孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ジョンソン首相の“賭け”は吉? 行動規制撤廃でも感染者減少 死者数も一定に抑制

2021-08-05 22:22:03 | 疾病・保健衛生

(【ロイター COVID-19 TRACKER】イギリスのコロナ新規感染者と死者の推移) 

【行動規制撤廃でもピークを越して減少に転じた感染拡大 大きくは増えていない死者数】
イギリスでは、新型コロナ感染が急拡大するなかで、ワクチン接種進展による重症者・死者が増えていないことを理由に、多くの科学者の反対・懸念を押し切る形で7月19日、ジョンソン首相は大部分の行動規制を撤廃しました。

その後の状況は冒頭グラフに見るように、感染力の強いデルタ株によって感染者は急増しましたが、ここにきてその感染者も減少に転じ、死者数も一定に抑制されています。

新規感染者は規制撤廃した7月19日の直前17日には5万4千人に達しましたが、その後減少し、今は3万人を切って2万人に近づくレベルになっています。

一方、死者数の方は、数人あるいは十数人の状態から、最近はさすがに数十人レベルに増加はしていますが、以前のような1日に数百人、あるいは千数百人が亡くなる状況ではありません。

ジョンソン首相の“賭け”は“今のところ”は“吉”のようです。

****ワクチンが効いているから? イギリスではデルタ株の感染者が急増も、死者は増えず****
デルタ株がイギリスの新型コロナウイルスの新規感染者数を急増させている。それは多くの国や地域と同じだ。 
ただ、イギリスではこれまでの感染拡大期に見られたような死者数の急増は起きていない。(中略)

感染力の強いデルタ株が世界各地で新型コロナウイルスの感染者数を急増させている。 ただ、人口の71.8%がワクチン接種を完了しているイギリスでは、これまでの感染拡大期に見られたような死者数の増加は起きていない。 

イギリス政府の新型コロナウイルス・ダッシュボードは、日々の新規陽性者数と死者数をまとめている。そのデータを比較すると、"感染"と"死"の関係が時間とともにどう変化してきたかが分かる。 

7月のイギリスの陽性者数に対する死者数の割合 ── 死亡率 ── はパンデミックが始まって以来、これまでのどの時点よりも大幅に低い状態が続いた。 

昨春の感染第1波の初期には、この死亡率は急激に上昇した。昨冬の感染が拡大した時にも、死亡率は再び上がっていた。 

イギリスの直近の感染拡大は6月に始まった。7月1日までの1週間平均の新規感染者数は、6月1日に比べて6倍近くに増えた。この感染拡大の新たな波で、1日の新規感染者数は1月の水準と同じくらいまで増えた。ただ、死者数はそれほど増えていない。 

この死亡率の低さは恐らく、ワクチンのおかげだろう。新型コロナウイルスのワクチンは重症化や入院、死亡を防ぐ効果が高いとされている。 

イギリスのある研究では、国内で主流となっているデルタ株による有症状の新型コロナウイルス感染症を防ぐ効果は、ファイザーのワクチンを2回接種した場合で88%、アストラゼネカのワクチンを2回接種した場合で67%となっている。 

モデルナとジョンソン・エンド・ジョンソンも、臨床試験で自社のワクチンがデルタ株に対して高い有効性があることを示したとしているが、現実世界での有効性に関する査読付き論文はまだ発表されていない。 

全体的に見て、イギリスの死亡率が時間とともに低下していることからワクチンの効果は明らかだ。2月初めの時点で、イギリスでは人口の1%が2回のワクチン接種を完了し、約25%が1回のワクチン接種を済ませていた。この頃の死亡率は平均して5%だった。

今では人口の71.8%が2回のワクチン接種を完了し、88.4%が1回のワクチン接種を済ませている。そして、死亡率はゼロに近い。【8月3日 BUSINESS INSIDER】
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【「集団免疫」の獲得の指摘も ションソン首相は慎重姿勢崩さず】
この状況の説明として、「集団免疫」の獲得に近づいていると指摘する声も出ています。

****英、行動規制撤廃後に感染減 「集団免疫」獲得近いとの声も****
首都ロンドンを含むイングランドで新型コロナウイルス対策の行動規制をほぼすべて撤廃した英国で、新規のコロナ感染者数が減少傾向となり、専門家の間で議論を呼んでいる。

学校が夏休みに入ったために子供たちの間での感染拡大が止まったことなどが理由として推測される一方、大規模なワクチン接種の展開により、人口の一定程度が免疫をつけることで感染拡大が収束する「集団免疫」の獲得に近づいていると指摘する声も出ている。
 
(中略)(5月中旬以降)感染者数が急増する中、新規死者数は4月以降、おおむね1桁〜2桁台と比較的低く推移している。このため、ワクチン接種の進展が奏功していると判断した英政府は7月19日に、人口の85%近くが集中するイングランドで残っていた行動規制をほぼすべて撤廃。

この英政府の判断に対し、世界各国の専門家が連名で英医学誌ランセットに「危険で非倫理的な実験に乗り出している」と批判する書簡を寄せ、再考を促した。
 
しかし、増加してきた新規感染者数は7月17日を境に下降。27日には2万4000人を切るまで減少した。その後、若干の増加はあったものの、30日段階では2万9622人(死者数は68人)と、ピーク時と比べて低い基調が続いている。
 
「インフルエンザのように、コロナの存在を受け入れ、対処法を見いだしていかねばならない」と規制撤廃への理解を求めてきたジャビド保健相は7月上旬、規制撤廃後に1日当たり10万人程度まで新規感染者数が増える可能性にも言及。感染者の増加が危ぶまれていたため、規制撤廃後の感染者数の減少は「科学者たちを当惑させている」(英紙タイムズ)状況だ。
 
英メディアによると、感染者数減少の理由について専門家の間ではさまざまな意見があり▽学校が夏休みに入り、子供たち同士の接触が減った▽観戦者らが大勢集まり、感染を広げたとの指摘があるサッカー欧州選手権が閉幕(7月11日)した▽PCR検査などの実施件数が減った――ことなどが推測されると言う。
 
また、減少と免疫獲得の広がりを関連付ける声もある。英紙デーリー・テレグラフは、デルタ株流行の収束には人口の93%が免疫を獲得する必要があり、現段階で英人口の87%が免疫を獲得しているとするユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのグループの分析結果を報じ、「集団免疫にかなり近づいている」とするブリストル大のデービッド・マシュー准教授(ウイルス学)のコメントなどを伝えた。
 
英国家統計局によると、イングランドでは成人の約92%が、感染かワクチン接種を通じて新型コロナの抗体を持っていると見積もられている。
 
一方、英紙ガーディアンは、免疫獲得を主要因にするには、感染者の減り方が急激すぎると、疑問視する見方も紹介した。【7月31日 毎日】
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学校の夏休みやサッカー欧州選手権閉幕という“時期的”な現象かもしれない可能性もあるなかで、“ジョンソン首相も感染者が減少した現象について「早まった結論を出さないことが非常に重要だ」とし、国民に油断せず感染に気をつけて過ごすよう呼びかけた”【8月4日 産経】とのこと。

【感染拡大による濃厚接触者増加で人出不足による食品物流支障も】
また、感染者が減少に転じてはいますが、未だ1日2~3万人の高いレベルにあることから、10日間の自主隔離を求められる濃厚接触者が多数にのぼり、人出不足から食品物流に支障をきたす事態ともなっています。

****規制解除の英、人手不足苦難 追跡アプリ通知で自主隔離急増****

24日、ロンドン北部のスーパーの棚では一部商品の補充がなく、空いた棚が目立った=和気真也撮影

新型コロナウイルス対策の大胆な規制解除に踏み切った英国が、深刻な人手不足に慌てている。濃厚接触者の自主隔離が急増し、接触追跡アプリの通知音から「ピンデミック」と呼ばれる事態になった。

英政府はワクチン接種で重症化は防げると感染拡大を容認し、経済を回す道を選んだが、「コロナとの共生」の難しさが露呈した。

ロンドン北部のスーパーで24日、がらがらの棚の前で、客が困った様子で立っていた。棚には「全国的な供給問題で、全ての商品を取りそろえることができません」の表示。水を求める親子連れに在庫を尋ねられた店員は「いまあるので全部。次に入るメドもわからない」と謝った。
 
商品不足を生んだのが、コロナの追跡アプリによる「感染者との接触通知」。7月は1日当たりの感染報告が5万人を上回った日もあり、今月14日までの1週間に濃厚接触したとしてアプリ通知で自主隔離を求められた人がイングランドで60万人を超えた。1カ月前の15万人から急増した。
 
隔離のために職場に行けなくなった人が続出したとみられ、食品の物流が停滞。英メディアは、ガソリンスタンドの営業休止や交通機関の乱れも生じていると報じている。
 
英政府は19日、人口の8割超を占めるイングランドでロックダウン(都市封鎖)の法的規制をほぼ解除。残った規制の一つが、感染者と接触した人が10日間、自主隔離するルールだ。8月15日まで続く。
 
産業界は困惑し、異口同音に政府に対応を求めた。英産業連盟のダンカー事務局長は22日の声明で「今のやり方では、経済を開くどころか閉ざしてしまう。政府の狙いとは反対のはずだ」と主張。「2回のワクチン接種をした人に自主隔離を免除すれば、ピンデミックは終わる」と訴えた。
 
慌てた政府は23日夜になり、食品物流など生活インフラに関わる労働者らは、ワクチンの2回接種などを条件に自主隔離の対象外とする方針を発表。ただし、全ての従業員ではなく、事業所ごとに政府が「指名した人」のみとなる。
 
8月16日には全員が対象外となるが、それまで大きな改善は見込めず、混乱が続くとの見方が強い。(後略)【7月30日 朝日】
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このまま新規感染者が減少を続け、ワクチン接種完了者を自主隔離対象からはずず形になれば、そして、それによって感染が再拡大しなければ、この混乱も一定に収束するものと予想されます。

ジョンソン首相の政治家としての品格は問題も多々あり、EU離脱の判断も個人的には賛成していませんが、ブレグジットにしろ、今回の規制撤廃にしろ、“流れを読む”感覚は秀でたものがあるようです。

また、今回規制撤廃のように政治リスクをとって決断する姿勢も評価すべきでしょう。(菅首相の五輪開催決断もリスクをとった判断だったとは思いますが、国民へのアピールが下手ですね)
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