孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  トイレ普及にスマートシティー建設 政権が誇る成果とは異なる実態も

2019-10-12 23:23:49 | 南アジア(インド)

(農村では水の利用が限られていることもあり、食器の洗い場(左)とトイレ(右)が家屋を出たところに、一緒に設けられていた。食べた後の食器も不浄とされる。このトイレは、排泄物が地下の槽にいっぱいにたまり、使われていなかった=バラナシ、奈良部健撮影【2017年11月26日 朝日】)

 

【「印パ核戦争」の脅威】

カシミール領有権をめぐって対立するインド・パキスタンの関係は、インド側のカシミール自治権はく奪で緊張がたかまっていますが、そんななかにあってインド・モディ政権が、これまでの「核先制不使用」の対応を変えることもほのめかし始めていることは、9月4日ブログ“核先制不使用宣言の破棄を示唆するインド 逆に「核の先制不使用」に言及するパキスタン首相”でも取り上げました。

 

こうした状況を受けて、パキスタン・カーン首相は先月末の国連総会演説で「核戦争の脅威」を訴えています。

 

****パキスタン首相、核戦争を警告 インドとのカシミール問題で****

パキスタンのイムラン・カーン首相は27日、米ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、カシミール地方をめぐるインドとの争いが全面核戦争へと発展し、世界に影響を及ぼす恐れがあると警告した。

 

50分に及び熱弁を振るったカーン氏は、イスラム教徒が多数を占める同地方でインドが「大虐殺」を行う可能性があると警告。核保有国同士で敵対関係にある印パ両国は国連総会で注目の的となった。

 

カーン氏の1時間前にはヒンズー至上主義を掲げるインドのナレンドラ・モディ首相が演説。ただ、モディ氏はインド国内の成果を強調する一方で、パキスタンを指す「テロ」については間接的な言及にとどめ、カーン氏の演説とは対極的な内容となった。(後略)【9月28日 AFP】

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万が一、両国が核戦争を始めると・・・

 

****「印パ核戦争」なら死者1億人に すすが地球寒冷化誘発 研究****

2025年、インド議会が武装勢力に襲撃され、大半の議員が殺害された。政府は報復として、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のパキスタン側に戦車部隊を送り込んだ。

 

パキスタン政府は制圧を恐れ、インド部隊を核兵器で攻撃した。これが引き金となり戦闘は激化し、史上最悪の軍事衝突に発展。膨大な量の濃い黒煙が上空に放たれた。

 

これは、2日に米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」掲載された研究によるシナリオだ。研究では、1億人以上が直ちに死亡し、最終氷期以来の最低気温を記録し、地球は新たな寒冷期に入り、世界中で多くの人が飢え死にすると予測している。(後略)【10月3日 AFP】

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もちろん、米中、あるいは米ロで核戦争が起きたらもっと悲惨な全人類的破局にも至りますが、それだけに「さすがに、そこまでは・・・」という感もあります。(保証がある訳でもありませんが)

 

しかし、インド・パキスタンということになると、上記【AFP】にもあるように「ひょっとしたら・・・」と思わせるものがあります。

 

通常戦力では劣るパキスタンは、インドとの全面戦争になれば核使用も選択肢に入ってきます。

そうしたパキスタンの事情を睨んで、インドも「それだったら、先手を打って・・・」ということも。

 

一方、中国とインドもカシミールを含む国境エリアの領有権をめぐっては、常時衝突が絶えません。

また、パキスタンは中国との関係を強化しており、カシミールをめぐっては対インドで協調もしています。

 

その中国とインドの首脳会談が行われたことで、カシミールの扱いが注目されましたが、公式発表では「議論されなかった」とのこと。

 

****貿易など関係深化で一致=カシミール問題「触れず」―中印首脳会談****

インド訪問中の中国の習近平国家主席は12日、南部チェンナイでモディ首相と非公式に会談した。インド外務省の声明によると、両者は貿易や投資などの分野で関係を深めることで一致した。

 

両国とパキスタンが領有権を争うカシミール地方の問題に関しては「議論されなかった」といい、中国が対印関係改善を重視してインド側に配慮した可能性がある。

 

中印両軍は2017年、国境地帯のドクラム(中国名・洞朗)高地で2カ月以上にらみ合った。その後、両首脳は昨年4月に中国湖北省武漢市で非公式会談を行うなど、融和にかじを切った。

 

12日の会談後に記者会見したインドのゴーカレ外務次官によると、両首脳は「武漢での会談後、両国のコミュニケーションが大いに改善された」と評価。非公式会談を継続する方針を確認した。【10月12日 時事】 

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実際にどういう話がなされたかはわかりませんが、少なくとも表向きは上記のような対応で、中国も実利優先で、カシミール問題が先鋭化する事態は避けたということのようです。

 

【モディ政権が誇る全国民へのトイレ普及 ただ、実態は・・・】

冒頭【AFP】でも“(国連総会演説で)モディ氏はインド国内の成果を強調・・・”とありますが、最近のモディ首相が誇る成果は、「すべての人にトイレを」との公約を実現したということです。

 

ただし、「本当かね・・・?」「実態が伴っていないのでは」という疑問も。

 

****印首相、全国民へのトイレ普及を宣言 専門家からは疑問も****

インドのナレンドラ・モディ首相は2日夜の演説で、13億人の国民全員にトイレが整備され、同国から屋外排せつはなくなったと宣言した。首相は、今後は使い捨てプラスチックの根絶に焦点を当てると表明した。

 

モディ首相は2014年の就任時、「すべての人にトイレを」と銘打った野心的な公約を掲げていた。演説はインド独立の父であり、衛生政策の象徴でもあるマハトマ・ガンジーの生誕150年に合わせて行われたもの。宣言の内容には専門家から批判が出ている。

 

首相は西部グジャラート州の州都アーメダバードで「60か月で6億人がトイレを使えるようになった。1億1000万台を超えるトイレが設置された」と述べた。

 

さらに首相は「わが国の女性はもう、暗くなるまで待つ必要はない。罪のない幼い子どもの命が救われている」としたほか、「保健・医療支出は減少している」と説明。この成果は、広大な国土を有する発展途上国であるインドにとって重要な節目だとした。

 

大きな前進の一方、専門家らは、まだトイレなしで暮らす国民が数百万人規模で存在する上、古い慣習のせいで新たに整備されたトイレの多くが使われていないと指摘。モディ首相の強気の主張に疑念を示した。

 

首相は演説で、使い捨てプラスチックをインドから一掃するという大型プロジェクトに着手すると言明した。同首相はすでに、2020年までにこの目標を達成すると公約していた。

 

グジャラート州はモディ首相とガンジーの故郷。演説は2万人の村長らを前に行われた。 【10月3日 AFP】

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トイレの問題は単に衛生面の話だけでなく、野外排泄時の女性・子供の安全の問題にも及びます。

トイレ普及が進められたことは、モディ政権の内政上の大きな成果ではあるでしょう。

 

ただ、すべての人にトイレがいきわたったか・・・と言えば、「本当だろうか?」という疑問も。

“インドは13億の人口を抱えるが、国連児童基金(ユニセフ)などが15年に行った調査では、インドでは約5億6400万人が田畑などの屋外で用を足していた。”【10月2日 共同】という状況が、そんな短期間に解消されたのでしょうか?

 

モディ首相の「勝利宣言」の数日前には、こんな事件も。

 

****カースト最下層の子ども2人、路上で排便し撲殺される インド****

インド中部のマディヤプラデシュ州で、ヒンズー教に基づくカースト(身分制度)最下層の子ども2人が屋外で排便したとして、撲殺される事件が起きた。警察が26日、明らかにした。

 

かつて「不可触民」として知られたダリット出身の二人は25日、同州のシブプリにある祖父の家に向かっていた。(中略)

 

犠牲者の一人の父親は、自身の家族が上層カーストの人々から差別を受け続けてきたと主張。

PTI通信の報道によると、この父親は「私たちの家にトイレはない。子どもたちは朝、排便するために外へ出ていく」と説明し、「(加害者の兄弟は)子どもたちが路上で排便していたため怒鳴りつけ、用を足している二人の頭を棒でたたきのめして」「ものの数秒で殺してしまった」と語ったという。

 

同国ではこれまでにも、屋外で排便していた人が捕まり、暴力沙汰に発展する例がある。

 

2017年には、屋外で排便していた女性をカメラで撮影していた当局者らを、ある男性がやめさせようとしたところリンチされる事件が発生。

 

あるニュース局はこれに先立ち、屋外で排便している人々に全国放送で恥をかかせるため、視聴者らに対して彼らの画像を送るよう呼び掛けていた。 【9月27日 AFP】

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“一方、トイレが設置されても実際には使われていないケースも多く、農村部では人口の半数程度が屋外排せつを続けているとの調査結果もある。インドメディアは「屋外排せつを減らすには、人々の行動の変化が必要だ」(経済紙ミント)と指摘している。”【10月2日 共同】ということもあってか、“全国放送で恥をかかせるため・・・”と、かなり強引な手法も使われているようです。

 

“農村部では人口の半数程度が”という話になると、“億”単位の数になるのでは。

 

インドで屋内トイレが普及しなかった、あるいは、作っても使われないのには、宗教的・社会的背景があるとも。

 

****「野外で排泄」5億人 インド、トイレ設置が進まぬ理由****

(中略)野外での排泄(はいせつ)が主な原因とされる感染症で、5歳以下の子どもが年間約12万人も死亡している。

 

経済成長が進み、携帯電話の普及率が8割にもなったにもかかわらず、人々がトイレをつくることを嫌う背景の一つが、ヒンドゥー教の教えだ。

 

バラナシから車で1時間半のパヤグプル村。ウパッディヤさん(35)は今年1月に家を建てる際、ヒンドゥー僧侶に忠告された。「トイレは家にあってはならない」

 

ヒンドゥー教では「浄と不浄」という観念が強く意識される。物理的な清潔、不潔とは異なるものだ。(中略)古代インドの経典には「大小便に用いた水は家から離れた所で処理すべきである」と記されている。

 

便器だけ増やしても…

(中略)政府キャンペーンの3年間で、約5800万のトイレがつくられた。だが、思わぬ実態が浮かび上がった。トイレをつくっても、使わない人がいるのだ。

 

気分的なものもある。3年前に政府の補助を受けてトイレを自宅敷地内につくった、バラナシ郊外の大工アニルさん(38)は「トイレは狭くて汚い。外の方が開放的で気持ちがいい」と言う。

 

農村部で普及の障害になっているのは上下水道の欠如だ。主婦カラバティさん(45)は「トイレ槽が排泄物でいっぱいになるのが心配で使えない」と話す。

 

途上国の水とトイレの問題に取り組むNGOのアビナシュ・クマール氏は「政府は本来、上下水の普及を先に進めるべきだ。便器だけ増やしても、野外排泄はなくせない」と訴える。

 

素手で行う過酷な仕事

インドでは、不可触民と呼ばれ、最も不浄とされてきた最下層カーストの人たちがトイレ掃除を担ってきた。排泄物処理は、素手で行う過酷な仕事だ。政府は93年に排泄物を処理する人の雇用を法律で禁じたが、なお数十万人が強制されているとされる。

 

本来、公衆衛生は政府の役割。だが、カースト研究を続けてきた大東文化大の篠田隆教授は「排泄物の処理を行政が担うことに対して、『ここのトイレは自分が清掃することで報酬を得る』という権利意識を持つ人たちから、根強い反発があった」と説明する。(中略)

 

(排泄物の処理とカーストの問題に長年取り組んできた)パタク氏は同時に、最下層カーストの人たちが別の仕事に就けるよう、小中学校や職業訓練校を設立した。ニューデリーの学校には、約500人が学んでいる。(後略)【2017年11月26日 朝日】

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単にトイレをつくればいいという問題ではないようです。

 

【「スマートシティー」建設は本当に人々のニーズに対応しているのか】

トイレ普及促進と同時に、政権が進める近代化路線のひとつが、スラムを一掃して「スマートシティー」を建設する計画。ただ、そこにも「成果」とは異なる「実態」、強引な手法も。

 

****スマートシティーのスマートでない現実****

政府は100ヵ所のハイテク都市をインド全土に構築する計画だが、ごみ投棄場の問題はむしろ悪化している

 

「マラリアが増えていて、農産物の出来は悪い。汚染水のせいで体を壊した」と、シムロ・デビ(59)は巨大なごみ捨て場を指して不満を口にする。

 

彼女が住むインド北部、ダラムサラ近郊の町サッダーの入り口では、拡大を続けるごみの不法投棄場が1500人の住民を脅かしている。

 

泥に染み込んだ雨粒が汚水となって流れ出し、乾期にはごみの山が発火する。今年6月にも火災が発生した。「不法投棄は何十年も前からあった。でも、最近の3年間は特にひどい」と、デビは言う。

 

2015年、ダライ・ラマ14世の活動拠点として世界的に知られるダラムサラが「スマートシティー」に選定された。(中略)

 

インド政府は22年までに100の「スマートシティー」を構築すると明言している。総額3億ドルの官民共同ファンドが設立され、ダラムサラでは7万人の住民と観先客に無停電電源、水道、インターネット、環境配慮型施設などの近代的サービスを提供する計画だ。

 

隣接エリアもダラムサラの白治体当局の管轄下で都市計画に組み込まれ、人口と消費需要が増加した。サッダーの住民は計画開始以来、ごみの増加で悪臭がひどくなり、町とダラムサラの中間に位置する違法ごみ投棄場のリスクも増したと抗議してきた。

 

廃棄物処理サービス改善のために大規模な予算が組まれたが、ごみの山は成長し続けている。危険な労働条件下で廃棄物の分別作業を行うのは、ダラムサラ中心部から立ち退かされた「ラグピッカー(ごみ処理人)」と呼ばれる人々だ。立ち退き跡には、近代的な娯楽施設が建設される予定だ。

 

ダラムサラの計画は予算規模1700万ドル。まだ入札段階だが、自治体当局は新たな廃棄物処理事業に取り組んでいる。

 

既に廃棄物管理システムの「スマートごみ箱」70個に700万ドル(計画では最終的に200個以上)、クレーンを搭載した特別仕様のトラックに最大7万9000ドルを投資。スマートごみ箱は生分解性と非生分解性廃棄物用にそれぞれ地下貯蔵スペースがあり、そこが満杯になるとトラックにシグナルを送るセンサーを備えている。

 

1500人が立ち退きに

だが、「ごみ箱は空にならないし、稼働中のトラックは1台だけ」だと、ソーシヤルワーカーのラマナサン・スンダララマン(29)は指摘する。「廃棄物の大半はまだ古いやり方で収集され、投棄される。分別されていないごみが多いので、リサイクルやコンポスト(堆肥)化の余地は限られる」

 

地元民はまた、多くのごみ箱が壊れていると主張する。急斜面の地形と雨量の多さに対応した排水を考慮しない設計のせいで、地下のコンクリート構造物が陥没しているというのだ。その一方で、都市ごみは未処理のままサッダーの不法投棄場に積み上げられている。

 

「汚染のせいで肌に問題が出て、貯金をはたいて治療している。飼っている乳牛の1頭は病気になり、1頭しかいなかった雄牛が死んだので農作業もできない。どうやって生きていけばいいのか」と、酪農場で働くアヌラダ(41)は嘆く。収穫物は売れず、投棄場の上流の水でかんがいする穀物も心配だという。

 

(中略)地元のニュースはこの計画を「地下ごみ箱詐欺」と呼び、地元の役人が高価な設備の大量購入に絡んで違法な仲介料を得た可能性があると報じた。

 

スマートごみ箱が設置された今も、投棄場ではごみの分別が手作業で行われている。「片付け、清掃、ごみ処理。私の家族が何代も前からやってきた家業に、行政は月6000ルピー(約84ドル)を支払う」と、他の80人のラグピッカーと共に強制的に家から追い出されたスニーアショク(27)は言う。(中略)

 

ダラムサラ自治体当局は16年6月、中心部のチャランハドにあるスラムから約1500人の移住労働者を立ち退かせた。「警棒を待った警官が家財を破壊し、私たちを暴行で追い出した」と、スミタ(46)は言う。

 

人々は30年以上前からスラムに住んでいたが、彼らの小屋は屋外排泄など「公衆衛生上の危険」に対する懸念を理由に高等裁判所の命令で取り壊された。だが活動家は、屋外排泄はインドでは普遍的な問題であり、何の対応策も立てずに1000人以上を立ち退かせる理由にはならないと主張する。(中略)

 

ダラムサラだけの問題ではない。東部ブバネシュワル(オディシヤ州)では50万人が立ち退かされ、中部インドール(マディヤプラデシュ州)では1200世帯がホームレスになったと、活動家は主張する。

 

独立系研究機関の住宅・土地権利ネットワーク(HLRN)の報告書は、スマートシティー計画が本当に人々のニーズに対応しているのか疑問を投げ掛けている。

 

「世界で最も汚染された都市の半分はインドにある。都市住民の6人に1人は、(インフラの)不十分な場所に住んでいる。都市人口の3分の1は水道水を利用できない……。重要な問題は、この国は100のハイテク都市の建設を第一の優先課題にすべきかどうかだ」

 

「私たちは犯罪者ではない。普通の市民だ」と、サニー・シンデ(23)は言う。チャランハドに生まれ育ったシンデは、大学で観光を学び、いずれダラムサラで事業を始めることを夢見ている。「モダンな都市を開発したいなら、なぜ貧しい人々のことを考えないのか」【10月15日号 Newsweek日本語版】

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同様の問題は、ダニー・ボイル監督の2008年の映画『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台となったことでも知られるムンバイの中心にあるアジアで最も有名なダラビのスラムでも。

“再開発に揺れるアジア最大のスラム街 インド・ムンバイ”【8月4日 AFP】



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