
(ドネツクの投票所で投票者に渡される物資のようです。ロシアからの“人道支援物資”の一部でしょうか。
写真は“flickr”より By Ryan West https://www.flickr.com/photos/126933842@N02/15668912136/in/photolist-pSBgFw-pUwTcp-pUwZ6t-oXYoaM-pUGMf8-pCnEJ1-oXVofy-pSBjhU-pCkCw6-pUQZf1-pU6BpY-pCh7JP-pUGNEH-pUR7iE-pCkAHX-pUwZw8-pCho7n-pUR7um-pCh7sB-pCkK5B-oXVusd-pTMVfZ-oXbskd-pTXM8a-pBxdb6-pTXMK2-pUQU4j-pSB8yE-pUwRbk-pUQQY1-pCkFEa-pSB6Bd-pUwPXZ-pCjuCU-oXYir8-pCheFK-pUGGQr-pSB71Q-pSBiJE-pSB5Wf-pCkwMR-pSB8nY-pBzBhS-pVupbY-pFfwYY-pX1x4b-pVjA6i-pFacwa-p3AE3d-pH249v
なお、ドネツク州マケエフカでは3日、親ロシア派の支配や食料品の入手難に抗議する住民のデモがあり、配給票を求めて親ロ派が占拠した庁舎に詰め寄ったとのことです。デモの背景には、公務員給与や年金の支給が滞っている事情があるとのこと。【11月4日 時事より】)
【親ロシア派支配地域の事実上の独立状態を固定化】
ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州では11月2日、ウクライナ・ポロシェンコ政権の制止を無視する形で、親ロシア派により地元議会の議員を選ぶ独自選挙が強行され、親ロシア派支配地域の分断・独立状態を「民意を反映した独立国政府」として固定化させる流れが懸念されています。
****ウクライナ東部2州 親露派、独自選挙を強行 欧米、支配地域の固定化懸念****
ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州で「人民共和国」を名乗る親ロシア派武装勢力は2日、「共和国の長」と地元議会の議員を選ぶ独自選挙を強行した。
ウクライナのポロシェンコ政権や欧米諸国は選挙を「違法」として認めておらず、正反対の立場をとるロシアとの対立が深まるのは必至だ。
東部の紛争がロシアの思惑通りに「凍結」され、親露派支配地域の事実上の独立状態が固定化される懸念が強まっている。
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親露派が支配しているのは東部2州(人口約650万人=紛争前)の5~6割を占める地域。
露主要メディアによると、この地域では約460の投票所が開かれ、難民が多く滞在する露南西部の3州にも在外選挙区が設けられた。インターネットによる投票も行われ、「将来、人民共和国の国民になりたいロシア人」にも参加が認められた。
選挙では、ドネツク州の親露派を率いるザハルチェンコ氏ら現行指導部とその一派の「勝利」が確実。親露派はこれを権威付けに利用し、ポロシェンコ政権に対する立場を強める狙いだと考えられている。
親露派支配地域での選挙実施は9月5日、ポロシェンコ政権と親露派などが署名した停戦合意文書に盛り込まれている。それによると、ウクライナは同地域に「特別の地位」を暫定的に付与する法律を制定し、それに基づいて地方選挙を行うとされた。
10月に発効した「特別な地位」に関する新法は12月7日の選挙実施を規定しているため、ポロシェンコ政権は今回の独自選挙を「違法」としている。
メルケル独首相とオランド仏大統領は10月31日、プーチン露大統領との電話協議で同様の見解を伝えた。日本も「国内法に基づかない形での選挙は事態を悪化させる」(原田親仁・駐露大使)との立場をとっている。
他方、ラブロフ露外相は選挙前に「わが国は当然、結果を認める」と表明。ロシアと親露派は、9月5日の停戦合意文書には非公開の「秘密合意」があり、11月2日の選挙はこれに合致していると主張している。
ロシアは2日、約1千トンの「人道支援物資」を積載した大型車両100台をドネツクとルガンスクに向けて越境させた。ウクライナ政権の同意を得ない物資搬送は5度目で、ロシアによる国境無視と親露派支援の既成事実化が着々と進んでいる形だ。【11月3日 産経】
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選挙結果については、親ロシア派の指導者及びその政党が大勝したとのことですが、投票者数などの詳細は不明です。
****<ウクライナ東部>親露派独自選挙で現役の指導者「首長」に*****
・・・・独自選挙は親露派組織「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」が実施。「首長」選はどちらも現役指導者と知名度の低い複数の対立候補との争いで、事実上の信任投票となった模様だ。
「議会」選でも現役指導者が率いる政党が大勝したという。発表では、ドネツクで100万人以上が投票し「高い投票率」だったとしているが、親露派組織を支援しない住民も一定数おり、実際の投票者数は不明だ。・・・・【11月3日 毎日】
