孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン空港テロ  窮地のバイデン大統領 今後の戦略にも影響 中国「テロの温床」を危惧

2021-08-27 22:54:01 | アフガン・パキスタン
(ホワイトハウスで26日、うつむきながら記者の質問を聞くバイデン米大統領【8月27日 朝日】
強い大統領を求めるアメリカでは、こういう姿は大きなマイナスでは・・・。ただでさえ、認知症の疑念を持たれていますので。
“最後には「みなさん、20年間の戦争を終わらせる時だったのです」と質問を打ち切り、会場をあとにした。”とのこと)

【アメリカとタリバンの限定的な協力関係を狙ったISによる「起こるべくして起きた」テロ攻撃】
カブールの空港付近での自爆テロは、タリバンの首都制圧以降の空港の混乱ぶりからすれば、誰しも予想した(何事もなければ、それが不思議なぐらいの)「起こるべくして起きた」テロ攻撃ではありますが、死者は100人を超え、アメリカにとっても兵士13人が死亡するという「最悪」の結果になっています。

****アフガンテロ、死者100人超 米大統領、IS報復を指示****
アフガニスタンの首都カブールの空港付近で起きた自爆テロで、AP通信などは27日、死者が100人を超えたと報じた。標的の一つは出国希望者らが集合するホテルだったことも判明した。

関与を主張した過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力のIS「ホラサン州」は、世界が注目する退避作戦を狙った攻撃で存在感を誇示し、アフガンの混迷が拡大。バイデン米大統領は報復を指示した。
 
ISはタリバンと敵対関係にある。米軍撤退完了の期限が31日に迫る中、アフガンが再びテロの温床となる恐れが高まった。米兵の1日当たりの死者数として13人は過去10年で最悪となった。【8月27日 共同】
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ISにしてみれば、アメリカに打撃を与え、同時にタリバン支配も揺さぶることができる、一石二鳥のテロです。

****アフガン自爆テロ IS―K、米タリバンの〝信頼なき協力〟標的****
アフガニスタンの首都カブールでの自爆テロは、仇敵である米国とイスラム原理主義勢力タリバンが、在留米国人らの退避プロセスで実質的な協力関係を結ぶ中で発生した。

実行したとみられるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」傘下の「ホラサン州」(IS―K)には、対米ジハード(聖戦)の成果を誇示することで競合するタリバンの正統性をおとしめて混乱を助長するとともに、米国とタリバンの不信を増幅させる狙いがある。

アフガンでは、今月15日にタリバンがカブールを制圧して以降、米国人をはじめとする在留外国人や、タリバン支配を恐れるアフガン人らの退避が本格化。撤収期限の8月末が迫るなかで米国は、タリバンとの間で、外交団や軍のレベルで「日常的な連絡態勢」(国務省)を構築した。

背景には、「脱アフガン」を円滑に進めたい米国側と、外国勢力を国内から排除して早期に支配を確立したいタリバンとの利害の一致がある。タリバンとしては今後の政権運営をにらみ、米欧に恩を売る狙いもあるとみられる。タリバンがアフガン人の出国を認めないとするなど両者の隔たりは大きいとはいえ、限定的な協力関係が生まれているといえる。

これに対し、米国とタリバンの双方を敵視するIS―Kにとっては、今回のようなテロで混乱を長期化させることが利益になる。正統なジハード(聖戦)勢力とのイメージを強化し、タリバンの求心力低下も期待できるためだ。

今回のテロでは、自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない。

26日にオンラインで記者会見した米中央軍のマッケンジー司令官は、「タリバンを信用できるのか」との問いに、重要なのは「タリバンには、米国に(アフガンから)出ていってほしい理由があること」だと指摘し、「連携を継続する」と強調。米国は、無人機などを活用した上空からの監視態勢を強化する一方で、タリバンとの〝信頼なき協力〟に頼りつつ退避プロセスを進める構えだ。【8月27日 産経】
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【責任問題で窮地に立たされるバイデン大統領 再び「テロの戦い」に引きずり込まれる可能性も】
アメリカ国内では8月31日機嫌の徹種に拘って現地混乱を惹起したバイデン大統領の責任を追求する声が強くあります。

****米メディア、バイデン大統領の責任を追及****
アフガニスタンの首都カブールの国際空港で少なくとも13人の米兵が殺害された自爆テロについて、米メディアは26日、トップニュースとして被害状況や背景を詳報した。バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわったことが犠牲を招いたとの論調が目立った。

