(決選投票に臨む右派カスト氏(左)と左派ボリッチ氏【時事】 「チリのトランプ」と学生運動出身左派・・・二人とも“いかにも”といった風貌です)
【TPP批准も争点】
南米はかつての日本人移民先として日本にとっては関係深い地域でしたが、現在ではサッカーの試合のニュースを目にするぐらい・・・。あとは地域大国ブラジルの「熱帯のトランプ」と呼ばれてきたボルソナロ大統領の風変りな言動、および、ペルーのフジモリ元大統領、長女ケイコ氏の動向ぐらいでしょうか。
そんなやや縁遠い南米チリの大統領選挙の話題を、先ほどのNHKニュースが取り上げていました。
TPP批准の関連のようです。
****チリの大統領選 決選投票へ TPP批准も争点で貿易にも影響か****
南米のチリで19日、大統領選挙の決選投票が行われます。
主張が大きく異なる右派と左派の候補者が競り合う中、日本などが参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定の批准も争点の1つとなっていて、結果次第では今後、各国との間の貿易に影響が出る可能性もあります。
主張が大きく異なる右派と左派の候補者が競り合う中、日本などが参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定の批准も争点の1つとなっていて、結果次第では今後、各国との間の貿易に影響が出る可能性もあります。
チリではピニェラ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が先月行われましたが、当選に必要な過半数の票を獲得した候補者はおらず、右派政党の党首のホセアントニオ・カスト氏(55)と、左派の下院議員のガブリエル・ボリッチ氏(35)の上位2人による決選投票が今月19日に行われることになりました。
チリは1990年に軍事独裁政権が終結して以降、市場経済や自由貿易を推進し堅調な経済成長を実現してきたうえ、中道穏健派が政権を担い政治的にも安定していたことから「南米の優等生」と称されてきました。
しかし今回の選挙戦では、社会格差の是正や移民受け入れの是非などが争点となったことから、厳格な移民政策を主張するカスト氏と、富裕層への増税を訴えるボリッチ氏が支持を広げ、この30年間で初めて中道以外の候補者による決選投票が行われることになりました。
また、左派のボリッチ氏は、日本やチリなど11か国が参加するTPPを巡り「市民生活に与える影響が十分議論されていない」などとして批准に慎重な姿勢を示していて、投票の結果次第では日本を含む各国との間の貿易に影響が出る可能性もあります。(中略)
チリは1990年に軍事独裁政権が終結して以降、市場経済や自由貿易を推進し堅調な経済成長を実現してきたうえ、中道穏健派が政権を担い政治的にも安定していたことから「南米の優等生」と称されてきました。
しかし今回の選挙戦では、社会格差の是正や移民受け入れの是非などが争点となったことから、厳格な移民政策を主張するカスト氏と、富裕層への増税を訴えるボリッチ氏が支持を広げ、この30年間で初めて中道以外の候補者による決選投票が行われることになりました。
また、左派のボリッチ氏は、日本やチリなど11か国が参加するTPPを巡り「市民生活に与える影響が十分議論されていない」などとして批准に慎重な姿勢を示していて、投票の結果次第では日本を含む各国との間の貿易に影響が出る可能性もあります。(中略)
TPPをめぐる議論は
日本やチリなど11か国が参加し2018年に発効したTPP=環太平洋パートナーシップ協定をめぐり、チリは国内の手続きが終わっておらず、批准が遅れています。
TPPについて、カスト氏は「投資や輸出を拡大させるため自由貿易協定を推進していく」と述べ、批准に前向きな姿勢を示しています。
一方、ボリッチ氏は「市民への影響が十分に議論されていない」として、批准には慎重な姿勢を示しています。
さらに、これまで日本などと個別に結んだ自由貿易協定についても「あらゆる国民にとって有益な内容になっているかどうか、常に見直しを進める必要がある」として、状況に応じて相手国との再交渉が必要だとしています。
日本とチリの間では、2007年に2国間のEPA=経済連携協定が発効し、チリの主要な輸出品である銅などの鉱工業品やサーモン、ワインなどの関税はすでに撤廃されています。
ただ、チリがTPPを批准しないかぎり、アルミニウム製の部品など日本の一部の工業製品や、チリ産のウニやカニ、それにオレンジやチーズなど一部の農作物の関税は撤廃されません。
また、外務省によりますと、チリには去年10月の時点で日系企業104社が進出していますが、チリ政府がTPPを批准しなかった場合、期待されていた貿易手続きの効率化などが進まず、中長期的には技術支援や人材交流などにも影響が出ると指摘されています。
現地の政治経済に詳しいチリ・デサロージョ大学のゴンザロ・ミレル教授は「ボリッチ氏の政治的基盤をつくるほとんどの人がTPPに反対している。チリは自由貿易の面で先駆的な存在で、もしTPPを批准しなければ40年来の方針転換になる」と指摘しています。【12月18日 NHK】
TPPについて、カスト氏は「投資や輸出を拡大させるため自由貿易協定を推進していく」と述べ、批准に前向きな姿勢を示しています。
一方、ボリッチ氏は「市民への影響が十分に議論されていない」として、批准には慎重な姿勢を示しています。
さらに、これまで日本などと個別に結んだ自由貿易協定についても「あらゆる国民にとって有益な内容になっているかどうか、常に見直しを進める必要がある」として、状況に応じて相手国との再交渉が必要だとしています。
日本とチリの間では、2007年に2国間のEPA=経済連携協定が発効し、チリの主要な輸出品である銅などの鉱工業品やサーモン、ワインなどの関税はすでに撤廃されています。
ただ、チリがTPPを批准しないかぎり、アルミニウム製の部品など日本の一部の工業製品や、チリ産のウニやカニ、それにオレンジやチーズなど一部の農作物の関税は撤廃されません。
また、外務省によりますと、チリには去年10月の時点で日系企業104社が進出していますが、チリ政府がTPPを批准しなかった場合、期待されていた貿易手続きの効率化などが進まず、中長期的には技術支援や人材交流などにも影響が出ると指摘されています。
現地の政治経済に詳しいチリ・デサロージョ大学のゴンザロ・ミレル教授は「ボリッチ氏の政治的基盤をつくるほとんどの人がTPPに反対している。チリは自由貿易の面で先駆的な存在で、もしTPPを批准しなければ40年来の方針転換になる」と指摘しています。【12月18日 NHK】
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【左右真っ二つの主張】
上記記事は両候補の主張、支持者の声について、以下のようにも報じています。
****両候補者の支持者の声****
決選投票を前にチリ国民はカスト氏とボリッチ氏への支持で大きく分かれています。
首都サンティアゴで企業への技術支援などを行うベンチャー企業のCEO、ラウラ・チクレルさんは、右派のカスト氏を支持しています。
チクレルさんは、おととしの反政府デモ以降の治安悪化の影響が経済や企業経営にも及んでいるとして、治安や秩序の回復を強く求めています。
TPPについても「外国企業とのビジネスの機会が増えるだけでなく、ほかの市場との貿易の拠点としてチリへの外国企業の進出が期待できる」と評価していて、TPPを含めた自由貿易協定の締結に積極的なカスト氏に投票することを明言しています。
一方、サンティアゴの大学で音楽を専攻するフアン・アラヤさんは、学生への支援強化を訴える左派のボリッチ氏を支持しています。
アラヤさんは学費を賄うために学生ローンを組んでいますが、金利の上昇もあり、ローンの返済は卒業後15年間にわたって続く見通しだということです。
アラヤさんは「大学の学費がとても高額で、支払えずにやめていった友人が何人もいる」として、ボリッチ氏が掲げる学生ローンの負担軽減策に期待を寄せています。【同上】
首都サンティアゴで企業への技術支援などを行うベンチャー企業のCEO、ラウラ・チクレルさんは、右派のカスト氏を支持しています。
チクレルさんは、おととしの反政府デモ以降の治安悪化の影響が経済や企業経営にも及んでいるとして、治安や秩序の回復を強く求めています。
TPPについても「外国企業とのビジネスの機会が増えるだけでなく、ほかの市場との貿易の拠点としてチリへの外国企業の進出が期待できる」と評価していて、TPPを含めた自由貿易協定の締結に積極的なカスト氏に投票することを明言しています。
一方、サンティアゴの大学で音楽を専攻するフアン・アラヤさんは、学生への支援強化を訴える左派のボリッチ氏を支持しています。
アラヤさんは学費を賄うために学生ローンを組んでいますが、金利の上昇もあり、ローンの返済は卒業後15年間にわたって続く見通しだということです。
アラヤさんは「大学の学費がとても高額で、支払えずにやめていった友人が何人もいる」として、ボリッチ氏が掲げる学生ローンの負担軽減策に期待を寄せています。【同上】
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【右派カスト氏が追い上げて接戦の様相】
選挙戦は、ブラジル・ボルソナロ大統領にも似て、「チリのトランプ」とも称される右派カスト氏が、学生運動出身の左派ボリッチ氏を激しく追い上げる展開となっています。
下記は約ひと月前、第1回投票直前の記事です。
****チリの「トランプ」 大統領選へ右派候補が急伸****
(11月)21日に投開票が行われる南米チリ大統領選で、トランプ前米大統領にも例えられる右派候補のホセアントニオ・カスト氏(55)の支持率が急伸している。
治安悪化や不法移民に厳しく対処する主張が好感され、これまで支持率で首位を維持していた共産党を含む左派連合の候補、ガブリエル・ボリッチ氏(35)を追い抜いた。
直近の世論調査はカスト氏が支持率25%で首位、19%のボリッチ氏が2位。10月末まではボリッチ氏が首位を保っていた。7候補が乱立し、いずれの候補も第1回投票で当選に必要な過半数を得票するのは難しい情勢で、両氏が決選投票に進む公算が大きい。
チリ北部では最近、ベネズエラからの不法移民が公園を占拠する問題があり、カスト氏は移民テントを強制撤去した住民らを擁護するなど、移民に厳しい対応を主張している。
南部では近年、先住民族による農林業関係施設への放火事件が急増。首都サンディエゴでは経済格差への不満を背景に抗議デモが過激化し、10月には商店への放火や略奪が起きた。こうした治安悪化を受け、取り締まり強化を訴えるカスト氏への支持が伸長したようだ。
カスト氏は元下院議員の法律家。カトリックの信者として妊娠中絶に反対している。左派は移民や治安に厳しい態度やキリスト教福音派から支持を受ける共通点を踏まえ、カスト氏をトランプ氏やブラジルのボルソナロ大統領になぞらえ、「右派ポピュリスト(大衆迎合主義者)」と批判している。
世論調査では「絶対に投票しない」と答える人も48%に上る。カスト氏は1988年の国民投票でピノチェト軍事政権の任期延長に賛成した経歴が影響しているともされている。
カスト氏はこれに対し、「左派が私を不寛容で極端だと主張するのは、私が真実を話し、正面からモノを言うからだ。私は決して暴力を肯定しない」と反論している。
一方、カスト氏と支持率首位を争うボリッチ氏は学生運動出身の下院議員。「貧富の格差の是正」を争点に据え、抗議デモで逮捕された人たちの恩赦を求めており、教育改革や環境対策の強化も訴えている。【11月19日 産経】
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最近の世論調査では、左派ボリッチ氏がややリードはしているものの、その差は縮まっているとも。
****チリ大統領選、決選投票控え支持率の差縮まる=民間調査****
チリ大統領選は19日に右派のホセアントニオ・カスト元下院議員(55)と左派ガブリエル・ボリッチ下院議員(35)の決選投票を控え、両者の支持率の差が縮小している。
ロイターが確認したカデムの民間調査によると、カスト氏の支持率は36%でボリッチ氏を3ポイント差で追っている。支持率の差は11月21日の第1回投票直後の半分に縮まっている。
ここから計算すると、ボリッチ氏とカスト氏の得票率は52%対48%で、11月26日調査時点の54%対46%から差が縮小した。ただ回答者の25%は、まだ意見が決まっていないか投票しないと答えている。
調査は12月9─10日、1000人を対象に実施され、誤差は3.1%ポイント。
一方、ラ・コサ・ノストラが11月27─12月7日に600人を対象に実施した調査では、ボリッチ氏の予想得票率は52.5%、カスト氏は47.5%だった。前回調査が行われた11月初めは第1回投票前で、決選投票が行われた場合の両者の想定得票率は互角だった。
現在は公式な世論調査を公表できない2週間のブラックアウト期間中だが、民間調査はしばしば行われている。【12月15日 ロイター】
ロイターが確認したカデムの民間調査によると、カスト氏の支持率は36%でボリッチ氏を3ポイント差で追っている。支持率の差は11月21日の第1回投票直後の半分に縮まっている。
ここから計算すると、ボリッチ氏とカスト氏の得票率は52%対48%で、11月26日調査時点の54%対46%から差が縮小した。ただ回答者の25%は、まだ意見が決まっていないか投票しないと答えている。
