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(【2月26日 japanese.china.org.cn】港珠澳大橋は、中国広東省珠海市と香港およびマカオを結ぶ海上橋。完成すれば、全長35kmと世界最長クラスの海上橋になります。すでに本体工事は終了。一大経済圏構想「粤港澳大湾区」を体現する橋ですが、民主派からは「無用の長物」、中国支配の手段といった批判もあります。)
【盛り上がりを欠いた中国の政治介入への抗議デモ】
香港においては、中国の支配が強まる中で「一国二制度」が形骸化しつつあることは、かねてより指摘されるところです。
****香港の駅に中国入管設置へ=「領土割譲」と民主派反発****
香港立法会(議会)は14日夜、香港と中国本土を結ぶ高速鉄道の香港側ターミナル駅に中国政府の出入境管理施設の設置を認める条例案を可決した。
同施設や車両内には中国の法律が適用され、中国政府職員が中国への往来を審査することになる。これに対して民主派は「(中国への)領土割譲だ」と反発している。
高速鉄道は全長約140キロで、広東省広州市から深セン市を経由して香港に至る。中国区間は既に開業、香港区間も4月から試験運転を始めており、9月の全線開通を目指している。利用者は香港側ターミナル駅で、中国への出入境や通関の手続きをすべて終えることになる。
立法会では親中派議員40人が賛成、民主派議員20人が反対を投じた。民主派は中国の司法管轄権が香港域内に及ぶと警戒している。香港メディアによると、香港基本法に違反するとして裁判所に司法審査を申し立てることを検討中という。【6月15日 時事】
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もちろん、中国における自由・人権を認めない政治の在り方についての抗議活動などは、今も香港で続けられています。
****中国政府に「沈黙の抗議」 弁護士拘束から3年 香港****
中国で人権派の弁護士や民主活動家らが一斉に拘束された事件から3年を迎えた9日、香港の終審法院(最高裁に相当)前で、香港の司法関係者らが抗議デモをおこなった。約50人の参加者が事件のあった7月9日にちなみ、7分9秒間黙禱(もくとう)し、静かに抗議の意思を示した。
主催した香港のNPO「中国人権弁護士関注組」の何俊仁主席は「事件に巻き込まれた多くの司法関係者がいまだに通常の仕事に戻れていない」として中国政府を強く非難した。(後略)【7月10日 朝日】
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中国の政治介入への抗議も行われています。
****香港返還21年でデモ「中国の介入進む」****
香港が中国に返還されてから21年となる1日、香港市内では、「中国の政治介入が進んでいる」などとして民主派団体などが大規模なデモを行った。
中国の影響が強まる中、香港では毎年この時期に抗議デモが行われていて、主催者側によると、今年は約5万人が参加したという。デモに参加した市民らは、「中国よりの政策が次々と取られ、自治が破壊されている」などと訴えた。
香港の議会にあたる立法会では、中国寄りの立場を取る親中派議員が過半数を占める中、先月には中国の入国管理局の権限を強化する法案が可決。今後、中国に渡る際には、香港側の駅で中国側の職員が中国の法律に基づき出入境審査を行う事になり、民主派議員らは、「香港の自治を損なう恐れがある」と反発している。
デモの参加者らは、こうした中国との融和的な政策を進める香港政府も厳しく批判していて、「市民が立ち上がり、中国の独裁を終わらせよう」などと呼びかけた。【7月1日 日テレNEWS】
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しかし、上記の抗議デモも盛り上がりを欠いた感は否めません。特に、若者の反応が鈍いようです。
ひと頃の「雨傘運動」の熱気は、運動の挫折とともに、過去のものになりつつあるようです。
****若者の関心、急低下****
香港の中心部では1日、民主派のデモが開かれたが、参加者(主催者発表)は約5万人で前年と比べ約1万人減、4年前の約10分の1に減り、盛り上がりを欠いた。背景には、林鄭氏の政権運営への若者の反発が鈍いことがある。
