孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  米軍のシリア撤退で追い風状態にあるものの、一気のプレゼンス拡大は難しい状況にも

2019-10-30 22:45:00 | イラン

(29日、スイス西部ジュネーブで記者会見する(左から)イランのザリフ外相、ロシアのラブロフ外相、トルコのチャブシオール外相【10月30日 共同】)

 

【依然として続くアメリカの対イラン圧力とイスラエルの対イラン警戒】

ひと頃、ホルムズ海峡タンカー攻撃事件とか、サウジアラビア石油施設攻撃事件などが続き、イランをめぐる状況が緊迫しましたが、このところはイラン関係のニュースはあまり目にしません。

 

もちろん、アメリカは対イラン圧力を継続しています。

 

****米、対イラン経済圧力一段と高める=財務長官****

ムニューシン米財務長官は28日、訪問先のエルサレムで、米国はイランに対する経済的な圧力を一段と高めると述べた。ただ具体的にどのような新たな措置が用意されているのかは明らかにしなかった。

ムニューシン長官はイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、「米国は最大限の圧力をかけてきた。効果は出ており、制裁措置により資金が断たれている」と述べた。

 

その上で、米国は一段と圧力を高めるとし、「イスラエルの実務者と極めて生産的な昼食会を終えたばかりだが、数多くの具体的なアイデアが示された。米国はこれらを引き続き検討する」と述べた。

ネタニヤフ首相は、制裁措置の強化でイランの核兵器開発を阻止できるとし、「米国の措置に感謝し、一段の措置を望んでいる」と述べた。【10月29日 ロイター】

*******************

 

イスラエルのイラン警戒は相変わらずです。中東から手を引きたがっているアメリカ・トランプ政権の対イラン包囲網継続を一番望んでいるのがイスラエルでしょう。サウジアラビアは従来のイラン批判一辺倒からはやや変化の兆しも。

 

****イランのイスラエル攻撃の可能性****

本当のことでしょうかね?


al qods al arabi net はイスラエルの公共放送が29日、イスラエルの在外公館(大使館とか総領事館とか代表部等)はイランの攻撃に備えて、警戒態勢に置かれたと報じてると伝えています。

記事はまた、イスラエル防空部隊は、サウディの石油施設が襲われたような、巡航ミサイルやドローンによるイランの攻撃があり得るとして、警戒態勢に入っているとも報じています。
但し、イランからの脅威の具体的な点には触れていない由

記事はまた、ネタニアフ首相が28日、シオニスト諸組織の会合で、イランが最近精密攻撃兵器の開発に熱心であるとかレバノン、シリア、イラク等にミサイルを配置している等、イランの脅威を強調したが、特に差し迫った脅威については言及していないとも報じています。(後略)【10月29日 「中東の窓」】

*******************

 

上記記事でも「本当のことでしょうかね?」とあるように、イランの攻撃云々の信ぴょう性はわかりませんが、イスラエルがイランに対する高度な警戒を抱いていることは本当のことでしょう。

 

【基本的には、米軍のシリア撤退はイランにとっては“追い風”】

アメリカは「イランに対する経済的な圧力を一段と高める」とはしていますが、トランプ大統領による米軍シリア撤退の動きは「力の空白」を生み、その空白を埋めるのはロシアであり、イランであるという見方が多く示されています。

 

冒頭の記事にあるムニューシン米財務長官に対するネタニヤフ首相などイスラエル側の働きかけも、そうした状況へのイスラエル側の警戒感の表れでもあるのでしょう。

 

****米軍シリア撤退、敵国イランに吹く突然の追い風 ****

対立が続く米イラン関係の歴史で、ドナルド・トランプ米大統領ほどイランを苦しめることに腐心した米国の指導者はいない。トランプ氏は経済的及び外交圧力のみならず、間接的にも軍事圧力も加えてきた。

 

こうした中、トランプ氏による駐留シリア米軍の撤退決定が、実のところイランを多岐にわたって支えることになるのは最大の矛盾だ。

 

対イラン政策では往々にしてそうであったように、米国の衝動は「意図せぬ結果」を招くという中東の厳しい決まりに抵触してしまった。

 

 トランプ氏はここにきて、シリア北東部に少数の米軍部隊を残すことを検討し始めた。同地域の油田を監視することが主な目的だ。トランプ氏は当初、米軍の全面撤退を指示。トルコ軍の侵攻を招き、過激派「イスラム国(IS)」掃討で米国の最も重要なパートナーだったクルド人武装勢力への攻撃を容認した。

 

それでも、米国による撤退はイランにとって朗報である。イラン指導部が中東での影響力拡大を目指す上で、シリアは最も重要な場所であり、シリアのバッシャール・アサド大統領は最も重要な味方だ。米軍撤退は米国の役割を縮小するとともに、イランの影響力とアサド政権維持の双方に対する障害を減らすことになる。

 

しかも米軍撤収により、イラン、アサド政権のいずれの友人でもないクルド人武装勢力を排除することもできる。

 

