![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/85/e883f7d27f5a76920ba650e34e159b66.jpg?random=6027cf5e98ec2f50f0f454adddce5c45)
(10月31日、ネピドーの大統領官邸でテイン・セイン大統領(左)と握手するスー・チー氏 【10月31日 産経フォト】http://www.sankei.com/photo/daily/expand/141031/dly1410310021-p1.html)
【円卓会議開催も、憲法改正問題での新展開なし】
これまでも何回も取り上げているように、民主化が一定に進むミャンマーですが、少数民族武装勢力との停戦交渉と西部ラカイン州のロヒンギャの問題が大きな課題として存在しています。
アメリカ・オバマ大統領も、ASEAN議長国ミャンマーで開催される東アジアサミット出席を前にして、テイン・セイン大統領にそのあたりの懸念を伝えているようです。
****次期総選挙へ改革継続促す=ミャンマー大統領と電話会談―米大統領****
オバマ米大統領は30日、ミャンマーのテイン・セイン大統領と電話会談し、2015年秋に予定されているミャンマーの次期総選挙が公正で開かれたプロセスになるよう改革の継続を促した。ホワイトハウスが発表した。
オバマ氏はこの中で、テイン・セイン政権が少数民族武装勢力との和平プロセスに取り組んでいることを歓迎。また、同国西部ラカイン州で迫害されているロヒンギャ族の人権状況や政治的権利の改善も求めた。【10月31日 時事】
********************
この電話会談の翌日、10月31日には、テイン・セイン大統領が、首都ネピドーに与党・連邦団結発展党(USDP)のトゥラ・シュエ・マン党首、国軍のミン・アウン・フライン司令官、更には最大野党・国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏や少数民族指導者など主要政党トップや国軍首脳らを集める異例の会議を開催しました。
前日のオバマ大統領との電話会談もあって、スー・チー氏の大統領選挙出馬を阻んでいる憲法の改正問題などで、何らかの新たな方針が出されるのか・・・とも期待されましたが、特段のサプライズはなかったようです。
****<ミャンマー>主要指導者が初会談 大統領、スーチー氏ら****
ミャンマーの首都ネピドーで10月31日、テインセイン大統領ら主要な指導者が一堂に会し、政治課題などについて意見交換した。最大野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長やミンアウンフライン国軍総司令官、シュエマン下院議長も出席した。外交筋によると、こうした包括的な会談は2011年の民政移管以降、初めてとみられる。
会談には少数民族の政治指導者を含め総勢14人が出席した。
スーチー氏はこれまで、民主化改革を巡り国軍総司令官との「直接対話」を熱望し、大統領と国会議長を含めた「4者トップ会談」を繰り返し求めてきた。今回、拡大版ながらスーチー氏に配慮を示した形となった。
ミャンマーは今年のASEAN(東南アジア諸国連合)議長国で、11月半ばにネピドーで東アジアサミットが開催される。
オバマ米大統領など主要国首脳も出席し、ミャンマーに「民主化の加速」を促すと見られている。テインセイン大統領は改革への前向きな姿勢をアピールするためにも、サミット間近のタイミングでこうした会談を設定したとみられる。
イェトゥ大統領報道官によると、会談では(1)(来年後半予定の)総選挙(2)(内戦の)和平交渉(3)社会開発--を議論し、スーチー氏が「民主化への核心」として当初求めていた「憲法改正」については、会談の冒頭、国会の審議に委ねることで全員が同意し、触れなかったという。
総選挙を受けて国会議員による大統領選挙が実施されるが、スーチー氏は次期大統領就任を熱望している。だが、憲法の「大統領資格条項」が障壁となり、憲法が改正されない限り候補にもなれない。
国会では国軍総高司令官が事実上の拒否権を握っており、スーチー氏は総司令官との対話で改正への協力を求める意向を示していた。
憲法改正は、政府と少数民族武装勢力の間で続く「全土停戦」に向けた和平協議と密接につながっている。少数民族側は「高度の自治権」を盛り込んだ憲法改正を求めている。