雨傘運動で中心的に活動した周庭(アグネス・チョウ)さん(21)は嘆く。「私たちのメッセージがなかなか中高生に伝わらない」。雨傘運動のころ、若者はSNSのフェイスブックで情報を共有し、抗議活動を主導した。
だが、最近の中高生の間では写真が中心のSNSのインスタグラムが流行。文字があまり使われず、中高生への働きかけが難しくなったという。
民主的な選挙の実現という訴えが実らぬまま雨傘運動が終わった後、若者の政治への関心は急低下している。そうした空気も背景に林鄭氏は中国寄りだとして反対の声が根強い政策にもアクセルを踏みつつある。
国歌への侮辱行為を禁止する国歌法の審議が近く始まる予定。民主派は「林鄭氏も結局は梁氏と同じ路線だ」(区諾軒・立法会議員)と反発するが、明確な対抗策を描けていない。【7月2日 朝日】
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【ソフト路線で無理をしない林鄭月娥行政長官 民主派の対決姿勢も緩み、習指導部の思惑通りの展開】
中国寄りのイメージが強い林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官ですが、その手法は“ソフト路線”で、いたずらな対立激化を避けているとか。
民主派のデモが盛り上がりを欠く背景には、そうしたソフトな政治運営が奏功している面もあるようです。
****習氏の思惑、香港着々 ソフト路線、高支持率 林鄭・行政長官、就任1年****
香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が1日、就任から1年を迎えた。極端な中国寄りの政治で若者らの反中感情を高めた前任者から一転し、ソフト路線で社会の安定を優先。政治に対する若者の反応が鈍くなっていることも手伝って、中国に忠実な政策を着々と進めている。
1日は中国に香港が返還されて21年を迎えた記念日で、林鄭氏は式典で演説。「この1年で、香港政府は経済発展や暮らしの改善で実績を出した」と胸を張った。
林鄭氏は女性初の行政長官に就任後、企業減税のほか、教育や住宅難などの改善に着手。親中派と民主派が激しく対立する社会の亀裂の修復を目標に掲げた。
就任式で習近平(シーチンピン)国家主席から求められた最大の宿題ともいえる「国家安全条例」の立法化を急がず、事実上、先送りする構えを見せているのもその表れだ。
同条例は、国家の分裂や政権転覆につながる動きを禁じた香港基本法23条を具体化するための法制だが、自由や人権が制限される恐れがあるとして、過去に反対運動が起きて頓挫した。香港政府幹部は「任期はあと4年ある。急いで着手する必要はない」と語る。
こうした穏健路線を習指導部が容認した背景には、急速に高まった反中感情を鎮め香港に対する統制を強めたい意向がある。
前任の梁振英氏は、過度に中国寄りだとして市民の不満を高めた。2014年には民主化デモ「雨傘運動」が起き、若者らが香港の中心部を2カ月あまり占拠した。
中国と香港の関係に詳しい外交筋によると、習氏は16年11月、外遊先のペルーで梁氏と会談し続投容認を示唆した。だが、梁氏の手腕を問題視する意見が巻き返し、習指導部は続投を認めないと決定。後任として香港政府高官だった林鄭氏を17年の選挙に立候補させる方針を決めたという。
香港大の世論調査によると、林鄭氏の支持率は政権発足以来、50%超を維持。30%台に沈んだ梁氏から回復した。民主派の対決姿勢も緩み、習指導部の思惑通りの展開となっている。【同上】
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【本土との経済一体化で急速に進む「中国化」 不満を持つ香港中産階級も】
中国・習近平政権は急ぐ必要はないでしょう。
香港市民生活の土台をなす香港経済はいよいよ中国と一体化を強めています。経済が一体化すれば、政治面でもおのずと一体化の流れが強まります。
****広東・香港・マカオを結ぶベイエリア 名実ともに世界一になれるか?****
中国の粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ大湾区)の発展計画が、近く発表される。
中国国務院の政府活動報告の中で言及されてからこの1年来、二つの特別行政区と11の都市によって形作られる、この巨大ベイエリア構想はますます脚光を浴びている。
世界の三大ベイエリアは、東京、サンフランシスコ(San Francisco)とニューヨーク(New York)。いずれも、それぞれ異なるコア産業の周辺に関連産業が拡散・発展し集中したものだ。(中略)
