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(故アフマド・シャー・マスード元国防相の息子、アフマド・マスード氏(2019年8月25日撮影)【2019年9月3日 AFP】)
【新体制準備進めるタリバン】
昨日ブログでも取り上げたように、アフガニスタンで権力を掌握したイスラム原理主義タリバンは、現時点では一定に女性の権利などにも配慮した融和的な姿勢を「公式」には見せています。
ただ、その融和姿勢がタリバンの兵士たちに理解されているのか、タリバンを構成する強硬派勢力も同意しているのか、単なる国際社会向けのポーズに過ぎないのでは・・・・といった疑問も。
公式的な融和姿勢を疑わせるような現実も各地で報じられています。
そうしたなかで、タリバンは新体制づくりを進めています。
****タリバン、新体制準備進める=柔軟路線強調、衝突も発生―アフガン****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は18日も、新体制樹立に向けて崩壊したアフガン政府有力者との会合を続けた。17日の記者会見では国際社会による政権の承認を期待し、柔軟姿勢を強調。一方、一部地域ではタリバンへの抗議行動で衝突も起きた。
タリバンの動向をめぐっては、ナンバー2のバラダル師が17日にカタール・ドーハから帰国。18日には別のナンバー2の1人、シラジュディン・ハッカニ氏の弟がカルザイ元大統領らと首都カブールで会談した。
ロイター通信は18日、タリバン関係筋が「新体制に旧政権のメンバーを入れるかどうか話すにはとても時期尚早だ」と語ったと伝えた。
タリバンの広報担当者は17日、カブールで開かれた記者会見で、「全国民への恩赦」やイスラム法の枠内での女性の権利保障などを説明。2001年に崩壊するまで恐怖で支配した旧タリバン政権との違いをアピールした。
ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立しており、新政権が樹立されても地方の組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。
新たな支配地域では既に、女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。東部ジャララバードでは18日、タリバンに抗議する市民のデモがあり、タリバンの戦闘員と衝突、少なくとも3人が死亡した。カブールでも美容室の外に掲げられた女性の絵を黒く塗りつぶす市民の姿が見られた。【8月18日 時事】
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タリバンの権力中枢に関しては謎に包まれていますが、3人の副指導者による集団指導体制とも報じられています。
****謎に包まれたタリバン 3人の副指導者が集団指導****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンは組織形態は不明な部分が多い。最高指導者のアクンザダ師は精神的指導者という側面が強く、3人の副指導者や指導者評議会が牽引(けんいん)する集団指導体制をとっている。
アクンザダ師はもともとは宗教学者で戦闘経験は乏しいもようだ。2016年に3代目の最高指導者に指名された。タリバン政権期(1996〜2001年)の最高指導者、オマル師(故人)も表舞台には出ておらず、周辺の人物が組織を動かしたという点では恐怖政治を敷いたタリバン政権期と変わっていない。
副指導者のうち、バラダル師はタリバン共同創設者で、対外窓口であるカタール政治事務所代表。ハッカニ師は最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」(HQN)を率いる。HQNは独自にテロ攻撃を繰り返しており、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘されている。ヤクーブ師はオマル師の息子だ。
指導者評議会のメンバーの詳細は不明だが聖職者らで構成され、パキスタン南西部クエッタに拠点を置くとされる。その下に10以上の分野別の委員会があり、実務に当たっている。【8月19日 産経】
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3人のうち、オマル師の息子ヤクーブ師は名誉職みたいなものではないでしょうか。
バラダル師は対米交渉も担ってきた存在ですから、一定に国際常識への理解もあると思われます。
問題は融和的な姿勢に最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ師が今後とも協調するのか・・・というところ。
タリバンは、今後の政治体制については、「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と民主制は否定しています。
【公表された融和姿勢とは相容れない実態も】
こうした状況で、冒頭記事にもあるように、公式的な融和姿勢にそぐわない実態、国民の不安・抗議も報じられています。
****タリバン、民主主義を否定 各地で抗議デモ****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの幹部は19日までに、新たな政治体制では「民主主義的な制度は全く存在しなくなるだろう」と語った。タリバンが民主的な体制を否定したことで、旧タリバン政権(1996〜2001年)と同様に極端なイスラム法解釈に基づく恐怖支配が復活する懸念が高まっている。
タリバンのハシミ幹部がロイター通信のインタビューに応じた。ハシミ幹部は「どんな政治体制を採用するかは議論しない。イスラム法に基づくことが明白だからだ」と強調した。
指導体制については、最高指導者のアクンザダ師が率いる「統治評議会」が政権運営を担い、大統領は3人の副指導者から選出される可能性を示した。タリバンは国内の全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと表明したが、どこまで実現するかは不明だ。
19日はアフガンの英国からの独立記念日だったこともあり、国内各地でタリバンに反発する市民がアフガン国旗を掲げ、抗議デモを行った。
東部アサダバードではデモ隊にタリバン戦闘員が発砲し、複数人が死亡。東部ジャララバードでも18日、市民が銃で撃たれ、少なくとも3人が死亡、10人以上が負傷した。
自ら「暫定大統領」であることを宣言したガニ政権のサレー第1副大統領は抗議活動への支持を表明し、タリバン支配に反対する勢力の結集を目指している。
大統領として国外に脱出したガニ氏はアラブ首長国連邦(UAE)に滞在していることが分かり、18日にビデオメッセージを公表。アフガン出国は「逃亡ではない」とし、近日中の帰国を目指す意向を示した。【8月19日 産経】
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****アフガン女性抑圧の懸念高まる 国連や米欧、タリバンに懐疑の目****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが20年ぶりに政権を掌握し、女性が再び抑圧される懸念が高まっている。かつてのタリバン支配の時代には女性の就学や就労が禁じられ、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられた。
タリバンは「イスラム法の枠内で女性も学び働ける」と強調するが、国連や米欧諸国は「行動が伴うか注視する必要がある」と懐疑的だ。(中略)
一方で、AP通信は13日に北部タハルの教師の話として「男性の付き添いなしでは市場に買い物にいけなくなっている」と報道。ロイター通信も同日、7月初旬の話としてカンダハルの銀行で働く女性9人をタリバンの兵士が自宅まで送り届け、親戚の男性が代わりに働くので女性たちは職場に戻らないようにと伝えたと報じた。
これらは1996〜2001年のタリバン統治時代への「後戻り」の予兆だと警戒されている。
当時、女性はイスラム法の厳格な解釈によって就労できず、外出するときには男性の親族が付きそうことが義務づけられていた。少女は就学を許されず、女性は全身を覆うブルカを着なければいけなかった。
(中略)(旧タリバン政権崩壊後)04年にイスラム教と民主主義を両立させる新憲法を採択し、大統領選を実施。親米政権の下でアフガンの女性は就学・就労の機会を得て、大学に通い、政府や企業で働き、国会議員も誕生した。
タリバン報道官は、首都カブール制圧後初めて開いた17日の記者会見で、女性は教育、医療、雇用に関する権利を維持し、イスラム法の枠内で「幸せ」に暮らすだろうと述べた。女性が進行するニュース番組に出演し「新生タリバン」を印象づける演出もみせた。
しかし、現地の女性にとって抑圧的なタリバンの記憶こそ生々しい。国連報告によれば、米軍の撤退方針に伴いタリバンが支配下に入れた地域から逃げ出した人は今年5月末以降25万人に上り、その8割が女性と子供だった。写真家のラダ・アクバさんは首都カブールが制圧された15日、「人生で最悪の日だ。目の前で愛する国が崩壊した」とツイッターに投稿した。
産経新聞通信員の取材によると、タリバン支配地域の一部では構成員が女性の単独での外出を禁止した。既に国営テレビのキャスターも女性から男性に変更された。
北東部ファイザバードに住む女性は「かつてのタリバン政権もイスラム法の名のもとに恐怖政治を敷いた。到底安心できない」と懸念を強めている。【8月19日 産経】
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****民主制否定、各地でトラブル=タリバン新体制に懸念―アフガン****
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが全権を掌握してから19日で5日目を迎えた。タリバンは当初、国民融和や女性の権利を一定程度認めると宣言。しかし、幹部が民主制を否定したり、市民の国外脱出を妨害したりする実情が次第に明らかになってきた。新体制樹立に向け懸念が強まっている。
タリバン幹部は、ロイター通信のインタビューで、新政権では「民主制は全く存在しなくなるだろう」と指摘。タリバン幹部で構成する評議会が国の運営に当たると説明した。タリバンは当初、全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと明言していたが、タリバンが権力中枢を握る構想を持っていることが露呈した。
18日には東部ジャララバードで、タリバン統治に抗議するデモの参加者とタリバン戦闘員が衝突。少なくとも3人が死亡した。ロイターによると、19日にも東部アサダバードで、独立記念日の集会で国旗を振っていた人々にタリバン戦闘員が発砲、混乱の中で複数人が死亡した。タリバンと異なる意見を持つ人々の扱いが不安視されている。
タリバンは戦闘員に犯罪行為の禁止を再三呼び掛けてきたが、末端の戦闘員まで規律が浸透していない様子も伝えられている。地元民放トロTVは18日、タリバンによる首都カブール制圧後、自動車の窃盗事件が頻発していると報道。タリバン戦闘員の関与が疑われており、車を盗まれた住民は「タリバンの名の下で盗みを働いた者たちは逮捕されなければならない」と訴えた。
