孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国軍によるクーデターから半年 弾圧とコロナ禍で深まる混迷

2021-08-01 22:37:58 | ミャンマー
(ミャンマーで不足している医療用酸素を求めて列を作る人々=最大都市ヤンゴンで2021年7月28日【7月31日 毎日】)

【国軍の弾圧に有効な手立てがとれない国際社会】
ミャンマーの国軍クーデターから半年。

ミャンマーを巡る国際状況は、国軍支配に対する欧米が制裁を課す一方で、影響力拡大を目論むロシアが国軍を積極支持、自国権益保護を重視する中国は国軍支援への深入りは避けながらも欧米の制裁には反対する対応で、市民弾圧を続ける国軍への国連・国際社会としての一致したアプローチができていません。

ASEAN内部も対応に温度差があり、また、暴力の即時停止や軍と民主派勢力の対話を仲介するASEANの特使の派遣など4月の首脳会議(ミン・アウン・フライン司令官も出席)での合意も、国軍側は「国内情勢が安定したら」という形で事実上無視するような状況が続いています。

****対ミャンマー、割れる世界 欧米諸国は制裁/ロ・中反対 クーデター半年****
ミャンマーで国軍がクーデターを起こし、権力を握ってから8月1日で半年になる。欧米諸国が制裁に踏み切る一方、ロシアや中国は反対するなど、国際社会の対応は割れたままだ。国軍の弾圧で900人を超える犠牲者が出る事態に、国際社会は有効な手を打てずにいる。
 
7月29日に開かれた国連安全保障理事会の非公式会合。米国の代表が「今こそ暴力を終わらせ、(ミャンマーを)民主主義の道に引き戻すために圧力を強める時だ」と力説したが、中国やロシアは欠席した。
 
クーデター後、米国や欧州連合(EU)は国軍幹部や国軍系企業などに相次いで制裁を科した。だが、ロシアや中国は国連安保理でも「内政不干渉」を理由に制裁に反対し、制裁決議ができない状況が続く。
 
中でも際立つのはロシアの姿勢だ。6月23日、モスクワの高級ホテルのホールに、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官の姿があった。
 
ロシア国防省主催の「国際安全保障モスクワ会議」に招かれて演説したミンアウンフライン氏は、「国家主権に対して膨大な干渉が行われていることは明らかだ」と述べ、欧米諸国を念頭にした批判を展開した。
 
国連総会は6月、ミャンマーへの武器流入を防ぐよう呼びかける決議を採択したが、ロシアが配慮する気配はない。ロシアの軍事技術協力局のトップは7月23日、2018年にミャンマーと契約を結んだスホイ30戦闘機6機や他の攻撃機が間もなく供給されるとの見通しを、インタファクス通信に語った。
 
ロシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との関係構築に力を入れており、その中核が軍事技術協力だ。ミャンマー国軍との親密な関係には、各国の対米関係に温度差のあるアジア太平洋地域で自国への米国の包囲網にくさびを打つ意味がある。
 
「軍政を支持している」とのメディアの指摘に、ラブロフ外相は「歪曲(わいきょく)だ」と反論したが、ロシアがミャンマー国軍の最大の後ろ盾になりつつあるのが現実だ。
 
中国は、ASEANがミンアウンフライン氏も参加した首脳会議で打ち出した暴力の停止、特使派遣、人道支援の提供などの5項目の合意への支持を表明する一方で、制裁に反対する姿勢は崩していない。
 
こうしたロシア、中国などの態度を背に、国軍側は主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言に盛り込まれたクーデターへの非難などに反論し、強気の姿勢を取り続ける。

 ■ASEANも温度差
事態の打開に向け、ミャンマーを含む10カ国が加盟するASEANに期待する声も強い。ASEANは「内政不干渉」が原則だが、今回はインドネシアやマレーシア、シンガポールが中心となり、4月に首脳会議を開催。6月には、首脳会議での5項目の合意を踏まえ、今年の議長国ブルネイの第2外相やASEAN事務局長らがミャンマーを訪れた。
 
だがそれ以降、目立った進展はない。特使にはインドネシア、タイ、マレーシアなどの元外相や大使経験者らの名前が挙がるが、決定には至っていない。人道支援も、西部ラカイン州などでの需要調査が予定されていたが、国軍側が受け入れを認めていない模様だ。
 
ASEAN内の温度差も影を落とす。タイやベトナム、カンボジアなどは干渉に消極的で、こうした国際社会やASEAN内の「分断」を見透かすように、国軍側は支配の既成事実化を進めてきた。ASEAN関連の一連の会議にも、クーデター後に国軍側が任命した閣僚らがなし崩し的に参加を続けている。
 