だが、総司令官は今年3月の演説で「一番重要なのは停戦。これは憲法改正に優先する」と述べており、国軍の機能低下につながりかねない憲法改正に応じる可能性は低い。
イエトゥ報道官は、スーチー氏が今回の会談で「国軍とは意見の相違があるが、私は国軍を愛していますと発言した」と紹介した。憲法改正に向け、総司令官への「ラブコール」を発した格好だ。
◇ ◇
憲法は大統領資格について「本人、両親、配偶者、子供とその配偶者のいずれかが外国国民であれば失格」と規定する。スーチー氏は夫(故人)と2人の息子が英国籍。
国会は国軍総司令官が指名する軍人議員が全定数の4分の1を占める。憲法改正には「国会議員の4分の3超の賛成」が必要で、事実上、総司令官が拒否権を握る。【10月31日 毎日】
********************
なお、国会の憲法改正実現委員会は10月22日、大統領の資格要件や、軍に国会の4分の1の議席を割り当てる条項など、スー・チー氏が改正を主張する条文について、「現行通りにとどめるべきだ」と提言しています。
スー・チー氏は大統領、与党党首の国会議長、国軍司令官とスーチー氏の4者会談による会議を求めていましたが、31日の会議は出席者が14名と多く、発言時間が10分に制限されるなどで、突っ込んだ話はできなかった模様です。
会議は、東アジアサミットを控えるテイン・セイン政権にとって、民主化を継続する姿勢を国内外にアピールする場という位置づけだったようです。
スー・チー氏としては、トップ交渉で流れを変えたいところですが、難しい情勢になっています。
【「政府、軍の協力なしに民主改革はできない」】
会議後の11月5日、スー・チー氏はテイン・セイン政権による民主化に向けた改革について、「ここのところ失速している」と不満を表明しています。
****スーチー氏「改革失速」 改憲、政権に交渉訴え ミャンマー****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウンサンスーチー氏は5日に開いた記者会見で、テインセイン大統領の改革が昨年以降、「失速した」と批判した。
スーチー氏の大統領選出馬を可能にする憲法改正が難しくなるなか、政権側に直接交渉に応じるよう訴えた。
最大都市ヤンゴンのNLD本部であった会見で、スーチー氏は政権による民主化に向けた改革について「前進しているとは思わない。後退しているとも思わないが、ここのところ失速している」と強調した。
ミャンマーでは来週、東アジアサミットが開かれ、オバマ米大統領が2年ぶりに同国を訪問。スーチー氏との会談も予定されるが、スーチー氏は「米政府は(ミャンマー政府の)改革を楽観し過ぎてきた。この2年間、意味ある改革がなされたかをよく考えるべきだ」と釘を刺した。
スーチー氏のいら立ちの背景には、政権側が憲法改正に消極的な姿勢をあらわにし始めた事実がある。与党や軍人議員が多数を占める国会の憲法改正実現委員会(31議員で構成)は先月報告書をとりまとめたが、「改正」を提言したのは25条項に過ぎず、文言調整がほとんどだった。
国会では来年の総選挙を見据え、比例代表制を導入しようとする動きも加速している。下院の選挙制度に関する特別委員会は先月、現行の小選挙区と比例代表を組み合わせた制度が望ましいと提言。上院でも比例代表制導入の検討が進む。
NLDは反対しているが、政権側は制度改正を急ぐ。小選挙区制では国民の人気が高いスーチー氏のNLDが大勝する可能性が高いからだとみられている。
こうした状況に対し、スーチー氏は会見でデモなどの手段ではなく、「国会の中で改憲を実現していく」と下院議員として体制内から民主化を目指す「現実路線」にこだわる姿勢を強調。「国会議員が600人以上いる中、NLDは40人余り。政府、軍の協力なしに民主改革はできない」と訴えた。
スーチー氏が呼びかけているのが、大統領、与党党首の国会議長、国軍司令官とスーチー氏の4者会談による「交渉」だ。「私たちは過去にとらわれない。いかなる組織や人物も敵だと思わない」と政権側に警戒感を捨てて対話に応じるよう求めた。
大統領は先月末、この4者に加え選挙管理委員長や他の野党党首ら14人による会議を開いたが、スーチー氏は「交渉ではなく意見交換だった。現状打開にはならない」と批判した。【11月7日 朝日】
******************
軍部が大きなウェイトを占めている現行体制に、軍部の権限を縮小する変更を求めるということで、なかなか実現は難しいところです。
【国民から支持される現政権実績】
現行体制は民主化の観点で、いろいろ不十分なところが残存してはいますが、大枠としては国民の支持を得ています。
********************
シンクタンクのミャンマー経済研究・コンサルティング(MERAC)が、調査会社のサード・アイ(Third Eye)とともに、ヤンゴンとマンダレーで行った世論調査の結果がまとまった。長く軍政下にあって、世論調査が実質的にできなかったミャンマーで、本格的に行われた初の世論調査といえる。(中略)
テイン・セイン政権のパフォーマンス(業績)については9割強の人が評価。12年4月の補欠選挙で65.6%の人が国民民主連盟(NLD)を選んだときとは、だいぶ様相が異なっている。
また、完全ではないものの、自分の本当の意見を表明できる環境に改善されたと、多くの人が回答している。(後略)【11月7日 産経ニュース】
*****************
調査結果は有料ということで公開されていませんので、詳しいことはわかりませんが、来年10月下旬か11月初旬に実施すると発表されている総選挙は、必ずしもこれまでのようにNLDの一人勝ちという訳にはいかないかもしれません。
特に、NLDが勝ってもスー・チー氏に大統領の目がない・・・・という話になると、NLDの勢いも相当にそがれるのではないでしょうか。
【軍部主導体制の問題】
ただ、現行体制の中枢を占める軍部の体質には、やはり“民主化”にそぐわない部分もあります。
****ミャンマー国軍が記者殺害=拷問の疑いも浮上****
ミャンマーで国軍がフリーのジャーナリストを拘束して殺害する事件があった。国軍が拷問を加えて死なせた疑いも浮上しており、波紋が広がっている。
このジャーナリストはパー・ジー(別名アウン・チョー・ナイン)氏。
モン州で国軍と少数民族カレン族武装勢力の戦闘を取材していたが、9月30日に国軍に身柄を拘束され、10月4日に死亡した。国軍側は、同氏は武装勢力のメンバーで、脱走を図り兵士の銃を奪おうとしたため射殺したと主張している。【11月6日 時事】
******************
****ロヒンギャ族から「脱出料」=ミャンマー治安部隊―人権団体報告****
タイ・バンコクに拠点を置く人権団体「フォーティファイ・ライツ」は7日、ミャンマーの治安部隊が、当局の迫害を逃れるため国外への脱出を図る西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャ族から現金を徴収するなどして出国させているとする報告書を発表した。
ミャンマーを脱出したロヒンギャ族からの聞き取り調査を基にまとめたもので、それによると、ロヒンギャ族のブローカーは通常、ロヒンギャ族を乗せた船を出国させる見返りに警察や海軍、陸軍に1隻当たり500~600ドル(約5万8000円~7万円)を支払う。海軍が7000ドルを要求した例や、警察がロヒンギャ族から1人15ドルを直接徴収した例もあったという。【11月7日 時事】
******************
【スー・チー氏は首相ポストで処遇?】
ミャンマーの民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領は健康問題を抱えており今期限りと見られています。
次期大統領については、スー・チー氏の資格が認められなければ、最短距離に位置しているのは、軍事政権時代はテイン・セイン氏よりも格上であった与党・連邦団結発展党(USDP)のトゥラ・シュエ・マン党首(下院議長)と以前から指摘されています。
そのシュエ・マン下院議長は、昨年夏の早い段階から「連立政権構想」に言及しています。
“その狙いについて、政府・与党関係者は「下院議長が大統領に就く代わりに、首相ポストを新設しスー・チー氏を処遇するという案がある。スー・チー氏が要求する憲法規定(外国籍をもつ親族がいる者の大統領就任禁止)の改正には、応じない上での話だ」と打ち明ける。”【2013年8月5日 産経】
当然ながら、このあたりは選挙結果次第ということでしょうが、民主化が後戻りすることなく着実に前進するということであれば、それもありかな・・・というところです。