孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  「麻薬戦争」に加えて、コロナ規制違反者の殺害も ジャーナリスト殺害はもはや「文化」

2021-08-15 23:17:37 | 東南アジア
(フィリピンの首都マニラ市内で検問所で警戒にあたる警官【8月15日 Newsweek】)

【デルタ株感染拡大で首都圏は厳しいロックダウン】
フィリピンでは、日本や他の東南アジア諸国と同様に新型コロナのデルタ株の感染が急拡大しています。
ただ、日本とは異なり、対策としてマニラ首都圏で、外出は必要な買い物時にのみ許可という厳しいロックダウンが取られています。

****フィリピン首都圏に最強レベルの封鎖措置、デルタ型抑制目指す****
フィリピンのドゥテルテ大統領は30日、新型コロナウイルスのデルタ型変異株の拡大抑制と医療システム保護のため、首都圏のロックダウン(都市封鎖)を承認した。

マニラ首都圏は、16都市と1300万人超の人口を抱える。

ロケ大統領報道官はテレビ演説で、8月6─20日に、首都圏で最強レベルの封鎖を行なうと発表。「痛みを伴う決断だが、全員のためだ」と語った。

封鎖による経済損失は、40億ドルとみられている。

今回の措置により、外出は必要な買い物時にのみ許可、飲食は屋外、屋外問わず禁止となる。

首都圏市長評議会の会長は、ロイターに「デルタ株は既に首都圏全域に拡散しており、これは適切な介入だ」と述べた。

また、市長評議会として、ワクチン接種件数を1日15万回から25万回に増やす方針を明らかにした。【8月2日 ロイター】
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この厳しいロックダウン直前には市民の間では、大勢が真夜中からワクチン接種会場に殺到するという混乱も報じられていました。

****どこへ...真夜中に人殺到 何が人々を駆り立てた? フィリピン****
フィリピンの首都・マニラ。
デルタ株の影響で厳しい外出、移動制限が課される前の日の午前2時。ある場所を目指して、大勢の人が押し寄せた。

混雑の中、人混みをすり抜けて小走りする人たちの姿も。夜が明けても人の数は減らず、ひしめき合っている。

彼らが目指していたのは、ワクチンの接種会場。現地のメディアによると、押し寄せた人数は4つの会場をあわせて、およそ2万2,000人。一部の会場では、接種が停止される事態になった。

なぜ人々は、急にワクチンを接種しようとしたのか。原因はフェイクニュース。

ワクチンを接種しないと家から出られない、経済的な援助が受けられないなどのうわさが相次いだ。
当局は、全ての人がワクチンを受ける必要はなく、状況により仕事に出ることが許可されていると呼びかけている。【8月9日 FNNプライムオンライン】
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感染が拡大する背景のひとつに、フィリピンではワクチンへの不信感が強く、接種が進んでいない現実があります。

そうした状況に、あの超法規的殺人「麻薬戦争」を指揮しているドゥテルテ大統領は「ワクチン接種を拒む者は投獄する」と怒っています。

****「ワクチン接種しなければ投獄」でも拒否するフィリピン国民が忘れない「苦い経験」****
<ワクチン接種による新型コロナ抑え込みのため過激な言動を繰り返すドゥテルテ大統領だが、国民が従わない訳とは>

「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む者は投獄する」。フィリピンのドゥテルテ大統領は、首都マニラの複数の接種会場で接種人数が少ないという報告を受けて、6月21日にテレビ演説で国民に警告した。「私は政府の言うことを聞かない人々に怒っている」

常軌を逸した発言で知られる大統領だから、いつもの捨てゼリフだと思いたくなる。ただし、ドゥテルテの場合、とっぴな発言の裏に、断固として実行するという決意が潜んでいることも少なくない。

2016年の大統領就任直後に勃発した「麻薬戦争」では超法規的な強硬手段も辞さず、1万人以上の死者を出した。その後、人道に対する罪に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に乗り出した。

新型コロナに関しても、ロックダウン(都市封鎖)や感染者の隔離を確実に行うために、時として容赦はしない。今年4月には外出禁止令を破った男性が、警察官からスクワットのような運動を300回強要された後に死亡した。

