孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  民族対立の現実に直面する「ノーベル平和賞」受賞者アビー首相の“道半ば”の「改革」

2019-10-27 21:24:55 | アフリカ

(エチオピアの首都アディスアベバで24日、反政府デモに参加する最大民族オロモ人の若者たち=ロイター【10月26日 朝日】)

 

【「民族の博物館」エチオピアで初の最大民族オロモ人からの首相起用】

東アフリカ・エチオピアは“80もの民族が100近い言語を話す「民族の博物館」とも称される”【10月11日 産経】とのこと。

 

2018年、エチオピアでアビー首相が就任した当時、少数派ティグレ人(人口比6%)が実権を握るエチオピアは民族間の対立で混乱のさなかにあり、多数派オロモ人(人口比34%)からの初の首相となったアビー氏の起用は、そうした混乱を収めるための意表をついたものでした。

 

****<エチオピア>新首相にアハメド氏 最大民族オロモ人起用****

エチオピアからの報道によると同国の与党連合は(2018年3月)28日までに、アビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めた。

 

政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアハメド氏が指導者となることで、民族間の緊張緩和が期待される。

 

エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきたオロモ人らの不満が噴出していた。長引く混乱を受け2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言していた。

 

同国の人口は約1億人とアフリカ大陸でナイジェリアに次いで2番目に多く、2000年代半ばから10%前後の経済成長を維持。一方で、反体制派の弾圧で多数の死傷者が出たほか、活動家らの逮捕も相次ぎ、地域大国の不安定化に対する懸念が広がっていた。【2018年3月29日 毎日】

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それまで権力の中枢を握っていたのは1991年に社会主義メンギスツ政権を革命で転覆したティグライ民族解放戦線(TPLF)でしたが、既得権益層と化したTPLEのもとで民族対立が激化した状況で、“一説によれば、このままでは国家・社会が取り返しのつかないアリ地獄に陥ってしまうと考えたハイレマリアム首相がオロミア州選出の国会議員であり、与党EPRDF構成政党であるオロモ人民民主組織(2018年9月にオロモ民主党に改名)の党首でもあったアビィ氏と手を握り、TPLFの虚をつく形で政権を握ったものだとも言われている。”【4月24日 在エチオピア大使 松永大介氏 霞関会】とも。

 

【アビー首相の改革を後押しするノーベル平和賞】

その後、アビー首相は、国内改革、民族間の融和を進め、国際的には長年対立していた隣国エリトリアとの国境紛争に終止符をうち、ケニアとソマリアの仲介、独裁政権が崩壊したスーダンや、政治対立が続く南スーダンの和平協定推進など、周辺国における政治混乱を仲介してアフリカ各地の平和構築も推し進めてきました。

 

そうした功績が評価されて、今年のノーベル平和賞が授与されたことは周知のところです。

 

****道半ばの改革者に光 平和賞のアビー首相、民族融和にも尽くす**** 

アビー氏のノーベル平和賞受賞の知らせを受け、エチオピア首相府は「すべての国民の勝利だ」とする声明を出した。国境紛争や民族対立の解決に取り組んできた改革者らしいメッセージといえる。

 

昨年4月の首相就任からわずか3カ月後のことだった。隣国エリトリアの首都アスマラを訪れて同国のイサイアス大統領と会談し、2年間で推定10万人が死亡した国境の村バドメをめぐる紛争(2000年停戦)に公式に終止符を打った。

 

アビー氏は「愛は戦車やミサイルのような近代兵器よりも偉大だ」と述べ、約20年ぶりの国交樹立の意義を訴えた。

 

停戦後の03年にも軍事衝突の危機を招くなど、両国関係は長く険悪なままだったが、アビー氏はバドメの領有権を放棄する形で矛を収めた。

 

その瞬間、行き来ができず、両国に離ればなれのまま暮らしていた多数の友人や親類が、久しぶりに開通した電話で旧交を温めたといわれる。

 

国内でも女性が閣僚の半数以上を占める内閣改造を行うなど男女格差の解消を進めただけでなく、非常事態宣言の解除▽政治犯数千人の釈放決定▽反体制活動家の入国許可▽自由なメディア報道の解禁−など、民族融和を促す政策を矢継ぎ早に実施した。

