(米中合作アニメ映画「アボミナブル」に登場する「九段線」 バツ印はベトナムメディアがつけたものではないでしょうか。【10月15日 VIET JO】)
【巨大市場・中国の主張に直面する民間企業】
国際的な活動を行う民間企業にとって、死活的に重要な巨大市場でもある中国、しかし、人権・自由・民主主義などにかんする異なる価値観を有する中国・・・そうした中国に直面して苦悩するケースが増えているということで、香港問題に絡む米プロバスケットボール協会NBAなどの話題を10月10日ブログ“チャイナリスク 香港問題で米中の板挟みに状態となった米プロバスケットボール協会”で取り上げました。
同様のトラブルは、その後もいろいろ報じられています。
****ディオールが中国に謝罪、台湾抜きの地図使用で****
フランスの高級ファッションブランド「クリスチャン・ディオール」は事業発表の催しで台湾が明示されていなかった中国の地図を使用したとして同国政府への謝罪をこのほど表明した。
謝罪は中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」の同社アカウントで示された。台湾が描かれていなかったのは従業員の不手際とし、中国の「主権と領土的な一体性」を支持していると指摘。
この地図は中国の大学での事業発表で使われたもので、問題が起きた経緯などを今後調べるともした。
米国の大手コンサルティング企業「マッキンゼー」によると、中国は高級ブランド品では最大規模の市場の1つ。昨年のディオールの総収益を見た場合、日本を除くアジア地域の顧客の購入が約3分の1を占めた。
ディオールは、「ルイ・ヴィトン」や「ヘネシー」などと同様、LVMHグループの傘下にある。
中国は台湾の自国領土の一部とする「一つの中国」政策を主張。近年はこの原則をより浸透させるため欧米企業に圧力をかける動きも目立つ。
米系の航空会社3社は中国の要求に応じ、地図上で「台湾」との表記を「台湾、中国」に変更。米国の衣料品小売り大手「ギャップ」は昨年、台湾を含めない中国の地図がほどこされたTシャツの問題で謝罪を示した。
最近では地元政府や中国政府への抗議デモが続く香港情勢に絡み中国と米プロバスケットボール協会(NBA)やアップル、グーグルとのあつれきも生まれた。【10月20日 CNN】
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“NBA幹部解雇「要求された」=香港応援で、中国は否定”【10月18日 時事】といった報道も。
【東南アジア諸国 南シナ海問題で中国主張への拒否も】
今日取り上げるのは、中国側の主張、具体的には南シナ海をめぐる領有権に関する主張が、関係する東南アジア諸国から拒否されているという話題です。
****アニメ映画「アボミナブル」、ベトナムで上映中止 南シナ海の地図巡り****
ベトナム最大の映画館チェーン「CGVシネマズ」は15日までに、劇中の南シナ海の地図に中国の主張する領有権が描かれていることを理由に、アニメ映画「アボミナブル」の上映を中止した。
映画は伝説の雪男「イエティ」をヒマラヤ山脈に返すため、中国人少女が国内を横断する旅に出るという内容。米ドリームワークス・アニメーションと中国パール・スタジオが共同で制作を手掛けた。
映画の冒頭近く、主人公の少女イーは屋根にある隠れ場所に行き、中国の地図を広げる。地図上には中国南岸を起点に南シナ海のほぼ全域を取り囲むU字形の破線が描かれているのがはっきり見える。
この破線は「九段線」と呼ばれ、南シナ海に対する中国の権益主張を示したもの。中国政府の公式政策の一部で、中国国内で販売される全ての地図に描かれている。
一方で、ベトナムを含む同地域の少なくとも4カ国からは、国際法上の自国の領域に重なるとして九段線に異議を唱えている。
「アボミナブル」は今月4日にベトナムで公開されたが、国営メディアではその直後、観客から苦情が寄せられているとの報道が出ていた。
CGVシネマズは声明で、問題の地図の描写については今月13日に初めて把握したと説明し、直ちに全ての上映と広告を中止した。さらに公開時に不注意があったとして、ベトナムの観客に謝罪するとともに、規制当局の指示を順守する方針を示した。