しかし、こうした懲罰的措置も、新型コロナの蔓延を食い止めることはほとんどできずにいる。フィリピンの累計感染者数は130万人以上、死者は2万4000人を超えている。いずれも東南アジアで2番目に多い。

安全性への不安と効果への疑問
ワクチン接種も進んでいない。6月22日現在、少なくとも1回接種したのは893万人で、人口のわずか6.1%。年内に全国民1億1000万人のうち7000万人に接種を済ませるという政府の目標は、実現が遠のくばかりだ。

ドゥテルテは21日の演説で、村の指導者は接種を拒否した人の名前を記録するべきだとも言及した。さらに、学校の対面授業の再開延期と、フェイスシールド着用の義務付けの継続も発表した。

接種率が低い理由の1つは、国民が躊躇していることだ。調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズが5月に発表した世論調査では、政府のワクチン接種プログラムを信頼すると答えた人は成人のわずか51%。フィリピンの食品医薬品局が承認したワクチンを無料で接種できるなら受けたいと答えた人は32%だった。

接種を迷う理由として、39%の人が副反応への不安を挙げ、21%はワクチンの安全性と効果に疑問を呈した。さらに、11%の人が「ワクチンが怖い」「信用できない」と答えている。調査機関パルスアジアによる最近の調査では61%が接種しないと答えている。

国民の不信の理由として考えられるのは、デング熱ワクチンの経験だ。フィリピンでは16年からフランスの製薬大手が開発したデング熱ワクチンの大規模な集団接種を行ったが、接種により深刻な症状が出ることが17年に発表され、政府はこのワクチンの使用を禁止した。

新型コロナのワクチンでは、アストラゼネカ社製を接種したごく少数の人に血栓が見つかり、シノバック社製に対する不信感も広がるなど、国民は不安を募らせている。

こうした状況を受けて、フィリピン政府は5月中旬に、接種の直前までワクチンの製造元を明かさないと通達した(自分の番が来て希望するワクチンでなければ、別の列に並び直すことになる)。

ドゥテルテの「脅迫」は、感染拡大を食い止めるために必要な規模の接種を実現できないかもしれないという懸念の裏返しでもある。ワクチンは十分に確保しているフィリピンだが、前途は多難だ。【6月29日 Newsweek】
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【ロックダウン違反者を警官でもない警備員が射殺】
トップが「ワクチン接種を拒む者は投獄する」と国民を脅している社会で、ロックダウンに違反するとどうなるのか・・・射殺されます。それも警官によってではなく、警備員に。ここでも超法規的殺人が。

ドゥテルテ大統領は以前、コロナ規制への違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との趣旨を警察に対して行ったこともあります。

****ロックダウン違反者を警備員が射殺 過剰暴力と批判高まるフィリピン****
<「デルタ株の猛威を防ぐ」という大義のため、また人権がないがしろにされる事態が起きている>

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、市民活動に厳しい規制や制限を課しているフィリピンで、規制に違反して検問を通り過ぎようとした一般市民に対して警備員が発砲、殺害する事件が起きた。

フィリピンの人権団体などが「過剰暴力であり、人権侵害である」として独自の調査に乗り出すとともに、警察当局に対して徹底的な捜査を求める事態となっている。

フィリピンでは警察官による過剰な暴力や殺害などによる人権侵害が以前から深刻化しており、最高裁判所は警察官にボディカメラ装着を義務付ける判断を下したばかり。犯罪容疑者などへの警察の「超法規的措置や違法行為」を予防することが期待されているところだった。

一方では警察官以外にもコロナ規制取り締まりにあたる地方行政機関所属の警備員や法執行機関職員などによる「権威を笠にした不法行為」が頻発しており、今回の射殺事件も規制区域に設けられた検問所にいた警備員による犯行だった。

おもちゃの銃所持が発砲理由か
マニラ首都圏警察や地元メディアなどによると8月8日にマニラ・トンド地区の区域の教会に設けられた検問所で警戒に当たっていた地方行政機関の警備員セザール・パンラケ容疑者が検問を違法に通り抜けようとした廃品回収業のエドアルド・ゲニョガ氏(55)に対していきなり発砲。エドアルド氏はその場で射殺された。

