孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  政権は軍閥に戦闘協力要請 州都、首都に迫るタリバン そのイスラム統治とは?

2021-08-06 22:33:28 | アフガン・パキスタン
(4日、アフガニスタン首都カブールで、爆発現場を巡視する治安部隊(ロイター=共同)【8月4日 共同】)

【かつての「内戦」で悪名を馳せたドスタム将軍帰国 ガニ大統領は軍閥に戦闘協力要請】
アフガニスタンでは、ソ連が撤退(1989年)したあと、ソ連が支援したナジブラ政権が92年に崩壊、その後タリバンが政権を獲得するまで日本の戦国時代のように各地に軍閥が割拠し、互いに血で血を洗うような内戦を繰り広げました。

そうした内戦の「混乱」の時代にあって、その混乱を象徴するような人物の一人が北部・ウズベク人勢力を背景にしたドスタム将軍でした。 混乱を象徴するというのは、残忍さ・戦争犯罪という面においてです。

ドスタム将軍は、自分の身が危うくなるとトルコに逃げ出すようなことを繰り返していましたが、アメリカの旧タリバン政権打倒に地上軍として協力し、その後にアフガニスタン政府において要職を勤め、ガニ政権では第一副大統領にもなりました。

ドスタム将軍については、2009年7月13日ブログ“アフガニスタン  軍閥勢力復権の動き オバマ大統領、ドスタム将軍の犯罪を調査指示”で、タリバン捕虜の大量虐殺に関して取り上げたことがありますが、下記はそこからの再録です。

****ドスタム将軍****
アフガニスタン「北部同盟」のドスタム将軍と言うと、北部ウズベク人を基盤とした軍閥でソ連侵攻後のアフガニスタン内戦においてその勢力を誇示し、タリバン政権崩壊時にはアメリカと協力してその崩壊に一役買ったことで、よく耳にした名前です。

今はタリバンが非民主的・反人権として国際社会の“敵”になっていますが、タリバンと対峙したドスタム将軍など軍閥勢力も、その残忍さにおいては五十歩百歩だとの評価も聞きます。

彼等の協力でアメリカのアフガニスタン侵攻・タリバン政権崩壊は予想されたより短期で終了しましたが、そのことはタリバン政権崩壊に功績があった軍閥勢力がその影響力を新政権においても保持する結果ともなり、アフガニスタンの民主化にとって問題を残した形になっていました。(中略)

ついでに、彼の性格・行動について【ウイキペディア】では、“彼は非常に傲慢かつ残虐な性格で、権力のために他を顧みず、私利私欲のためだけに人々を苦しめると言われる。

しかしながら、彼は世俗的な環境で育ち、宗教的に過激なところはなく、彼の統治下では、住民に対する締め付けは緩やかだったともされる。(中略)

旧ソ連撤退後、ナジブラ政権崩壊に資するなど、打算的な一面がうかがえる。”と記述されています。
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傲慢かつ残虐な性格で人権・民主主義とは縁のない人物ですが、唯一得意とするのは(ルール無視で)戦うことでしょう。

2019年の大統領選挙ではガニ大統領の対立候補アブドラ氏を支援したドスタム将軍、最近はトルコで病気療養していたようですが(国内いては何か都合の悪いことがあったのでしょう)、アフガニスタンに帰国したそうです。

****ドスタム将軍帰国=対タリバン戦闘激化の恐れ―アフガン****
1990年代のアフガニスタン内戦で台頭し、96〜2001年のイスラム原理主義勢力タリバン政権時代に有力な反タリバンの軍閥を率いたウズベク人勢力の指導者ドスタム将軍が4日夜、滞在先のトルコからアフガンに帰国した。ドスタム将軍の報道担当者が5日、AFP通信に明らかにした。
 
ドスタム将軍は数々の戦績を残す一方、敵対勢力を大量虐殺した疑いが持たれるなど悪名高い。北部で根強い支持を維持しているが、最近はトルコで治療を受けていたとされる。
 
タリバンが北部を含め各地で攻勢を強め、アフガン政府軍が劣勢に立たされる中での帰国となった。ドスタム氏がガニ政権と連携した場合、戦闘は激化する可能性がある。【8月6日 時事】 
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ドスタム将軍の帰国が、単に病気治療が終わったためか、危機にあるガニ政権に呼ばれたためか、最近のアフガニスタン情勢をみて活躍の場をかぎつけ自発的に帰国したのか・・・そのあたりは知りませんが、現在のアフガニスタン情勢の「混乱」が、かつての「混乱」の寵児を呼び寄せた感があって印象的です。

タリバンの攻勢にさらされているガニ大統領は、現在の状況は、(アメリカ軍の)突然の(撤退)決定によるもの」と指摘したうえで、国民を戦場に「動員」するよう国会議員に求めていますので、将軍の帰国もそうした動きに対応したものでしょうか?

すでに西部ヘラート州などでは、タリバンと軍閥との戦闘が始まっています。

軍閥メンバーの多くは雇い兵ですが、アフガン政府軍はこうした軍閥メンバーを「民衆蜂起部隊」と呼んで、戦闘参加を歓迎しています。

ガニ大統領の国民動員陽性は、かつての軍閥勢力に戦闘協力を求めたということでもあるようです。

【州都に迫るタリバンの攻勢 シュカルガ、カンダハル、そして首都カブール】
タリバンの攻勢は、従来の地方部から州都・主要都市に拡大しており、南部の要衝、ヘルマンド州の州都ラシュカルガなどで激しい戦闘がおこなわれています。

****タリバーンが放送局を占拠 アフガン南部ヘルマンド州****
アフガニスタン南部の要衝、ヘルマンド州の州都ラシュカルガで2日、反政府勢力タリバーンが国営の放送局を占拠した。

占拠されたのは、国営ラジオ・テレビ・アフガニスタン(RTA)が運営するヘルマンドTV。現地のジャーナリストらによると、同局からの放送は現在停止している。タリバーンの報道官もCNNへの文字メッセージで、同局を占拠したと宣言した。

アフガンでは複数の主要な州都でタリバーンが攻勢を強め、米軍が空爆を強化している。アフガン治安当局の高官が2日に語ったところによると、米軍は同日までの3日間に北西部ヘラート、南部カンダハルとラシュカルガの各都市でタリバーンの侵入を阻止するため、空爆を繰り返してきた。
国防当局者によれば、タリバーンは2日までにカンダハル南郊の一部を支配する一方、ヘラートからは後退している。同当局者は、現在最も危険な状況にあるのはラシュカルガだと指摘した。

バイデン米政権がアフガンからの完全撤退を進めるなか、タリバーンは急速に勢力を拡大している。米NPO「ロング・ウォー・ジャーナル」によると、アフガン全土でタリバーンが支配しているのは223地区、政府が掌握しているのは68地区で、116地区が戦闘中。計34の州都のうち17都市が、タリバーンからの脅威に直接さらされているという。

タリバーン支配地区のほとんどは、米軍の正式撤退が始まった5月以降に掌握された。米軍をはじめとする外国部隊の撤退は8月末までに完了する予定。タリバーンの激しい攻勢を受け、次に陥落するのは首都カブールではないかとの懸念も広がっている。【8月3日 CNN】
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****アフガニスタンで市街戦が激化、タリバンの進攻続く****
(中略)国際駐留軍のほとんどが9月までにアフガニスタンから撤退すると発表されて以降、タリバンは農村地域を中心に急速に勢力を拡大してきた。

特に、ヘルマンド州はアメリカやイギリスの軍事作戦の中心地だったこともあり、タリバンの手に落ちれば政府軍にとっては大きな痛手となる。

タリバンはもともと、ヘルマンド州北部やカンダハール州、ウルズガン州、ザブール州など、アフガニスタンの南部や南西部を拠点としてきた。しかしBBCアフガンの取材では現在、ガズニ州やマイダン・ヴァルダク州など北部や北東部、中部の州にも勢力を広げており、各地の州都を攻撃している。

アフガニスタン第2の都市カンダハールでも戦闘は続いており、1日にはロケット弾が同市の空港に落ちた。
タリバンにとっては、カンダハールを制圧すればアフガニスタン南部を掌握する大きな足掛かりとなり、象徴的な勝利になるといわれている。

西部の第3の都市ヘラートでも、激しい戦闘が数日続いている。7月30日に国連の施設が攻撃された後、政府軍が複数地域で撤退を迫られた。

政府軍がタリバンの進攻に苦戦する中、アシュラフ・ガニ大統領は戦闘の激化について、アメリカ軍の突然の撤退が原因だと非難した。

議会演説でガニ大統領は、「現在の状況は、(アメリカ軍の)突然の決定によるもの」と指摘。アメリカ軍には、撤退すれば「相応の結果」が訪れるだろうと警告していたとのべた述べた。

アメリカ軍は大半がすでにアフガニスタンから撤退したものの、政府軍を支援して空爆を行っている。2日夜にも、ラシュガル・ガーでの空爆は続いた。

ジョー・バイデン政権は2日、タリバンの攻勢が強まったことを受け、アメリカ軍に協力していたアフガニスタンの難民数千人を受け入れると発表した。
また、タリバンがパキスタン国境の町で拘束した「市民を殺害」し、戦争犯罪を犯している可能性があると非難している。

アントニー・ブリンケン米国防長官は、タリバンが行っている「非常に不快で全く容認できない」残虐行為の報告を受けていると語った。

国境検問所のあるスピン・ボルダークで撮影された動画には、復讐(ふくしゅう)殺人の様子が映されていた。こうした非難について、タリバンは関与を否定している。

タリバンはすでに主要な検問所を複数占領しており、アフガニスタンへの輸入品の関税を徴収している。
戦闘によって貿易が縮小したため正確な額は不明だが、たとえばイラン国境のイスラム・カラでは、1カ月の税収が2000万ドル(約21億8000万円)になることもあるという。

アフガニスタンでは一連の戦闘により、今年上半期だけで民間人が非常に多く犠牲になっている。国連によると、市民の死者1600人の大半は、タリバンなど反政府組織の手による殺害だという。また、戦闘を受けて多くの人が家を追われており、今年に入って約30万人が避難民となっている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、タリバンが農村地域を広く制圧しているため、バダフシーャン州、クンドゥーズ州、バルフ州、バグラーン州、タハール州などで、国内難民の波が起きていると指摘した。

郊外の村などに数日間、避難してから家に戻る人もいれば、長期間家を離れる人もいる。AFP通信は、一部の難民や政府軍が、タリバンの攻勢でタジキスタンへと押しやられていると報じている。【8月3日 BBC】
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タリバンが拠点とする南部の主要都市カンダハルが陥落すれば、タリバン勢力の暫定首都的な形にもなるのでは。

タリバンの攻勢は、更に首都カブールにも及んでいます。

****アフガン首都で爆発、8人死亡 タリバン「報復作戦開始」****
アフガニスタンの首都カブール中心部で3日夜、爆弾を積んだ車が爆発した後、銃撃戦となり、内務省報道官は4日、民間人を含む少なくとも8人が死亡、20人が負傷したと明らかにした。

反政府武装勢力タリバンは4日、モハマディ国防相代行の住宅を狙った攻撃と認め「政府指導者に対する報復作戦の始まりだ」とする声明を出した。
 
モハマディ氏は不在で無事だった。現場周辺には政府機関や各国大使館があり、警備が厳重な地域。現地からの報道によると、最初に爆弾を積んだ車がモハマディ氏の住宅近くで爆発した後、武装した4人が周辺に立てこもり銃撃戦になった。【8月4日 共同】
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タリバンは犯行声明で、政府高官を標的とした攻撃を続けると警告しています。

【タリバンの目指すイスラム法による統治とは?】
米軍撤退からさほど時間をおかずに(半年も持たないのでは・・・という感じも)タリバンが全土を支配するのでは・・・と思える状況ですが、問題はそのタリバンの統治がどのようなものかという点です。

****中国が狙う1兆ドルを超えるアフガニスタンの鉱物資源 米軍完全撤退を前にタリバンが始めた「外交」****
アメリカのバイデン大統領は7月初旬、8月末までにアフガニスタン駐留米軍の撤退を完了させると発表した。バイデンは米軍撤退後もテロリストがアフガニスタンを支配するのは許さない、タリバンにもテロリストがアフガニスタンから米や同盟国を脅かすことは許さないという約束は守らせると演説したものの、その実効性は既に危うい。

米軍撤退後タリバンが全土を支配か
タリバンは7月に入り、アフガニスタンの国土の85%を支配したと発表、続いて7月末にはロシアの通信社に対し「アフガニスタンのタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イランとの国境、つまり国境の約90%は我々の支配下にある」と語った。

これらの信憑性は定かではない。しかし米軍のミリー統合参謀本部議長は7月末、タリバンは421あるアフガニスタンの行政区のうち半数を支配していると述べた上、軍事的な勢いはタリバンの側にあるとも認めている。

タリバンの攻勢は誰の目にも明らかであり、アフガニスタン政府軍には十分な力が備わっているという米軍撤退の条件自体が疑わしい。米当局には米軍撤退後、半年から1年後にはタリバンが全土を支配するだろうという見方もある。

タリバンの目標はアフガニスタン全土のイスラム法による統治である。これについてはタリバン自身が公式に何度も宣言している。彼らが認める統治体制はイスラム法による統治のみであり、それが実現されたときに初めてアフガニスタンに「平和」が訪れると主張する。

戦争がないことが平和だ、という一般的な平和概念とタリバン的な「平和」概念は明らかに異なる。
タリバンは「我々の支配領域では『イスラム国』の台頭は許さないと保証する」と主張し、あたかも米当局との約束を守っているかのように装っているが、タリバンと「イスラム国」はイスラム法による統治を目指すという目標も、また武力によってそれを実現させるという手段も本質的に同じである。

タリバンは新しく支配下においた地域において既に、男性に対してはヒゲを剃ることを禁じたり、女性に対しては親族男性の同伴なしの外出を禁じたりしている。

在アフガニスタンのオーストラリア大使館が入手したビデオには、タリバン兵がアフガニスタンの一般人の男女を殴ったり、鞭で打ったり、処刑したりしている様子が映されていた。

またジハード(聖戦)により新たに支配下においた地域の有力者に対し、15歳以上の少女と45歳以下の未亡人のリストを提供するよう命じたとも伝えられている。ジハードで支配下においた人々のうち、女性を「戦利品」として奪い「性奴隷」にするのもイスラム法の規定だ。

タリバンを「国際社会の一員」と主張する国々
しかしこうしたタリバンを「国際社会の一員」として迎え入れなければならないと主張する国々もある。イランや中国、ロシアなどだ。

イランは7月、タリバンとアフガニスタン政府の代表をテヘランに招き、両者ともに交渉による解決を望んでいるという共同声明を出した。

イランの識者の中には、タリバンはかつてのタリバンとは異なり優れて政治的存在となったのであり、世界と交流し、地域諸国と協力しなければならないことを理解していると主張する人もいる。

タリバンはロシアの特使とも会い、国境を越えて侵攻するつもりはなく中央アジア諸国を脅かすことはないと伝えた。

中国が狙うアフガニスタンの鉱物資源
タリバンは中国当局とも非公式会談を行い、中国はパキスタンを通してタリバンに資金を提供しアフガニスタンの破壊されたインフラ再建に協力する旨で合意したとも報じられている。中国が見返りとしてタリバンに要求しているのは、ウイグル人テロ組織への協力を断つことだ。

アフガニスタンは中国とも国境を接しており、国境地域はウイグル人テロ組織の潜伏拠点のひとつだとされている。中国は推定1兆ドルを超える価値があるとされるウラン、リチウム、銅、金などアフガニスタンの鉱物資源を狙っているとも言われている。

タリバンは既にアフガニスタンの支配者であるかのように振る舞い、「外交」を行い、それを受け入れる国も出始めている。

米軍撤退後、武力によってタリバンがアフガニスタン政府軍を倒しアフガニスタン全土を支配下においた時、日本は果たして彼らを「正当な統治者」として受け入れるべきなのか。それとも民主主義や人権といった近代的価値を認めないテロ組織として、断じてその正当性を認めないという確固たる姿勢を示すのか。
日本という国の「価値」が問われる局面も遠くはない。【8月2日 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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