(英議会下院で答弁するジョンソン首相=ロイター【12月9日 朝日】)
【今年夏以降、感染者増大でも規制強化せず、日常生活を回復する方針を維持】
イギリスでは日本と異なり、ワクチンや治療薬の成果で新型コロナの死亡・重症化は一定に抑えられるようになったとの認識のもとで、夏以降規制を緩和し、「ウィズ・コロナ」の考えで日常生活を回復する方針をとってきました。
当然ながら感染者数は増加していましたが、ジョンソン首相は規制強化はとらず、あくまでコロナと共生していくやり方を維持し、そうした考えが国民にも概ね受け入れられてきました。
****英国はコロナ感染再拡大でも規制強化せず…日本人には理解できない「死生観」の違い****
(中略)英国では今年7月半ばに、コロナウイルス感染拡大防止のための規制措置はほぼ全廃され、人々は通常の生活に戻りつつある。公共交通機関やスーパーなどでのマスクは義務化されている(違反した場合は100ポンド=約1.5万円が課される)ものの、ほとんどの人がこれに従っていないという。
コロナと共存するやり方
そのせいだろうか、ここにきて新規感染者数が再び急拡大している。
10月下旬の1日当たりの新規感染者数の平均は約4万5000人、今年1月上旬のピーク時(約6万人)に近い水準となっているものの、ワクチン接種などのおかげで過去の感染拡大局面と比べて死者数や入院者数は大幅に減少している。
しかし、医療体制は徐々に逼迫してきており、保健当局は22日、「早期に行動すれば厳しい対策を講じる必要性が低下する。在宅勤務など感染拡大を抑制するための措置の再導入に向け準備すべきだ」と提言した。
これに対し、ジョンソン首相は規制の強化の必要性を否定した。規制の強化で社会生活や経済を犠牲にするのではなく、あくまでコロナと共生していくやり方だ。
その根底にはコロナの被害が一定の範囲に収まったら「収束」とみなし、季節性インフルエンザと同等の扱いをするという決意があるのだろう。政府の方針について国民の間にも強い反発はなく、パニックが起きているわけでもない。(中略)
諸外国に比べ感染者数や死者数が少ないのに、日本人が新型コロナウイルスを必要以上に恐れている原因を「死生観の欠如」に求める指摘もある。
戦後、日本を含め先進国では「死」を日常生活から隔離する風潮が高まり、「死」が近づいている家族や友人に対して積極的に向き合うことができなくなってしまった。
現在、日本の「病院での死」の比率は先進国の中で最も高くなっている。医療現場では、末期の患者に対する延命治療に終始するあまり、家族との別れが満足にできない場合が多いと言われている。地域の人々と行っていた弔いの儀式なども形骸化、喪失してしまった。
日本では「死は敗北」
死生観(死に関する意味づけ)が希薄になった日本では「死は敗北」以外の何ものでもないだろう。日本人は先進国の中で最も「死」を恐れる国民になってしまったのかもしれない。そうだとすれば、パンデミックによる「突然の死」への耐性が低いのは当たり前だ。
日本ではあまり知られていないが、英国を始め欧州では「QOD(死の質)が重要である」との考え方が広がっている。その背景には「死を受け入れると残りの日々を幸せに暮らすことができ、人生のクオリテイーが向上する」という社会的コンセンサスがある。
英国では「人生の最終段階を支えるケアシステム」が、21世紀初めからすべての総合医療機関や介護施設でスタートした。現場のスタッフが死をタブー視することなく、月に一度「終末期をどうしたいか」を確かめるための面談を行っているという。(後略)【11月2日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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「死生観」を含め、日本人の新型コロナに対する恐怖感・不安の強さは興味深い視点ですが、それはともかく、イギリスでは感染の急増、特に、オミクロン株の感染が急拡大しており、さしものジョンソン首相も規制強化を余儀なくされています。
【オミクロン株による感染拡大でゲームチェンジ 規制強化へ転換】
