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(EU首脳会議【6月29日 Pars Today】)
【ドイツ連立崩壊はひとまず回避したものの、欧州諸国が難民の受け入れを次々と拒否するドミノ現象が起きる可能性も】
ブリュッセルで6月28日から開かれていたEU首脳会議での議論は10時間近くにおよび、29日未明まで続きました。
マルタのムスカット首相はこの首脳会議について「難民・移民政策を巡る合意の承認に9時間近くかかったのに対し、英国のEU離脱を巡る文書は1分もかからなかった」とツイッターに投稿したとか。
EU離脱をめぐって、なるべく犠牲を伴わない離脱という“ないものねだり”で煮え切らないイギリスの対応への当てつけですが、EUにとって難民問題が非常に難しい問題となっていることを示すものでもあります。
難民への不安・不満が、欧州で拡散・台頭する極右・ポピュリズムの土壌となっていることに加え、これまでEUの難民対応をリードしてきたドイツ・メルケル政権が、連立与党内の難民問題をめぐる対立で追い詰められた状態になっていることも混乱を大きくしています。
周知のように、この首脳会議での合意を受けてメルケル首相はゼーホーファー内相と会談、難民抑制に舵を切ることで“とりあえず”は連立崩壊という最悪事態は回避できた・・・とされています。
****独、難民送還強化へ 国境に収容施設 連立を維持****
難民への対応をめぐって対立していたドイツのメルケル首相とゼーホーファー内相は2日、国境での管理強化で合意した。
内相が率いるキリスト教社会同盟(CSU)との連立政権の崩壊を回避するため、難民の受け入れに寛容だったメルケル氏が方針転換を迫られた。だが合意の実現には課題も多く、対立再燃の懸念は残っている。
「合意内容は私の主張に沿ったものだ。これで内相にとどまることが許されるだろう」。ゼーホーファー氏は2日夜、合意後の記者会見でこう語り、内相の辞意を撤回した。
争点だったのは、ギリシャやイタリアなど地中海沿岸の国々で難民申請した人々がドイツに入国しようとした際の対応だ。ゼーホーファー氏は入国拒否を主張。これに対してメルケル氏は「欧州全体で解決するべき問題だ」とし、これらの国々と協定を結んだ上での送還を訴えていた。
両者の合意は(1)国境付近に収容施設を設け、協定を結んだ国々への送還手続きを加速させる(2)それ以外の国で難民申請した人々は、隣国のオーストリアと合意を結んだ上で、ドイツへの入国を拒否する――などとした。双方の顔を立てた内容だ。
ただ合意が実現できるかは見通せない。
連立政権の一角をなす社会民主党(SPD)のナーレス党首は2日夜、「合意には多くの問題がある」とコメントした。
合意で想定されているのは、送還手続きを終えるまで難民を施設にとどめる案だ。SPDはこれまで人権上の問題から、難民収容施設の設置に反対してきた。SPDが合意を受け入れなければ実現は難しい。
オーストリアの合意が得られるかどうかも不透明だ。現段階でドイツからの送還に合意しているのは、スペインとギリシャのみ。
多くの難民が経由してくるイタリアは、難民の受け入れ自体を拒否している。結果的にオーストリアで多くの難民が滞留しかねない。
オーストリアのクルツ首相は昨年10月の総選挙で、「反移民・難民」を掲げて勝利した。同国の政権は3日、「オーストリアと国民への不利益を回避するため、交渉しなければならない」との声明を出し、イタリアとの国境の管理を強化することも検討していることを明らかにした。
2015年の難民危機の際には、受け入れの姿勢を示すとともに、欧州全体での負担を呼びかけたメルケル氏。だが先月末の欧州連合(EU)首脳会議では、CSUの圧力を受けて、いかに他国に難民を押しつけるかに傾注せざるをえなかった。
ドイツ国境での入国拒否が増えれば、「負のドミノ効果を生む」(メルケル氏)事態にもなりかねない。【7月4日 朝日】
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ただ、ドイツ国内は(とりあえず)これで収まっても、EU内が収まるのかは不透明です。
ドイツが難民受け入れを抑制する方向で動けば、欧州諸国が移民・難民の受け入れを次々と拒否するドミノ現象がひろまる可能性があります。
****ドイツの移民政策転換、国内外から批判 EU諸国に連鎖の可能性****
ドイツのアンゲラ・メルケル首相が、脆弱(ぜいじゃく)な連立政権を救うための窮地の策として、移民の国内流入抑制に同意したことを受け、欧州連合加盟各国は3日、相次いで反発の声を上げた。ドイツの方針転換により、欧州諸国が難民の受け入れを次々と拒否するドミノ現象が起きる可能性がある。(中略)
オーストリアは、南側の対イタリアおよびスロベニア国境を「守る措置を講じる構えがある」との方針を表明。
イタリアは、「解決につながらない誤った態度」を選んだとしてドイツを批判するとともに、EU全体で連携を図り移民の流入に歯止めをかけるとした先週の合意に逆行する恐れがあると警鐘を鳴らした。
EU加盟国に課された移民受け入れの割り当てを真っ向から拒否してきたチェコのアンドレイ・バビシュ首相は、これを好機とばかりに、移民の流入が続くイタリアやギリシャは国境を閉鎖すべきだと呼び掛けた。(後略)【7月4日 AFP】