 

前政権時代には、少数民族の支配に反発する最大民族オロモ人の抗議運動が拡大し、政府は16年に非常事態を宣言。取り締まりによる死者は940人に達したとされる。アビー氏はオロモ人として初の首相となったが、「すべてのエチオピア人の指導者」になると訴えた。その言葉通り、強権色は姿を消し、国際的評価も様変わりした。

 

エチオピアは80もの民族が100近い言語を話す「民族の博物館」とも称される。民族紛争が絶えない上、急進的な改革を進めるアビー氏に対し、敵対勢力の反発も根強く残る。

 

昨年6月にはパレード中のアビー氏を狙ったとみられる爆発事件が発生。1月にも軍幹部が暗殺されるクーデター未遂事件が起きた。

 

ノーベル賞委員会は「授賞は早すぎると考える人もいるのは間違いない」とした上で、「アビー氏の努力は評価に値し、勇気づけるべきものだと信じる」と述べた。「結果」だけを評価するノーベル賞の他の部門と違い、道半ばの改革者にも光を当てる平和賞の特徴が示された。【10月11日 産経】

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評価が分かれることも多い毎年のノーベル平和賞ですが(今年は候補者として急浮上した環境問題のジャンヌ・ダルクとも評されるスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんをめぐっての論争もありましたが)、エチオピア・アビー氏について言えば、アフリカのイメージを大きく変えつつある政治家として、かねてより大方が本命視していた政治家であり、個人的にも授与は妥当な判断だと思います。

 

【出身民族オロモ人の一部の勢力からは「アビーは他の民族と協力しようとする裏切り者だ」との批判も】

ただ、“ノーベル賞委員会は「授賞は早すぎると考える人もいるのは間違いない」とした上で、「アビー氏の努力は評価に値し、勇気づけるべきものだと信じる」と述べた。”というように、「民族の博物館」エチオピアにあって改革はそうそう簡単に進む話でもなく、改革を進めれば抵抗・反動・軋轢も生じるのは必然で、アビー氏の改革は“道半ば”の状態にあります。

 

このところのエチオピアにおける混乱再燃は周知のところです。

 

****平和賞授賞の首相に抗議 エチオピアでデモ、67人死亡****

エチオピアの首都アディスアベバなどで、今年のノーベル平和賞に選ばれたアビー首相に抗議するデモがあり、25日までに治安部隊との衝突で67人が死亡した。治安部隊はデモを鎮圧したとしている。AFP通信などが報じた。

 

エチオピアには80を超える民族がいる。少数派のティグレ人が長く政権中枢を支配し、アビー氏も属する最大民族オロモ人が反発していた。

 

AFP通信などによると、オロモ人の一部勢力が、アビー氏が進める民族融和策などに抗議し、「アビー氏は独裁的だ」と訴えて、23日から街頭でデモを実施。治安部隊との衝突で発砲を受けたり、催涙ガスを撃ち込まれたりし、デモ隊と治安部隊の双方に計67人の死者が出たという。

 

アビー氏は昨年4月に首相に就任。民族対立を抑えるため、拘束されていたオロモ人の政治犯を解放するなどしてきた。ただ、オロモ人の中で多数派としての権限拡大を訴える勢力が、こうした融和策への不信を募らせていた。

 

アビー氏は隣国エリトリアとの国境をめぐる紛争を終わらせた功績などにより、今月11日に今年のノーベル平和賞の授与が決まった。【10月26日 朝日】

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****エチオピア、死者67人に ノーベル賞の首相へのデモが民族対立に****

(中略)デモの発端は、アビー首相を批判している民族活動家のジャワル・モハメド氏が、治安部隊によって自身への攻撃が画策されていると批判したことだった。ただ警察当局は、ジャワル氏の主張を否定している。

 

ジャワル氏は、アビー首相が独裁者のように振る舞っていると非難。来年予定されている選挙でアビー首相と争う可能性も示唆している。(後略)【10月26日 AFP】

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“米国を拠点とするメディア企業家のジャワル氏は、前政権への抗議デモを後押しし、アビー氏を首相の座に押し上げた功労者の一人だ。だが、最近は2人の意見が対立することが多く、ジャワル氏はアビー氏が進める改革を声高に批判していた。”【10月25日 AFP】

