孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  過激派のテロ頻発に対し、建国の精神でもある「寛容の精神」を強調 パプアでは?

2018-07-02 21:27:46 | 東南アジア

(政府の後押しによる和解イベントの終了後、肩を組んで融和をアピールするテロ事件の被害者(左から2人目)と元テロリストら=2月28日、ジャカルタ【7月2日 朝日】 当然ながら、話はそう簡単でもないようです・・・)

頻発するテロ、ジョコ政権は対テロ改正法でテロに屈しない姿勢を強調
インドネシアでは、2002年にバリ島で外国人ら200人以上を殺害する爆弾テロを行った「ジェマー・イスラミア」(JI)の影響を受けたグループや、イラク・シリアのイスラム国(IS)と関係を持つ組織など、イスラム過激派の活動が大きな問題となっていることは広く指摘されており、これまでも取り上げてきたところです。

インドネシアに限らず、テロは世界中のあちこちで起きていますが、そうした中にあっても強い印象を残したのが、5月13日に起きた、子供4人を含む一家6人でキリスト教の教会3カ所を爆破した自爆テロでした。

****父が娘2人に爆弾縛り付ける・・・「自爆テロ」頻発****
インドネシアで5月に入り、テロが頻発している。
 
子連れの家族がテロに及ぶ事件が相次いでいるのが特徴だ。中東などで勢いを失っているイスラム過激派組織「イスラム国」が、イスラム教徒が多い同国で存在感を示すため、今後も子供を巻き込んだテロを起こす恐れがある。
 
◆父が娘に爆弾
ジャワ島東部にあるインドネシア第2の都市、スラバヤで13日朝、キリスト教会3か所で自爆テロが発生し、50人以上が死傷した。現場では、子供4人(9〜18歳)を含む一家6人の死亡も確認され、この一家による自爆テロと断定された。
 
地元紙「コンパス」などによると、40歳代の父親のディタ・ウプリアルト容疑者は、同国の武装グループ「ジャマー・アンシャルト・ダウラ(JAD)」のスマトラ地域の指導者。

子供にインターネットの動画などでジハード(聖戦)を呼びかける「イスラム国」の思想を学ばせて洗脳し、犯行時は、自ら9歳と12歳の娘に爆弾を縛り付けたという。【5月20日 読売】
******************

上記テロと連動して、5月14日、16日にはスラバヤ市警本部やリアウ州警察本部などを狙った爆弾テロも起きています。

こうした事態にインドネシア議会では、テロ対策における軍・警察の権限・役割を拡大させる対テロ改正法が成立しています。

****インドネシア、対テロ法改正 軍や警察の権限強化****
インドネシアの国会は25日、対テロ改正法を満場一致で成立させた。テロ対策で国軍の役割を拡大するのをはじめ、テロを未然に防ぐ目的で捜査当局の権限を大幅に強化する内容だ。
 
国軍のテロ対処はこれまで軍法にだけ盛り込まれ、国外でのハイジャックや海賊対策などに限っていた。国内の治安維持は警察が主導し、軍は補助的な役割にとどまっていた。
 
今回のテロ改正法では、軍のテロ対処を「戦争と同様に作戦の一部」と明記。具体的な権限を大統領令で定めるとした。チャハヤント軍司令官は24日、報道陣に、「将来、軍が警察と別に対テロ作戦を実行する可能性がある」と述べた。
 
改正法では警察の権限も強めた。証拠がない嫌疑段階での勾留期間について、1週間から最大3週間までに拡大した。
 
改正を行った背景には、2003年に対テロ法が成立した後、過激派組織「イスラム国」(IS)が関与を表明するテロや、インドネシアからシリアへの渡航者が相次いでいる事情がある。

今月、第2の都市スラバヤなどで子連れの家族による自爆テロが相次いだ。テロの脅威の高まりに、ジョコ大統領が国会に成立を迫っていた。【5月25日 朝日】
****************

また、冒頭の「子連れ自爆テロ」などへの関与が指摘される過激派「ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)」の精神的指導者に対し死刑判決が出される形で、テロに屈しない強い姿勢が示されています。

