孤帆の遠影碧空に尽き

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北朝鮮  絶糧世帯の困窮 体制を揺るがしかねない「前代未聞の難関」に強硬な引き締め策

2021-08-29 23:28:04 | 東アジア
(北朝鮮・平壌の金日成広場で行われた「青年節」の祝賀行事に参加する若者ら(2021年8月28日撮影)【8月29日 AFP】)

【前代未聞の難関】
北朝鮮が極度の食糧難に陥っていることは、7月29日ブログ“北朝鮮  以前からの農業生産性の低さに加えて、制裁とコロナ禍の混乱、干ばつで極度の食糧難に”でお取り上げました。

「もうダメだ。打つ手がない」食糧難の北朝鮮、幹部会で絶望の声【7月16日 Daily NK】
北朝鮮で「覆面の武装集団」が富裕層を次々襲撃…食糧難で混乱【7月27日 Daily NK】
「泥炭入りパンを作れ」食糧難の北朝鮮が断末魔の呼びかけ【7月29日 Daily NK】

金正恩(キムジョンウン)総書記は、6月の朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会で、食糧難に喘ぐ国民に軍糧米を配給せよ、との特別命令を出していますが、それも有償配給のため、貧困層には手が出ないようです。

「鳥のエサを食えと言うのか」金正恩の特別配給に庶民の不満爆発【7月19日 Daily NK】
北朝鮮国民、コメの有償配給に不満…「恩知らず」当局が批判文書【7月19日 Daily NK】

そうしたなか、28日は青年同盟の結成記念日「青年節」を迎え、平壌では全国から招かれた若者らが参加して祝賀行事が開かれました。

(青年節でたいまつ行進 平壌、政治標語の人文字も【8月30日 KyodoNews】 こんなことに費やすカネ・時間・労力があるなら他のことに・・・というのは日本的常識ですが、おそらく北朝鮮の多くの国民もそのように思っているのでは・・・)

その「青年節」に寄せた祝賀文で、金正恩総書記は「前代未聞の難関」を不屈の精神力で突破する結束を強調しています。

****「前代未聞の難関、不屈の精神力で突破」 金正恩総書記が強調****
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は28日、国家事業などへの参加を志願した若者に祝賀文を送り、「我々は今、建国以来、最も厳しい局面に立っており、前代未聞の難関を不屈の精神力で突破している」と強調した。北朝鮮国営の朝鮮中央通信が29日、伝えた。
 
金総書記は、米国などによる経済制裁を念頭に「悪辣(あくらつ)な制裁や圧力、執拗(しつよう)な思想的・文化的浸透の動きによって、青年たちを変質させようとする帝国主義者のたくらみは水泡に帰した」とも述べた。

北朝鮮は長引く経済制裁や水害、新型コロナウイルス対策による国境封鎖などで物資や食糧不足が深刻化している。一連の発言を通じて、国内の結束を図る狙いがあるとみられる。
 
28日は北朝鮮で青年同盟が結成された記念日にあたる「青年節」。全国各地で若者たちを集めた祝賀行事が開かれていた。【8月29日 毎日】
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【危機感から単なる韓流取り締まりにとどまらない「引き締め」】
“結束を図る”と言えば聞こえがいいですが、国民が単に食糧難に喘いでいるだけでなく、北朝鮮の若者には韓国文化が浸透し、精神的にも体制が揺らぐような危機感を指導部を抱いているようで、強権による「引き締め」を行っています。

****北朝鮮、若者の「韓国化」取り締まり…髪型や言葉づかい禁止・ドラマ拡散で「死刑」も****
北朝鮮当局が、韓国式の言葉遣いやファッションを好む若者らの取り締まりを強化している。金正恩キムジョンウン政権は、もともと忠誠心が薄いとされる若者世代が韓国の自由な文化に染まれば、将来の体制の動揺につながると真剣に恐れているようだ。
 
韓国の情報機関・国家情報院の8日の国会報告によると、北朝鮮は最近、韓国風の言い回しなどが「非社会主義で革命の敵」だとして使用を禁じた。夫を「オッパ」(お兄ちゃん)、交際男性を「ナムチン」(彼氏)と呼ぶ言葉遣いなどで、韓国の若者らが好む表現だ。
 
