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(韓国の首都ソウルで行われた済州島に到着しているイエメン難民の受け入れに反対する反移民デモ(2018年6月30日撮影)。【7月14日 AFP】)
【“ホルムズ海峡封鎖”をめぐるイラン・米大統領の口論】
イランとトランプ米大統領の対立は周知のところです。
“トランプ政権は5月、オバマ前政権が主導して米英仏独中ロの6カ国がイランと結んだ核合意から離脱し、緩和していた経済制裁復活を表明した。さらに6月、猶予期間の11月4日までに、日本や欧州など各国に対し、イラン産原油の輸入を完全に停止するよう求めた。イランの最大の収入源である原油を市場から排除して追い込み、米国に優位な新たな核合意を実現させる狙いだ。”【7月23日 朝日】
イランが国際関係が緊張した際の切り札としてちらつかせるのが“ホルムズ海峡封鎖”であり、実際、イラン・イラク戦争時にはタンカー攻撃が、湾岸戦争では機雷敷設による海峡封鎖が行われました。
今回もイラン革命防衛隊高官が7月4日に言及し、米海軍は航海の自由と通商の自由な流れを確実に確保する用意ができているとの立場を示して応戦していました。
この“ホルムズ海峡封鎖”をめぐるやりとりは、さらに政治的レベルをあげて、両国大統領、イラン最高指導者間の非難応酬ともなっています。
****イラン大統領、ホルムズ海峡封鎖を示唆 原油禁輸で米などけん制****
イランのロウハニ大統領は22日、トランプ米政権がイラン産原油の輸入停止を各国に呼び掛けていることを受け、禁輸が実行された場合にホルムズ海峡を封鎖する可能性を示唆した。イラン学生通信が伝えた。
ロウハニ氏は、イランは湾岸諸国やホルムズ海峡において支配的立場にあると強調。「政治の基本というものを理解しているなら、イランの原油輸出停止など口にしないはずだ。イランはこれまでずっと地域の海路の安全を保障している」と語った。
イランの最高指導者ハメネイ師は21日、原油輸出が不可能になれば、湾岸諸国からの原油輸出阻止に踏み切る可能性を示唆したロウハニ氏への支持を表明した。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間にある海峡で、原油輸送の大動脈。イランは過去にも米国の敵対的行動に対抗して、ホルムズ海峡の封鎖を警告したことがある。【7月23日 ロイター】
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****トランプ氏「米国を二度と脅すな」 イラン大統領に警告****
トランプ米大統領は22日夜、ツイッターでイランのロハニ大統領に対し、「米国を二度と脅してはならない」と警告した。
トランプ政権は日本や欧州などにイラン産原油の全面輸入禁止を求めているが、ロハニ師が対抗措置としてホルムズ海峡の封鎖をほのめかしたことに反発した。両国間の緊張が高まる恐れがある。
トランプ氏は米東部時間の22日午後11時半前、「イランのロハニ大統領へ」として投稿。すべて大文字で「米国を二度と脅してはならない。さもないと、過去の歴史でもほとんど無いような報いを受けることになる。我々はもはや、(イランの)暴力や死という狂った言葉を我慢するような国ではない。気をつけろ!」と激しい言葉で非難した。(後略)【7月23日 朝日】
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イラン大統領や最高指導者が“ホルムズ海峡封鎖”に言及するのは、それだけイラン経済、ひいてはロウハニ政権が厳しい状況にあることのあらわれでしょう。
“5月にトランプ政権が経済制裁の復活を表明して以来、欧州企業などが次々とイランから撤退する可能性を示唆。対外融和路線で外資を呼び込んで経済成長をめざしてきた保守穏健派のロハニ師は国内で窮地に立たされている。”【同上】
【紅海側のバブエルマンデブ海峡で、サウジタンカーへのイエメン・フーシ派の攻撃】
一方、ホルムズ海峡より先に石油運搬タンカーへの攻撃が表面化したのが、ホルムズ海峡とはアラビア半島を挟んで反対側の・紅海側のバブエルマンデブ海峡。
7月25日、イエメン反政府勢力・フーシ派によるサウジアラビア石油タンカーへの攻撃が行われたもようです。
****イエメン武装組織、紅海で石油タンカー2隻攻撃 サウジが輸送停止措置****
紅海で25日、航行中のサウジアラビアの石油タンカー2隻がイエメンの反政府武装組織「フーシ派」の攻撃を受けた。けが人や原油の流出はなかったとされるが、サウジ政府は紅海とインド洋を結ぶ主要航路を通過するすべての原油輸送を一時的に停止した。
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコによると、攻撃されたのは同国の海運会社バリが運営する積載能力200万バレルの輸送船2隻。うち1隻がわずかに損傷したという。「負傷者も原油の流出も報告されていない」としている。
これに先立ち、サウジ主導の連合軍はサウジの石油タンカー1隻がフーシ派の「テロ攻撃」を受けたと発表していた。また、親フーシ派のテレビ局は、フーシ派がサウジの軍艦1隻を標的にしたとも報じている。
サウジのハリド・ファリハエネルギー産業鉱物資源相は国営メディアを通じて声明を出し、紅海への南側の入り口に当たるバブエルマンデブ海峡を通過するすべての石油類の積荷の輸送を「安全が確保されるまで」一時停止したと明らかにした。同海峡は世界で最も通行量の多い海上輸送ルートの一つとなっている。
連合軍はこれまでも、紅海に面するイエメン西部の港湾都市ホデイダを押さえるフーシ派が、国際海運の大動脈である紅海を通る船舶の脅威になっていると繰り返し警鐘を鳴らしてきた。
ホデイダをめぐっては、連合軍の支援を受けるイエメンの親政府派が、国連が仲介する和平協議にチャンスを与えるとして攻撃を中断しているが、アラブ首長国連邦はこうした取り組みが不発に終わればホデイダを「解放」すると警告している。【7月26日 AFP】
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紅海側バブエルマンデブ海峡はイエメンに面し、幅は約30キロ、石油・液化天然ガス輸送においてはホルムズ海峡同様に重要な動脈です。
“長期化すれば原油価格に影響が出る可能性がある。(中略)船舶関係者はロイターに、アジア方面への船舶に大きな影響はないが、欧州や米国に向かう船の輸送費が上がる可能性があるとしている”【7月27日 産経】
かつて、ホルムズ海峡封鎖が話題になったとき、サウジラビアの原油をパイプラインで紅海側に運んで、紅海側から輸送することも検討されたかと思います。
なお、今回のタンカー攻撃がどういう形で行われたのか(陸上からか海上からか、どの地点で攻撃されたのかなど)、その詳細は報じられていません。
ましてや、背景にフーシ派を支援するイランの関与があるのかどうかも定かではありませんが、こうしたイエメンでの重要戦略にはイランが関与しているのでは・・・との推測も多いようです。
イランにとって、ホルムズ海峡だけでなく、もうひとつのルート・バブエルマンデブ海峡も実質的に封鎖できることを示すことで、アメリカへの大きな圧力をかけることができるのか・・・、あるいは、“虎の尾を踏む”ことになるのか・・・・。(なお、ロウハニ大統領はアメリカへの警告で「ライオンのしっぽで遊んではいけない。後悔することになる」と語っていました。似たような表現があるようです。)
サウジアラビア等のアラブ連合空軍は27日早朝からフージ派が支配するイエメン・ホデイダ県の各所に対して、猛烈な空爆を加えているとのことで、上記タンカー攻撃への報復措置と思われます。
もっとも、イエメン情勢はどうなっているのか、よくわかりません。
焦点となっていた港湾都市ホデイダ攻防についても、“ホデイダをめぐっては、連合軍の支援を受けるイエメンの親政府派が、国連が仲介する和平協議にチャンスを与えるとして攻撃を中断している”【前出AFP】という状況が続いていますが、どうなったのか?上記のサウジ等の空爆で、戦闘再開となったのか・・・よく知りません。
【思いがけずイエメン難民が大挙流入した韓国の戸惑い】
「世界最悪の人道危機」とも言われるイエメンの内戦は、資源も乏しいアラブ最貧国の争いということで、国際的にも関心が薄く「忘れられた戦争」とも言われ、イラン・サウジアラビアの代理戦争という側面でかろうじて話題性を保っているような状況で、日本など東アジア世界からすると、遠いところの戦争というイメージでもありました。
しかし、そのイエメン内戦の影響が思わぬ形で及んでいるのがお隣韓国。
****イエメン難民の大挙流入に戸惑う韓国・済州島 人道危機にも受け入れ拒否感強く***
韓国南部の済州島(チェジュド)に今年、内戦が続くイエメンを逃れ約560人の人々が自由と平和を求めてやってきた。
30日以内の滞在なら同島では査証不要(ノービザ)という制度を利用したもので、ほぼ全員が韓国政府による難民認定を切望している。
だが、韓国ではイエメン人受け入れへの拒否感は強い。韓国政府はイエメン人へのノービザを急遽(きゅうきょ)、廃止し新たな流入を食い止めたが、問題はくすぶり続けている。
「帰れない…」
済州市内のバスターミナル近くで話し込んでいたイエメン人男性4人が取材に応じてくれた。サレム・アブダールさん(30)は昨年イエメンを脱出。ソマリア、スーダン、エジプト、マレーシアを経て、今年5月初旬、済州島にたどり着いた。「軍の包囲を越えないと脱出できなかった。イエメンでは10代のいとこが殺された」という。
「6カ月は済州島にいられます」とアブダールさんは先月発給された外国人登録証を見せてくれた。筆者も持っているものだが、在留資格の項目には「その他」と記されていた。
「済州島の人々は親切だけど、僕らは歓迎されていない」。5月中旬に来たクセム・ムアイヤドさん(30)は、この2カ月間で自分たちを取り巻く現実を痛感した。
一方で「イエメンではコレラが大発生して久しいが、薬もない。帰ろうにも帰れない」とため息をついた。
大半が難民申請
流入は今年突然、急増した。イエメンからノービザで入国できるマレーシア経由での韓国入りが大半で、昨年12月にマレーシアからの直行便が開設されたことで拍車がかかった。済州出入国外国人庁によると、今年ノービザで済州島に来たイエメン人は561人。500人余りが男性という。
「前例がなく大変でした」。同庁の朴峻●(パク・ジュンヒョン)行政支援チーム長は数カ月前を振り返った。庁舎前には難民認定を申請するイエメン人が集まり、イスラム教の祈りをささげたりもした。
韓国政府は6月1日、済州島に続々と来るイエメン人をノービザの対象から除外。また、済州島からの韓国本土への渡航も禁止した。事実上の流入食い止めと島への封じ込めだ。
しかし、今年やってきた者のうち、アブダールさんやムアイヤドさんを含む549人がすでに難民認定を申請している。認定されない場合、異議申し立てや行政訴訟が認められる。
ただ、韓国では過去、全申請者のうち難民認定されたのは4%にすぎない。韓国法務省では6~8カ月かかっている審査を2~3カ月に短縮するため同庁の審査官や通訳を増員した。
済州市中心部にある済州難民センターの周辺では、イエメン人を頻繁に見かける。済州島に来たものの金がなくては生活できない。同センターでは一時的な就職相談にのっている。
バッサム・アロタブさん(30)はイエメンに妻と9歳の息子を残し、いとこ(22)とともに今年、済州島に来た。イエメンでは運転手や雑貨商をやって生計を立てていたという。「稼がないと生きていけない。できることは何でもやる」と思いは切実だ。
紹介される仕事は漁業や農業が多い。だが、慣れない海の仕事での船酔いや習慣の違いにより、仕事が続かない者も多いようだ。
沈黙する住民
「世界最悪の人道危機」と呼ばれるイエメン内戦に対し、韓国国内の認識は極めて低い。市内の観光案内所で「最近イエメン人が多いそうですが」と聞くと、「イエメン人なんてこの辺にはいませんよ!」と嫌な顔をされた。数十メートル離れた道の向こうにはイエメン人の男性数人がいる。
「人道・人権問題であるのは分かるが、問題は彼らの本質だ」と済州市のタクシー運転手(59)は言う。「生活習慣が異なる彼らにここでの生活は幸せなのでしょうか」とも。
同情しつつも、済州島では人々の多くがイエメン人二分問題について自ら語ろうとしない。「職が奪われる」といった反発に加え、特に多いのがイスラム教徒への警戒心だ。
世論調査では韓国民の約半数がイエメン難民受け入れに反対。大統領府の国民請願サイトでは「イエメン人受け入れ反対」の請願が70万件を超えた。
「開かれた難民行政。ひとつになる大韓民国」「平和の島、済州」。済州出入国外国人庁と済州道庁の玄関に大書された文字が皮肉に映る。「僕らに何が起きたのかを分かってほしい」とムアイヤドさん。韓国で直面する拒絶感にも、希望だけは捨ててはいない。【7月18日 産経】
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日本同様に難民という概念自体になじみが薄い韓国では、トランプ大統領に象徴されるような世界各地で見られる強烈な反移民感情も起きているようです。
しかし韓国には、文在寅大統領の両親が朝鮮戦争当時、北朝鮮から逃れてきた避難民だったという歴史もあります。
****済州島に押し寄せたイエメン難民、「反移民感情の高まりが韓国でも」と海外メディア****
2018年7月20日、韓国南部の済州島に押し寄せた中東イエメンからの難民。韓国内では反発が強まり、大統領府の掲示板では受け入れ拒否の請願に70万人以上の署名が集まった。海外メディアは「欧州を席巻し、米国でトランプ氏を大統領に押し上げた反移民感情の高まりが韓国でも繰り返されている」と伝えている。(中略)
難民の増加に韓国政府は6月になって済州島へのビザなし入国を許可している国からイエメンを除外。難民が韓国本土への渡航ができないよう措置を取ったが、国内では強烈な反発起き、AFP通信によると、韓国のポータルサイト「ネイバー」に投稿された「政府は狂っているのか?やつらは私たちの娘をレイプするイスラム教徒だぞ」というコメントには、数千人が賛同を示した。
中央日報によると、ソウルでは14日、 インターネットコミュニティー「難民反対国民行動」が「イエメン難民受け入れ反対、ノービザ・難民法廃止」集会を開催。難民法と済州ノービザ制度廃止などを政府に促した。
主催団体はイエメン難民申請者らについて、「彼らは政治的迫害を避けて韓国に来た難民ではなく就業を目的とした経済的移住民だ」と指摘。「欧州の多くの国が難民を受け入れて残酷な犯罪にさらされており、被害者はほとんどが女性と子どもたちだ。われわれは難民法改正を望まない。改正案で国民を愚弄(ぐろう)し、だまさずに難民法を即時廃止せよ」などと主張しているという。
こうした背景に関してAFP通信は「人口(約5000万人)のうち外国人はわずか4%程度で、それも中国や近隣の東南アジア諸国からの人々が大半」と指摘。「韓国では難民という概念自体になじみが薄い」との見方を示している。
イエメン難民問題をめぐり、英紙「ガーディアン」は文在寅大統領の両親が朝鮮戦争当時、北朝鮮から逃れてきた避難民だったことに言及。どう対応するかに「避難民の息子が沈黙している」と皮肉っている。
同紙はイエメン難民に対して最も批判的なのは保守系のキリスト教団体で、韓国国民の49%が難民受け入れに反対し、39%が賛成しているという世論調査の結果もあると説明。
一方で、世論の反発を承知で難民の宿泊料を割引したり、食料・衣類・寝具などを寄付したりする済州島の住民がいるとも紹介している。【7月22日 Record china】
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事態の背景として、“韓国はこれまで、難民とは無縁の国だった。1993年から2013年6月までに難民申請した人は5500人に過ぎない。ところが、2013年7月にアジアで初めて「難民法」が施行されたことを機に、世界に「アジアの他の国に比べて難民に寛容だ」との認識が広まった結果、今年は1万8000人が難民申請をした。また、SNSに「済州島は難民にとって暮らしやすい場所」などの書き込みがあったことも、済州島に難民が急増するきっかけの1つとなった。”【7月25日 Record china】とも。
「やつらは私たちの娘をレイプするイスラム教徒だぞ」・・・・非常に偏見・差別に満ちた反応ですが、日本のネットユーザーに多い韓国嫌いの人たちの多くは、反移民・難民の傾向もあるようですから、今回は韓国国内の強い反移民感情の高まりには賛同するのでしょう。
一方で、韓国国内には難民への積極対応を求める声もあるようです。
****イエメン難民はなぜ韓国・済州島へ押し寄せた?****
・・・・また、ソウル新聞によると、韓国政府の積極的な対応を求める声も多い。済州平和人権研究所「ワット」のシン・ガンヒョプ所長は「ここまで大規模な難民の流入も、本土への渡航禁止措置も初めて。そのため混乱に陥っている」とし、「政府は問題を済州市に任せるのではなく、人道的な解決に積極的になるべき」と主張した。
公益法センター「アピール」のチョン・スヨン弁護士は「難民を法律支援しているため、国民から批判的な声を聞くことも多い」とした上で、「そうした視線の背景には、私たちがイスラム国家や難民をよく知らないために生じる恐怖心がある」と指摘した。
その他、韓国の大学教授の一部も「韓国はこれまで、国際的な地位に見合わず難民問題に消極的な態度を見せてきた。韓国は朝鮮戦争の時に外国から支援を受けた上、国連の難民条約にも加入しているため、政府が粘り強く国民を説得しなければならない」などと主張している。【7月25日 Record china】
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本来リベラルな人道を重視する左派政権・文在寅大統領の真贋が問われる案件です。