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【各国の利害対立によって、不透明・玉虫色の首脳会談合意】
また、メルケル首相がゼーホーファー内相との間で合意した、移民・難民の送還手続きを加速させることについても、メルケル首相はEU首脳会議の後、スペインおよびギリシャと難民認定希望者の送還に関する個別合意に至ったと発表していますが、逆に言えば、その他の国との合意は不透明です。
“提案文書を見たドイツ連立政権筋によると、メルケル首相はフランスのほか、メルケル首相の移民・難民政策を厳しく批判しているチェコ、ハンガリー、ポーランドといった中欧の国々を含む計14か国と同様の合意を結んだとされるが、移民・難民の受け入れに猛反対しているハンガリーとチェコは、そんな合意は存在しないと強く反発した。”【7月1日 AFP】
更に、6月末のEU首脳会議での合意では、“(北アフリカを念頭に)域外に入域審査施設をつくり、真に保護が必要な人のみEUに受け入れる方策について早急に検討する”“共同の難民収容施設をEU内に置く”ということになっていますが、この合意自体が不透明で玉虫色のものです。
****難民対策、「玉虫色」の合意 収容施設、共同設置へ EUサミット****
欧州連合(EU)の首脳会議(サミット)は29日未明、難民収容施設の共同設置などで何とか合意にこぎつけた。
だが各国が都合よく解釈できる「玉虫色」の内容で、受け入れ分担制度の創設など、難民対策の抜本的な改革は先送りされた。各国の意見対立は根深い。
29日早朝。夜通しの会議を終えたマクロン仏大統領は「欧州の協調が勝利した」と記者団に語った。難民問題で何とか合意を見いだしたことへの自賛だったが、実際には各国の主張は折り合わなかった。
焦点となったのは、北アフリカのリビア沖から海を渡って南欧へ向かう移民・難民の「地中海ルート」だ。こうした人の流れをどう「コントロール」し、受け入れといった「負担」をどう分かち合うかが課題だった。
合意文書では、共同の難民収容施設をEU内に置くことを決めた。EUが財政支援して到着国の負担を減らすと同時に、人の流れを施設に集約することで、フランスやドイツといった経済大国に向かうのを避ける狙いだ。
ただ肝心の置き場所は「各国の判断」というあいまいな表現になった。
交渉関係者によると、リビアの対岸であるイタリアが、自国に負担が偏ることを懸念。施設の設置義務につながる文言を削除するよう要求したという。
難民の受け入れ先も「各国の判断」とのみ記され、具体的な分担策は先送りになった。ハンガリーなど受け入れに否定的な国々が、「分担」につながる言葉を避けるよう求めたという。
欧州の連帯」を訴えたフランスでさえ、施設を自国に置くことは「アフリカから遠いので意味がない」としてイタリアに置くよう主張。
各国が負担を押しつけあい、どの国も「義務」を避けた。地中海を渡った難民申請者がどこで審査され、どこで受け入れられるのかは、見えないままだ。(後略)【6月30日 朝日】
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EU域外(最有力候補は北アフリカ)への「入域管理施設」の設置についても、場所的には最も適しているリビアの実力者ハフタル氏が非協力的な姿勢を明らかにしています。
****リビア東部の民兵組織、移民・難民阻止名目の外国軍駐留を拒否****
欧州連合首脳会談で地中海を渡って欧州に向かう移民・難民を阻止する合意が結ばれたことを受けて、リビアの元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル氏が率いる民兵組織「リビア国民軍」は6月29日、移民・難民を阻止する名目でリビア南部に外国軍を駐留させることは一切認めないと発表した。
欧州首脳は、移民・難民が人身売買業者の船でEUに向かうのを阻止するためEU域外――最有力候補は北アフリカ――への「入域管理施設」の設置を検討することで合意した。
リビアは、長年にわたって独裁体制を敷いてきたムアマル・カダフィ大佐が2011年に失脚し殺害された後の混乱に乗じた違法入国援助業者らによって、移民・難民の一大拠点と化している。(後略)【7月1日 AFP】
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統一政府が機能せず、人身売買組織が跋扈するリビアにそんな施設をつくって、移民・難民の人権が保障されるのか・・・という懸念もあります。
結局のところ、EU各国の利害が対立するなかで、何が合意され、実際にどういうことが実現するのか・・・よくわかりません。
また、難民問題の紛糾を受けて、抜本的なEU改革に取り組む余力はなく、“共通財務相の新設や共通予算の具体化といった「改革の本丸」は先送りされた。域内の経済格差が深刻化する中、改革の遅れは欧州の結束をさらに弱めることになる。”【6月29日 毎日】とも。
【防衛負担で欧州に圧録をかけるトランプ大統領 プーチン氏のロシアへの対応にも疑念】
こうした難民問題をめぐる混迷に加えて、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議へ本来は最大の同盟国であるはずのアメリカからトランプ大統領を迎えるにあたり、予測不能なトランプ大統領の言動に欧州各国は神経を尖らせています。
トランプ大統領は、「米国は大変しばしば、世界の貯金箱だと思われている。それは止めなければならない」と語り、軍事支出を大幅に拡大するよう一部NATO加盟国に圧力をかけています。すでに各国あてに書簡も送っているようです。
****NATO首脳会議目前、トランプ氏を警戒する欧州勢****
米大統領は欧州諸国首脳に貢献が不十分と批判する書簡送付
来週の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を控え、米国と欧州の同盟諸国の当局者らは、NATO加盟29カ国がテロと戦い、ロシアに対抗し、国防支出拡大に向け緊密に協力している姿を示すことで、首脳会議を団結の象徴として演出しようと懸命に準備している。
しかしドナルド・トランプ米大統領は既に協調ムードに水を差し、会議のハードルを上げている。欧州諸国の首脳らに対し、十分な負担をしていないことを批判する一連の無遠慮な書簡を送ったのだ。
トランプ大統領は、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相宛ての6月19日付の書簡で、「内政面のプレッシャーがあることは理解している」とした上で、「しかし、一部の国は集団安全保障上の分担した責務を果たしておらず、その理由が正当であると米国民に説明することがますます難しくなる」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が書簡の内容を確認した。
一部欧州諸国の首脳はトランプ大統領の圧力攻勢にいら立ちを示しており、首脳会議の準備段階で対立が生じかねない状況だ。
ベルギーのシャルル・ミシェル首相は「この類いの書簡にはあまり好印象を持てない」と述べている。ベルギーは国内総生産(GDP)比での国防費の規模はNATO加盟国で最小の部類に入るが、将来の国防費拡大を約束している。
欧州諸国はトランプ大統領の書簡を受け取る前から、NATO首脳会議が先月の主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)と同様の結果になるのではと懸念していた。
G7サミットではトランプ氏は他国を貿易問題で非難し、その数日後、長年の敵であった北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と友好的に会談した。
ブリュッセルでのNATO首脳会議は7月11、12の両日に開かれる。16日にはトランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談がヘルシンキで予定されている。
プーチン氏はトランプ氏が熱心にかかわろうとしている指導者だが、NATOにとっては主要な敵対相手であり、長年にわたり西側の団結を乱す材料を模索してきた人物でもある。
ある欧州の高官は「トランプ大統領は一貫してNATOを批判してきた。彼はEUが創設されたのは米国を利用するためだったと信じており、NATOがNAFTA(北米自由貿易協定)と同じくらい悪いものだと考えている」と話した。「NATOが活気に満ちた首脳会議を開いてはいけない理由はない。何が起こるかは本当に分からない」
米国が同盟諸国の国防支出に不満を持つのは、今に始まったことではない。(中略)
トランプ氏は大統領選挙期間中、国防支出の義務を果たしたNATO加盟国のみを守る可能性を示唆した。その後17年7月のワルシャワ訪問時には、NATOの条約第5条を支持すると述べて同盟国の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。第5条は、加盟国が攻撃された際に互いに防衛し合うことを規定している。(中略)
しかし、トランプ氏は首脳会議を同盟国にさらなる行動を迫る機会とみており、欧州当局者は同氏の書簡は事実上の脅迫だと考えている。加盟国がNATO防衛のために拠出する資金を増やさないのであれば、米国は貢献度を減らすかもしれないというわけだ。(後略)【7月4日 WSJ】
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G7でロシアの復帰を突然言い出したり、クリミア問題についての報道陣の問いかけに「成り行きを見なくてはならない」と述べ、あいまいな態度を見せるトランプ大統領が、プーチン大統領との会談を控えて、ロシアとの関係について何を言い出すかも不安材料です。
“NATOを「NAFTA並みに悪い」と批判し、アメリカの外交政策の大きな成果の1つであるEU(欧州連合)を指して「アメリカを食い物にするために設立された」と言い放った”【7月4日 Newsweek】トランプ大統領と欧州の関係は齟齬をきたしており、“欧州各国に対する防衛費増額要求とNATOに対する攻撃は、トランプの意図とは反対の結果を生み出している。例えば、ドイツではトランプに対する不信からトランプが主張する防衛費の増額を支持する政治家はいなくなった、と匿名の情報源は言う。”【同上】とも。
「NATO首脳会議で結束した力強いメッセージが出る可能性がある。もし会議が分裂すれば、プーチン氏がそこにチャンスを見いだすだろう」(ある加盟国の当局者)【7月4日 WSJ】ということで、欧州のアメリカの結束をアピールできるのか、プーチン大統領との関係強化に向けた踏み台とされるのか・・・注目されます。