カーネギー国際平和財団のイラン専門アナリスト、カリム・サジャドプア氏は「イランの目的は、シリア内でのアサド政権の権力強化に加え、中東における米国のプレゼンス縮小とクルド人自治の妨害だ」と指摘。「トランプ氏の決定により3つすべての達成が可能になり、しかもイランは何ら見返りを提供する必要もなかった」と述べる。

 

これに加え、シリアからの米軍撤収は、イランとロシアの関係強化へと扉を開くことにもなり、米国に悪影響をもたらしかねない。トランプ氏は事実上、米軍撤収による空白を埋めるよう、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を招いたことになる。これはプーチン氏にとって、願ってもない状況だ。

 

プーチン氏はシリア、トルコ、イラン、クルド人のいずれもが、この絡まり合ったシリアの政治状況で生きのびる道を模索するため、共同統治の仲介に乗り出しているようだ。(中略)

 

より広い観点からとらえると、クルド人パートナーを見捨てるとの米国の決定は、サウジアラビアやイラクをはじめとする中東の友好国の間で、米国が友人や守護者としてどの程度信頼を置けるものなのか、新たな疑念を生じさせることになりかねない。

 

そのような疑念も、中東での支配拡大を狙うイランにとっては朗報だ。(中略)

 

サウジやイラクなど湾岸諸国は、米国の影響力がどこまで持つか不確かな状況で、イランを一段と受け入れる方向に傾くのだろうか?

 

トランプ氏の立場は、シリアなどのような場所に米軍を無制限に駐留させる利点はコストに見合わないというものだ。米国は中東から手を引くのではなく、むしろ関与を深めすぎたとのトランプ氏の主張は確かに正しい。

 

トランプ氏の中核支持層を含め、多くの米国人は、中東における「終わりなき戦争」への関与を止めるべき時だとするトランプ氏の考えを共有している。こうした考えにおいては、米国がシリアに関与した最大の理由はIS打倒であり、イランの封じ込めではなかった。主要任務が完了すれば、撤退すべき時期だとの主張だ。

 

しかしながら、シリア撤退を目指せば、イラン封じ込めという中東全体における主要目標の達成を困難することは避けられない。

 

米国はイランに対して最大の圧力をかける、もしくは中東から撤退することが可能だ。ただ、その両方を行うことは難しいだろう。 【10月22日 WSJ】

*********************

 

【トルコのシリア侵攻ではイランは“蚊帳の外”の状況 トルコとの軋轢も】

「米国による撤退はイランにとって朗報である」というのは、確かにそうなんでしょうが、イランにとって事はそう単純でもありません。

 

今回の米軍撤退・トルコの軍事侵攻に際して、ロシア・プーチン大統領が「仲介者」としての存在感を一段と高めたのに対し、イランは「蚊帳の外に置かれた」状況でもあります。

 

イランはトルコの侵攻を非難しており、トルコとの関係もギクシャクしています。

 

****シリアを巡るトルコ・イラン関係****

米軍の北シリアからの撤退から、利益を受けたのは一般的にトルコとロシアの他にイラン、IS等とされていますが、al qods al arabi net は、イスタンブール発の記事で、イランは今回のトルコの米、ロシアとの合意から、完全に阻害されていて、イランのトルコ軍侵攻に対するイランの批判に対して、エルドアンはじめトルコ政府は怒りをあらわにしていて、今後の関係の悪化を示唆していると報じています。(中略)


但し、内容については特段の判断の材料を持ち合わせていませんので、念のため。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トルコの米、ロシアとの北シリアに関する合意では、イランは完全に蚊帳の外に置かれたが、トルコはその侵攻作戦に対するイランの数々の批判に対し、これまでのイラン支持政策を見直す可能性を口にしている。


勿論、米軍撤退後、この地域におけるイランの影響拡大に関し、両国間に何らかの了解がったか否かは不明ではあるが、トルコ外相はアナドル通信に対して、米国のこの地域における関心はイランの回廊設立防止と、その影響力拡大防止であると語っている。


この発言はそれ以上に明示的には示していないが、消息筋は、発言は今後北シリアでトルコがイランの影響力拡大防止のために、米国とより積極的に協力する可能性を示唆したものと受け止めている。


エルドアンになると、より直截で、ロシアへ出発前に、イランからトルコ軍侵攻について批判が多数出ていることについて、彼自身及び政府が困惑しているとして、ロウハニ大統領はこれら批判を抑えるべきだとして、トルコが将来イランに対する協力を減らす可能性を警告した。


トルコは現在もイランに対する制裁を緩和する役割を果たしている。


トルコ政府は、トルコとしては国連の制裁は厳守するが、米国の一方的な制裁を守る義務はないとして、通商、金融上で、イランにとって制裁の効果を緩和する重大な役割を果たしている
然るにトルコの侵攻後、イランのマスコミは多くのトルコ批判を行い、エルドアンに対する個人攻撃も行っている。