****過激派指導者に死刑判決 インドネシア 連続テロを首謀****
インドネシアの過激派「ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)」の精神的指導者で、連続爆弾テロを首謀したなどとして反テロ法違反罪に問われた、アマン・アブドゥルラフマン被告(46)に対し、南ジャカルタ地裁は22日、求刑通り死刑判決を言い渡した。
 
アマン被告は、2016年1月に首都ジャカルタ中心部で市民や外国人ら4人が犠牲になったテロや、17年5月に東ジャカルタのバス停で警官3人が死亡した自爆テロなど、計5件のテロに関与したとして起訴されていた。(中略)
 
アマン被告は、国内に軍事訓練施設を設置しようとした罪で収監中だった15年、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)と連絡を取り合いJADを創設。

房に携帯電話などを隠し持ち、インドネシア人の若者を中東に送り込んでISの戦闘に参加させていたともいわれる。
 
JADは、今年5月に東ジャワ州のキリスト教会などで相次いだ「子連れ自爆テロ」などへの関与も指摘される。相次ぐテロへの対策として、同国国会は同月、軍や警察の権限を拡大した法案を成立させた。【6月22日 産経】
******************

多様で寛容な社会を目指すパンチャシラ(建国五原則)】
ただ、テロに対する強い姿勢だけでは、これに反発するテロ組織の“報復”を生み、暴力の連鎖に陥る危険性もあります。精神的指導者死刑に対する組織側の反発が当然に予想されます。

冒頭「子連れ自爆テロ」も、5月8日にジャカルタ南郊デポックにある国家警察機動隊本部にある拘置所でJADメンバーらを含む形で発生した暴動の鎮圧に対する報復として行われたの見方が強くあります。【5月19日 大塚智彦氏 Japan In-depth「テロにおののくインドネシア」より】

単に“力”で封じ込めるだけでなく、基本的には、自分たちの主張・宗教的価値観しか認めない偏狭な思考の誤りを国民が共有することが必要です。

***************
インドネシア各地で政党関係者、宗教関係者などによる集会が開かれ「いかなる宗教もテロを容認しない」「インドネシアは多様性を認める寛容の精神で団結する」など反テロの姿勢を相次いで表明した。

インドネシアはイスラム教以外の宗教も認める「多様性の中の統一」を国是として掲げており、お互いを認めるという「寛容の精神」で多民族、多文化、多言語、多宗教の価値観尊重で団結してきた。

高まるテロの恐怖と社会不安の中でいまその国是と寛容の精神の真髄が試されようとしている。【5月19日 大塚智彦氏 Japan In-depth「テロにおののくインドネシア」】
*****************

この「寛容の精神」は、インドネシアでは建国五原則「パンチャシラ」に示されています。

****パンチャシラ(建国五原則****
初代スカルノ大統領が1945年の独立時、国是として憲法で定めた。

特定の宗教を国教とせず、第一の原則に「唯一神の信仰」を掲げる。イスラムやカトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、仏教など各宗教の人口比が地域によって違うため、国民それぞれが信じる神を敬い、異なる宗教も尊重し合うよう求めた。ほかに人道主義や民主主義なども掲げ、多様で寛容な社会を目指す。【7月2日 朝日】
***************

ジョコ大統領は、このパンチャシラ思想を広める取り組みを行っています。

****テロ対策、悩めるインドネシア 締め付けか、寛容精神か****
相次ぐテロに対策法の強化を決めたインドネシア。2億6千万人が暮らし、SNSが普及する中、ひそかに過激化するテロリストを抑え込むのは難しい。ジョコ大統領は、国のモットーである寛容精神を浸透させようとしているが。(中略)

 ■和解めざす催しも
「ともに叫ぼう、インドネシアは一つだ」
2月末、ジャカルタの高級ホテルの宴会場。国歌「インドネシア・ラヤ」を合唱していたのは、テロ事件に関与した元受刑者124人と、被害者や遺族51人。前代未聞のイベントを政府が開催した。
 
「インドネシアはパンチャシラの国。寛容の精神がこの会合を通じて呼び覚まされることを願います」
スハルディ国家テロ対策庁長官があいさつした。
 
「パンチャシラ」とは、多様性の中の国家統一をうたう建国五原則だ。イスラム教徒が国民の9割弱を占めるが、約300の民族に推定700以上の言語、複数の宗教が混在する。一つの国にまとめるために培ってきた寛容さの推進で、過激思想を弱体化させようとの狙いだ。
 
