(最高指導者ハメネイ師は10月2日、イラン革命防衛隊司令官らと会談し、「米国による最大限の圧力政策は失敗した。イランは覇権主義体制に屈することはない」と強調し、「イランが望む結果に至るまで、断固として核合意の責務縮小を継続する」と語りました。【10月2日 ParsTodayより】」
【実現しなかったアメリカとの首脳会談】
イランをめぐる情勢。
アメリカ・トランプ大統領は、泥沼に引きずり込まれる恐れがある軍事的な対応には消極的で、あくまでも取引・交渉によって成果を求める姿勢で、そのためには軍事的緊張を高めるような圧力も・・・といったところです。
もちろん、圧力のつもりが、何らかの事情、あるいは不測の事態で実際の行使に至る・・・というのはよくある話ですが。
交渉の方は、核合意の強化・拡大を求めるトランプ大統領と制裁解除を求めるイランの溝が埋まっておらず、トランプ、ロウハニ両首脳が出席した国連総会での会談は結局実現しませんでした。
****「自分が拒否」米イラン双方主張 首脳会談巡り****
トランプ米大統領は27日、ツイッターで、米イラン首脳会談実現のためイランが制裁解除を求めたが「私はもちろん『ノー』と言った」と主張した。
一方、イランのロウハニ大統領は同日、英仏独3カ国首脳から米国との首脳会談に応じれば米国は制裁を全て解除するとの見通しを伝えられたが拒否したと述べ、食い違いを見せた。
両首脳が出席した国連総会に合わせ、ニューヨークで米イラン首脳会談の実現が期待されたが、実現しなかった理由を巡り双方が自ら拒否したと主張している。【9月28日 共同】
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一方、フランス・マクロン大統領は、自身を含めた三者電話会談を画策して動き回ったようですが、これも実現しませんでした。
****米仏イラン、3者電話会談に失敗 マクロン氏仲介、米誌報道****
米誌ニューヨーカー電子版は9月30日、フランスのマクロン大統領が24日夜、イランのロウハニ大統領とトランプ米大統領の3者電話会談の機会を設定したが、最終的にロウハニ師が応じなかったと報じた。
同誌によると、フランス側は
(1)イランの核開発を無期限に制限することに関する新たな協議入り
(2)イエメン内戦終結への協力と、ペルシャ湾航行の自由と安全をイランが約束
(3)米国が昨年再発動した対イラン制裁の解除
(4)米国がイラン産石油輸出の再開を容認
の4項目について、トランプ氏とロウハニ師による口頭での合意を取り付ける計画だった。【10月1日 共同】
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もっとも、イラン・ロウハニ大統領は、このフランス提案に前向きな姿勢を見せています。
*****イラン、仏仲介案ほぼ受け入れ可能 対米協議巡り=大統領*****
イランのロウハニ大統領は2日、国営テレビで生放送された閣議で、マクロン仏大統領がイランと米国に提示した仲介案はおおむね受け入れられるとの見方を示した。
ロウハニ氏は提案の一部は変更の必要があると指摘。計画ではイランが核兵器開発をしないことや、湾岸地域および航路の安全支援を求める一方、米政府には全ての制裁解除を要求しているが、イラン産原油の速やかな輸出再開も認められるべきとした。
ただロウハニ氏は、ニューヨークで先週開催された国連総会の合間に、米国から制裁に関する矛盾したメッセージを受け取ったため、交渉の可能性を損なったとした。
またトランプ米大統領が制裁強化について公言することは容認できないと指摘。一方で欧州勢はトランプ大統領に交渉する意向がある旨を非公式に伝えてきたとし、協議実現に向け模索し続けていると述べた。
ザリフ外相は国営イラン放送(IRIB)で、マクロン大統領の仲介案は「われわれの視点を含んでいない」と言及。「論点が明確な方法で提示されるまで、こうした交渉を続ける必要がある」とし、イランは核兵器の開発を推進しているわけではないと主張した。
一方、イランの最高指導者ハメネイ師の公式ウェブサイトによると、ハメネイ師はイスラム革命防衛隊の会合で、イランは「望ましい結果」に達するまでイラン核合意の履行を段階的に停止し続けていくと語った。【10月3日 ロイター】
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“イランは核兵器の開発を推進しているわけではない”というのは、穏健派のロウハニ大統領やザリフ外相の考えであるにしても、強硬派の革命防衛隊などが核開発の無期限制限に賛同するのか・・・?
