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(カブールの空港で19日、赤ちゃんを助けてもらおうと壁上の米兵に託す男性。SNSの動画から=ロイター【8月20日 朝日】)
【カブール空港の混乱 「せめて子供だけでも・・・」】
アフガニスタン・カブールでは米軍への協力などに対するタリバンの報復を恐れる多くの人々が出国しようと試みていますが、表向きは“反対勢力に報復をしない”という融和姿勢を表明しているタリバンによる妨害にあっているようです。
****タリバン、空港周辺に検問所 アフガン人退避「妨害」か****
アフガニスタンの首都カブールでは、同市を制圧したイスラム主義組織タリバンが空港周辺に検問所を設置し、国外退避者向けの便に搭乗しようとする人々を妨害しているとの懸念が高まっている。米国は、安全なアフガニスタン人の国外脱出を要求した。
15日にタリバンがカブールを制圧して以来、数万人のアフガン人が国外退避を試みている。タリバン幹部らはここ数日、反対勢力に報復をしないことを繰り返し誓い、寛容な印象を与えようとしてきた。
しかし米国は18日、タリバンが米国やその同盟国に協力したアフガン人の国外退避を許可するという誓約を放棄していると指摘。ウェンディ・シャーマン米国務副長官は記者会見で、「タリバンが公約や米政府への誓約に反し、出国を望むアフガン人が空港に到達できないよう妨害しているという情報がある」と説明し、「タリバンには、国外退避を望むすべての米国民、すべての第三国民、すべてのアフガニスタン人を安全に、いやがらせ行為に及ぶことなく出国させることを期待する」と述べた。 【8月20日 AFP】
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そうしたなかで、「せめて子供だけでも・・・」という切なく絶望的な光景も。
****せめて子どもだけでも 殺到の群衆、米兵に赤ちゃん託す****
イスラム主義勢力タリバンの支配から逃れようと人々が殺到している首都カブールの空港で、赤ちゃんを壁の上に立つ米兵に託す動画がSNS上で拡散し、注目を集めている。
ロイター通信が20日に配信した動画では、空港の外壁に詰めかけた男性が両手で赤ちゃんを担ぎ上げ、米兵に差し出す姿が映っている。米兵に片手で引き上げられた赤ちゃんは、いったん別の兵士に預けられた後、壁の向こう側へと運ばれていった。19日に撮影された動画だという。
また同通信は、19日にも別の動画を配信。小さな女の子が男性に持ち上げられ、米兵に引き渡される様子が映されている。「タリバンの復権を恐れる人々の絶望感を捉えている」と伝えている。
アフガニスタンでは15日に政権が崩壊。タリバンが権力を掌握しているが、カブールの空港では約5200人の米軍部隊が安全を確保し、退避作戦を行っている。
国務省が19日時点で発表した情報では、これまでに空港から国外退避させた人数は約7千人。さらに6千人が手続きを終えて出発を待っている状況という。
ただ、米軍が退避の対象にしているのは米国人のほか、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者や家族らで、大半の住民に脱出の手段はない。ロイター通信によると、退避を求める数千人の住民らが空港周辺に詰めかけているという。【8月20日 朝日】
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【報復、女性の権利制限・・・融和姿勢表明と異なる実態】
“反対勢力に報復をしない”という件に関しては、タリバンは民家を一軒一軒回り、米軍などの協力者や、アフガニスタン政府の関係者を捜索しているといった異なる実態も報じられています。
****タリバン、米国への協力者捜索を「強化」 国連文書*****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが、米軍と北大西洋条約機構軍に協力した人々の捜索を強化しているとみられることが、AFPが入手した国連の機密文書から明らかになった。タリバンは、反対派への報復はしないと誓約していた。
文書は18日付で、国連機関に情報提供を行うノルウェー国際分析センターが作成。それによると、タリバンは身柄拘束を目指す人々の「優先順位リスト」を作成している。特
にアフガン軍や警察、情報機関で中心的な役割を担った人々が危険な状況に置かれており、タリバンは対象人物やその家族に「対象を絞った戸別訪問」を実施しているとされる。
さらにタリバンは、首都カブールの空港に向かう人々に対し検問を実施。同市のほか、ジャララバードなどの主要都市でも検問所を設置しているという。