調査は12月9─10日、1000人を対象に実施され、誤差は3.1%ポイント。
一方、ラ・コサ・ノストラが11月27─12月7日に600人を対象に実施した調査では、ボリッチ氏の予想得票率は52.5%、カスト氏は47.5%だった。前回調査が行われた11月初めは第1回投票前で、決選投票が行われた場合の両者の想定得票率は互角だった。
現在は公式な世論調査を公表できない2週間のブラックアウト期間中だが、民間調査はしばしば行われている。【12月15日 ロイター】
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僅差の勝負になりそうで、どっちが勝利しても結果について“揉める”こともありそう。
特に、両候補が背景とする政治基盤が完全に分かれており、お互いに相手勢力を“受け入れがたい”ものと見ていると思われますので。
【他国にも共通する左右分断の政治状況 行政権と立法権の対立が慢性的な不安定要因にも】
中道穏健派による「南米の優等生」が、激しい左右対立へ・・・こうした分断と混乱はチリだけでなく、南米の他の国、あるいは世界中でも見られる現象です。
****ラテンアメリカの政治分断から考える議院内閣制の意義****
11月21日のチリの大統領選挙で左右両極端の候補が決選投票に進むことになったことは、決選投票で何れが勝つにせよ、和解によりコンセンサスを形成して国家の発展を可能としてきたチリの国の在り方を変えてしまう恐れがある。
そうなった背景に、市場主義経済により貧困も減少したが、それ以上に格差が拡大し、その後の経済的停滞の中で格差を放置した政府或いは政治そのものに対し国民の不満が爆発し、治安も乱れたことが大きい。
国民は分断され、共産党に支持された左派候補のボリッチは富裕層への増税と資源の国有化を主張し、極右候補のカストは減税と徹底的な治安の維持を主張しており、いずれが政権を取ってもその公約実現を巡る国内の混乱が予想される。特に、カストの政治主張は、ボルソナーロによく似ており、もし当選すれば南米の第2のトランプとなる。
そして問題は、これがチリだけの現象ではないということである。来年、大統領選挙を迎えるコロンビアでは、元ゲリラの左派候補とトランプ張りの右派候補が有力となりつつある。
加えて、来年10月のブラジルの選挙も再選を狙うボルソナーロと返り咲きを狙うルーラの二極対立となる可能性が高く、未だに有力な第三の中道候補が浮かび上がってきていない。
同様の状況がアルゼンチンほかの国々でも生ずる兆しがあり、ラテンアメリカに共通の現象になりつつあるが、これはラテンアメリカに限ったことではなく、世界的な傾向とも言えるかもしれない。
慢性的な経済的困難、治安の悪化、汚職の横行、移民の流入、加えて新型コロナ感染の拡大などの困難な状況に効果的に対応できない政権や既成の政党に対する失望や反感から、国民が既成政治を批判するアウトサイダー政治家や大言壮語するポピュリスト政治家に期待を持ってしまう現象である。
ラテンアメリカで、国論の二極対立化を際立たせている原因は、大統領選挙の決選投票制度にもあるように思える。中道派から複数の候補者が出れば中道票が割れて左右の両極の候補、あるいは、25%程度の岩盤支持層を持つ候補が決選投票に進んでしまうことになる。
慢性的な行政と立法の対立
全国的人気投票で選ばれる大統領の与党が、地域的な積み上げの結果となる議会選挙で多数派を取れない現象も共通である。
チリの場合も、いずれの候補も議会では中道派の支持を得なければ過半数を取れないので、自ずから大統領の政策も穏健化するとの見方もある。しかし、大統領が実現したい公約が議会に阻まれるといった、行政権と立法権の対立が慢性的な不安定要因となる中で諸問題の解決はおぼつかないであろう。
国民がこのような状況を自覚し、受け皿としてマクロンのような、右でも左でもないといったポピュリスト的な政治家が現れるのを期待するしかないのかもしれない。
そのような意味では、日本の議院内閣制のように、基本的に議会の多数派が行政権も握るのであれば、このような極端な二極対立も回避され、ポピュリスト指導者の独走といった現象も起こりにくいのではないかと思われる。【12月17日 WEDGE】
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日本の議院内閣制は、またそれはそれでいろいろ問題も。不満を持つ者は、ポピュリストだろうが何だろうが、国民の声をストレートに実現してくれるような議会から独立した“強い指導者”を待望している・・・といった面も。