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、南シナ海に対する中国の広範な権益主張を認めない方針を示し、九段線についても法的な根拠がないとの判断を示していた。【10月15日 CNN】
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冒頭画像が、「九段線」が描写されている場面のようです。
日本と韓国の間で、「日本海」と「東海」という表記の対立がありますが、同様の問題は中国とベトナムの間にもあって、その問題でのトラブルも最近あったようです。
“これに先立つ2018年には、中国のアクション戦争映画「オペレーション:レッド・シー」も南シナ海の領有権問題により上映中止となっている。
同映画では、南シナ海をベトナム語の「ビエンドン(Bien Dong=東海)」ではなく「South China Sea」と表現したため、ベトナム国民から批判を受けた。”【10月15日 VIET JO】
「九段線」の「アボミナブル」はマレーシアでも公開中止になっています。
*****米中合作アニメ映画『アボミナブル』、マレーシアでも公開中止に****
米中合作アニメ映画『アボミナブル』に中国の領有権主張に基づいた南シナ海の地図が登場し、東南アジア諸国で反発を呼んでいる問題で、マレーシアにおける同映画の公開中止が決定した。(中略)
『アボミナブル』は、ユニバーサル・ピクチャーズの子会社の映画制作大手「ドリームワークス」と中国の「パール・スタジオ」が共同制作したアニメで、未確認動物イエティの帰郷を中国人の少女が手助けする物語。
マレーシアでは11月7日に公開される予定だったが、映画に登場する南シナ海の地図に中国が領有権を主張する目的で設定した独自の境界線「九段線」が描かれていたため、マレーシア検閲委員会は上映の条件として、この場面をカットするよう求めていた。だが、ユニバーサル側がこれを拒否したため、公開中止が決まったという。
『アボミナブル』をめぐっては、既に劇場公開されていたベトナムでも先週、上映中止となっており、フィリピンでも、テオドロ・ロクシン外相がツイッターで問題箇所をカットするよう要求している。 【10月20日 AFP】
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【ユニバーサル側は「九段線」カットを拒否】
ユニバーサルはハリウッドの大手映画会社のひとつですが、カットを拒否した“ユニバーサル側”というのが、どのレベルなのか、子会社の「ドリームワークス」の判断なのか、親会社の「ユニバーサル」の判断なのかは知りません。
いずれにしても、こういう微妙な問題に対する判断なので、親会社「ユニバーサル」も関与しているのではと推察されます。
そうであるとすれば、「航行の自由作戦」を行うアメリカの政策とのアメリカ有数の映画会社の判断の整合性も問題となります。もちろん、アメリカは中国とは異なり自由を貴ぶ国ですから、一民間企業が政府の政策に反する活動を行うこと自体は問題ないでしょうが。
****米海軍の駆逐艦が南シナ海のパラセル諸島で航行の自由作戦****
米第7艦隊の報道官は13日、米海軍のイージス駆逐艦「ウェイン・E・マイヤー」が同日、中国が実効支配する南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島の付近を通過する「航行の自由」作戦を行ったと発表した。
同艦は8月28日にも南シナ海のファイアリークロス(永暑)礁とミスチーフ(美済)礁から12カイリ(約22キロ)以内を通過する同様の作戦を実施。相次ぐ航行は、南シナ海での中国の覇権的行動に警告を発する狙いがある。
パラセル諸島は中国のほか台湾とベトナムもそれぞれ領有権を主張し、外国の艦船に対して付近を航行する際は事前通告を要求している。
第7艦隊報道官は声明で今回の作戦について、外国の船舶が沿岸国の領海を「無害通航」する際は、中国などが主張するような事前通告を行う必要がないことを行動で示すものだと指摘。その上で、「米国は国際法で許された全ての場所を飛行、航行し、作戦行動を行う」と強調した。【9月14日 産経】
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【中国進出を警戒するベトナム、マレーシア】