拘束されたアウンサンスーチー氏らを支持する民主派が4月に樹立した「統一政府」は、国際社会に支持と政府としての承認を訴えている。AP通信などによると、国軍側は民主派を支持するチョーモートゥン国連大使に代わる新たな大使を任命したとし、国連側に信任を求めた。どちらを大使として認めるのか、国際社会は再び問われることになる。【8月1日 朝日】
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ASEAN特使受入れについては、ようやく動きがあったようです。ただし、軍と民主派勢力との対話を仲介するのが本来の趣旨ですが、とてもまともに機能するとは思えませんが。

****ASEAN特使受け入れへ ミャンマー国軍トップ****
ミャンマー国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官は1日、クーデターから半年に合わせた国営テレビでの演説で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が4月に合意した特使の派遣を受け入れる姿勢を示した。
 
総司令官は、これまで早期の特使受け入れに否定的な姿勢を取っていた。(後略)【8月1日 共同】
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【弾圧とコロナ禍で深まる混迷 医療・金融は大混乱】
国内情勢の面では、国軍支配に抵抗する武装市民及び少数民族武装勢力と国軍の衝突が続いており、更に新型コロナの深刻な感染拡大によって混迷が深まっています。

****ミャンマー軍 クーデター半年 弾圧と感染拡大で混迷深まる****
(中略)ミャンマーでは去年11月の総選挙で、アウン・サン・スー・チー氏率いるNLD=国民民主連盟が圧勝しましたが、軍は選挙に不正があったとしてことし2月クーデターを起こし1日で半年となります。

各地では依然として市民がゲリラ的なデモを散発的に繰り返したり、医療関係者や公務員らが職務を放棄する不服従運動を続けたりして軍の統治に抵抗しています。

これに対して軍は、徹底した弾圧を続けていて現地の人権団体によりますと、死者は31日までで940人、拘束されている人は5444人に上っています。また銃などの武器を手にした市民と軍との戦闘も各地で発生し、市民側におおぜいの死者が出たケースも地元メディアによって複数、報告されています。

一方で、このところ、新型コロナウイルスの感染が急拡大していて、保健当局の発表によりますと7月一か月間は平均すると一日に4500人を超える新たな感染者が毎日確認され、7月の死者数は6000人に達しました。

ただ限られた検査数に占める陽性者の割合が高い日には40%を超えていることから、地元メディアは、実際の感染者数や死者数は当局の発表をはるかに上回ると見られると伝えています。

クーデター後の混乱が続くなか、ぜい弱な医療体制は崩壊状態に陥っていて、患者の多くは自宅での療養を余儀なくされ、医療用酸素の不足も深刻で、各地の酸素工場の前には看病する家族などの長い列ができる事態となっています。また、火葬場には対応しきれないほどの遺体が連日次々と運び込まれています。

事態の収束が見えない中、ミャンマーでは、軍と市民の対立が深まり、新型コロナウイルスの感染拡大もあいまって、混迷は深まる一方となっています。

軍は正当性強調も現場は医療崩壊状態に
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、ミャンマー軍は連日、国営テレビを通じてワクチンの接種や患者の治療に使う酸素の調達の様子を伝え、感染対策をアピールしています。

また、ミン・アウン・フライン司令官みずからが新型コロナウイルスの対策会議に出席した映像も伝えられ、ロシアや中国からワクチンを確保することや、ミャンマー国内で、ワクチンの生産計画が進められていることが紹介されるなど、メディアを通じて、クーデター後の統治の正当性を示すねらいがあるとみられます。

一方、現地ではもともと医療体制がぜい弱なうえに、クーデター以降、医療関係者がCDM=市民不服従運動に参加したり、軍に追われたりするなか、感染者が急激に増え、医療が崩壊状態にあります。

医療関係者によりますと、中にはボランティアで治療にあたっている人もいますが十分な医薬品や医療機器が調達できず、活動には限界があるということです。

こうした中、SNS上では「軍には感染拡大を防ぐことができない」とか「クーデターのせいで状況が悪化した」といった書き込みが相次ぎ、軍への批判が一層高まっています。(中略)

経済の混乱広がる 卵話題で価格高騰も
ミャンマーでは軍によるクーデターのあと、物流や金融サービスが停滞しているうえ、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大していることで経済の混乱が一段と広がっています。