こうしたタリバンの実態が伝わるにつれ、国外脱出を望む国民はさらに増加。しかし、タリバンはカブールの国際空港周辺で検問を実施し、アフガン人の空港入りを厳しく制限している。シャーマン米国務副長官は18日の記者会見で、アフガン人が安全に出国できるようタリバンと協議中だと述べた。【8月19日 時事】
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【タリバン支配に抵抗する故マスード司令官の息子とサーレ第1副大統領】
タリバン側は「団結」を呼びかけています。
****タリバンが声明、「団結」呼び掛け****
イスラム主義組織タリバンは19日、声明を発表し「傲慢な超大国の米国も抵抗に屈して撤退を余儀なくされた。イスラム制度による統治のため、団結しなければならない」と呼び掛けた。【8月19日 共同】
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「あっけなく総崩れ」したガニ政権でしたが、未だタリバン支配を認めず、軍事的にも抵抗する勢力も存在するようです。
タリバンが「団結」を訴える背景には、国際的承認を求めるための配慮、国民の抗議・不安といったものもさることながら、そうした明確な軍事的抵抗行動が全国への飛火を警戒していることもあるのでしょう。
アフガニスタンで人口が2番目に多いタジク系住民が暮らすパンジシール州は、タリバンと戦った故マスード司令官の故郷でもありますが、アフガニスタンの第1副大統領だったアムルラ・サーレ氏(タジク系)が同州に潜伏し、ツイッターで「暫定大統領」に就任したと宣言していると報じられています。武装闘争の準備を急いでいるとも。
このパンジシール州の抵抗が注目されるのは、故マスード司令官の故郷ということです。
歴史に「たら、れば」は無意味かも知れませんが、ソ連進攻・旧タリバン政権にも抵抗を崩さず立ち向かった「パンジシールの獅子」こと故マスード司令官が暗殺されることがなければ、アフガニスタンの歴史は大きく変わり、今のようなタリバンの復活もなかったかも・・・。
****アフマド・シャー・マスード****
パンジシールの獅子
1975年、帰国してパンジシール渓谷に本拠地を築き、1979年のソビエト連邦のアフガニスタン侵攻後は反ソ連軍ゲリラの司令官となり、ソ連軍にしばしば大きな打撃を与えた。ソ連軍の大規模攻撃をも撃退し、「パンジシールの獅子」と呼ばれた。
1988年7月、マスードはソ連軍捕虜を自発的に解放し、ソ連軍の撤退を妨害しないことを約束した。このことはマスードに対するソ連側の心象を良くし、後にロシアが北部同盟を支援する動機ともなった。
1992年にムジャーヒディーン勢力が首都カーブルを占領し、ラッバーニー政権が誕生すると、そのもとで国防相、政府軍司令官を務めた。
その後、ラッバーニー政権が崩壊しターリバーンが勢力を拡大すると、ターリバーンに対抗する勢力が結集した北部同盟の副大統領・軍総司令官・国防相となった。
ターリバーンがアフガニスタンを支配すると、北部同盟の勢力圏はアフガニスタン北部山岳地帯に限られたが、領土としてはアフガニスタンの約10%、人口としては30%程度を掌握していた。(中略)
綱紀やイスラムの教えに厳格だったが、その人柄と軍事的才能から北部同盟の兵士達には強い信頼を得ていた。インタビューではアフガニスタンでの戦乱を平和的な会話によって解決し、民主的な政権が誕生することを望む発言をしている。1996年のタリバーンによる首都カーブル包囲の際には、これ以上首都や民衆に被害を及ぼす訳にはいかないとして撤退している。
大の読書家で、好きな作家はヴィクトル・ユーゴーであり、また、反共主義者にも関わらず、毛沢東の作品から多くを学んだと公言している。1997年時には、寝る間も惜しみ読書に時間を割いていたため、1日の睡眠時間はおよそ2時間程度だった。【ウィキペディア】
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息子アフマド・マスード氏も父の志を継いだようです。下記は2年前、トランプ前政権がタリバンと交渉を行っていた頃の息子アフマド・マスード氏に関する記事です。
****タリバン復活の懸念に立ち上がる 「パンジシールの獅子」の息子 アフガン****
(中略)
■「何も守ってくれない」
マスード氏が見通しているように、米政府とタリバンの和平協議では、絶対権力の獲得が常に目標とされる勝者総取りのあしき制度があるアフガニスタンの政治機構の欠陥に取り組むことは不可能だ。その代わり、イスラム過激派運動の粘り強さが報われることになるだろう。(中略)
マスード氏は、米国がタリバン以外のアフガン勢力を排除した和平協議で、あまりにも性急にタリバンに譲歩していると考えている。それにより、米軍撤退後に生じる空白地帯にタリバンが影響力を拡大させる準備をさせてしまっていると指摘する。
「今起きていることは、米国とタリバン、地域大国とタリバンの間のことだ。アフガニスタン国民はどこにいるというのだろうか?」
米国はタリバンとの交渉について、あくまでアフガニスタン政府とタリバンとの協議に付随するものであり、アフガニスタンの問題は「アフガン内の対話」でしか解決できないと主張している。
だが、米軍が慌てて撤退すれば、腐敗がまん延し統率力のないアフガニスタンの治安部隊は崩壊しかねないと、マスード氏は警告する。米軍撤退に先立ち、すでにパンジシールなど各地でさまざまな勢力や民兵らが再武装、再結成する動きが出ているという。「残念ながら、アフガニスタン政府にはタリバンとの戦闘を続ける能力がない」とマスード氏は言う。(後略)【2019年9月3日 AFP】
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息子アフマド・マスード氏は、当時から現在の混乱が起きることを予測し、準備も行ってきたようです。
ただ、孤立無援のなか、どこまで抵抗が続くのか・・・。