(ブリュッセルで11日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を前に記念撮影をする各国首脳。前列左からメルケル独首相、ベルギーのミシェル首相、NATOのストルテンベルグ事務総長、トランプ米大統領、メイ英首相【7月12日 朝日】)
【「いまは脱退する必要はない」】
ほんの2年前までは、アメリカ主導のNATOからアメリカ自身が抜けるなんて、悪い冗談でしかありませんでしたが、トランプ大統領はGDPの2%以上を国防費にあてるという目標を早期に達成するよう欧州各国に求め、各国が応じなければアメリカがNATOから脱退することを示唆したと伝えられています。
守ってやっているのだから、ちゃんと用心棒代を払え。でなければ・・・という話で、わかりやすいと言えば非常にわかりやすいですが、これが“同盟国”の関係か?と言われればなんとも・・・・。用心棒は条件さえよければ、“守ってやっていた”欧州を見限って、ロシアと手を組みます。「用心棒」というのはそういうものです。
トランプ大統領は会議では、2%の約束はもちろん、“最終的に目標を4%に倍加することが望ましい”とも主張したようです。
トランプ大統領の剣幕に押し切られるように、加盟国は「2024年までに2%達成を揺るぎない責任とする」という形で、一応の“結束”は保ちましたが、およそ“信頼”とは言い難い雰囲気にもなっています。
****NATO首脳会議閉幕 米欧結束に残る不安****
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は12日、2日目の協議を行い、閉幕した。会議ではトランプ米大統領が求める加盟国の国防費増大で合意したものの、トランプ氏は12日、不満を繰り返した上、加盟国に目標達成への強い圧力をかけた。米欧の軍事同盟の結束には不安が残った。
首脳らは12日、アフガニスタン支援やウクライナとの協力の継続などに合意。初日の11日には2024年までに国防費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げる目標の達成が加盟国の「揺るぎない責任」とする共同宣言を採択した。
有事には一定規模の陸海空軍部隊が30日以内に展開できる態勢を整え、東欧が脅威を受けるロシアへの抑止力強化も決定。NATOは「不朽で強靱な欧州と北米の絆」などとうたう別の宣言も採択した。
だが、トランプ氏は12日の記者会見で「NATOの費用のおそらく90%を払ってきた」と述べ、欧州が貿易で米国から利益を得ながら安全保障も米国に頼る状況を批判。
加盟29カ国のうち大半の加盟国の国防費が目標を下回る現状に「極めて不満」と語り、最終的に目標を4%に倍加することが望ましいと主張した。
一方、首脳会議の成果には「NATOは2日前より強くなった」と評価。NATOを離脱する考えがないことも明らかにした。
12日の協議ではトランプ氏が再び国防費問題への不満を示し、改めて議論する事態になった。ロイター通信によると、トランプ氏は議論で国防費のGDP比率の低さが目立つドイツのメルケル首相に厳しい態度をとったほか、「2%目標」は来年1月までに達成されるべきだとも述べた。
ストルテンベルグ事務総長は12日の記者会見で「率直な議論で切迫感が生まれた」と評する一方、メルケル氏は「とても厳しい会議だった。さらにどれほど国防費を増やせるのか、話し合わねばらないだろう」と厳しい表情で語った。【7月12日 産経】
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2%の目標自体は、トランプ大統領が就任する前の2014年のNATO首脳会議で、10年かけて2024年までに目指すことが決まっていましたので、それを改めて確認したというところです。
日本の防衛費が1%の枠をめぐって大きな政治問題があったように、各国それぞれの事情があり、すぐに倍増とはいかない面がある問題です。
しかしトランプ大統領はまだご不満なようで、「直ぐに払え!」と吠えています。
***防衛費「直ちに2%払え」 NATO諸国に米大統領****
ベルギー首都ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したトランプ米大統領は11日、加盟国が防衛費を2024年までに国内総生産(GDP)比2%に拡大し米国の防衛負担を軽減する問題を巡り「2025年まで待たずに直ちに2%払え」とツイッターで要求し、不満をあらわにした。
首脳会議では24年までの2%の目標達成を再確認する共同宣言を発表、結束を取り繕ったが、宣言発表直後のトランプ氏のツイートで、防衛費を巡る亀裂が修復されていないことが示された。【7月12日 共同】
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と思ったら、「とても満足している」とも。
****トランプ氏「満足」国防費負担増に成果強調****
NATO(=北大西洋条約機構)の首脳会議が12日に閉幕し、トランプ大統領は「とても満足している」と述べ、国防費の負担増加に各国が応じる姿勢をみせたとして成果を強調した。
トランプ大統領は会議2日目も国防費の負担問題を持ち出し、GDP(=国内総生産)の2%以上を国防費にあてるという目標を早期に達成するよう求め、各国も努力を強化する姿勢を示した。
ロイター通信などは、各国が応じなければアメリカがNATOから脱退することを示唆したと伝えているが、トランプ大統領は「各国の対応に満足できたので、いまは脱退する必要はない」と述べた。
NATOのストルテンベルグ事務総長は「トランプ大統領の明快なメッセージは大きなインパクトを与えた」としており、ヨーロッパ側は押し切られたかたち。【7月13日 日テレNEWS24】
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「甘い顔をしていたら、つけあがっていつまでも払わない。脅してやれば直ぐに払うさ」というトランプ流ディールですが、各国にはアメリカに対する“信頼”とは逆の“疎ましさ”も。
NATOの現状については、以下のようにも。トランプ流の“威圧”で、軍事能力は改善しているとも。
****トランプ氏の威圧奏功か 変身遂げたNATO軍****
ドナルド・トランプ米大統領から防衛費を増大するよう集中砲火を浴びてきた北大西洋条約機構(NATO)は、再び勢力を拡大するロシアへの懸念も相まって、ここ数年では最も優れた軍事能力を備えるまでに至った。(中略)
トランプ大統領は公の場でも、水面下でも、加盟国は防衛支出が不足しており、欧州防衛の費用を十分に負担していないと批判してきた。先月には、欧州首脳に一連の書簡を送っている。
NATO加盟の欧州27カ国のうち、昨年、防衛費の目標を達成したのは4カ国に過ぎない。一方、トランプ大統領の下で、米国の欧州向け防衛費は倍以上に膨らんだ。
しかし、改善の兆しは顕著だ。NATO当局者によると、配備可能な兵士の数は増えており、即応能力も高まっている。
NATOは目下、他国の指揮官の下に兵士を配備して各国の統合を深めるともに、道路や橋など、軍事機器に対応できる基本インフラを強化し、演習で軍を素早く動員できることを示している。
年末までには8カ国が防衛費の目標を達成できる見込みで、16カ国以上が目標の達成に向かっている。実質ベースでは、NATO加盟の欧州諸国による昨年の防衛支出は、2010年以来の水準に高まった。
だが、それでも現在の欧州の防衛費は、実質のドルベースで10年前の水準を約7%下回っており、NATO軍の多くは緊急時に即時配備の用意が整っていないか、海外への派遣で疲弊した状況にある。
旧ソ連の脅威に対抗するために創設されたNATOは、ハイブリッド戦争、非対称戦争といったロシアが新たに掲げる戦術に対し苦戦している。
NATOにとって一段と気掛かりなのは、トランプ大統領の下で政治的な結束が弱まっているところに、軍備増強が進められていることだ。
トランプ大統領は、欧州の同盟国を米国が防衛するとのコミットメントに対し、公の場で疑問視する姿勢を示してきた。
かつてスロバキアのNATO大使を務めたトマス・バラセク氏は「トランプ大統領の登場以前よりも、NATOの団結力は低下している」とし、「抑止力の効果が下がるのは明白だ」と語る。(後略)【7発8日 WSJ】
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例えばロシアがバルト3国へ侵攻した場合(そういうことが現実問題としてあるかどうかは別にして)、NATOがどこまで対応できるのか・・・といった話はありますが、今日の本題ではないのでパスします。
【「ドイツはロシアに完全に支配されている」】
今回、特にトランプ氏のやり玉に挙がったのがドイツ。
“トランプ氏は特に、18年の防衛費が1.24%にとどまる見込みのドイツを批判。国防費問題で名指しするとともに、ロシアからドイツへの天然ガス・パイプライン計画などについて触れ、「ドイツはロシアの人質になっている」と批判。「ドイツが何十億ドルもロシアに払いながら、我々がロシアから守ってあげなければいけないというのは理解できない」とも話した。”【7月12日 朝日】
****独はロシアの「捕らわれの身」NATOトップと会談のトランプ氏が批判****
ベルギーの首都ブリュッセルで北大西洋条約機構のトップと会談に臨んだドナルド・トランプ米大統領は11日、ドイツがロシアとの「不適切」なガス取引で「捕らわれの身」になっていると発言し、ドイツを痛烈に批判した。
トランプ大統領はイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長との朝食会の冒頭、儀礼的なものにするという慣行を破り、ドイツをはじめとする加盟国が費用を負担していないと激しく非難。
トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。
続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。
トランプ大統領はさらにNATOに対し、主に不十分な費用負担の点で批判を展開。「われわれはドイツやフランス、皆を守ってきた」「この状況は数十年間にわたり続いている」と述べ、「こんなこと、こんな不適なことに我慢していくつもりはない」と話した。【7月11日 AFP】AFPBB News
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ただ、会議後は「メルケル首相とは非常に良い関係にある」とも。
****ドイツ首相と良好な関係強調=トランプ米大統領、批判から一転****
トランプ米大統領は11日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の場でメルケル独首相と会談した。トランプ氏は会談後、NATO加盟国の国防支出や貿易問題などについて話し合ったと述べ、「首相とは非常に良い関係にある」と強調した。
メルケル氏も「米国とは良いパートナー同士」であり、今後もトランプ氏とのやりとりを楽しみにしていると応じた。
トランプ氏はNATO首脳会議開幕前、ドイツのロシア産天然ガス輸入に言及し、「ロシアの捕虜」になっていると批判。メルケル氏は、現在のドイツは独立国家だと反論していた。
トランプ氏はマクロン仏大統領とも会談し、貿易やNATOに関する問題について意見を交わした。マクロン氏との会談では周囲の笑いを誘うなど、メルケル氏の時より和やかな雰囲気で行われた。【7月12日 時事】
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まあ、トランプ大統領がメルケル首相を好ましくは思っていないのは事実でしょう。
ロシア・ドイツが進める天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」については、アメリカ国務省は制裁対象となる可能性を警告しています。
****ノルドストリーム2へ投資する欧州企業、制裁の可能性=米国務省****
7月11日、米国務省は、ロシアとドイツの間で建設が計画されている天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」へ投資する西側企業に対し、制裁対象となる可能性があると警告した。(中略)
「(パイプラインは)欧州全般のエネルギー安全保障および安定性を弱体化させる。ロシアにとって、欧州各国とりわけウクライナを政治的に支配するための新たな手段となる。ロシアは、このプロジェクトが欧州を分裂させることを理解しており、その有利な立場を利用している」と述べた。
ノルドストリーム2に投資している欧州企業はドイツの化学大手BASF(BASFn.DE)傘下のウィンターシャル、ウニパー(UN01.DE)、オーストラリアのOMV(OMVV.VI)、英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェル(RDSa.L)、フランスのエンジー(ENGIE.PA)の5社。【7月12日 ロイター】
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ロシアは、米国産液化天然ガス(LNG)を押し売りしようとするアメリカのキャンペーンの一環だと批判しています。【7月13日 ロイターより】
【「(辞任したジョンソン前外相が)偉大な首相になるだろう」】
トランプ大統領は舞台をイギリスに移しても、言いたい放題は変わりません。
イギリス・メイ政権は周知のようにEU離脱をめぐって揺れており、EUからの独立を重視する従来の「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」路線を軌道修正し、協調を優先した「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」の傾向を明確にしたことに、離脱強硬派のデービス離脱担当相、ボリス・ジョンソン外相が辞任する騒ぎになっています。
その内容については別機会に。
このメイ首相の方針をトランプ大統領が批判。
****穏健な英EU離脱案、米英貿易協定の機会つぶす─トランプ氏=英紙****
トランプ米大統領は、メイ英首相が先週、欧州連合(EU)からの穏健な離脱案を示したことについて、米英が貿易協定を結ぶ機会を「恐らくつぶす」との認識を示した。英紙サンがインタビューの抜粋として12日遅くに伝えた。
報道によると、トランプ氏は「英国がそうした(穏健な)離脱で合意すれば、われわれは英国ではなくEUとやり取りすることになるため、恐らく取引をだめにするだろう」と述べた。
トランプ氏はまた、離脱方法に関する自身の助言をメイ首相が無視したと主張。「私ならかなり異なる形でやっただろう」とし、「メイ氏にどうすべきか伝えたが、聞き入れられなかった」と述べた。【7月13日 ロイター】
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イギリスにとって、EU離脱後のアメリカとの「特別な関係」は命綱ともなりますが、その米大統領からの率直な批判にメイ首相も困惑しているところでしょう。
****英首相に新たな打撃=米大統領、EU離脱で警告****
トランプ米大統領がメイ英政権の欧州連合(EU)離脱方針に対し、「(それでは)米国との貿易協定は実現しないだろう」と警告を発した。
米国との自由貿易協定(FTA)締結は、離脱後の英国の最優先課題の一つ。EUとの協調を優先する「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」路線にかじを切り、重要閣僚の辞任を招いた首相にとって、トランプ氏の発言は新たな打撃となりそうだ。
トランプ氏は英大衆紙サンとの13日までのインタビューで「EUは貿易で米国を公平に扱っていない」と批判。英国がEUと緊密に連携するなら、米国は「英国をEUとして扱う」と述べた。米国とEUは2013年にFTA交渉を始めたが、話し合いは暗礁に乗り上げている。
メイ政権は、農業製品の安全基準などに関してEUが決めたルールを離脱後も順守する考え。米国が肥育ホルモン剤を使用した牛肉や、塩素系薬品で洗浄・消毒した鶏肉を英国に売り込もうとしても、EUが規制を緩和しない限り、英国に譲歩の余地はない。
こうした方針が6日に決まった際、EUからの独立を重視する英与党・保守党のEU懐疑派は「米国とのFTAがほぼ不可能になった」と首相を批判した。「農産品は米国との貿易協定の中心を占める公算が大きい」(英BBC放送)からだ。
トランプ氏は首相に抗議して辞任したジョンソン前外相が「偉大な首相になるだろう」とも指摘。代表的な懐疑派の前外相は次期宰相の座を虎視眈々(たんたん)と狙っており、与党内の「内戦」(英メディア)をたきつける形となっている。【7月13日 時事】
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今この時期に、「(辞任したジョンソン前外相が)偉大な首相になるだろう」というのも、随分とあけすけな内政干渉です。
ゆく先々で混乱と困惑をまき起こすトランプ大統領です。
トランプ大統領は外遊前に“「NATOがある。次の英国は、ちょっとした混乱状態だ。そしてプーチン氏だ」と話し、「率直に言って」この中でプーチン氏が一番やりやすいかもしれないと述べた。”【7月11日 CNN】とのことですが、メルケル首相やメイ首相にとっても、「厄介な相手は、プーチン氏ではなくトランプ大統領だ」という話にもなるでしょう。
トランプ大統領は基本的な価値観みたいなところで、メルケル首相などよりプーチン大統領に共感するものがあるのでしょう。
トランプ流の強引なディールで短期的には一定の成果は上がったにしても、長期的には、より重要な信頼関係が崩壊していくいようにも思えます。