このうち最大都市ヤンゴンでは、7月中旬、卵の価格が急激に上昇し、市内のスーパーなどではふだんの2倍以上の価格に跳ね上がったということです。「卵をたくさん食べれば感染しにくくなる」といった話がSNSなどを通して広がり、買い求める人が急増したためとみられ、卵が売り切れる店も相次いだということです。卵の高値は今も続き、卵を安く売るヤンゴンの露店には、100人以上が列を作っていました。

こうした事態に、軍は、国営テレビを通じて、豆類やイモなど卵のかわりになるという食材のリストを公表し、国民の不安を和らげようと躍起になっています。(後略)【8月1日 NHK】
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崩壊は医療だけでなく、金融も深刻な混乱状態にあります。

****(きしむ国家 ミャンマー政変半年:下)コロナ下のクーデター、苦境に追い打ち****
(中略)世界銀行は26日、2020年10月~21年9月のミャンマーの国内総生産(GDP)は、前年から18%減るとの推計を発表した。コロナとクーデターがなかった場合の予想に比べて経済が3割縮んだとの見方で、同期間中に100万人の職が失われると見込む。

状況がさらに悪化すれば、貧困ライン以下で暮らす人が22年初めまでに19年の2倍超になりうるとも警告した。

 ■現金不足・失業「全て壊れた」
経済の土台を揺るがしているのは金融の混乱だ。世銀の調査でも、回答企業の52%が「現金不足」が問題だとした。クーデター直後から、多くの行員が不服従運動に参加。一部の業務が再開され、銀行からお金を引き出そうと預金者らが列をつくったが、銀行の破綻(はたん)を避けるため政府は引き出し額を制限した。
 
「4月は銀行に800回以上も電話した」。ヤンゴンに住む女性(35)はこう振り返る。将来への不安から、いまでは何を買うにも現金しか受けつけない店がほとんどだ。現金を引き出すには銀行窓口の予約が必要だったが、なかなかつながらず、ようやくつながって引き出せたのは50万チャット(約3万3千円)。半月の生活費にも満たなかった。
 
こうした混乱を受け、手数料を取って電子送金と現金を交換する業者や、預金者の代わりに銀行に並ぶ業者も現れた。SNSに広告も出ているが、交換手数料が10%ほどかかるケースもある。
 
通貨チャットは下落。生活必需品の供給も滞り、ヤンゴンでは食用油がクーデター前の1月時点と比べて1・4倍超に、燃料価格は約1・8倍に上がった。
 
調査会社ミャンマー・サーベイ・リサーチの瀧波栄一郎さんは「長引くコロナ禍とクーデターによる経済悪化により、失業者や減給された労働者が増え、農村に帰省や退避をしたヤンゴン在住者が1~2割はいる」とみる。そして「欧米が制裁対象としているヒスイの採掘など、表に出ない経済活動も再び活性化してしまうのではないか」と懸念する。
 
経済的な苦境からの出口は見えない。国軍側は海外からの投資の呼び込みに躍起だが、投資や融資を控える動きも広がる。7月にはノルウェーの通信大手テレノールグループが撤退を発表した。
 
人権問題への投資家の視線が厳しくなるなか、ミャンマーで事業をすること自体が人権侵害に手を貸していると取られかねない。(後略)【7月31日 朝日】
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こうした状況で、総選挙と司令官の暫定首相就任に関する報道も。

****23年8月までに再選挙と表明 ミャンマー国軍トップ****
ミャンマー国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官はクーデターから半年となる1日、国営テレビでの演説で、非常事態宣言終了後の2023年8月までに再選挙を実施すると表明した。東南アジア諸国連合(ASEAN)の特使を受け入れる姿勢も示した。

総司令官が具体的な選挙の時期に言及したのは初めて。民主的な手続きを取ることを国内外にアピールする狙いとみられる。
 
総司令官は、昨年11月の総選挙で不正があり、結果を無効にしたと強調。クーデターに伴う非常事態宣言を解除した後「6カ月間の準備を経て、23年8月までに自由で公正な選挙を実施する」とした。【8月1日 共同】
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****ミャンマー国軍トップが暫定首相に****
ミャンマー国軍が設置した最高意思決定機関「国家統治評議会」は1日、議長で国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官を首相とする暫定政府が発足したと発表した。【8月1日 共同】
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総選挙については、スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)を排除した形で、国軍を認める政党だけの選挙を考えていると思われます。

【戦闘を避ける避難民 「ジャングルで発見されれば軍に殺されるし、自宅に留まっていても(軍に)殺される」】
国内各地で起きている軍と抵抗勢力の武力衝突によって多くの避難民が発生していますが、「ジャングルで発見されれば軍に殺されるし、自宅に留まっていても(軍に)殺される」との状況。

****密林で虐殺された遺体少なくとも10数体発見 軍と武装市民の戦闘激化するミャンマー*****
<突然のクーデターから半年、この国の状況はさらに混迷の度を深めている>

(中略)実弾発砲を含めたあらゆる人権侵害が反軍政の市民に対して行われているなか、各地で「国民防衛隊(PDF)」という武装した市民による軍との衝突、戦闘が激化しており、サガイン地方では軍とPDFによる激しい戦闘が起きた。

この戦闘で戦禍を逃れるためジャングルに逃れた市民が、掃討作戦を続ける軍に殺害されるケースもあり、同地方カニ郡区付近のジャングルで住民5人の虐殺遺体が発見され、付近には少なくとも10人の遺体が埋まっている可能性があるという。

発見された遺体の中には樹木から吊り下げられた様な明らかに「虐殺」された遺体もあり、軍による「蛮行」「人権侵害」の証拠として国際的な人権団体が厳しく非難する事態となっている。

密林に逃れた市民を軍が虐殺か
米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が7月28日に伝えたところによると、サガイン地方カニ郡区ジーピントゥイン村近くのジャングルで首をロープで縛られて木に吊り下げられた遺体1体とその近くで遺体4体を住民が発見した。

さらにその付近には遺体を埋めた集団埋葬の形跡が3か所あり、少なくとも10人の遺体があるとみられているものの、周囲に地雷が埋められている可能性があるため、発掘作業は行えない状況が続いているという。

遺体の身元は依然不明だが、うち1人は60代の男性とみられている。この男性は武装市民の組織「国民防衛隊(PDF)」とは無関係のジャングルに避難した一般住民とみられている。

カニ郡区では軍が侵攻してきた7月11日以来、軍兵士と武装市民による戦闘が激化し、多数の犠牲者、行方不明者が出ているといわれており、その安否が気遣われている。

戦闘への巻添えを恐れた一般の住民が付近のジャングルに逃げたが、そこへ武装市民を追跡、掃討する目的の兵士らが追跡し、避難民を発見しては無残な方法で殺害したのが発見された5人の遺体とみられている。

現地のPDF関係者によると、軍が侵攻して一般市民に対して武力行使を始めたことから住民らが周辺地区のPDFに支援を求め、多くの武装市民がカニ郡区に駆けつけて軍と戦闘になったという。しかし駆けつけたPDFも多くが軍による包囲網のトラップにはまり、多くが命を落としたとされている。(中略)

こうしたカニ郡区での戦闘激化、犠牲者の増加をRFAが軍政のゾー・ミン・トゥン報道官に問い合わせているが、回答は一切ないとしている。

各地で武装市民が蜂起、軍と衝突
民主政権のスー・チー氏率いる最大与党「国民民主連盟(NLD)」がクーデターで事実上解体に追い込まれたことを受けて、NLDなどが軍政に対抗する民主組織「国民統一政府(NUG)」と軍の武力弾圧に抵抗するための武装市民組織「PDF」を組織した。

このPDFは軍の武力行使に「目には目を」と対抗するための組織で、学生や若者が国境地帯で同じく軍政と長年武装闘争を続けてきた少数民族武装組織と合流、戦闘訓練や戦場での救急措置などを学び、武器を供与されて都市部に戻り、軍と戦闘に従事している。

地方都市ではこうしたPDFメンバーが軍から人権侵害を受ける市民の保護のために軍に武力抵抗を続けている。
さらに西部チン州、北部カチン州、東部シャン州やカヤー州、カレン州などでも地元の少数民族武装組織と軍との戦闘が激しくなっており、クーデターから半年となる8月1日を前にミャンマーは実質的には既に「内戦状態」にあるといえる状況だ。

住民1500人以上が密林に避難
(中略)戦闘があったサガイン地方カニ郡区では4月2日以降の戦闘でこれまでに住民約1500人がジャングルに逃れて避難生活を余儀なくされているという。

住民によると軍が住宅に押し入り、現金や生活用品、食料を奪取したり、暴力、脅迫、家の破壊などが続いたりしたために避難したとしている。避難先のジャングルでは軍に発見されるとRPGと呼ばれるロケット弾まで撃ち込まれとこともあり、住民たちは軍に発見されないように移動を続けているという。

住民の1人はRFAに対して「ジャングルで発見されれば軍に殺されるし、自宅に留まっていても殺される」と行き場のない苦悩を明かした。(後略)【7月31日 大塚智彦氏 Newsweek】
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