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東部親ロシア派支配地域の事実上の分断は、ウクライナ政府側からも一定に追認する動きも出ています。
****ウクライナが東部で入国審査、親露派地域の分離 事実上の追認****
ウクライナは6日、親ロシア派武装勢力が掌握している同国東部付近で入国審査を開始すると発表した。
東部ドネツクで激しい砲撃が続き、全面衝突の再燃を懸念する声が高まる中、同国東部地域がウクライナから分離したことを事実上追認する動きだといえる。
ウクライナの国境警備当局は声明で、今後親ロシア派掌握地域との境界を越える移動者に対し旅券(パスポート)の提示を義務付けると発表。
ウクライナ人であれば移動を許可されるが、外国籍の保有者は「移動の目的を確認する審査場」へ送り、査証(ビザ)の提示を求めていくとしている。
この新規則は、衝突が続く東部を封鎖するための安全保障上の措置と説明されているが、出入国管理を行えば自国領土内に境界があることを認めることになり、親ロシア派がドネツクとルガンスクを中心とする2つの自称独立国家の樹立に成功したことを浮き彫りにすることになる。
ウクライナとロシアの本来の国境はすでに親ロシア派武装勢力とロシア軍の手に落ちており、ウクライナ政府はロシア国境への支配力を失っている。
アルセニー・ヤツェニュク首相は5日、親ロシア派が掌握している地域に関しては年金を含むあらゆる助成金や社会保障給付金の支払いを停止すると発表していた。これもウクライナ政府が東部を近い将来に再び支配下に置くことを諦めたことを示す証拠と捉えられている。【11月7日 AFP】
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【停戦合意の空洞化】
一方で、ウクライナのポロシェンコ大統領は3日、親ロシア派が停戦合意に反して独自選挙を行ったことに反発し、同派が支配する地域の3年間の「特別な地位」(高度な自治権)を定めた法律を廃止する考えを表明しました。
ポロシェンコ大統領は「新法を制定し、地方選の期日を再設定する用意がある」と表明【11月5日 時事より】し、
あくまで停戦合意と和平プロセスの枠組み維持を目指す考えを強調していますが、実質的には停戦合意の空洞化が進んでいます。
****東部、「特別な地位」廃止へ ウクライナ大統領、独自選挙に反発****
・・・・ポロシェンコ氏は3日夜のテレビ演説で、親ロシア派が2日に実施した独自選挙を「戦車と自動小銃の銃口を向けて、行われた笑劇だ」と批判した。
ウクライナ東部では、親ロシア派武装勢力が4月に政府庁舎などを占拠。政府軍との激しい戦闘で3千人を超える死者を出した末、9月5日にようやくウクライナ政府と親ロシア派が停戦に合意した。
停戦合意の柱の一つが、親ロシア派の支配地域を容認することになった一時的な自治権だった。合意に基づき、ウクライナ議会は東部の一部に3年間の「特別な地位」を与える法律を可決。ウクライナの法律に基づき、東部で12月に地方選挙を行うことも定めた。
ところが、親ロシア派は2日、支配地域で独自選挙を実施。「元首」や「議会」の選挙はウクライナの法による地方選ではなく、親ロシア派独自のルールで行われた。
ポロシェンコ氏は「政治的解決に向けたウクライナの誠意が否定された」と語り、法律自体の廃止を4日の国家安全保障防衛会議に提起する考えを表明した。
■停戦合意、空洞化進む
「特別な地位」を定めた法律では、親ロシア派の支配地域の範囲が示されず、親ロシア派は「意味がない」と、最初から反発していた。
実際には機能しないのではとの懸念はあったが、ポロシェンコ氏が法律の「廃止」にまで言及したことで、「停戦合意の空洞化」が浮き彫りになった。
停戦合意後も、実際には散発的な戦闘が続き、死者が続出。欧州安保協力機構(OSCE)によると、ウクライナ東部で停戦監視のために飛んでいた無人機が2日、親ロシア派支配地域からの対空砲で撃たれたという。無人機には命中しなかったが、米ホワイトハウスも3日、懸念を表明した。
一方で、親ロシア派支配地域では勝手にモスクワ時間が導入され、事実上の「ウクライナからの分離」が着々と進む。親ロ派は繰り返し「独立」を口にし、停戦を利用する形で当初の目的を遂げつつある。
親ロシア派の後ろ盾になっているロシアは、2日の独自選挙について、「全体として組織的に行われ、投票率も高かった」(ロシア外務省)と評価。当選した2人の指導者を住民の代表として認めるようウクライナ政府や欧州連合(EU)に求める考えだ。事実上の独立状態を獲得しつつあるドネツク、ルガンスク両州の現状を固定化する狙いがある。【11月5日 朝日】
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【ロシア「尊重するが承認はしない」】
ロシアの対応は、“独自選挙の結果について「尊重するが承認はしない」”と微妙です。
親ロシア派最高幹部とプーチン大統領が面会する予定もないとしています。
欧米からの批判をかわす狙いとも指摘されています。