■粤港澳大湾区:中国国土の面積0.6%、GDPの12%超生み出す
粤港澳大湾区は11都市を含み、総面積の5万6500平方キロは、ニューヨーク、サンフランシスコと東京を足した合計よりも広い。
中国の国土面積の0.6%に相当し、国内総生産(GDP)は10兆1843億元(約174兆円)で中国全体のGDP12.57%を占め、貢献度は大きい。
技術開発力をみると、粤港澳大湾区には著名な外資系企業16社と、ハイテク企業は約3万社が軒を連ねている。統計によると、2012年から16年の発明特許件数は年々に増え続け、この間に既にサンフランシスコを上回り、両地域の差はますます広がるばかりだ。
粤港澳大湾区には、世界最大の港湾群、空港群と交通網があり、貿易総額や外資導入額、コンテナ取扱量、空港の旅客利用数、などは国際的にみても既に一流レベルに到達している。
深セン市の張思平元副市長は、著書「『一国両制』与大湾区—粤港澳大湾区建設中的制度創新」(訳:「『一国二制度』とビッグベイエリア─粤港澳大湾区におけるイノベーション」)の中で、同ベイエリアには地球最大のベイエリアになるだけの基本条件が既にそろっているが、目標の実現のためには、まず、ユーロ圏のような経済と社会の共同体を作り上げることが必要だと説く。(後略)【6月24日 CNS】
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上記は中国系メディアの記事ですから、それを念頭に読む必要はありますが、粤港澳大湾区として中国・香港の一体化が進んでいることは事実でしょう。
ただ、香港の一般市民には、中国主導の経済一体化の恩恵にあずかれない人も多く、あおりを受けて生活が苦しくなる側面もあるようです。
****一帯一路に飲み込まれて香港が急速に「中国化」****
香港経済は今、「大湾区」というキーワードで盛り上がっている。別の名を「ビッグベイエリア」ともいう。広東省の9都市に香港とマカオを加えた11都市で構成される一大経済圏構想が「粤港澳大湾区」だ。
中国本土と香港を結ぶ鉄道も整備が進む。広州〜深セン〜香港を結ぶ全長142キロの「広深港高速鉄道」計画は、深セン〜香港の区間がすでに試運転段階に入った。
香港〜マカオ〜珠海を結ぶ海上橋もかかり、開通が目前に迫っている。
習近平国家主席がぶち上げた「一帯一路」構想のもと、“香港の中国化”は、想像以上の速さで進んでいる。それは、十数年ぶりに香港を訪れた筆者の目にも明らかだった。
中国に同化する街並み
ハリウッドロードといえば、観光客を惹きつける香港指折りのストリートだ。香港ならではの個性的な店を期待して訪れたが、中国本土にもよくある成金趣味的な店ばかりが目についた。
不動産価格が値上がりを続ける香港において、高額なテナント料を払っても利益を出すには、大陸の富裕層を相手に勝負するしかないということか。
大陸客が押し寄せる目抜き通りのネイザンロードも、まるで“上海の淮海路”のようだった。筆者の記憶に残る香港はもっと雑多な街だったはずだが、今回、見たものは、大陸客相手の「周大福」や「周生生」などの貴金属店、または「莎莎」や「卓悦」などのドラッグストア、あるいは大陸資本の飲食店ばかりだった。
返還前の1990年に制定された「香港特別行政区基本法」には、「1997年の返還以降も、従来の資本主義制度と生活様式は50年間変えない」と記されていた。しかし、香港の市民生活はたった20余年で大きく変化した。
その最大の要因は、大陸からの人と資本の移動である。これに加えて大橋がかかれば、中国との一体化はさらに進むだろう。
住宅も大陸系に占拠されていく
かつて香港の裏路地には、庶民が集う食堂が無数にあった。この道何十年という老舗の店舗もあり、手作りの味を自慢にしていた。
しかし近年の地価高騰が経営を直撃し、名物食堂も雲散霧消してしまった。賃料が10万香港ドルから30万香港ドルへと3倍に上がったところも珍しくなく、「長年の人気店でもテナント料が払えず、惜しまれながらも店を閉じるところが少なくない」(香港に長い日本人)という。
(参考)「香港で朝食を、私が吉野家に入ってしまった深いワケ」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53284
香港では住宅問題も深刻だ。
香港には日本のような公営住宅があり、人口の3分の1がそこに居住する。残る3分の1が民間の賃貸住宅に住み、さらに残りの3分の1が豪邸を含む分譲住宅に住むと言われている。
香港で最も古い油尖旺地区の公営住宅「石硤尾邨」を訪れてみた。住民に話を聞くと、「募集要項を満たしていれば誰でも居住を申請できる」という。
そのため、“新香港人”と呼ばわれる大陸からの移民による申請が増加し、公営住宅はパンク状態なのだそうだ。インターネットの掲示板には、「ただでさえ少ない住宅なのに」など不満の声が数多く書き込まれている。
中産階級は豊かさを実感できない
2017年、香港には5847万人の観光客が訪れたが、そのうちの76%の4444万人(いずれも日帰りを含む、数字は香港政府観光局)は大陸からの観光客だ。
大陸客は香港経済を潤し、貴金属店や化粧品店を儲けさせた。高速鉄道が開通し、大橋がかかればもっと多くの大陸客がこの地に訪れるだろう。「大湾区」構想が本格的に動き出せば、香港はさらに豊かになるかもしれない。
現在、香港証券取引所に上場する6割の企業は、中国企業である。高騰する不動産価格も、もとをたどれば中国から資金が流れ込んだからだ。香港経済は確かに大陸への依存度を高めている。完全にその支配下に組み込まれつつあると言っても過言ではない。
だが、中国化による豊かさを実感できる香港人は、ほんの一握りに過ぎない。香港の中産階級は、住宅や医療、福祉などのサービスを大陸からの移民と奪い合っている。
また、大陸の富裕層による不動産投機により、生活の質を大きく下げた。香港全体の世帯数の過半数を占める中産階級は、「中国化」を決して喜んではない。
旺角(モンコック)の美容院で働く美容師の男性は、冒頭で紹介した「大湾区」にまったく関心を示さなかった。その美容師は筆者の髪にドライヤーを当てながら、新しくかかる大橋についてこうつぶやいた。
「橋なんてどうでもいいですよ。僕らが中国に行くわけじゃありませんから」
橋の利用者のほとんどは大陸の中国人だというのだ。中国主導のインフラ建設は「香港人にとっては無用の長物」なのかもしれない。そんな金があるなら福祉に回せ、というのが本音だろう。
筆者が訪れた香港歴史博物館では、香港人の家族連れや高齢者が静かに展示物に見入っていた。太古から戦前・戦後までの香港の生活や文化が時系列に整理された展示場では、特に1970年代のコーナーに立ち止まる人たちが目立った。
それは、第25代香港総督・マクレホースのもとで香港市民の生活水準が引き上げられ、市民が苦しさの中にも光を見出した時代だった。30年後、はたしてこの博物館はどんな歴史を伝えるのだろうか。【7月10日 姫田 小夏氏 JB Press】
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【分裂する“民主派” 「反親中」でまとまれるか?】
中国との一体化で利益を受ける人もおり、そうでない人も。両面でしょう。
選挙制度の関係で議会は親中派が過半数を占めていますが、香港の世論はおよそ6対4ぐらいの割合で民主派への支持が強いと言われてきました。(“林鄭氏の支持率は政権発足以来、50%超を維持”ということで、このあたりにも変化が生じているのかも)
しかし、雨傘運動以来、1国2制度の形がい化への懐疑とともに、「香港は香港で、中国とは違う」という香港主体性意識の高まりが顕在化。そのなかで、従来の民主派だけでなく、「本土派」「自決派」「独立派」と呼ばれる勢力が台頭し、民主派は一枚岩ではなくなっています。
上記のような香港中産階級の不満を政治に反映できるかは、いわゆる民主派が「反親中」でまとまることができるかにもかかっています。
****「反親中」でまとまれるか****
(3月11日の補選では)かろうじて民主派勢力でまとまることができたが、最近は民主派勢力の間で路線をめぐって意見の隔たりが深まり、一部の民主派は親中派に取り込まれつつあるとの懸念も生じている。
また、雨傘運動のあとに勃興した本土派、自決派、独立派の関係も複雑かつ対立含みで、親中派に比べ団結力では大きく劣っている。
香港政府、立法会で多数を占める親中派議員、そしてその背後にいる中国政府を相手にこれからも困難な戦いを戦い抜くためには、「反親中派」の一致した運動が求められる局面に入ったことも印象づける選挙となった。【3月16日 野嶋剛氏 東洋経済online】
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