RHIPTOのクリスチャン・ネルマン所長は「タリバンは出頭を拒否する人の家族を標的とし、『シャリア(イスラム法)にのっとり』起訴したり罰したりしている」とAFPに説明。「NATO軍と米軍、その同盟国にかつて協力した人とその家族の両方が拷問・処刑される」恐れがあると語った。 【8月20日 AFP】
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報告書によれば「タリバンは前政権の全ての関係者と協力者の洗い出しを強化しており、家族と共に逮捕し、タリバン独自のイスラム法(シャリーア)の解釈に基づき罰している」【8月20日 ロイター】とのこと。
また、タリバンは「イスラム法の範囲」で女性の就労や教育の権利を保障する方針を示していますが、その実態は従前の旧タリバン政権時代と大差ないのではという疑問も。
****アフガン女性キャスター強制的に降板 情報統制強める気配も****
武装勢力・タリバンが制圧したアフガニスタンで、女性と子どもへの抑圧が懸念される中、国営放送の女性キャスターが出社を拒否され、番組を強制的に降板させられた。
国営放送のキャスター「『政権が変わった。仕事はさせられない』そうタリバンに言われた。私の命が脅かされています。世界の皆さん助けてください」
ツイッターに動画を投稿したのは、アフガニスタンの国営放送の女性キャスターで、国営放送では、女性キャスターの代わりに男性キャスターが出演するようになった。
リバンは、首都カブールを制圧した直後、現地のテレビ局で、タリバンの幹部が別の女性キャスターと番組に出演するなど柔軟な姿勢を示していたが、権力を掌握して1週間足らずの間に様相が変わりつつある。
また、カブール市内を取材する海外のメディアクルーが、タリバンの兵士に暴行の被害を受けるなど、現地では情報の統制を強めようとする気配が強まっている。【8月20日 FNNプライムオンライン】
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旧タリバン政権下では女性の就労や女子生徒の通学を禁じており、親族男性と一緒でなければ女性単独の外出も出来ませんでした。今回も、それに類するようなことがタリバン支配地域で起きているとも報じられています。
旧タリバン政権下では、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられてもいました。
【大量難民発生の懸念 警戒する受入国側 トルコ:イラン国境に壁建設 仏マクロン大統領:「EUだけでは手に負えない」】
タリバンの融和姿勢が「みせかけ」「国際社会に向けたポーズ」にすぎない、昔と実態は変わらないとなると、今後大量の難民が発生することが懸念されます。
すでにイラン国境には難民が押し寄せています。
****タリバン制圧のアフガニスタン イラン国境に押し寄せる避難民****
イスラム主義組織タリバンに制圧されたアフガニスタンから逃れようと、イランとの国境に19日、避難民が多数押し寄せた。
イラン南東部シスタンバルチスタン州に面する国境地域では、イラン赤新月社のメンバーやイラン兵士らが、避難民に食べ物や飲み物を手渡す様子も見られた。 【8月20日 AFP】
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もちろん第一義的には難民となる人々の悲惨な状況が問題となりますが、受入国にとっても人道的な立場と、難民がもたらす社会・政治的な問題の板挟みで苦慮される問題となります。
****(アフガンの衝撃 9・11から20年)難民受け入れ、割れる判断*****
アフガニスタンをイスラム主義勢力のタリバンが掌握したことを受け、欧州などが難民への対応で揺れている。支配から逃れた人々が多く押し寄せれば、「難民危機」の再来となりかねないためだ。アフガン国境に接する国々も備えを急いでいる。
■英・カナダ、2万人 独仏、「危機」再来を懸念
英政府は18日、アフガニスタンからの難民らを、最大2万人受け入れる方針を発表した。年内に受け入れる5千人は人権侵害を受ける危険性が高い女性や宗教の少数派などを優先する。ジョンソン首相は声明で、「家族とともに安全に暮らせるよう道筋を示せたことを誇りに思う」と述べた。
カナダも2万人の難民を受け入れると発表。トルドー首相は15日、「女性や少女、性的マイノリティーの人びとに対する我々の関与は揺るぎない」と語った。
タリバンは融和的なイメージを打ち出すが、国際機関は人権侵害などが報告されているとしている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の現地代表バンビューレン氏は18日、「彼らを見捨ててはならない」と訴えた。女性への人権侵害も報告されているとし、強制送還しないよう各国に呼びかけている。