****<ロシア>ウクライナ独自選挙結果「尊重するが承認しない」****
ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州での親露派武装勢力と政府軍との紛争が再び激化する兆しを見せる中で、ロシア政府は7日、親露派が2日に強行した独自選挙の結果について「尊重するが承認はしない」との姿勢を明確にした。
来週、プーチン大統領が中国・北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などに出席し、首脳会談も予定されている。このため、ロシアとしては、欧米主要国の批判をかわす狙いがありそうだ。
ラブロフ露外相は選挙前に「ロシアは結果を認める用意がある」と表明。露外務省は選挙翌日、「住民の意思表示を尊重する」と、全面的に支持する声明を発表した。
ところが、ウシャコフ露大統領補佐官は7日、「(尊重と承認は)異なる言葉だ。『尊重』という言葉が選ばれた」と地元記者団に強調し、ロシア政府の立場をトーンダウンさせた。
また、ペスコフ露大統領報道官も6日、親露派指導者とプーチン氏が面会する予定は「当面ない」と述べた。
プーチン大統領は、APEC首脳会議(10、11日)と、オーストラリア・ブリスベーンでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議(15、16日)に参加し、現地で日英仏など対露制裁実施国とも個別に首脳会談する予定。激しく対立するオバマ米大統領とも短時間会談する可能性もある。
欧米主要国は親露派の独自選挙について「停戦合意違反に当たる」と指摘して後ろ盾のロシアを非難し、新たな火種となっていた。
一方、ウクライナ安全保障国防会議報道官は7日、「ロシアから戦車32両、大砲16門、戦闘員と弾薬、レーダー装置を積んだ軍用トラック33台が越境した」と発表。逆に、親露派側は政府軍がドネツクの住宅団地などへ砲撃を続けていると非難している。【11月8日 毎日】
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【高まる前面戦闘の懸念】
こうした微妙な政治的駆け引きの一方で、実際の戦闘行為は再び再燃・拡大する懸念が高まっています。
****ウクライナ親露派、前線の戦力増強 砲撃激化で全面戦闘の恐れ****
ウクライナ東部で9日、同国からの分離独立を掲げる親ロシア派勢力の陣地へ向かう軍用車両の隊列が目撃された。親露派が掌握する東部ドネツクでは同日、激しい砲撃が起きており、全面的な戦闘再発の懸念が高まっている。
AFP記者によると、政府軍と親露派との銃撃戦が頻発するドネツクでは同日未明、市中心部近くで約2時間にわたり迫撃砲の音が鳴り響き、午後も市の周縁部で砲撃が続いた。
AFP取材班の一人は、ナンバープレートやマークのない軍用車両20台と榴弾(りゅうだん)砲14門の車列が、親露派の町マキイフカを通過して近くにあるドネツク周辺の前線に向かって行くのを目撃した。
前日の8日には、欧州安保協力機構(OSCE)が、所属不詳の戦車と兵員輸送車の複数の隊列がウクライナ東部の親露派掌握地域を移動しているのを同機構の監視員が目撃したことを受け、懸念を表明していた。
ウクライナ軍は、目撃情報に先立つ7日、戦車や重火器からなる大規模な部隊が、ロシアから親露派の掌握する国境地帯を越えてウクライナ入りしたと発表していた。
ロシアはウクライナ東部の戦闘への関与を否定しているが、親露派への政治的・人道的支援を提供している。また、親露派がこれほどまでに高度で整備も行き届いた兵器をどのようにして入手しているのかは定かではない。【11月10日 AFP】
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ロシア戦車などの越境を踏まえて、アメリカ国家安全保障会議(NSC)のミーハン報道官は9日、「親ロシア派への軍事装備の提供を停止し、ロシア軍と兵器をウクライナから撤収させる停戦合意を履行するよう求める」と、ロシアをけん制しています。
ロシア・プーチン大統領としては、ウクライナ東部の玉虫色状態が続き、ウクライナへのロシアの影響力を行使できればいい訳で、原油価格が80ドルを割り込むような低迷を続けるなかで、欧米との対立を決定的とし、さらなる制裁を招くようなことは望んでいないのではないでしょうか。
ただ、ロシアも親ロシア派を完全にコントロールしている訳でもなく、現場は“勢い”で動くこともあります。
現場が動けば、“後ろ盾”としては追認・支援せざるを得ないこともあるでしょう。
また、戦況が親ロシア派に不利になれば、ロシア国内のプーチン体制の威信にかかわる“陥落”の事態は絶対に避けるべく、欧米の批判があっても相当の支援をするでしょう。
ウクライナ政府側も、政府軍だけでなく、親ロシア派支配地域出身を中心とする民兵組織が義勇軍として活動しています。
“紛争解決にはロシアとの妥協も必要とされる現実に、人々の愛国心は行き場を失いはじめたようにも見える”【10月27日 朝日】国民世論には、ロシアとの関係への不満も高まっています。
停戦合意の空洞化から、更に全面的な戦闘再開へと進むことも懸念される状態です。
現在でもウクライナ東部からの難民は、ロシア側に100万人、ウクライナ側に40万人以上とされています。