ベトナムが、南シナ海をめぐっては東南アジア諸国の中でも一番強硬に中国に対立しているのは周知のところです。
****中越、南シナ海で対立激化 中国海洋調査船航行にベトナム猛反発 「14年以来最悪の状況」****
南シナ海をめぐり、中国とベトナムの対立が激化している。埋蔵資源を狙う中国の地質調査船がベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で繰り返し確認され、ベトナム政府が抗議。中国との摩擦が続く米国も中国批判に乗り出すなど、事態は混迷の度を増している。
両国間の緊張が急速に高まったのは、7月以降だ。複数の報道によると、7月3〜14日、中国の海洋調査船「海洋地質8号」が、ベトナムのEEZ内に進入し、スプラトリー(中国名・南沙)諸島西側のバンガード堆(同・万安灘)近くを航行。ベトナム海軍の船舶とにらみ合った。
その後、海洋地質8号は海域を離れたが、8月にも現場周辺での航行が確認されている。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は海洋地質8号が海底約3万5千平方キロを調査したと報じた。
ベトナムは現地でロシア企業とともにガス田開発に乗り出しており、中国の動きは看過できない。ベトナム外務省は「中国の度重なる違法行為に抗議する」と反発。
米国も中国がベトナムの資源開発を妨害しているとし、2度に渡って「いじめ同様の戦術では隣国の信頼も国際社会の尊敬も勝ち取れない」などと批判する声明を発表した。
中国は「中国船は中国が管轄する海域で作業している」(耿爽報道官)などと反論している。中国船のベトナム近海での活動は止まらず、今月3日には、中国の国有石油・天然ガス企業「中国海洋石油」の大型クレーン船「藍鯨」がベトナムのEEZ内で航行しているのが確認された。
両国は2014年5月、ともに領有権を主張するパラセル(同・西沙)諸島そばで中国が油田掘削を行ったことで対立が先鋭化。両国の船舶同士の衝突が発生し、ベトナム国内では反中デモも展開された。
SCMPは今回の事態を「14年以来最悪の対立」と表現。「ベトナム政府はこの問題について国連に提起するなど、国際化させる可能性がある」と報じており、事態の沈静化は見通せない状況だ。【9月10日 産経】
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そのベトナムがアニメ映画「アボミナブル」の「九段線」に反応するのは、当然でしょう。
マレーシアも南シナ海における中国の軍事的脅威を警戒しています。
****マレーシア、南シナ海での最悪の状況に備える必要=外相****
マレーシアのサイフディン外相は17日、南シナ海で起こり得る衝突に備えるため、海軍の軍事力を強化する必要があるとの見解を示した。
南シナ海を巡っては、米海軍の駆逐艦が先月、中国が領有権を主張する西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域を航行し、緊張が高まっている。
サイフディン外相は議会で、大国がマレーシア領域に侵入した場合に抗議することは可能だが、海軍や海事上の能力が十分でなければ衝突発生時に不利になると述べた。
外相は、中国海警局がマレーシア東部サラワク州沖の南ルコニア礁の周辺でほぼ24時間活動しているとし、マレーシア海軍の軍事資産は中国海警局にすら及ばないかもしれないと語った。
「(衝突は)起きてほしくないが、南シナ海で大国同士が衝突した場合にマレーシア海域の管理能力を高めるため、われわれの資産を強化する必要がある」と述べた。
また外相は、マレーシアが引き続き南シナ海の非軍事化を推進し、中国と米国への対応で東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致することを呼び掛けていくと表明した。【10月17日 ロイター】
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“ASEANが一致することを・・・・”と言っても、ASEAN内部にはカンボジアやラオスなど、中国の利益を代弁する国家もあって、一致した対応がとりづらいことは周知のところです。