仮に、マクロン大統領提案で交渉に入っても、イラン国内の合意形成ができるのか・・・・やや疑問も残ります。
イランの話でいつも結論となるように“最高指導者ハメネイ師の判断次第”というところでしょうか。
【サウジがイランとの対話路線に転換?】
上記のようなイランとアメリカ・欧州の間の話とは別に、かつてのアラブ対イスラエルの対立軸に代わって、いまや中東最大の対立軸となっているイラン・サウジアラビアの対立について、情勢が変わるかも・・・という動きも出ています。
イラン側の発表によれば、サウジアラビアが他の諸国の首脳を通じてロウハニ大統領にメッセージを送った・・・とのことです。
****イランの大統領宛てメッセージ巡る発表は不正確=サウジ高官****
サウジアラビアのジュベイル国務相(外交担当)は1日夜のツイッターへの投稿で、サウジが他国を通じてイランのロウハニ大統領にメッセージを送ったとするイラン側の発表は「正確ではない」と説明した。
イランの政府報道官は先月30日、サウジが他の諸国の首脳を通じてロウハニ大統領にメッセージを送ったと述べたが、具体的な内容には言及しなかった。
サウジは先月14日に起きた石油施設への攻撃にイランが関与したと非難している。
ジュベイル国務相は、イラン報道官の発言は「正確ではない」とし、「何が起きたかというと、友好国が事態の沈静化を図ろうとし、われわれは常に地域の安全保障と安定を目指すという自国の立場を彼らに伝えた」と説明した。
また「(緊張の)緩和は、敵対的行為を通じて地域における混乱を悪化・拡大させている当事国が働き掛けるべきだとも伝えた」と指摘。「イランの体制に関するサウジの姿勢を伝えた。われわれは最近では国連総会など、あらゆる場でこの見解を明確に表明している」と指摘した。【10月2日 ロイター】
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サウジ側は否定していますが、“火のない所に・・・”ということでいけば、サウジ側からの事態改善を求める何らかのアクションがあったのでは・・・とも推測されます。
“サウジは先月14日に起きた石油施設への攻撃にイランが関与したと非難している”とのことですが、あくまでも“関与”であって、イランの革命防衛隊が実行したとかいった、イランの直接的犯行を主張している訳でもありません。
こうしたサウジ側の対応は、事件直後から「イランだ!」と言いたてているアメリカに比べると、非常に抑制された慎重な対応に思えます。
大金をはたいて用意したミサイル防衛ステムが機能せず、国家の根幹である石油施設がかくも容易に攻撃にさらされたという事実を前にして、サウジとしても不用意にイランとの緊張を高め、武力衝突の危険を煽るようなことは躊躇されるのでは・・・といったことを以前のブログでも書いたことがあります。
あながち見当違いでもないかも。
****サウジがイランとの対話に転換か?イラク首相が仲介工作****
中東情勢に定評のある専門誌「ミドルイースト・アイ」によると、サウジアラビアはこのほど、軍事衝突も辞さないとしてきたイランとの関係を対話路線に方向転換した。イラクのマハディ首相が仲介した。
先月の石油施設への攻撃で、原油生産の半分が停止するという緊急事態を受けた決定だが、事実ならば、イランの「戦略的勝利」(アナリスト)と言えるだろう。
カショギ氏殺害事件から1年の重大決定
サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールの領事館で殺害されてから10月2日で1年。サウジの今回の歴史的な決定はその節目の直前に行われた。
同国を牛耳り、カショギ氏殺害を命じたと今なお批判されるムハンマド皇太子がこの決定に中心的な役割を果たしたのは疑いないところだろう。
同誌によると、イラク首相府のアッバス・ハスナウイ氏がマハディ首相の仲介工作を確認し、サウジとイラン当局者による会談場所としてバグダッドが検討されていることを明らかにした。
サウジはイランとの対話を開始する条件として、イランがイエメンなどでの活動を縮小し、サウジと戦争中のイエメンの反体制派フーシに対する支援を停止するよう求めている。