髪形などの「乱れ」も摘発対象だ。韓国在住の脱北者の30歳代男性によると、北朝鮮の最近の若者は、男性は側頭部を短く刈り上げる「ツーブロック」、女性はロングヘアを好む。だが、男性の場合は「軍人のような短髪でない」こと、女性は「女性らしさを強調しすぎ」だとして禁止された。
 
北朝鮮当局は昨年12月、韓国ドラマなどを広めた場合、最高で死刑となる法律を制定した。韓国の言葉遣いを罰する条項もあり、該当すれば2年以下の労働教化刑となる。国家情報院の報告は、法制定を受けた摘発の徹底ぶりを示すものだ。
 
北朝鮮で韓国ドラマを隠れて見ること自体は、かねて常態化してきた。北朝鮮内部と連絡を取る韓国の専門家によれば、日本で話題を呼んだドラマ「愛の不時着」も人気という。
 
韓国式の言葉やしぐさまでが禁じられた昨年末からの状況は、韓国文化の浸透ぶりを示すと言える。この専門家によると、携帯電話のメッセージを抜き打ちでチェックされ、韓国で使われる略語やスラングの使用を当局が確認するケースも出てきているという。
 
北朝鮮の警戒の高まりは、金正恩朝鮮労働党総書記の公式発言からもうかがえる。正恩氏は6月20日、平壌ピョンヤンで開かれた女性団体の大会に寄せた書簡で、「女性の組織は服装や言葉遣いなどのおかしな傾向に警鐘を鳴らし、徹底的に芽を摘まなければならない」と強調した。
 
高麗大の柳浩烈ユホヨル名誉教授(北朝鮮政治)は、こうした締め付けを「体制の揺らぎにつながる若者の反乱の兆候を早めに摘む」ことが狙いと見る。新型コロナ対策で中朝国境を封鎖したことで、北朝鮮に外部情報が流入しにくくなっており、柳氏は「この機に『韓流ブーム』を全てなくしてしまおうとしているようだ」と話す。【7月18日 読売】
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「韓国に染まると、社会主義が危なくなる。瀬戸際で食い止めないと収拾がつかないという危機感があるのだろう」(龍谷大の李相哲教授)とも。

その引き締め策は“単なる韓流取り締まりにとどまらず、北朝鮮国民の生活を、身動きがとれないほどにがんじがらめにする”もののようです。これまで賄賂などで「骨抜き」にされていた規制も改めて厳しく取り締まるもののようですが、それでは社会が回らなくなってします。

****北朝鮮国民の生活を縛る「反動的思想・文化排撃法」のヤバさ****
(中略)、昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」、いわゆる韓流取締法については、(中略)単なる韓流取り締まりにとどまらず、北朝鮮国民の生活を、身動きがとれないほどにがんじがらめにするものだった。(中略)

(細部処罰条項に関する)文書がまず重点を置いているのは、一般人民の間で広範に起きている非社会主義現象――つまりは当局の考えるところの社会主義にそぐわず風紀を乱す行為だが、この根絶に関するところだ。

通りや公園、遊園地などで公衆道徳を守らない行為、革命歌謡の歌詞を歪曲して歌う行為、朝鮮式でない服を着て結婚式を上げる行為、カネや穀物を貸して高い利子を取り、返済に行き詰まったら家や財産を奪う行為など、様々な行為が非社会主義行為として列挙されている。

また、一般住民が輪転機材(自動車、オートバイ、トラクター)を購入し、人からカネを取って乗せたり、農作業に利用する行為、共同農場の営農設備や機材、資材を盗んだり破壊したりして農作業に支障を与える行為、山林資源や動物を取ってカネ儲けをする行為ななどが反社会主義的行為の事例として挙げられている。

各所にワイロを支払って許可を取り付け、個人の所有が禁じられている車両を、国営企業、機関などの名義を借りて所有し、人や物を運んで営業する「ソビ車」は、進展する北朝鮮の市場経済の物流を底支えしてきたが、このような行為も許されないということだ。

今回の細部処罰条項が、今まで当局が黙認または気を使わなかった些細な問題も処罰対象に含めたことで、人々は生活の隅々までがんじがらめにされ、ちょっとしたことで処罰されかねないというのが、この幹部の見立てだ。

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民情報筋は、今回の細部処罰条項は、国境地域の住民により多大な影響を与えるだろうと見ている。最も厳しく取り締まるべき重大犯罪、反党・反国家行為として、地域でよく行われている、中国の携帯電話会社のデバイスを使って国外と連絡する行為が挙げられているからだ。

このような携帯電話は、密輸目的で中国の業者との連絡に使われたり、家族が韓国に住む脱北者からの送金目的で使われたりしている。当局がいくら摘発しても根絶できず、取り締まり側もワイロを受け取って見逃していた。

しかし、「反動的思想・文化排撃法」やそれに伴う取り締まりの強化で、送金ブローカーが徐々に姿を消し、脱北者家族も韓国に住む家族との連絡を行うのに相当のリスクを強いられることとなり、送金が途絶えたため、生活が苦しくなっているという。

ちなみに、いずれの情報筋も違反に対する具体的な量刑には触れていないが、労働教化刑、労働鍛錬隊(いずれも懲役刑)など、違反行為ごとに細かく決められているとのことだ。

北朝鮮の生活の現実を全く無視し、様々な生活、経済活動を禁じるこの法律だが、今までの流れなら施行当初は見せしめとして厳しい取り締まりが行われるものの、時が経つにつれワイロなどで骨抜きにされる。

ソビ車がなくなれば物流が滞り、脱北者の送金を止めれば国内に流入する外貨が減少する。だからといって、その穴埋めをするだけのものが国から与えられるわけでもない。

そんな「汝人民飢えて死ね」と言わんばかりの法律が、実効性を保ち続けられるかは非常に不透明と言わざるを得ない。【7月20日 Daily NK】
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北朝鮮で続く「違法携帯電話」の取り締まり…さらに80人逮捕【7月22日 Daily NK】
北で出回る禁断の地下出版物…高位幹部の「見せしめの刑」も【7月26日 Daily NK】

【「扇動隊」に駆り出され、栄養失調で倒れる女性・・・】
下記は、最近の北朝鮮事情を伝える“三面記事”的な情報。
政治問題を扱う硬い記事ではありませんが、むしろその“三面記事”的なものから北朝鮮の苦境が浮き上がってくるようにも思えます。

****北朝鮮のモノ不足が深刻…古紙・ゴム類の供出を国民に強制****
北朝鮮当局は、不足する物資を国民に強制的に供出させ、乗り切ろうとする「集中収売」を頻繁に行う。
代表的なものが、毎年正月に、肥料の代わりとして使う人糞を大量に供出させる「堆肥戦闘」だが、それ以外にも年がら年中、何らかの金品を供出させている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今月1日から恵山(ヘサン)市内の人民班(町内会)で事業が行われていると伝えた。1世帯あたりのノルマは古紙500グラム、ゴム1キロだ。

それも「適当に出すふりをするのではなく、きちんと決められた量を正確に出せ」との注文付きだ。出せない場合には、道路補修工事に動員される。

紙ならともかく、ゴムの木が生えている熱帯の国ではないため、自宅にあるゴム製品を差し出すしかない。しかし度重なる供出で、もはやどの家庭も「在庫」が残り少なくなっている。結局は、市場で買って出すしかない。

供出を求められた人糞が集められず、市場で買い求めたり、人糞を納めたという偽の証明書を発行するブローカーが暗躍したりするのと同じような状況が、繰り広げられているものと思われる。上述の「ちゃんと出せ」という警告は、そういう実情を背景にしたものだろう。

通常時でも住民の激しい不評を買っているこのような供出事業だが、今はコロナ鎖国のもたらした極度の食糧難の真っ只中だ。

住民からは「くれると約束した食糧もまともにくれないのに、取り上げるものはこっちの事情も考慮せず強制するなんてがめつい」と不満の声が上がっている。

金正恩総書記が下したと伝えられる特別命令書に基づき、住民に軍糧米が有償で配給されることになっているのだが、うまく行き渡っていないのだ。【8月27日 Daily NK】
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****金正恩の「女性にぎやかし部隊」に駆り出された、ある主婦の受難****
北朝鮮の労働現場の映像を見ていると、ワゴン車に積まれたスピーカーから威勢のいい声で何かを叫びつつけている一団をよく見かける。現地で「扇動隊」と呼ばれているものだ。正式には「機動芸術宣伝隊」と呼ばれ、1961年に故金日成主席の指示に基づいて発足した。

工場、企業所、協同農場、建設現場を周り、朝鮮労働党の政策を宣伝し、歌って踊って労働意欲を高めるのが目的で、優秀な隊には賞が与えられる。

どんな効果があるのか甚だ疑問だが、今でも各地で続けられている。さて、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の災害被災地では、復旧作業に当たる人々を鼓舞するために扇動隊が動員されたのだが、鼓舞するどころか逆に倒れてしまう事件が起きたと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮の各地、中でも北東部や北西部では、今月に入ってから降り続いた長雨により甚大な被害が発生したが、被災地の一つ、咸鏡北道の朝鮮労働党委員会は14日、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)に対して、現場で扇動隊の活動を行うよう緊急指示を下した。

指示に基づき、女盟のメンバーは災害復旧に当たる作業員の出勤、退勤時間に合わせて、朝夕2時間ずつ道端で、歌って踊ってシュプレヒコールを叫びながら、花束を振り続けた。

党委員会は、彼女らに扇動だけではなく、実際の復旧作業にも参加せよとの追加指示を下した。結局、彼女らは二手に分かれ、一方は復旧作業を、一方は扇動活動を続けた。

そんなある日、清津(チョンジン)市の女盟のメンバーが急に倒れた。現場にいた市人民委員長(市長)が自らの車に乗せて病院に搬送、診察を受けさせたところ、ひどい栄養失調と熱中症によるものだとの診断を受けた。

食糧難がひどくなる中、彼女は1日1杯の粥だけで糊口をしのぎ、水を飲んで空腹を満たしていたのだった。そんな窮状を知った人民委員長は、全住民の生活が苦しい中で、家庭の生計の責任を負う女性まで動員しなければならないのかと、党委員会にかけあった。

つまり、普段なら彼女らは市場で商売をして一家を経済的に支えているが、動員によりそれができなくなり、ただでさえ苦しい生活がより苦しくなっているということだ。

それに対して党委員会は、人民委員長の態度がなっていないと逆に批判し、「今の世の中で苦しんでいない人がどこにいるのか」「皆が苦しいのに、一部だけを大目に見るようでは、誰が建設現場や行事に行こうとするのか」などと激しく罵ったという。

さらには人民委員長に対し、彼女や他の絶糧世帯(食糧が底をついた世帯)の生活上の困難を解決し、積極的に扇動に動員せよと、住民に対する責任を丸投げする始末だ。

この話を聞いた住民の間からは当然のように、人民委員長に対する支持と共に、党委員会を非難する声が上がったという。

「人民委員長の考えが全く正しいのに、党は女性をどれだけ苦労させているのか知ろうともせず、生きようが死のうが現場に追いやっている」(情報筋が伝えた住民の声)
「党が行政をバカにして見下す現象を党(の上部)に報告してもむしろ問題視されるだけだ」(同)

なお、倒れて入院した女性は、高熱を出したため、2日目からは自主隔離を強いられているという。食糧配給などのないままで、自宅に閉じ込めるというのが北朝鮮式の自主隔離だ。もしかすると生きて家から出てこれないかもしれない。【8月27日 Daily NK】
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溜息をつくしかないような状況ですが、党機関紙は相変わらず「軍事力こそ国力だ」と。

人民が飢えで倒れるような社会で“国力”も何もあったもんじゃない・・・と、日本的常識では考えるのですが。

****北朝鮮「軍事力こそ国力」 金正日氏記念日で党機関紙****
北朝鮮は25日、故金正日総書記が軍優先の「先軍政治」を始めたとされる日から61年の記念日を迎えた。朝鮮労働党機関紙、労働新聞は論説で金正日氏が同国を世界的な軍事強国の地位に押し上げたとたたえ、「軍事力こそ国力だ」と強調した。
 
平壌では故金日成主席と金正日氏の銅像が立つ万寿台の丘に軍人や市民らが献花に訪れたほか、市内の広場などで若者らによる舞踏会が行われた。
 
労働新聞は、金正日氏が党に絶対服従する軍をつくりあげ、国防工業は「どんな武器装備でも製造できる現代的で自立的な工業」に発展したと称賛した。核兵器やミサイルへの言及はなかった。【8月25日 共同】
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