バイデン氏が26日に行った記者会見で、保守系FOXニュースの男性記者が厳しく追及する様子が注目を集めた。
記者が、撤収期限を設けたことが米兵の殺害につながったとし、「あなたは責任を負うのか」と問いただすと、バイデン氏は「起きたこと全てに基本的な責任を負う」と応じつつも、撤収はトランプ前政権とアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンとの間で合意されたことであると強調した。一連のやり取りは経済誌フォーブスや議会紙ヒルが電子版で速報した。

有力紙では、ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が社説で「誰もが恐れていたイスラム過激派のテロが起きた。大統領は安全な退避活動のために十分な兵力を出さなかった過失責任を逃れられない」と批判した。

ワシントン・ポスト紙(同)は「バイデン氏の『経験豊かで堅実な世界の指導者』という信認が損なわれた」と指摘。与党・民主党の一部議員も「自爆テロが起きた空港周辺の治安をタリバンに頼る国防総省の方針を疑問視している」と伝えた。

一方、ニューヨーク・タイムズ紙(同)は「混乱した撤収」としつつも、自爆テロに関するバイデン氏への批判は「政治的」であると分析。多くの米国人が「(米軍の)アフガン撤収を望んでいた」とし、「長期的にバイデン政権の打撃となるかどうかは不透明だ」と論じた。【8月27日 産経】
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****カブール爆発、トランプ氏や共和党議員がバイデン氏非難****
アフガニスタンの首都カブールで自爆攻撃によって米兵13人が死亡、18人が負傷したことを受けて、米国のドナルド・トランプ前大統領と複数の共和党議員は26日、ジョー・バイデン大統領を非難した。
 
バイデン氏のアフガン問題への対応を厳しく批判してきたトランプ氏は、自爆攻撃を「悲劇」と呼び、防げたはずだと述べた。「この悲劇は決して起こしてはならなかった」
 
複数の共和党議員は、バイデン氏は辞任するか弾劾されるべきだと批判した。
 
共和党のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出)は、「ジョー・バイデン氏には責任がある」と述べた。「今や彼にリーダーとしての能力も意志もないことが明白となった。辞任しなければならない」
 
共和党下院ナンバー3のエリス・ステファニク議員は、「(米兵らの)死の責任はジョー・バイデン氏にある」とツイッターに投稿した。
 
ステファニク氏は、「この恐ろしい国家安全保障上および人道上の大惨事は、ジョー・バイデン氏がリーダーとして弱く、無能なことの帰結にほかならない。最高司令官にふさわしくない」と主張した。 【8月27日 AFP】
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“バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわった”とは言っても、現地を制圧しているタリバンが期限延長を認めない状況では、他の選択肢はなかったとも思われます。

そもそも米軍撤退はトラン前大統領のタリバンとの合意が前提となっており、タリバンの首都制圧も誰も予想しえなかった程の急展開でしたので、バイデン大統領一人が責められるのはやや理不尽なところはありますが、「撤収のやり方がまずかった」と言われれば、結果が全ての政治の世界で責任回避はできないでしょう。

そうした責任問題と同時に、アフガニスタン撤退によって対中国の軍展開を目指していた矢先のテロ攻撃によって、再び「テロとの戦い」に引き戻されるという点でも、バイデン政権にとっては大きな痛手となっています。

****バイデン政権、発足以来最大の窮地 再びテロとの戦いに突入か****
「テロリストは我々を邪魔することはできない。我々は退避作戦を継続する」
バイデン米大統領は26日の演説でこう力を込めた。バイデン氏は米軍高官たちと退避作戦を協議。高官たちは「(作戦の)任務を完了できるし、完了させなければいけない」と明確に答えたという。
 
バイデン氏はさらに「今回の攻撃を行った者たちへ」として、「我々は許さない。我々は忘れない」と強調。「代償を払わせる」と語気を強めた。テロ攻撃を行った過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織の拠点や指導者に報復攻撃する作戦計画の策定を米軍に命じたことを明らかにした。ドローンなどを使った空爆攻撃を検討しているとみられる。
 
ただ、政権肝いりの退避作戦で多数の米軍兵士が犠牲となったことは、バイデン政権発足以来最大の政治的窮地を迎えたと言ってもよい。

バイデン氏が米軍撤退を推し進めたのは「国益のためにならない」(同氏)戦争でこれ以上の若い米軍兵士の犠牲を防ぐという大義があった。

批判を受けても8月末の退避作戦完了にこだわったのも、空港周辺でテロ攻撃を画策しているという情報を米情報機関がつかんだことで、作戦が長期化すれば、米軍兵士がテロ攻撃にさらされるリスクが高まることを理由にあげていた。
 
今回の13人という米軍兵士の死者数は、2011年8月に米軍ヘリが撃墜されて30人の米軍兵士が死亡したのに次ぎ、アフガニスタンでの一日の死者数としては最も多い。サキ大統領報道官は「バイデン大統領の任期中で、最悪の出来事」と表現した。
 
今回のテロ攻撃をきっかけに、米国が再び中東周辺に足を取られていく恐れも出てきた。もともとバイデン政権はアフガニスタンから撤退することで、米国の軍事力を「唯一の競争相手」と位置づける中国に対して集中させるという狙いがあった。

しかし、報復宣言に見られるように、バイデン政権が再びテロとの戦いに引きずり込まれていく可能性もある。実際、バイデン氏は26日、「追加の派兵が必要であれば、私は認める」と語った。【8月27日 朝日】
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【タリバン「米軍が管轄する場所で起きた」】
今回テロをタリバンがどのようにとらえているかについてはあまり報じられていませんが、“タリバン報道担当のムジャヒド幹部は、ツイッターに「市民を狙った爆発を強く非難する」と投稿し、爆発は「米軍が管轄する場所で起きた」とした。”【8月27日 朝日】とのこと。

責任は米軍側にあるということでしょうか。ただ、前出記事にもあるように“自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない”という側面も。

【中国 「テロの温床」となって新疆ウイグル自治区へ影響することを懸念】
一方、中国にとってアフガニスタンに関する関心は、地下資源とか「一帯一路」の問題もありますが、一番はアフガニスタンの混乱がテロの温床となって、“敏感な”新疆ウイグル自治区の情勢に影響を与えないことでしょう。

****アフガンのタリバン政権と中国****
(中略)ところで、中国はタリバンに対して如何なるアプローチを取っているのか。

アフガンが大混乱に陥る直前の7月28日、王毅・中国外相は、天津市でタリバンの幹部と会談し、アフガニスタン和平などについて意見交換を行った。中国外務省の発表によると、同外相はタリバンについて「アフガンの和平、和解、復興プロセスで、重要な役割を発揮することが見込まれる」と述べたという。

また、今月8月19日、王毅外相は、ラーブ英外相とアフガニスタン情勢について電話会談した際、国際社会はタリバン政権に対し「圧力よりも支援を」と強調している。

翌20日、タリバンの報道官は、CCTVの取材を受け、中国について「偉大な隣国だ」とした上で、「同国はアフガニスタンの平和と和解のため建設的な役割を果たしてきた」と評価した。

中国共産党としては、タリバン政権と友好な関係を構築したいのではないか。周知の如く、新疆ウイグル自治区では、ウイグル人収容所があり、タリバンはイスラム教スンニ派である。場合によっては、タリバンが中国国内の一部のスンニ派ウイグル人と手を結び、テロによって習近平政権を脅かさないとも限らない。

また、アフガンには大量の資源(主に銅とリチウムで、一説には3兆米ドルにのぼるという)が眠る。中国共産党は、何とかアフガンの資源を手中に収めたいだろう。同時に、中東(例えば、トルクメニスタン等)と中国を結ぶアフガンの石油・天然ガスパイプライン敷設も重要課題である。北京は、是非とも、そのパイプラインを稼働させたいのではないだろうか。

更に、習近平政権としては「一帯一路」構想を実現する上で、アフガンの安定は不可欠である。もし、アフガン情勢が混迷化すると、同構想は頓挫するかもしれない。

一方、タリバン政権としても、今後、米国やEU等からの支援を得づらいので、中国との友好関係を深めたいのではないか。特に、アフガンではケシの栽培が行われている。世界のアヘンの9割はアフガン産と言われるが、そのアヘンを主に中国が買い取っているという。

ただし、よく知られているように、部族国家のアフガンでは、歴史的に、大国の英国、(旧)ソ連、米国が泥沼に嵌まっている。ひょっとすると、中国も同じ轍を踏む可能性がないとは言い切れまい。【8月25日 澁谷司氏 Japna In-depth】
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****中ロ首脳、アフガン安定化へ協調=テロの温床を警戒****
中国外務省によると、習近平国家主席は25日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、アフガニスタン情勢の安定化に向け協調することで一致した。両首脳はアフガンがテロ組織の温床になることに強い警戒感を示した。
 
習氏は、ロシアをはじめ国際社会の各国と意思疎通や協調を強化したいと説明。さらに「アフガンの各派が開放的・包括的な政治的枠組みを話し合って築き、穏健な内外政策を実施し、テロ組織と徹底的に(関係が)切れるよう奨励したい」と訴えた。【8月25日 時事】 
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そうした(支配者はタリバンでも誰でもいいので)アフガニスタンの安定によって「テロの温床」となることを防ぐことを重視する中国にとっても、今回の事件は今後の「テロの温床」を懸念させるものになっていると思われます。

****カブール空港テロ、中国も非難 「テロ拠点化防ぐ」****
中国外務省の趙立堅副報道局長は27日の定例会見で、アフガニスタンの首都カブールのにある国際空港付近で発生した爆破テロ事件について「中国はあらゆるテロに断固反対し、強く非難する。国際社会と共にテロの脅威に対応し、アフガニスタンがテロの拠点になることを防いでいきたい」と語った。
 
趙氏は「多数の死傷者が出たことに衝撃を受けている」としたうえで、「事件はアフガニスタンの治安状況が依然として厳しいことを物語っている」との認識を示した。
 
中国が最も警戒するのは、アフガニスタンの不安定化が新疆ウイグル自治区の独立を目指す東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の活動につながることだ。趙氏は「タリバンはいかなる勢力も中国に危害を加えることは許さないと明確に述べた。約束を着実に実行してほしい」とタリバン側に役割を果たすよう求めた。
 
一方、米国はETIMについてトランプ政権が昨年、「活動存続の確証がない」としてテロ組織指定を解除している。趙氏は「米国はテロに反対すると言いつつダブルスタンダードだ。中米の反テロ協力に何の利益にもならない」と批判した。【8月27日 朝日】
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退避希望者が空港に入れず、これまで進捗していない日本の退避作戦は、今回のテロで更に難しくなると予想されますが、その点では韓国はテロ発生前にうまく処理したようです。

****韓国、アフガンから390人脱出成功 特殊部隊「ミラクル」作戦****
韓国政府は27日までに、アフガニスタンで韓国政府に協力していた現地スタッフとその家族390人を脱出させ、韓国で難民ではなく「特別功労者」として受け入れた。作戦名は「ミラクル」(奇跡)。

首都カブールの国際空港への接近が難しい状況下で、在アフガニスタン韓国大使館職員以外に60人余の特殊任務部隊を編成し、希望者全員を脱出させることに成功したという。
 
「とても危険な作戦で、我々は幸運だった」。青瓦台(大統領府)の朴洙賢(パクスヒョン)国民疎通首席秘書官は26日、ラジオのインタビューでこう振り返った。
 
青瓦台や国防省などによると、救出作戦を遂行するため空軍などで構成する66人の特殊任務部隊を緊急編成し、23日に軍輸送機3機を派遣。当初は退避希望者が自力で空港に集合した後に空輸する予定だったが、タリバンが空港に至る道に検問所を設置して市民を追い返していたため、24日に空港までたどり着いたのは26人だけだった。
 
そのため、作戦を変更し、米国が現地で契約するバスを6台確保した。タリバンと米国は事前に指定したバスは空港に入れることで合意していたからだ。
 
大使館の連絡網を通じて、市内に散らばって待機させたバスの位置と集合時間を退避希望者に伝え、全員をバスに収容。さらに米軍兵に同乗してもらうことで、タリバンの検問を通過し、25日に空港に到着した。パキスタンの首都イスラマバードで待機中の輸送機をカブールに急派し、同日中にイスラマバードへ退避させた。
 
脱出したのは在アフガニスタン韓国大使館や韓国政府が運営する病院、職業訓練施設などで勤務していたスタッフとその家族390人。全員が27日までに新型コロナウイルスの検査を受けた後、政府施設に滞在する予定だ。「特別功労者」は短期ビザのため、今後、就職が可能な長期ビザへの切り替えを可能にする法整備も進める方針だ。
 
韓国外務省は今年6月、アフガニスタンに滞在する国民に撤収を要請。カブール陥落後に残っていた国民1人も8月17日に大使館員と共に脱出したため、すでに現地に残っている国民はいない。【8月27日 毎日】
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