ジョコ大統領はパンチャシラ思想を広めるため、メガワティ元大統領らを相談役とする特別チームを編成。学校でパンチャシラ教育を進める検討も始めた。
 
国立イスラム大学イスラム社会研究センターが昨秋実施した全国調査によると、「ジハードとは非イスラムに対する聖戦」「イスラムからの改宗者は殺害されるべきだ」「少数派に不寛容でも問題ない」と答える生徒・学生が、いずれも3割を超えた。

イスラムの学校教材が他宗教への配慮を欠いているうえ、イスラムの情報を得る手段ではSNSが5割超と最も高いことが原因とみられる。

同センターのジャムハリ所長は「若年層のパンチャシラへの理解が不十分のため、対策は有効」とジョコ政権を後押しする。
 
ただ民主化前のスハルト政権下では、パンチャシラを唯一の正統な思想とし、学校でも必修化して普及を徹底した。こうした経緯から、イデオロギー押しつけへの抵抗感も根強い。
 
和解イベントでは、主要な遺族団体は参加を拒否。参加した元テロリスト、フェブリ氏(37)も「昔の仲間に会えるので来た。本音を言えば、蒸し返されたくはない」と語った。
 
アジア経済研究所の川村晃一研究員は「分断が広がるなか、国を形作ったアイデンティティーを確認する意義はある。ただ、多様性とは一つの思想を押しつけないこと。パンチャシラを声高に持ち出せば、対立をあおって逆効果になりかねない」と指摘する。【7月2日 朝日】
****************

「寛容の精神」の押し付けが新たな抵抗を生む可能性も・・・なかなかバランスが難しいところです。

パプア州に見る国家権力の「不寛容」】
「寛容の精神」ということでは、テロ防止のために国民が広く尊重すべきということのほか、国家組織の側もその権力行使にあって尊重すべきものです。

インドネシアには多様な民族が暮らしていますが、かつての東ティモールでも、また、現在のパプア州でも、独立を主張する勢力・住民に対するインドネシア治安部隊の過酷な鎮圧行動が問題となっています。

相手の主張に耳を貸さず、一方的に力で抑え込もうとする“不寛容さ”が、独立志向をさらに強めることにもなります。

(パプア州の状況に関しては、1月26日ブログ「インドネシア領ニューギニア  開発の遅れ、差別的処遇が生む貧困と独立運動」参照)

****インドネシア治安部隊、パプアで超法規的殺人に関与か 報告書****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2日、インドネシアの治安部隊が2010年以降、同国最東部パプア州で超法規的殺人による少なくとも95人の殺害に関与し、実行犯の多くが拘束されていないと告発する報告書を発表した。
 
パプア州はニューギニア島の西半分に当たり、1960年代後半にインドネシアに併合されて以降、独立を求める激しい抵抗運動の舞台となっている。
 
アムネスティによると、殺害された人の中にはインドネシア政府に対する平和的な抗議活動を行っていた政治活動家やデモ参加者のほか、非政治的な集会に関わっていた住民も含まれているという。
 
また、アムネスティが2年がかりで犠牲者の家族、目撃者、人権団体、政治活動家、教会を中心とした地域コミュニティーに聞き取り調査を行った結果、1件も犯罪捜査の対象となっていないことが分かった。
 
アムネスティインドネシアのウスマン・ハミド氏は報告書において、「人権にとってパプアはインドネシアのブラックホールの一つだ。ここは治安部隊が責任を問われることなく長年にわたって女性、男性、そして子どもたちを殺害することが許されてきた地域だ」と指摘。
 
また、「治安部隊の中にあるこの刑事免責の文化は変わらなくてはならない、そしてこれまでに殺人に関与した者は責任を問われるべきだ」と強調した。
 
一方、インドネシア政府は報告書に関するコメントの要請に応じていない。
 
アムネスティによると、殺害された人のうち39人はパプア州で掲揚が禁止されている「モーニングスター」という旗を掲げる平和的な政治活動に関わっていたという。【7月2日 AFP】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする