孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク戦争時の“不品行”「ブラックウオーター事件」に有罪判決 進む“戦争のアウトソーシング化”

2014-11-16 22:11:01 | アメリカ

(ブラックウォーター発砲事件後に現場に残された車の残骸 【10月23日 AFP】)

【「いまだもって彼らを厳格に管理できていないという米政府の問題は解決していない」】
****イラクで市民14人殺害 米軍事会社「ブラックウオーター」社員に有罪****
2007年9月16日、イラク首都バグダッドにあるニサール広場で市民14人を殺害し、17人を負傷させた米民間軍事会社ブラックウオーターの社員4人に対する判決言い渡しが10月22日、米首都ワシントンの連邦地裁であった。

事件は、ブラックウオーター社員が護衛していた駐イラク米大使館員の車列が広場にさしかかったところ、武装組織の攻撃を受け、社員らが反撃した際、多くの住民に死傷者が出たものだ。

社員らの発砲を受けた乗用車に乗っていた医学生や母親は丸腰だったことなどから、ブラックウオーター側の対応に非難が集中した。

イラク戦争で、米国人による不品行の代表的事件として挙げられ、イラク国内の対米感情の悪化を決定付けたとして知られる。

 ■ブラックウオーター事件
今年6月から始まった公判で陪審員は評議に7週間以上をかけた。その結果下された判決は、社員1人が殺人罪で無期懲役、残る3人が過失致死罪で最高30年の有罪だった。

10月24日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)社説は判決について、戦地における民間軍事会社におとがめ無しは認められないことの保証を与えたとして評価した。

NYT紙は一方で、「海外での戦闘地で軍事力補足のために民間軍事会社に強く依存しており、いまだもって彼らを厳格に管理できていないという米政府の問題は解決していない」と指摘した。

元軍人を擁する民間軍事会社は、多くの場合、非戦闘任務の警護や警備を担当するが、襲撃にさらされれば応戦を強いられる。

しかし、政府をバックにした軍と異なり、民間軍事会社の場合、その行動に対する法的責任と義務は明確ではない。

 ■民間にも説明責任
それだけに、英紙ガーディアンの記事(10月22日、ウェブ版)は「社員4人に対する過失致死罪、殺人罪など32件での有罪判決は、戦闘地での説明責任をめぐる重要な転機だ」とする専門家の言葉を載せている。判決が民間軍事会社に説明責任があることを明確にしたことは画期的なのだ。

しかし、10月24日付のリベラル系米誌ニュー・リパブリック(ウェブ版)は「ブラックウオーター判決は戦争遂行のため米国がウォールストリートへの依存度を増すことを示唆している」との記事の中で、「多くの人にとって、有罪判決はイラク戦争の不名誉な一連の出来事の終結をもたらすが、現実はこれは始まりにすぎないのだ」と冷ややかな見方をする。

この記事によると、2010年の段階で、米国は戦闘地に17万5000人の軍人を派兵したが、民間軍事会社などの請負人は20万7000人と、米兵の数を大きく上回っていた。

 ■空白を埋めて急成長
民間軍事会社は1990年代に入ってから急成長した。冷戦終結後に各地で軍の規模が縮小されたことに伴い元軍人の受け皿になったのだ。

折しも、冷戦後、世界はさらに不安定化し、軍事力の必要性は高まった。しかし、米国だけでなく多くの先進国でみられるように、財政難や厭戦(えんせん)ムードなどで派兵に関する国内世論は消極的。

軍が埋められずに増える一方の空白を民間軍事会社が埋めていくことが趨勢(すうせい)になっており、今後もこの流れは続くとの見方が大勢だ。

また、米誌ニュー・リパブリックは、今や民間軍事会社は英米の企業だけでなく、「ロシアや中国の人権への配慮が乏しいが、アフリカや中東、中南米での紛争地帯で新たな機会を求めている」とも記述する。

NYT紙は「民間軍事会社は今後も米国の海外軍事活動で中心的役割を担っていくだろう。ブラックウオーターの判決で、米国は今日の戦争プロフェッショナルが厳しく管理され、その行動について説明責任を負うということを確実にするために全力を傾けなければいけない」として、論説を締めくくっている。【11月15日 産経】
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進む“戦争のアウトソーシング(外注)化”】
イスラム過激派や反政府勢力などのゲリラ的戦闘は別にして、アメリカ等の軍事大国が遂行する今日の戦争は、これまでと比べて急速に変化しつつあります。

そのひとつが、無人機やロボット兵器に見られるような、人間の手が直接には血で汚れることがないような兵器の無人化・ロボット化の流れです。
攻撃側の手は汚れなくても、攻撃を受けて流される血はこれまでと同じであり、そのギャップが問題にもなります。

もうひとつの顕著な流れが、民間軍事会社への“戦争のアウトソーシング(外注)化”です。
(参考:2007年9月21日ブログ「イラク 進む戦争の民間委託」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070921

民間軍事会社(あるいは民間警備会社)は、一昔前の“傭兵”のような実際の戦闘参加だけでなく、施設・要人・輸送部隊の警備、生活環境提供(兵士の宿舎設営、食事の提供サービス、ショッピングモールの運営)、輸送業務、兵器の整備(地元兵員の教育・訓練、兵器のメインテナンスなど)など幅広い分野をカバーしています。

その人数も、例えばイラク戦争当時、記事にもあるように補給業務を加えれば駐留米軍を上回る“社員”がイラクに展開していたといわれ、米軍等の撤退後は、外交官や開発専門家の安全を確保するためにむしろ増員さえされています。

民間軍事会社が活用される背景としては、高コストパフォーマンスと統計上の戦死者数を減らせるメリットが挙げられています。

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高コストパフォーマンス
自国で軍隊を創設し維持し、運用するには莫大な費用がかかり、使用する兵器もどんどん複雑化、高額化している。また軍事費での一番の比率を占める人件費は正に軍事費削減の一番のキーである。少ない兵力を運用する上ではいかなる時でも即座に対応できる民間軍事会社のフットワークの軽さは大変魅力である。

統計上の戦死者数を減らせる
民間軍事会社所属の社員が正式な戦死者数としてカウントされないことも、軍にとって無視できない利点である。

ベトナム戦争に代表されるように戦争を継続する上での最大の懸念は自国兵士の想定以上の被害数であり、このことは世論の戦争に対する支持率を大きく左右し、民主主義国家にとってはより重要な要素である。【ウィキペディア】
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ただ、“民間人”でありながら武器を携え、ときに戦闘行為に及ぶ彼らの活動については、その行為の責任をいかに問うべきかという問題があります。

****戦時国際法での位置づけが不明瞭****
軍と共に作戦行動を共にすることが多いにも拘わらず、社員らの戦争犯罪に関しては軍の法令を適用できず、正規兵と比べ処罰が軽すぎることが問題となっている(戦争犯罪の加害社員にとっては利点となる)。(中略)

また、活動がジュネーヴ条約に規制されないことから、社員らに戦争犯罪的な行為が『業務』として正式に命じられることもある。【ウィキペディア】
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現地では裁かれなかった民間人犯罪
こうした問題を抱える民間軍事会社の存在をクローズアップさせたのが、冒頭記事にある、2007年9月16日にイラク・バグダッドで起きた民間軍事会社最大手「ブラックウォーター」社による事件でした。

上記産経記事では、“武装組織の攻撃を受け、社員らが反撃した際”とありますが、殆ど一方的に発砲したとする説明の方が多いようです。

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それは「バグダード血の日曜日」と言うべきものだった。

9月16日、イラクの首都バグダードの混み合ったマンソール地区にあるニソール広場近くを、重武装した米国国務省の車列がブラックウォーターUSAの護衛のもと、道路の逆側を猛スピードで進んでいた。

この車列を通すためにイラク警察がかたまって通行中の車を制止していた。この混乱の中、イラク人の運転する車が一台、広場に入ってきた。警官の警告が間に合わず、運転手に聞こえなかったのではないかと言われている。

米国人ボスである国務省の高官を護衛していたブラックウォーター社の傭兵がこの車に向かって発砲し、運転手を殺した。

目撃者によると、ブラックウォーターの傭兵たちはそれから車に向かって何らかの爆弾を投げつけ、車は炎上した。けれども、車の中にいたのは、ブラックウォーター社がこの事件について公式声明で発表したように、アルカーイダ・イン・メソポタミアの兵士やマフディ軍といった「武装ゲリラ」ではなかった。

殺されたのは、若いイラク人夫婦と子供からなる家族で、その罪といえば、混乱した道路状況にパニックを起こしたことだった。目撃者によると、母と子供は車を焼き尽くした炎により溶けて一体化していたという。

人々が命からがら逃げまどう中、ニソール広場では銃声が響いた。目撃者たちは、ブラックウォーター社の護衛が無差別に発砲する恐ろしい光景だったと述べている。(中略)

「女性たちと子供たちが車から逃げ出してきて、撃たれないよう路上を這っているのを見ました」。この事件で背中を4発撃たれたイラク人弁護士ハッサン・ジャバル・サルマンはこう語る。

「けれども、それにもかかわらず発砲は続き、こうした人々の多くが殺されました。10歳くらいの少年が恐怖に駆られてミニバスから飛び出しましたが、彼は頭を打たれました。少年の母親は泣き叫び、少年のあとに飛び出しましたが、彼女も殺されました」。【「ファルージャ 2004年4月」 http://teanotwar.seesaa.net/article/60026736.html
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上記サイトによれば、“目撃者たちによると、遠くで爆発が起きたようだが、それは非常に遠くのことで脅威ではなかった”とも。

また、議会で行われた公聴会では、ブラックウォーターの傭兵は「まず発砲し、その後で質問する」という基本原則の元で訓練を受けていたことなども明らかとなっていました。

被告の一人は事件前、米同時多発テロの仕返しとして、できるだけ多くのイラク人を殺したいと知人に話していたとのことです。【10月23日 AFP】

ブラックウォーター社が起こした事件はこれが初めてではなく、過去1年間だけでブラックウォーター社が関与する死者が出た事件が少なくとも6件あったとされています。

イラク政府はその活動の在り方に抗議し、アメリカとイラク政府関係者は、9月の射殺事件が起きる数カ月前からブラックウォーター社が罪に問われていないことを議論してきたと言われています。

当然、イラク・マリキ政権はその“犯罪行為”をイラクの法廷で裁くように求めましたが、イラクでアメリカのために職務についている契約私企業要員に包括的な免責特権を与える政令を盾に、アメリカ側はイラク政府が契約私企業要員がイラク国内で犯した犯罪をイラク国内法で裁くことを阻止しました。

その後、イラク政府は米軍兵士に免責特権を付与する地位協定の延長を認めず、2011年末には米軍が完全撤退し、イラク政府の失政につけこむ形で「イスラム国」が勢力を拡大しています。

今にして思えば、2007年9月のブラックウォーター社が起こした事件の責任をイラクで問うことができなかったことが、イラク政府のアメリカへの不信感を強めることにもなり、その後の流れにも影響したのではないでしょうか。

いずれにしても、責任を問う舞台はアメリカに移り、今回の有罪判決となりました。

従来から“正規兵と比べ処罰が軽すぎる”と言われていた民間軍事会社の犯罪行為に、一定に歯止めをかける判決ではありますが、“戦争のアウトソーシング(外注)化”は今後も進み、同様な事件も多発することが想像されます。

なお、イラク同様に民間軍事会社が活動しているアフガニスタンでは、カルザイ大統領(当時)が2010年8月、国内で活動する民間警備会社に対し、2011年1月1日を期限とする4カ月以内に解散するよう求める大統領令を突然に出したことがあります。
(参考:2010年8月21日ブログ「民間警備会社 イラクでは米軍撤退後をカバー アフガンでは活動停止」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100821

もし、実際に民間軍事会社の活動が禁止されれば、米軍の戦闘遂行に多大な影響を与えますが、その後、そのような事態が起きているとの話は聞きません。

2011年11月に、民間軍事会社の活動を2012年3月までにアフガニスタン治安部隊に肩代わりさせるのは無理があるとの報告書がだされ、アフガニスタン政府側は、更に12か月延長して民間会社が活動することを許す用意がある・・・といった話があったようです。(http://spikemilrev.com/news/2011/11/4-1.html

おそらく、その他の事案同様に、ずるずるとなし崩しになったのではないでしょうか。
いまや、アメリカにとっては民間軍事会社の活動なしに戦争を行うことが困難になっています。

事件後、イラクでの事業免許を取り消されたブラックウオーターは、09年に「ジー・サービシズ(Xe Services)」、11年に「アカデミ(Academi)」と社名を変えています。
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