 

ジャワル氏の影響力についてはよく知りませんが、彼の主張に沿って抗議行動を起こしたオロモ人には、「ティグレ人に代わってオロモ人が実権を握ったのだから、その利益をオロモ人に回せ」といったような、従来の民族対立の発想から抜け出せないものがあるようにも見えます。

 

****ノーベル平和賞のアビー首相 対立あおる動きを非難 エチオピア****

(中略)アビー首相は26日、初めての声明を発表し「われわれは法律の適用を徹底し、犯罪者を司法の場に差し出す」と述べて、デモに厳しく対処していく姿勢を示しました。

 

さらに「この重大な局面を宗教的で民族的なものに転換しようという試みがある」と指摘し、宗教や民族の対立をあおろうという動きがあると非難し、国民に団結を呼びかけました。(後略)【10月27日 NHK】
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民族間の融和というのは、現実的な利害関係が絡むとなかなか難しいものがあります。

 

****兵士反乱や爆発、なお不安定****

ノーベル平和賞の授賞が決まったとはいえ、エチオピアや周辺諸国の情勢は今も不安定だ。

 

エチオピア国内では、アビー氏の改革に反発する勢力の活動が続く。今年6月には、一部の軍兵士がクーデターを試み、軍参謀総長や北部アムハラ州の政府高官らを殺害。

 

昨年6月には、アビー氏が出席した集会で爆発事件が発生し、同氏は無事だったが、100人以上が負傷した。

 

アビー氏は野党政党の存在を認めるといった融和政策を進めてきたが、権力を失ったティグレ人や、もともと支持基盤のはずのオロモ人の一部の勢力は「アビーは他の民族と協力しようとする裏切り者だ」と反発している。

 

来年5月の総選挙前に治安がさらに悪化する恐れもあり、不安定な状況は今後も続きそうだ。

 

エリトリアとの国境も、行き来が自由になったのは空路だけで、治安悪化などを理由に陸路での横断は今も制限されている。ただ、アビー氏の側近として民主化政策を担当するテメスゲン・ブルカ氏は「両国の国境に適切な入管施設や警備態勢を整備しており、間もなく往来が可能になる」と説明する。

 

「国内に反発する勢力がいるのは事実だ。だが、アビー首相は『人間は本質的に善人だ』と考えている。白人と黒人の融和を進め、ノーベル平和賞を受賞した南アフリカのネルソン・マンデラ氏のように融和路線を進めていくだろう」【10月12日 朝日】

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【巨大ダムをめぐるエジプトとの対立】

国際面で問題になっているのは、エチオピアがナイル川に建設している巨大ダムをめぐる下流国エジプトとの対立です。

 

****エチオピア首相、ダム建設強行 平和賞直後、エジプト反発****

エチオピアのアビー首相は24日までに、同国内のナイル川上流で建設を進めている巨大ダムについて「誰も(建設を)止めることはできない」と強行する考えを表明した。下流域のエジプトが反対しており、建設強行により地域を不安定化しかねない事態となっている。

 

アビー氏は国交が断絶していたエリトリアと和解するなどアフリカ東部の安定に尽力したとして、今年のノーベル平和賞受賞が決定。エジプト政府は声明でダム建設強行について「アビー氏の受賞(決定)を祝福した直後で驚いている」と反発している。【10月24日 共同】

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エジプトがアスワンダム、アスワン・ハイダムに国家発展を託したのと同様に、エチオピアは建設中の「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム」にエチオピアの将来を託しています。

 

国家間の和平を仲介してきたアビー首相ですが、譲れないものがあるようです。(これまで「ナイルの賜物」をほぼ独占してきたエジプトは発想の転換を迫られてもいます)

 

このあたりの事情は、8月18日ブログ“改革進むエチオピアが建設するナイル川巨大ダム 下流エジプトでは「ナイルの賜物」の変容も”で取り上げていますので、今回は詳細はパスします。

 

 

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