イランはシリア内戦で重要な役割を果たしているのに、今回の国境地帯に関するトルコ・米、トルコ・ロシア合意のみならず、その前のソチ合意では、イランもイドリブ地域の第3の停戦保証国となっているにもかかわらず、ロシアとトルコの了解からは、蚊帳の外に置かれていた。


トルコとイランは多くの分野で協力関係を深めてきたが、シリアは例外で、イランはトルコの影響力拡大を阻止しようとし、トルコも同様にイランの勢力拡大を阻止しようとしてきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そこまで読むのは深読みのし過ぎでしょうが、仮に米軍撤退に関するペンスとエルドアンの会談で、イランの勢力拡大阻止につき、両者間で何らかの了解があったとすれば、それがトランプが米軍撤退は大成功だと自賛した背景だったかもしれません。【10月25日 「中東の窓」】

*********************

 

基本的に、シリアにおけるこのところのイランの活動は、制裁の影響でイラン経済が非常に厳しい状況にあるため、制約されています。

 

イランの代理人の立場にあるヒズボラも、自国レバノンが混とんとしてきましたので、シリアどころではないのでは?

 

****レバノン首相、辞任表明 反政府デモで「手詰まりに」****

大規模な反政府デモが続く中東レバノンで、ハリリ首相が29日、事態の収拾を図るために辞任する意向を表明した。高い失業率などに苦しむ市民の不満により拡大したデモは、首相の退陣にまで発展した。

 

レバノンでは今月17日にスマートフォンのアプリを使った無料通話への課税を政府が提案したことをきっかけに、ここ数年で最大規模の反政府デモが2週間近く続いていた。ハリリ氏は会見で、「事態の打開を探ってきたが、手詰まりになった。この危機を乗り越えるにはショックが必要だ」と述べ、大統領に辞任を申し出ることを表明した。

 

デモのきっかけは、スマホの対話型アプリ「ワッツアップ」などの無料音声通話で、1日0・2ドル(約22円)を徴収する課税を政府が提案したことだ。宗派を超えた抗議運動となり、全閣僚の辞職などを求める反政府デモに発展した。

 

レバノンには18の宗教・宗派があり、国会議席などを分け合って政治的安定を保っている。権力を握る政治エリートに腐敗が指摘される一方、一般の市民に負担を強いる課税案が出されたことで、若者を中心に不満が爆発したかたちだ。【10月30日 朝日】

*********************

 

ヒズボラは政権を支持する立場で、反政府デモと衝突しています。ハリリ首相辞任となると、これからの政権をどうするのか、硬直的な宗派バランスもあって組閣に長期を要する政治事情があるだけに(反政府デモが問題にしているのは、そういう硬直的で機能しない統治システムでしょう)、今後が難しいところです。

 

こういう情勢では、シリアでの「空白」を埋めるべく、イランのプレゼンスが一気に拡大するという状況でもありません。

 

【シリア新憲法委のスタートに向けてロシア、トルコ、イランの協調対応】

そうした事情はありますが、シリアの新たな事態への対応について、ロシア・トルコとの協調はなされているようです。

 

****シリア新憲法委の協議進展に期待 イランなど3カ国外相会談*****

シリアの新憲法起草委員会が30日から国連欧州本部で始まるのを前に、シリア和平に深く関与してきたロシア、トルコ、イランの3カ国外相が29日、同本部のあるスイス西部ジュネーブで共同記者会見した。

 

イランのザリフ外相は「軍事的にではなく、政治的な解決策が必要だ」と述べ、アサド政権と反体制派との協議進展に期待を示した。

 

3外相は29日に会談したほか、和平協議を仲介し、起草委の立ち上げにも尽力した国連のペデルセン特使とも面会。ザリフ氏は「シリア国民に受け入れられるものでなければならない」と述べ、時間をかけて見守る重要性を指摘した。【10月30日 共同】

********************

 

なお、“シリアの新憲法起草委員会”については、下記のようにも。

 

****シリア憲法委、和平へ一歩 反体制派との対話注目 きょう初会合****

シリア内戦後の新憲法の草案を作るため、憲法委員会の初会合が30日、スイス・ジュネーブで開かれる。内戦終結に向けた重要なステップだ。

 

ロシアの支援を得たアサド政権の軍事的優位が確立する中、反体制派との対話がどう進むかが注目される。

 

シリア和平の調整を担うペダーセン国連シリア担当特使は28日の記者会見で、「シリア政府と反体制派の最初の政治的合意になる」と強調。初会合には国連欧州本部で150人の委員全員が集まることを明かした。

 

憲法委はアサド政権、反体制派、市民社会から50人ずつ選ばれた委員で構成。これまで公の場で直接顔を合わせたことのない政権と反体制派の代表が一堂に会する形だ。

 

国連は2012年6月からジュネーブを舞台に和平協議に取り組んできた。国連安全保障理事会は15年12月、新憲法の制定や自由で公正な選挙の実施を盛り込んだ決議を全会一致で採択。今回の憲法委はこの決議に基づいている。(後略)【10月30日 朝日】

********************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする