
(余裕の表情でG20が開催されたオーストラリアを去るプーチン大統領 欧米首脳との“打ち合い”にはタフなプーチン大統領ですが、経済への影響はまた別物です。 “flickr”より By G20 Australia 2014 https://www.flickr.com/photos/g20australia/15614329327/in/photolist-pMMw7B-pMLhi7-pMLhgo-pMJbvv-pMJbse-pMMnpX-q5hBuw-pMLKFy-pMMZ54-q7oJkF-q4ExCQ-q88sKX-q6fmwh-pNiHYV-p9MFjx-q6mFJE-pRV44G-q6SDnP-q78AFN-pNFUXd-pa81xz-pNWmt7-q86JDe-pbBfwV-pQVnxR-q6VYRj-p9Zvd7-pa2T34-pPKC4k-q6iCap-p9pwxP-q7JgLu-q89Dzv-pPaFKq-pNVoVJ-pNrsXe-pPjFFE-q3p98E-pQ1oQz-pPxi8i-q6XcT8-q76bZi-pQ8Rks-p9wdYB-pRWXrf-p9SeP4-q7i59R-pRVALN-q7pq9i-pNHmdc)
【「結果にも雰囲気にも満足している」】
16日に閉幕したオーストラリア・ブリスベンでの20カ国・地域(G20)首脳会合は、ウクライナ情勢をめぐって欧米各国の首脳がロシアのプーチン大統領を相次ぎ非難する一方、プーチン氏は当地で別途開かれた新興5カ国(BRICS)首脳による非公式会合で結束を確認するなど、他の新興国を巻き込んで欧米と対抗する構えを示しました。
渦中のプーチン大統領が閉幕を待たず「公務に備えて眠りたい」と帰国の途に就いたことで、欧米首脳から批判を浴びたことに不満を抱き日程を切り上げた可能性も取り沙汰されました。
ただ、プーチン大統領の性格としては、欧米の批判に一人立ち向かう役どころは、“強い指導者”を国内外に示すの
にうってつけの得意とする状況設定ですから、怒って帰ってしまう・・・ということはないのでは。
G20においても、欧米からの批判にも関わらず、表の議論として「ウクライナ」が触れられることはなく、その点でもプーチン大統領の思惑どおりだったとも言えます。
****<G20>「ウクライナ」陰の議題 ロシア批判広がらず****
主要20カ国・地域(G20)首脳会議では主に経済問題が議論された一方、不安定化するウクライナ情勢がもう一つの重要テーマとして、ロシアと関係諸国の間で個別に話し合われた。
米欧の厳しい批判は織り込み済みで参加したプーチン露大統領は「結果にも雰囲気にも満足している」と強調。米欧側も「ロシアにクギを刺した」と成果を誇った。今回、主張を直接戦わせたことが、今後の情勢安定化につながるか注目される。
雇用創出、環境問題、エボラ出血熱--。G20の首脳宣言で、「ウクライナ」は一切触れられなかった。中国やインドなど良好な対露関係を維持する新興国が加わる国際会議の場で、ロシアを非難する米欧への同調は一部にとどまった。
プーチン氏は16日の記者会見で「公式会議ではウクライナについて全く触れられなかった」と余裕を見せ、精力的にこなした英仏独などとの個別首脳会談に関して「お互いをよりよく理解できた」と自負した。米露の直接対話は実現しなかった。
紛争が続くウクライナ東部情勢で、ロシアは自国軍の介入を否定し、「善意の第三者」として振る舞い続けている。プーチン氏はウクライナ議会選挙と東部の親露派による独自選挙が相次いで実施されたことを「解決のチャンス」と会見で主張。親露派勢力を正統な交渉相手と認めるべきだとの考えを改めて示唆した。
「これ以上、情勢を不安定にさせるなら制裁はより厳しくなる」。キャメロン英首相とオバマ米大統領はそれぞれの総括記者会見で声をそろえ、ロシアに警告。16日、米欧首脳会合と日米豪首脳会談も開き、対露制裁実施国の結束をアピールした。
だが、ロシアとの根比べは当面続くとみられ、キャメロン氏は「米欧諸国の政治的意思とスタミナがテストされている」と語った。【11月16日 毎日】
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【代替が困難なロシア経済】
欧米首脳の批判は乗り切ったプーチン大統領ですが、制裁合戦ともいえる状況での“根比べ”はロシアにとって決して容易なものではありません。
天然ガス輸出などで中国との関係を強化することで欧米に対抗する姿勢を強めているロシアですが、欧州から物資が入らなったら替りに中国から・・・と簡単にいくものでもないようです。
****中国の青果 「ロシア市場で欧州の代替にならない」と露通信社=中国メディア****
中国メディア・環球網は7日、ロシアの消費者権利保護協会会長が「中国産の青果は物流や品質上の理由で、ウクライナ問題で撤退した欧州産品に代わってロシア市場を占拠することはできない」とコメントしたとするロシアの通信社「ノーボスチ」の6日付報道を伝えた。
記事は、同協会会長が記者会見において「中国の野菜は安価かつ大量だが、シベリア鉄道にはそれだけの物品を運ぶ能力がない。トラック輸送でも不可能だ」と語ったことを紹介した。
さらに、ロシアの品質検査基準が中国産食品のロシア市場への大規模流入を阻害しているとし「ロシア連邦消費者権利保護・公益監督局所属の実験室や関連機関はいずれも欧州基準を守っている。中国が用いている農薬や除草剤は欧州のものと完全に異なる」と説明したことを伝えた。
そして「中国ではこの点に注意する者がおらず、われわれも彼らの方法をモニタリングすることは不可能であり、中国産食品の品質を確認することはできない」と語ったとした。
また、ロシア国内において中国産食品は「極東市場でシェアを獲得することしかできない」との見解を示したことを併せて伝えた。【11月14日 Searchina】
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極東で豊富な漁業資源にしてもモスクワなどに運ぶインフラが乏しいなどの国内問題が露呈して、食品価格は高騰しています。
****魚はどこに消える ロシア禁輸措置が庶民の台所に影響****
米欧の制裁に対する報復措置として、ロシアが広範な農水産品の輸入を禁止したことが庶民の食卓に響き始めた。通貨ルーブルの急落も重なり、多くの食品が高騰している。
中でも目立つのが魚で、行きつけのスーパーでは鮭(さけ)の切り身が夏場以降に100ルーブル(約245円)も値上がりした。西部の都市部で幅をきかせていた、ノルウェー産の魚が禁輸対象とされたことが大きい。
ロシアは本来、オホーツク海やベーリング海という世界有数の好漁場を抱える漁業大国だ。だが、皮肉なことに、国内漁獲の7割を占める極東産の魚が、モスクワなど西部に向かうことはない。インフラが劣悪なために輸送が困難で、漁獲のほとんどは利ざやの大きい輸出に回される。
報復措置を発動した際、政権は禁輸対象品が国産で代替され、産業が発達することを期待した。だが、モスクワで食することになる極東産の魚は相変わらず、中国で冷凍加工され、「中国産」となった製品だ。
禁輸措置を受け、海のない隣国の「ベラルーシ産」と表示された牡蠣(かき)や鱒(ます)もお目見えした。同国はロシアと関税同盟を組む「友好国」とされるが、報復制裁には同調せず禁輸対象品の迂回(うかい)ルートとして稼いでいる。
制裁はロシアのいろいろな矛盾を浮き彫りにしている。【11月18日 産経】
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【下落するルーブル】
目下の最大の問題は、米欧の制裁や石油価格の急落で、通貨ルーブルの価値が暴落していることでしょう。
11月10日は完全変動相場制移行を余儀なくされています。
****露ルーブル、完全な変動相場に移行 ウクライナ情勢で急落、介入に限界****
ロシア中央銀行は10日、通貨ルーブルについて米ドルと欧州ユーロに対して設定していた相場変動の許容幅を撤廃し、完全な変動相場制に移行したと発表した。
ウクライナ情勢をめぐる米欧の対露制裁や石油価格の急落で、ルーブルの対ドル価値は年初から約4割下落、為替介入による許容幅の維持が困難になっていた。
ただ、中銀は金融の安定に脅威が生じる場合は介入を行うと表明している。
露中銀は10月だけでルーブル買い支えに約300億ドル(約3兆4200億円)を投じ、同月末の外貨準備高は4286億ドル(約48兆9300億円)まで減少。
変動相場への移行のメドは来年1月とされていたが、今月5日には介入の限度額を1日あたり3億5千万ドル(約400億円)に制限すると発表していた。
変動許容幅の撤廃には投機資金の影響を抑える効果が期待される半面、ルーブルの評価が根本的に変わることはないとの見方も市場関係者には出ている。【11月10日 産経】
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下記の【英エコノミスト誌】記事は、おそらく上記の完全変動相場制移行発表前に書かれたものと思われますが、指摘している状況は今も同じです。
****ロシア経済:ルーブル暴落の足音****
【英エコノミスト誌 2014年11月15日号】
・・・・ルーブル安には根深い原因があり、いずれも消えてなくなるものではない。
1つ目は原油だ。2014年上半期にロシアの輸出は2550億ドルの収入をもたらし、そのうち68%が原油と天然ガスの販売によるものだった。
上半期の平均原油価格は1バレル109ドルだった。それが今では80ドルに近い水準だ。
原油価格と比例する減少率をエネルギー輸出に当てはめると、収入が400億ドル以上減ることになる。ロシアの経常黒字をすべて帳消しにし、なお穴を開ける規模だ。
大半の経済国では、大幅な通貨下落は国産品に対する需要を押し上げる。外国製品の価格が高くなるにつれ、買い物客が国産の代替品を選ぶようになるからだ。だが、ロシアの近年の歴史は、そうした代用を困難にする。
ソ連時代の補助金から市場を基盤とする農業への移行は円滑ではなかった。ロシアとウクライナにおける牛肉、豚肉、鶏肉の生産は、1991年には1300万トン近かったが、2001年にはたった500万トンになっていた。