エドアルド氏は当時木製のおもちゃの銃を所持していた、というがそれが「射殺の原因」なのかどうかは現時点では判明していないという。

事件当時は夜間外出禁止令が出ており、居住地域から外にでることは原則禁止だったという。マニラ警察では住民からの通報を受けてセザール容疑者を殺人の疑いで逮捕、取り調べを続けている。

フィリピンの人権委員会はこの射殺事件を受けて「不必要な殺害の可能性が極めて高い」として調査に乗り出す方針を示した。

人権組織「カラパタン」も事件を非難するとともに「警察をはじめとする捜査当局、法執行機関関係者などによる過剰な暴力行為を容認しているのは大統領である」としてドゥテルテ大統領に非難の矛先を向けている。

ドゥテルテ大統領は2016年の就任以来、麻薬犯罪関連容疑者に対する強硬姿勢を打ち出し、捜査現場で法に基づかない「超法規的殺人」を黙認する姿勢を示すなどして国内外の人権団体などから厳しい批判を現在も浴びている。

そのドゥテルテ大統領はコロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年に、政府が講じる各種の感染拡大防止策の規制への違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との趣旨を警察に対して行ったという。

規制違反で150人以上殺害のデータも
国際的な人権監視組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、2020年の4〜7月の4カ月間だけで155人がコロナ規制違反などで殺害されているというデータもある。(中略)

人権委は「コロナ規制違反者の脅威に対抗するためとして、警察官、警備員などが実力行使しやすい状況が生まれているが、こうした傾向は社会に肯定的効果を与えない」の見解を示している。

また「カラパタン」も「警察官でもない地方行政機関の警備員がなぜ銃で武装しているのか」との疑問も投げかけている。

フィリピン国家警察によるとコロナ規制違反関係ではこれまでに約2万人が逮捕されているという。行動違反、移動違反、必要書類不携帯などで市民が抵抗したり従わなかったケースが多いという。

フィリピンではデルタ変異株の猛威もあり、8月に入って感染者が166万人を超え、死者も約3万人と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中でインドネシアに次ぐ最悪の数字を更新し続けている。(中略)

警察官にボディカメラ装着へ
こうしたなか、フィリピン最高裁は8月までにフィリピン警察のすべての警察官に対してボディカメラの装着を義務付ける決定を下した。

これは警察官による違法行為や人権侵害から容疑者や一般市民を守るためで、多くの国民から歓迎されている。
現地からの報道などによると、最高裁の決定ではすべての警察官にボディカメラと記録機器を着用することが義務付けられ、不正使用や不正アクセス、装着拒否などは罪を問われる可能性があるという。(中略)

警察官など治安当局による不当逮捕や暴力、超法規的殺人などの人権侵害の抑制、阻止にどの程度効力を発揮するのかは未知数だが、国家警察は現在必要な法律や内部ルールの整備を進め、ボディカメラ導入に全面的に協力するとしており、今後の取り組みが注目されている。【8月15日 大塚智彦氏 Newsweek】
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“2020年の4〜7月の4カ月間だけで155人がコロナ規制違反などで殺害されているというデータもある”というのも怖い話です。コロナウイルスよりも怖いかも。

麻薬関連で1万人以上を殺害しているとも言われる政権にしてみれば、155人は取るに足りない数字でしょうが。

警察官へのボディカメラ装着が実行されれば、少なくとも警官による“容疑者の抵抗”などを理由とした殺害は状況が明示されることにもなりますが、まともに機能するとは期待できないところも・・・。

【ドゥテルテ大統領「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない」】
国家権力による超法規的暴力にさらされているのは麻薬関連者やコロナ規制違反者だけでなく、政府に批判的なジャーナリストも。

ドゥテルテ大統領は「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない、もしその活動が邪悪なものであれば」と公言しています。邪悪なもの(その判断は政府・大統領によって決まります)なら暗殺してもかまわない・・・・ということのようです。

****謎の2人組に銃撃され著名コメンテーター死亡 メディア暗黒時代のフィリピン****
<大統領が「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない」と公言する国で、またメディア関係者が凶弾の犠牲に──>

フィリピンの中部ビサヤ地方のセブ州州都セブ市で地元ラジオ局の著名コメンテーターの男性が正体不明の男から銃撃され、死亡する事件が起きた。

フィリピンでは記者などメディア関係者に対する銃撃、脅迫、暴力行為などが頻発しており、2020年以来殺害されたメディア関係者は4人となり、ドゥテルテ大統領が就任した2016年からでは今回の犠牲者を含めて22人が殺人事件で命を落とし、223人がなんらかの暴力を受けているという。

フィリピンは社会問題などを掘り下げて取材、地元有力者や非合法組織、ギャング団、ときには政治家にとって「気に入らないあるいは面白くない記事や放送などの報道」が動機となって報道関係者への殺害を含む「報復」が日常的に発生している。

このため国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF=本部パリ)」が毎年公表している報道の自由度のランキングで、2021年は180カ国中138位と低く評価されている。この評価基準の一つとして「ジャーナリストに対する暴力行為」が含まれており、フィリピン報道関係者の日常に存在する生命の危機が反映されているという。(中略)

地元で高まる犯行への非難
(セブ市で殺害された地元ラジオ局の著名コメンテーターの)コルテス氏の殺害は1986年のマルコス独裁政権崩壊以来、193人目の犠牲とされ、地元セブ市にある「フィリピン・ジャーナリスト組合セブ支部」の関係者は地元メディアなどに対して「ジャーナリスト殺害は日常化しつつあり、もはやフィリピンの"文化"にまでなりつつある」と厳しく非難、警察当局に早期の犯人逮捕、事件の真相解明を求めている。

また「セブ記者連盟」も「こうした事態が続けば民主主義が暴力にとってかわることになりかねない」と批判している。

コルテス氏は地元ラジオ局「dyRB」で「エンカウンター(邂逅者)」という自らの番組をもっており、地元社会に存在する政治・経済・社会・文化のあらゆる問題、テーマを取り上げていたとされ、警察では「そうした活動のどれかが、犯人につながる人物の怒りをかった可能性がある」としており、殺害がコルテス氏の報道関係者としての活動と無縁ではないとの見方を示している。

フィリピンはメディア暗黒時代の只中
こうしたフィリピンのメディアに対する「殺害を含めた暴力」が蔓延する状況は、マルコス独裁政権時代からの「伝統」で、特に現ドゥテルテ大統領が就任した2016年以降、「報道関係者への暗黒時代が再び登場した」と内外から厳しい指摘が出ている。

ドゥテルテ大統領は「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない、もしその活動が邪悪なものであれば」と公言して憚らないほど自らの政権やその活動に批判的なメディアを敵視している。

著名な元CNN記者だったマリア・レッサさんらが運営するネットメディア「ラップラー」によるドゥテルテ大統領の主導する麻薬犯罪関係者に対する捜査現場での殺害などを助長する「超法規的殺人」に対する手厳しい批判に、ドゥテルテ政権はマリアさんへの「名誉棄損」容疑の拘束や訴追、「ラップラー」社への度重なる税務調査などの「嫌がらせ」を続けている。

また2019年7月10日午後10時ごろには南部ミンダナオ島コタバト州の州都キダパワンで地元ラジオ局の記者でニュース番組のアンカーを務めていたエドゥアルド・ディゾン氏が帰宅するため車に乗っているところに正体不明の2人組がバイクで接近し、発砲。ディゾンが殺害される今回のコルテス氏襲撃に酷似した事件も起きている。

ディゾン氏や勤務先のラジオ局には殺害前に複数の脅迫が届いており、地元警察に届けたものの、警察は動かなかったという。

このようにフィリピンのメディアは現在、「暗黒時代」に直面しており、そんななかでもドゥテルテ政権や地方政府、地方の圧力団体やギャング組織などとの闘いを続け、記者やメディア関係者は「命がけ」で真相報道を試みている。【7月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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その「強権」ドゥテルテ大統領が、国内的には人気が高いのもまた現実です。
次期大統領選挙は本人は立候補できないので、娘を候補者にして、自分は副大統領候補として立候補する策が検討されている・・・という話は以前も取り上げたことがあります。

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