孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  インフレ進行で広がる先行き不安感、混乱する物流、下落するバイデン大領支持率

2021-12-16 23:43:31 | アメリカ
(長年、1ガロン(約3.8リットル)2ドル台だったガソリンも3ドルを超えている。ニューヨーク市内で【12月11日 AERAdot.】
もっとも、1ガロン3.5ドルでも1リットル105円ですから、日本よりは随分安いですけどね。税金の差が大きいようです)

【雇用「絶好調」だが、賃上げを上回る物価上昇率で広がる経済悲観論】
12月12日ブログ“中国経済 恒大集団の部分的デフォルト 経済全体の安定成長軌道に向けたソフトランディング”で取り上げたように、中国経済は恒大集団の部分的デフォルト、不動産バブルの処理という波乱要因をかかえながら安定成長軌道へのソフトランディングを目指す難しいかじ取りを迫られていますが、中国に対抗するアメリカ経済が抱える目下の課題はインフレです。

****高すぎるNYのベーグル、もはや「軽食」じゃない? 米国在住記者が見た街の物価上昇****
米国では「インフレ」が日常的に話題に上がるようになった。景気は好調だが、庶民の生活は確実に影響を受けているAERA 2021年12月13日号で取り上げた。

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米国の経済ニュースの常套句といえば、「物価高」と「インフレ懸念」だ。
米株式市場のニュースは、常にインフレ懸念が株価の上昇を抑えていると指摘している。一方、クリスマスのギフトの出費について、例年よりもどのくらいコストがかかるのかというニュースも、もはや「歳時記」になっている。

今年は、それに急速に拍車がかかっている。市民が懸念するのは、物価上昇の背景に、新型コロナウイルスの感染拡大後の「ポスト・コロナ」経済と、原油高などによる物流のコスト増があるからだ。

筆者が住むニューヨーク市では、新型コロナ発生前に比べると、レストランのメニュー価格が確実に上がった。

■「軽食」とは呼べない
スモークサーモンのベーグルサンドは、以前は7ドルだったが、現在は9ドルになった。6ドルだったワイン1杯は同様に9ドルという「ポスト・コロナ価格」だ。消費税やチップなどを加えると、サンドイッチやベーグルでも10ドルをはるかに超す。もはや「軽食」とは呼べない状況だ。

しかし、コロナ禍で廃業したレストランも少なくないなか、生き残ったレストランは頻繁にメニューや価格を変え、ポスト・コロナの経済再開に必死で対応してきた。1年以上にわたり、基本的に自由な外食を我慢してきた市民が、それを大目に見るのも理解できる。

家賃の上昇も、米国の恒常的なインフレを下支えする。

日本と異なり、賃料は1年あるいは2年契約で更新しなければならず、その際に賃料がアップする。低所得世帯のため、行政が家主による値上げ率を管理しているアパートでも、値上げ率は「物価上昇率」を参考にしている。そのため、賃料アップが避けられない。そうした規制がないアパートだと、家主が更新前の数十%から数倍にも値上げできる。

 昨年は、新型コロナによる家計の危機で、行政が家賃の滞納を一定期間免除する対策を打ち出した。家主と交渉して、値上げを見送ってもらうこともできた。しかし、経済が再開した今、家賃の上昇は、市民の懐を直撃する。

■30年ぶりの高水準
また、原油高と世界的なサプライチェーンの滞りも、価格上昇を煽(あお)る。

「コスト上昇による値上げをご理解ください」
 最近、こうした表示が市内のベーカリーやスーパーマーケット、レストランで見られるようになった。入店の際、「マスク着用」を要請するポスターなどと同様に、目立つところに貼られている。

原油高は、広範囲のビジネスに打撃を与えている。バイデン大統領は11月23日、12月中旬以降、数カ月かけて5千万バレルの石油備蓄を放出すると発表した。これに先立ち、石油・ガスなどエネルギー企業がガソリン価格のつり上げを狙い、違法行為に関与していないか、米連邦取引委員会に調査を求めた。

サプライチェーンの目詰まりも、製造業を直撃している。

新型コロナの感染拡大をきっかけに供給網が混乱し、半導体や電子機器の不足に拍車をかけている。港湾労働者も足りず、行き場のないコンテナがヤードにあふれている映像は、米国のテレビに連日現れている。