イラン側も同様に、条件を提示しているとされるが、具体的には明らかではない。
しかし、国営通信の報道によると、イラン政府スポークスマンは9月30日、サウジアラビアからロウハニ大統領に宛てたメッセージが一部の国の指導者を介して伝えられたと明らかにし、サウジが態度を変えるというなら歓迎する表明した。
アラブ専門家は「イラクを仲介にしたサウジとイランの秘密接触が始まっているのは間違いない。軌道に乗れば、ペルシャ湾情勢が激変するかもしれない。歴史的な動きだ」と指摘している。
同誌の報道に先立つ先週、イラクのマハディ首相がサウジアラビアのジッダを訪問し、ムハンマド皇太子と会談しており、この際にイランとの対話について話し合われたと見られている。
同誌はまた、米政府も今回の調停に賛同しており、イラク首相のファリハ・アルファヤド補佐官(安全保障担当)がこの問題を米側と話し合うため訪米中、とも伝えている。
ムハンマド皇太子は先月末に放映された米CBSテレビとのインタビューで「政治的な平和解決の方が軍事的な解決よりもはるかに良い」と述べ、イランとの対話路線に転換したことを示唆。これにイランのラリジャニ国会議長が歓迎する意向を示していた。
奏功したイランの“軍事的賭け”
サウジアラビア政府がイランとの対話路線に踏み切ったとすれば、それはイランの“軍事的賭け”が奏功したことを意味するものだ。
先月14日のサウジの石油施設への攻撃はイエメンのフーシが実行声明を出して成果を誇った。だが、高性能の無人機と巡航ミサイルの組み合わせによる精緻な攻撃をフーシの仕業とするには無理がある。
「イランの犯行」(ポンペオ国務長官)とまではいかなくても「イランに責任がある」(英仏独共同声明)可能性が強い。同誌はイランの支援を受けたイラクの民兵組織による攻撃と報じているが、「イラン革命防衛隊から援助を受けた武装勢力の攻撃という可能性が最も高い」(ベイルート筋)だろう。
イランの最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領ら指導部が関与していたかどうかは別にして、この“軍事的賭け”により、アブカイクにある世界最大級の石油処理施設が損傷を受け、サウジの石油生産の半分が停止してしまった。
石油価格が急上昇して世界経済が動揺すると同時に、米国製のパトリオット迎撃システムによって守られていたサウジ防空網の脆弱ぶりが白日の下にさらされることになった。
サルマン国王やムハンマド皇太子らサウジの指導層の衝撃は想像に難くない。イランと軍事対決することの意味を心底思い知らされたことだろう。
つまり、ペルシャ湾での戦争に勝者はなく、イランが主張するように「イランにちょっかいを出せば、ペルシャ湾全体の戦争になる」(ザリフ外相)ことをまざまざと見せつけられたからだ。
「いたずらに軍事的な緊張を高めるのは得策ではない。和解する必要もないが、対話路線を模索する方向に舵を切ったとイランに思わせた方がいい」(ベイルート筋)。サウジの指導層がこのように考えても不思議ではない。
その背景に対米不信感が芽生え始めていることも指摘できるのではないか。
米軍基地壊滅を想定した訓練に何を見たか
米軍は9月29日、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆など中東・北アフリカ・西南アジア地域の空軍指揮管制センターとなってきたカタールのアルウベイド基地を24時間閉鎖し、サウスカロライナ州の基地にその機能を一時的に移管する訓練を実施した。アルウベイド基地が指揮管制センターになってから初めての措置だ。
なぜこうした訓練が必要になったのか。それはイランとの戦争が勃発し、同基地がイランの弾道ミサイルの攻撃を受けて壊滅状態になったケースに備えてのものだった。
逆に言うと、米軍はイランのミサイル攻撃を完全に阻止できない現実を明らかにしたといえる。それはまた、サウジアラビアなどペルシャ湾の同盟国を完全に防衛できないことを示すことにもなった。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)の指導者はこの訓練をどう見たのだろうか。
もう1つ、指導者らの気持ちに影を落とした出来事がある。国連総会が開かれていた先月24日の夜、ニューヨークでのことだ。
マクロン仏大統領の仲介で、トランプ大統領がロウハニ大統領と電話会談の場を設定したが、ロウハニ大統領が応じなかったという報道である。
ペルシャ湾岸の指導者らにとってみれば、米国の尻馬に乗ってイランと敵対してきたが、その梯子をいきなり外されかねないことを見せつけられる形になったと言えるだろう。
フーシとの戦争が一段と泥沼化してきたこともサウジの方針転換の一因だ。フーシが先月末の戦闘でサウジ軍兵士「2000人」を拘束したと発表したように、サウジが仕掛けたイエメン戦争はうまくいっていないどころか、大きな荷物になってしまった。
カショギ氏殺害事件で、サウジへの投資から撤退した多数の欧米企業が近く開かれる「砂漠のダボス会議」に復帰する見通しで、ムハンマド皇太子としては一日も早く、会議を成功させて経済発展の計画を加速させたいところだ。
イランとの軍事的対決が続けば、これも不可能になる恐れがある。サウジには、イランとの対話路線に転換しなければならない多くの差し迫った理由がある。【10月3日 WEDGE】
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実際のところはわかりませんが、“いたずらに軍事的な緊張を高めるのは得策ではない”とサウジ側が考えたとしても不思議ではありません。
特に、ムハンマド皇太子は今回の石油施設攻撃で、これまでの強硬路線がこうした事態を招いたと国内的に批判を受けているとの報道もあります。
****サウジのムハンマド皇太子、石油施設攻撃で王族内部からも批判****
9月14日に石油施設2カ所が攻撃を受けた後、サウジアラビアの王族や財界エリートの一部からムハンマド・ビン・サルマン皇太子(34)に対する不満が噴出している。
1人の上級外交筋や、王族や財界エリートとつながりのある5人の消息筋によると、国防相を兼任する皇太子が攻撃を防げなかったことで、サウド王家の一部有力王族から皇太子の国防手腕や政治能力への懸念が高まっている。皇太子が権力の掌握に向けて厳し過ぎる締め付けを進めてきたことも反発を招いているという。
王家とつながりのある上流階級の1人は、皇太子の統率力について「反感が多い」と吐露。「どうして今回の攻撃を察知できなかったのか」と不満をあらわにした。
この関係者は、上流階級の一部は皇太子を「信頼していない」と言っているとも付け加えた。他の消息筋4人と上級外交筋も同様の見方を示した。
王家やビジネス界とつながる関係者4人によると、皇太子のイランに対する強硬姿勢やイエメン内戦への関与が攻撃を招いたとの批判が国内の一部で出ている。先の5人の消息筋と上級外交筋によると、多額の国防費を使っていながら攻撃を防ぐことができなかった皇太子に対して失望が広がっているという。
サウジのエリート層の一部では、皇太子が権力基盤を固めようとしていることが国に害を及ぼしているとの見方もある。政府に近い関係者の1人は、皇太子は前任者よりも経験のない人材を抜擢していると指摘した。
ただ、皇太子は依然として厚い支持を受けてもいる。皇太子に忠誠を誓うグループの1人は「今回の石油施設攻撃で、皇太子が最有力王位継承者としての立場に個人的に打撃を被ることはない。皇太子は中東地域でのイランの勢力拡大を阻止しようとしているからだ。これは国を愛することに関わる問題であり、少なくとも父親である現国王が生きている限り皇太子が危険な状況に陥ることはない」と述べた。
別の上位の外交筋も、一般的なサウジ国民は今でも、強力で決断力と行動力を備えた指導者として皇太子の下での団結を望んでいると述べた。【10月3日 ロイター】
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もっとも、秘密主義のサウジアラビアの、しかも王室内部の権力闘争的な話となると、北朝鮮と同じぐらいわからないことが多く、一部の報道をうのみにすることもできません。
まあ、カショギ氏殺害事件、イエメンの泥沼化、石油施設攻撃・・・と、失態続きのムハンマド皇太子が、改革路線を維持するためにも、なんらかの目に見える成果を求めているというのは、ありうる話かも。