ただ、欧州連合(EU)各国は2015年にシリアなどから100万人超の難民が欧州に押し寄せた「難民危機」の記憶が残る。各地で反移民・難民を掲げる右翼ポピュリズムが盛り上がるきっかけとなった。
ドイツのメルケル首相は16日の記者会見で「過去に犯した過ちを繰り返してはならない」。アフガニスタンの近隣国や国際機関への援助を通じ、難民の滞在場所を確保することで、無秩序に流入した「危機」の再来を防ぎたいとの考えだ。
フランスのマクロン大統領は受け入れに消極的だ。16日の演説で「不安定なアフガン情勢は欧州への不法移民の流入を引き起こす恐れがある」と指摘。移民や難民が通過するイランやトルコに協力を求める考えを示した。これまでも「移民の受け入れは政治的にもたない」などと述べており、国内外から批判を浴びた。
■トルコ、国境に240キロの壁建設
アフガニスタンと約2700キロの国境を接するパキスタン。現地からの報道によると、アフガン側の混乱で一時閉じられていた国境が再び開き、大勢が国境を越えて来始めている。1979年の旧ソ連によるアフガン侵攻以来、アフガン難民を受け入れ、今も300万人以上が滞在するとみられる。今月訪米した政府高官は「これ以上の受け入れ能力はない」と難色を示したと報じられている。
同じく約900キロの国境を接するイランの内務省当局者は15日、地元メディアに「アフガン難民が来た場合は受け入れる」と明言した。イランも300万人余りのアフガン出身者を抱える。一部の公用語が似ているなど共通点が多く、イラン政府はアフガニスタン人を「血縁」と呼び、難民の保護を通じて人道配慮の姿勢をアピールしてきた。
ただ、アフガン出身者が差別的に扱われたり、戦闘員としてシリア内戦に駆り出されたりする例も報じられている。よりよい生活を求める難民が、トルコやその先の欧州を目指す流れができている。
トルコ側では、密入国者の大量流入に備えて500キロ超に及ぶイランとの国境沿いに壁の建設を始めた。地元メディアによると壁の全長は約240キロを予定。150キロの建設を終えているという。
国境に面する東部ワン県の知事は、7月中旬の10日間で密入国者1456人を拘束したと発表。8月にも400人以上が拘束され、多くがアフガニスタン人だとみられる。【8月20日 朝日】
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トルコでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、大量難民流入はエルドアン政権にの基盤を揺るがすことにもなりかねません。
****トルコ、アフガン難民流入を懸念 空港警備も見直し****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが実権を掌握したのを受け、トルコがアフガンからの難民流入に神経をとがらせている。
トルコはすでに、内戦下のシリアなどからきた約370万人の難民を抱える「世界最大の難民受け入れ国」(国連)。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、エルドアン大統領は政権を揺さぶる要因になりかねないとして対応に躍起になっている。
トルコのアカル国防相は15日、イランと国境を接する南東部を訪れ、難民流入を防ぐ壁の建設状況を視察した。トルコのメディアによると壁は全長約300キロの予定だ。アカル氏は、夜間も暗視スコープなども使い、流入阻止に全力を挙げる姿勢を強調した。
トルコはアフガンと国境を接していないが、イラン経由の難民流入を警戒している。トルコ内務省は7月中旬、イラン国境周辺でアフガン人を中心に1500人近くの不法移民を発見、逮捕。米メディアは今月中旬、トルコ当局者がイランを「アフガン難民をトルコ側国境に送っている」として非難したと報じた。
トルコ国内に約12万人いるとされるアフガン難民のさらなる流入をトルコが恐れるのは、「安い給料でも働く難民に仕事が奪われる」として国民の反発が強まっているからだ。
ロイター通信によると首都アンカラでは今月上旬、トルコとシリアの若者が衝突して1人が死亡し、シリア人の店舗や家が襲撃される事態に発展。多数の難民が身の危険を感じ、トルコの人権団体に相談しているという。
在トルコの男性記者(55)は「エルドアン氏がトルコ民族主義を鼓舞したことが、難民への攻撃が起きる要因になっている」とし、同氏の政策が招いた結果との見方を示した。(後略)【8月19日 産経】
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トルコのその先には欧州が。
EU・欧州委員会のヨハンソン委員は加盟国に受入れを要請しています。
****アフガン難民受け入れ要請=EU加盟国に―欧州委員****
欧州連合(EU)欧州委員会のヨハンソン委員(内務担当)は18日、イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタン情勢をめぐって声明を出し、「差し迫った脅威」にさらされているアフガン人を保護するため、難民の受け入れ拡大をEU加盟国に要請したと明らかにした。
欧州では、タリバンから逃れた大量の難民・移民流入への警戒が高まっているが、ヨハンソン氏は記者やNGOスタッフ、人権活動家などを挙げ「見捨てることはできない」と強調。「女性や少女たちが特に危険な状況にある」と訴えた。
一方、ヨハンソン氏は「密航業者による安全ではない非正規のルートを通じて人々がEUに向かうのを防がなくてはならない」とも指摘。アフガン国内の避難民支援や近隣国との連携で、欧州流入を未然に阻止する必要性を主張した。【8月19日 時事】
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しかし、前出記事にもあるように、独仏は慎重姿勢。フランス・マクロン大統領は消極姿勢への国内批判に発言がねじ曲げられているとして評論家を非難。「フランスは、極めて危険な立場にいる人たちを保護する責務を果たしており、これからも果たし続ける」と述べてはいますが・・・。
****アフガン難民危機がくる、「EUだけでは手に負えない」(マクロン)****
<突如、実権を掌握したタリバンの支配を恐れるアフガン人が、国外へ逃れてくる。2015年のシリア難民危機以来の対応を世界は迫られることになる>
(中略)(EU)加盟国の外相は8月17日に緊急会合を開き、タリバンの政権掌握がもたらす安全保障面の影響について議論した。EUの推計によると、2015年以降、難民申請を行ったアフガニスタン国民は約57万人に達する。シリア難民に次ぐ大規模な集団だ。
8月16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、仏独をはじめとする欧州各国は共同で、難民認定はできない不法移民の新たな大波に「確固たる対応」をするとしながら、「欧州だけでは責任を負えない」と付け加えた。
背景には、厳格なイスラム主義組織であるタリバンの支配を恐れるアフガニスタン人が、大量の難民となって流出するという危惧がある。
ドイツのハイコ・マース外相は緊急会合の主要議題は、アフガニスタン在住のEU市民およびEU関連施設で働くアフガニスタン人スタッフの国外退避、タリバンへの対応、そして、アフガニスタン難民が大量に逃れてきた場合いかにして地域の不安定化を防ぐかだ、と語った。
「我々は、事態の進展を注視している。現在アフガニスタンで権力を行使している者たちの正当性は、その行動によって判断される」と、マースはベルリンの記者団に語った。「とりわけアフガニスタン周辺地域の安定化は重要だ。近隣諸国がさらなる難民の流入に直面するのは確実だからだ」
欧州の国々は、2015年にシリア内戦から逃れた大量のシリア難民が押し寄せた時の危機の再燃を懸念している。2015年の欧州難民危機では、主にシリアとイラクからゆうに100万人を超える移民が押し寄せた。対応をめぐって各国の足並みは乱れ、EUの団結にとって最大級の危機が発生した。
マクロンは、難民の波に対する「確固たる対応」は、アフガン難民が途中で通過するであろうトルコを含む各国との協調による取り組みになると述べた。(中略)
ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめとするドイツ政界のトップは16日、新たな大量難民が発生する可能性を警告。アフガニスタンの隣国のイランやパキスタン、あるいは北部で国境を接するウズベキスタンやタジキスタンがより多くのアフガン難民を受け入れられるよう、これら近隣諸国を支援すると表明した。
「アフガニスタンの難民が向かう先としてまず考えられる近隣諸国をサポートする取り組みだ」と、メルケルは記者団に述べた。
国連の関連機関である国際移住機関(IOM)によるとアフガニスタンでは、2021年だけで40万人近くの人が家を追われている。さらに、生活を援助に頼る人の数も500万人以上に達しているという。
IOMは、アフガン難民が流入するであろう国々に、難民申請が却下された場合でも、彼らの本国送還に猶予期間を設けるよう呼びかけている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「イランやパキスタンには、数十年にわたり、全世界のアフガニスタン難民の大多数をひろく受け入れてきた実績がある」と指摘、他の国がより多くの負担を負うよう呼びかけている。
【8月18日 Newsweek】
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