とはいえ、米マクロ経済は、今のところ堅調だ。雇用面では、米国の新規失業保険申請件数は一時、52年ぶりの低水準に改善した。求人件数も過去最多水準で推移している。何よりも、好調さを示すのは、30年ぶりの高水準のインフレ率だ。

米労働省労働統計局が発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比6.2%増を記録。変動が大きい食料品やエネルギーを除くコアCPIも同4.6%増え、大幅な伸びとなった。

11月25日の感謝祭に向けて、空港は混み合い、米国民は2年ぶりの家族がそろっての感謝祭を楽しんだ。ところが翌26日、新変異株「オミクロン」の出現が株式市場を襲い、株価が急落した。

しかし、足元の経済は手堅く、市中では人々がホリデーシーズンのためにお金を使っている。店舗はシーズン前に新規に雇用を増やしているほどだ。【12月11日 AERAdot.】
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上記記事のように「雇用」は好調ですが、「ポスト・コロナ」の需要増大、原油高やサプライチェーンの混乱などによる物流のコスト増によってインフレが進行しています。

デフレが続く日本社会と違ってアメリカ社会はインフレに敏感で、その動向は政権支持率に直結します。
現在のインフレ進行は、バイデン大統領の支持率を落とす、さらに中間選挙結果を左右する大きな要因となっています。

****雇用「絶好調」のアメリカで経済悲観論が広がる理由****
<仕事は見つかるのに、暮らしがよくなるとは思わないアメリカ人が増えている。バイデン政権の最大の課題は、物価高。インフレの恐怖は来年の中間選挙も脅かす>

今の雇用情勢はどうですかとアメリカ人に問えば、たいていは「絶好調」という答えが返ってくる。だが経済はと問えば、「最低」という答えが返ってくる。みんな、実は将来を悲観しているからだ。

ギャラップの世論調査によると、「今は仕事を見つけやすい」という回答が歴代最高の74%を記録している。
しかし「経済の先行きは暗い」と考える人も(一部には確実に明るい兆しが見えているのに)増える一方で、その比率は6月の50%から10月には68%に上昇していた。

AP通信とシカゴ大学の研究機関「NORC」による世論調査でも傾向は同じだ。景気は悪いと考える人は9月の45%から10月には54%に増加。

11月の州知事選で民主党が敗北を喫したバージニア州では、投票日の出口調査で約30%の有権者が、この選挙で最大の争点は学校教育でもコロナでもなく経済だと答えていた。

仕事は簡単に見つかるのに、暮らし(経済)がよくなるとは思わないアメリカ人が増えている、なぜか。インフレの不気味な足音が聞こえるからだ。

12月の米労働統計局の報告によると、11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.8%の上昇。1982年6月以来、39年ぶりの高い伸びだ。

ロイターとイプソスによる10月の世論調査でも、米国民の3分の2が「インフレは自分にとってとても大きな関心事」だと答えている。ギャラップの調査でも、インフレを最大の問題と見なす人は増え続けている。

賃上げを上回る物価上昇率
インフレを加速する要因は1つではない。今年の春夏には中古車など高額商品の価格が急上昇した。給付金で懐が温かくなった消費者が買いに走る一方、供給は滞ったからだ。

その後は食品や燃料、家賃・宿泊代などが次々に上がった。その後、いったんは価格が安定したように見えたが、10月になると事態は急転。CPIは前月比0.9%増という衝撃的な上昇を示した。食品や燃料、家賃、中古車価格などの要素を除いても、インフレ率は0.6%だった。

国民がこれほどインフレを心配する背景には、過剰な報道があるかもしれない。とりわけ保守系のFOXニュースは、これをバイデン政権批判の格好の材料とみている。

しかし、それだけではない。最近は思ったほどに賃金が増えないという事実に、今の人たちは気付き始めている。
だから食料品やガソリンの値段が少しでも上がり続けると心配になる。子供が生まれるとなれば、車の買い替えは先送りにするしかないと考えてしまう。

統計的に見ても、最近は物価の上昇率が賃金の上昇率を上回る。非農業部門の時給の伸びは4.9%で、CPIの上昇率を1%以上も下回る。(中略)

雇用の回復はジョー・バイデン大統領にとって追い風だったが、これからはインフレを止めることが最大の課題となる。

しかも、全体的な数字だけでは問題の本質が見えてこない。賃金と物価の上昇率ギャップという点で、最も深刻な打撃を被っているのは頼みの綱の中間層なのだ。

低賃金労働者にとって、今年は確かに最高の年だったかもしれない。
全国的な人手不足で小売店や飲食業者、ホテルなどが従業員確保に躍起になったから、労働者は好きな職場を選ぶことができたし、少しでも給料の高い職場が見つかれば迷わずに転職できた。

連邦準備制度(各国の中央銀行に相当)を構成するアトランタ連邦準備銀行によれば、下から25%の低所得層に限れば、時給の中央値は今年だけで約4.9%増となり、他の所得層よりも高く、従ってインフレによる打撃は相対的に小さいと言える。

ちなみに人口の50%を占める中所得層の賃金上昇率は4%に満たない。所得上位の25%では3%にも満たず、インフレ率を大きく下回る。

今回の急激な物価上昇を一時的なものと見なす根拠はたくさんある。新型コロナ対策で政府が莫大な公的資金をばらまいた結果であるとすれば、その影響が長く続くことはないとみていい。

実を言えば、FRB(連邦準備理事会)内部でもこうした見方が支配的だ。続投の決まったジェローム・パウエル議長は先に、こう述べている。

「現在の急激なインフレは(サプライチェーンの寸断などで)供給の減った局面と、非常に強い需要の高まりが重なった結果であり、その背景にはアメリカ経済の再開という動きがある。そうであれば、これには始まりがあって山を越え、やがて落ち着くプロセスだ」

中間選挙を左右する「一票」
しかし、どこが山で、いつになったら落ち着くのかは誰にも分からない。
少なくとも世論調査を見る限り、今のアメリカ人はこの物価上昇が路面の段差みたいなもので、乗り越えた先は経済正常化へ一直線だとは信じていない。むしろ牛乳などの値段が急激に上がり、車の買い替えにも苦労する状況に不平と不満を募らせている。

こうなるとバイデン政権与党の民主党は苦しい。
せめてもの慰めは、一般に景気回復の恩恵を最も受けにくいとされる低所得層が、バイデン政権1年目には最大の勝ち組となった事実だろう。

実際、バイデン政権の緊急対応(景気刺激策の一環として政府が一律に支給した現金、子供のいる家庭に対する税額控除による還付金の給付など)のおかげで、物価の上昇に悲鳴を上げていた家庭がかなり助かったのは間違いない。

だが公的支援で得た資金も、いずれはインフレに食いつぶされ、1年前よりも苦しくなったと感じる人が増える。しかもインフレは公的支援や賃上げの恩恵を受けにくい中間層や「中流の上」を直撃する。

そしてこうした人たちの票が1年後の中間選挙の行方を左右する。
年明け後もインフレが続くかどうかは分からない。だが続いた場合に与党がどうなるかは、まあ分かる。【12月15日 Newsweek】
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【コンテナ船滞留に象徴される物流混乱】
もちろん、バイデン大統領は「大丈夫だ」とは言っていますが・・・

****新型コロナ影響克服でインフレ圧力軽減へ=米大統領****
バイデン米大統領は1日、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)の影響が克服されるにつれ、インフレ圧力は和らいでいくとの見方を示した。

バイデン大統領は、パンデミックの影響から回復する中、世界各国がインフレに直面していると指摘。課題が克服されるにつれ、インフレ圧力は緩和するとの見方を示した。

また、先月は卸売市場で原油とガソリンの価格が大きく低下したと指摘。政府が取っている措置でモノの輸送が迅速化されているとの認識も示した。【12月2日 ロイター】
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原油・ガソリン価格が下落したのは、政府による備蓄石油放出決定の成果というより、オミクロン株拡大の「ショック」によるもので、世界経済の対応が落ち着けばまた上昇することが予想されます。

物流混乱の象徴とされるのが、西海岸のロサンゼルス港とロングビーチ港に滞留する多数のコンテナ船の様子。

“クリスマス商戦向けの貨物が中国から続々と到着し、アメリカのコンテナ港が史上最悪の混雑に直面している。南カリフォルニア海事取引所が9月28日に発表したデータによれば、アメリカ西海岸のロサンゼルス港とロングビーチ港の沖合で入港を待つコンテナ船の数は113隻、平均待機日数は8.7日に達し、過去最高記録を塗り替えた。”【10月20日 東洋経済online】 

この事態に、アメリカ政府はロサンゼルス港を24時間体制で稼働すること、更に一定期間置かれたコンテナに、罰金を科す措置も導入しました。

“米ロザンセルス港、24時間稼働へ 物流の停滞解消のため”【10月14日 BBC】
“物流人手不足でクリスマス商戦に影響も 滞留コンテナに罰金導入 ロサンゼルス”【11月2日 FNNプライムオンライン】

そもそも、大量の滞留があるにも関わらず定時になったら労働者が帰宅して、業務がストップするという(組合で権利が強固に守られた)港湾労働者の働き方に問題があると言う指摘も。

いずれにしても物流混乱は、単に港湾の問題だけでなく、全米の人手不足、更には新型コロナなどの理由で世界全体で寸断されたサプライチェーンなどが背景にありますので、短期間に大きく改善するのは難しいようにも思われます。

直近の状況も改善していない様子です。

****LA・LB港、滞船ついに100隻超。空前荷動き、減速など遠方待機増****
一時改善に向かっていると見られた北米西岸ロサンゼルス(LA)港、ロングビーチ(LB)港の滞船状況だが、両港が位置するサンペドロ湾から離れた地域での待機船を含めると、滞船数は実質100隻以上に積み上がっているようだ。

入港に関する規則の変更で、湾近くでの停船が減少しただけで、実際には入港できないことを見越した減速運航船などが増加していると見られる。(後略)【12月17日 日本海事新聞電子版】
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【インフレ進行でバイデン大統領に厳しい有権者の評価】
“野党・共和党はこの混乱に乗じて、今年のホリデーシーズンを「バイデンの憂鬱なクリスマス」と呼んでいる。ドナルド・トランプ前大統領も先週末、アイオワ州での支持者集会でこのフレーズを使用した。”【10月14日 BBC】

もっとも、「今回のサプライチェーン問題はトランプ前大統領が発動した貿易戦争に始まる」との指摘も。

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米サプライチェーンの混乱、「トランプ前大統領が発動した貿易戦争に始まる」と中国メディア****
米国のサプライチェーン(供給網)の混乱が深刻化している。クリスマス商戦向けの貨物などが続々と到着する米国有数のコンテナ港のロサンゼルス港は史上最悪の混雑に直面。

中国メディアは米誌の記事を引用し、「今回のサプライチェーン問題はトランプ前大統領が発動した貿易戦争に始まる」と論評した。(中略)

(コンテナ船滞留のほか)トラック運転手の数も少ない。全米トラック協会の最新データによると、全国ではトラック運転手が8万人不足し、過去最大を記録した。またトラック用部品やタイヤなどの不足も物流会社を悩ませている。これらの物資の不足はサプライチェーンの遅れの結果だ。

こうした混乱について、米誌「フォーブス」は「トランプ氏が発動した貿易戦争に始まる」と指摘。具体的には米国企業が追加関税を回避するため買いだめに走り、物流に第1波の圧力をもたらしたことを挙げた。

さらに新型コロナウイルスが世界の物流業の予測可能性と確実性を失わせた。昨年末の段階で米国のサプライチェーンにはすでに亀裂が生じていたが、米政府は党の争いに忙しく重視しなかった。今日になり全チェーンの各サイクルに問題が生じている。

混乱の背景を中国網は「消費者の需要の拡大よりも、企業による買いだめの需要がサプライチェーンにもたらす衝撃の方が大きいと分析されている」と説明。(後略)【11月7日 レコードチャイナ】
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いずれにしても現政権の責任は免れることはできません。“登録有権者の62%がバイデン政権の対応が、インフレ率の上昇に「少なくとも多少の責任がある」と回答し、42%が「大きな責任がある」と回答した。さらに、民主党員ですら、全体の40%が、バイデン政権の政策が少なくとも多少はインフレを招いた責任があると考えていることも分かった。”【12月16日 Forbes】

結果“バイデン大統領が「絶対に出馬すべきだ」と答えたのはわずか18%で、「おそらく出馬すべき」が16%を占めた。

一方、トランプ前大統領に関しては、25%の有権者が「絶対に出馬すべき」と答え、「おそらく出馬すべき」が14%だった。さらに、バイデンが絶対に出馬すべきだと考える民主党員は35%に過ぎないが、トランプにぜひ出馬してほしいと思う共和党議員が49%に達していることも分かった。

トランプはまた、無党派層の間での支持が高く、18%が彼の出馬を望んでいた。しかし、バイデンの出馬を望む無党派層はわずか8%だった。”【同上】とのこと。

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