最近、(特に穀物生産で)多少の改善が見られたが、ロシアの農業はまだ極めて非効率だ。その結果、食肉、牛乳、卵などの多くの輸入品は、国産の代用品がごくわずかしかない。
こうした製品を輸入する卸売業者は、製品購入のためにドルを必要とし、それがルーブルに下落圧力をかけている。
迫り来るドル建て債務の返済期限
ほかにも、ルーブルを売ってドルを買う理由がある。中銀の統計によると、ロシア経済全体で今後1年以内に返済期限を迎える対外債務が1200億ドル以上ある。ざっと3分の1が銀行による借り入れで、残る3分の2が銀行以外の企業の債務だ。
一部の企業、特にロシアのエネルギー大手、には、ドル建ての収入がある。銀行を含む残りの企業の大部分は、ドル建ての収入源を持たない。
制裁措置の影響で多くのロシア企業はこうしたドル建て債務を借り換えるために外国で借り入れを行うことができないことから、これは継続的なドル需要を生み出す。
12月に大規模な債務返済が控えているため、年末までに、ルーブルが再び暴落する可能性がある。
西側の市場と通貨に対する依存は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を苦しめている。プーチン大統領は11月10日、中国の習近平国家主席と、ロシアが新しいパイプラインを経由してシベリアから中国へ天然ガスを輸出することになるガス供給契約に調印した。
中国シフトにはなお時間
この契約は巨大な新規需要源をもたらし、中国が欧州に取って代わってロシア最大の輸出市場になるかもしれない。加えて、ドルではなく人民元建てで売買し始めるという合意は、ドルに対する需要を減らす。
しかし、パイプラインの建設には何年もの歳月を要し、プロジェクトの資金調達はまだ確保されていない。一方、ロシアは今後何年も、安い原油・天然ガス価格に耐えなければならないかもしれない。
11月12日、米国政府機関のエネルギー情報局(EIA)が公表した新たな予想によると、原油価格は2015年の年間平均で1バレル83ドルになる可能性が高いという。
原油価格が1バレル90ドルに上昇するという楽観的な想定に基づき、ナビウリナ総裁はまだ、2015年にゼロ成長と8%のインフレ率を予想している。ロシアのルーブル危機はまだ当面終わりそうにない。
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原油価格は更に下がって1バレル76ドル前後で推移しています。サウジアラビアが減産調整を行わない状況では、しばらくこの安値傾向が続くことが予想されます。
食料品の国内産への代替が進まない状況は、前述の【Searchina】【産経】記事にもあるところです。
更に、ドル建て債務返済のためのドル需要ということで、ルーブル安・物価押し上げ圧力は続きそうです。
****欧州代わりに中国に期待 プーチンの危険な妄想****
・・・・プーチンの思惑どおり、地政学的な見地からロシアは欧米を回避するために中国に接近している、とメディアは書き立てた。
しかしこうした戦略は賢明どころか、無謀な大ばくちだ。中国もアジアも、ヨーロッパに代わるロシア経済の重心にはなり得ない。
経済的にも文化的にも社会的にも、ロシアとヨーロッパのつながりはあまりにも深い。
それでもロシア軍は国境を越えてウクライナになだれ込み、ロシアは米カリフォルニア沿岸近くで爆撃機の訓練飛行を計画していると発表した。冷戦ピークでさえ、ここまでの挑発はなかった。
プーチンは中国にヨーロッパの代わりが務まるという「妄想」に取りつかれている。実際はロシアの貿易取引の約半分をEUが占め、ウクライナ、トルコ、スイスも加えれば約60%に上る。
まっとうな指導者ならそれほどの貿易相手を避ける道を選ぶはずはないが、プーチンの場合は外交上の強硬策が通商面にも影を落としている。それに、中国との天然ガス供給契約で損をするのはたいていロシアだ。(中略)
ロシアの船は昔からヨーロッパを目指してきた。外交でも通商でも多様性は大事だが、ヨーロッパへの腹いせに中国にすり寄る「アジア重視」政策はロシアの得にはならないだろう。損をするのはプーチンだ。しかも国民まで道連れになる。【11月21日 Newsweek】
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【合意を履行しない場合は制裁強化も】
ウクライナは相変わらずで、ロシアによる親ロシア派軍事支援が増強されていると報じられています。
アメリカのバイデン副大統領はウクライナを訪問してポロシェンコ大統領と会談し、停戦に合意したあとも戦闘が続く東部の情勢について、ロシアが合意を履行していないと非難したうえで、「挑発行為を続け、合意を履行しない場合は、ロシアはより大きな代償を払い一段と孤立することになる」と述べ、制裁の強化も辞さない考えを示しました。【11月22日 NHKより】
もちろん対ロシア制裁は、欧州側にも大きな負担を伴い、欧州内部での不協和音を生みます。
“根比べ”が双方の妥協を産めばいいのですが、最近のプーチン大統領の言動を見ていると、損得を顧みない別の価値観に突き動かされているようでもあり、あまり楽観できません。