラデーシュ州の取り組みが注目されている。

この州では、70年代に「避妊手術キャンプ」が導入された。学校などに仮の手術室を設け、そこで避妊手術を受けさせるというものだ。

その後は病院で実施されるようになったが、避妊手術を受ける人は今も多い。おかげで1990年代の初めからわずか10年間で、出生率は3前後から、2を下回るまでになった。ケーララ州とは対照的に、この州の女性の識字率は今でも50%程度にとどまっている。

NPSFの現理事長アマルジット・シンは、ヒンディーベルト地帯の4大州がアーンドラ・プラデーシュ州のやり方を採用すれば、4000万人の出生が避けられたとみる。病院での避妊手術を奨励する政策がインド全土に広がれば、2050年のインドの人口は16億人ではなく、14億人に抑えられるとシンは考えている。

一方、インド人口財団のアンダらはこのやり方に批判的で、当局の担当者にノルマを課して住民に避妊手術を受けさせたり、奨励金を支給したりするやり方に異議を唱えている。

必要なのは、特に農村部で医療の質を高めることであり、子供を何人つくるかは夫婦それぞれの選択に任せるべきだというのだ。

インドでも都市部では、多くの夫婦が欧米人と同様に子供の数を自分たちで決めている。

ニューデリーの国立応用経済研究所の上級研究員ソナルデ・デサイが、デリーで働く5人の女性を紹介してくれた。彼女たちは、子供を私立学校に通わせ、家庭教師をつけるなど稼ぎの大半を教育費に注ぎ込み、子供は一人か二人しか産まないと決めている。

デサイの研究チームがインド全土の4万1554世帯を対象に行った調査によれば、都市部では、一人っ子の家庭はまだ少数派ながら、確実に増えつつあるという。「親が子供の教育にどれだけ力を入れているか、驚くほどです。だから出生率が下がっているのかと、納得できました」(後略)【同上】
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日本や中国同様に、生活水準が向上し、子供の教育が重要視されてくると、その費用などを考えておのずと出生率は低下します。

また、ケーララ州の事例に見るように、女性の教育が出産傾向を変える大きなカギとなります。

****避妊よりも大切なこと****
人口財団のアルマス・アリは、インドが目指すべきは、出生率の低下や人口の減少ではないと語る。
「農村部の生活改善を目標にすべきです。いまだにインドの人口についての議論では、増え続ける数ばかりが問題にされます。人の暮らしに目を向けるべきなのに、それは二の次になっています」【同上】
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日本:「子供を産む母親の数」が減少
出生率を話題にしたついでに、日本の状況に簡単に触れると、日本の出生率は、1947年には4.54でしたが、その後一貫して低下を続け、1959年には人口維持に必要な水準を下回り(2.04)、2005年には1.26にまで下がりました。
その後、出生率はやや回復し、2013年には1.43となっています。

****出生数を増やす好機を逃した日本*****
・・・・こうした動きを見ていると、日本の出生率をめぐる状況は、最悪期を脱し、徐々に改善しつつあると考えたくなるが、必ずしもそうとは言えない。(中略)

合計特殊出生率は、ある一時点での年齢別の出生率を合計したものである。すると、晩産化の初期に子供の数が減ると、一時的に合計特殊出生率は低下し、その晩産化で子供が生まれるようになると、出生率が上昇するということが起きる。

ここ数年合計特殊出生率の回復がどの年齢層で生じているかを見ると、30代以上の年齢層での上昇が目立つ。ということは、ここ数年の日本の出生率の回復は、晩産化の影響だと考えられる。

要するに、これは、これからの出生率の回復をなんら保証するものではなく、より若い層での出生率回復がない限り、やがて出生率の上昇は止まるということである。(中略)

仮に、出生率の回復傾向が本物であったとしても、まだ問題は残る。出生率が回復しても「出生数」が同じように増えるとは限らないからだ。この点が、本稿で取り上げる「数」の議論なのだ。

改めて考えてみると、出生数は、「子供を産む母親の数」と「出生率」によって決まる。事実、ここ数年出生率は回復したのだが、出生数は2004年の111万人から2013年の103万人へと減少している。これは「子供を産む母親の数」が減ってきたからだ。

この点こそが、日本の人口を考える上での大問題なのである。女性の出産可能年齢人口(15~49歳)は、2010年時点で2720万人だったが、2030年には2054万人、2050年には1567万人へと減り続ける見込みである(国立社会保障・人口問題研究所、出生・死亡とも中位、以下同じ)。

すると、仮に今後ある程度出生率が回復したとしても、出生数は減り続けることになる。(後略)【6月11日 小峰隆夫氏 日経ビジネス】
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人口減少の速度を低下させるための、あるいは、人口が減少してもそれなりにやっていくための、基本的な発想の転換が必要とされているのではないでしょうか。
コメント (2)
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