11月末に、オミクロン株による感染者が確認されたことを受けて、公共交通機関でのマスク着用の義務化などの措置を、更に12月に入ると、ロンドンがあるイングランド地方では在宅勤務が推奨されるほか、劇場や映画館など、屋内施設でのマスク着用の義務化、また、ナイトクラブに入場する際のワクチン接種証明の提示などが義務付けられるといった規制強化が実施されています。
****オミクロン株拡大、英が自宅勤務推奨 首相「ロックダウンではない」****
ジョンソン英首相は8日、オミクロン株の拡大に対し、週明けから自宅での勤務を推奨するなどの新たな規制策を導入すると表明した。一方で「これは、ロックダウン(都市封鎖)ではない」とも強調し、回復に向かっていた経済への影響に配慮する姿勢も見せた。
ジョンソン英首相は8日、オミクロン株の拡大に対し、週明けから自宅での勤務を推奨するなどの新たな規制策を導入すると表明した。一方で「これは、ロックダウン(都市封鎖)ではない」とも強調し、回復に向かっていた経済への影響に配慮する姿勢も見せた。
新たな規制は13日から。勤務先への出勤はやむを得ない場合に限り、自宅での勤務を基本とする。マスク着用の義務も拡大する。
また、ナイトクラブや500人以上の室内集会、1万人以上のスポーツイベントなどでのワクチン接種証明の提示を近く義務づける意向も示した。この規制は英国の一部ですでに導入されているが、大部分を占めるイングランドでは業界の強い反対で実現していなかった。
首相はこの日、オミクロン株について「デルタ株よりも拡大が速く、症状が軽くて済む確証もまだ持ち得ない。入院患者が増える恐れがある」と警告。一方で「新規制は、ロックダウンを意味するわけではない。用心しつつクリスマスパーティーや子ども向けのイベントは続けることができる」とも説明した。【12月9日 朝日】
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ジョンソン首相は今月12日、オミクロン変異株の「高波」がイギリスに押し寄せており、ワクチンの2回接種では封じ込めに十分ではないと指摘し、追加接種(ブースター接種)を加速する考えを表明しています。
【英保健当局 オミクロン株の感染者が今月末までに100万人を超える可能性を指摘】
こうした政府の規制強化にもかかわらず、いまのところはウイルスの勢いの方が勝っているようです。
****英、新規感染が2日連続最多 仏は渡航制限****
英政府は16日、新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が8万8376人となり、2日連続で過去最多を更新したと発表した。同国では変異株「オミクロン株」の出現により感染者が急増し、懸念が拡大。一方、フランス政府は同日、仏英間の不要不急の往来を禁止すると発表した。
英国の累計の感染者数は約1110万人、死者数は146人増え約14万7000人となった。英政府はクリスマスに合わせた人々の交流を制限する措置には今のところ踏み切っていないが、国民の間では行動予定を変更する動きが広がっている。
フランス政府の発表によると、18日午前0時(日本時間同8時)から、ワクチン接種済みか否かを問わず、観光やビジネスを含め、不要不急の理由による仏英間の往来は禁止される。フランスと欧州連合加盟国の市民やフランス在住の外国人は英国からの入国が認められるが、24時間以内の陰性証明の提出、入国後の隔離が必須になる。
フランスはこの厳しい渡航制限により、クリスマスまでに2000万人にワクチンの追加接種(ブースター接種)を行う時間を確保したい考え。近く5〜11歳の子どもにも接種を開始する可能性がある。
EUは16日に開いた首脳会議で、オミクロン株対策での加盟各国の協調と、追加接種推進の必要性を確認した。 【12月17日 AFP】
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以前にも取り上げたように英仏間は、移民・難民対策、さらに魚漁問題を巡って対立が明らかになっていましたが、今回のフランス側のイギリスへの渡航制限で更に関係が悪化しそうです。
感染拡大の方は、“(イングランドの主任医務官)ウィッティー氏は、イギリスが「非常に急速に広まっているオミクロン変異株と、デルタ変異株による」2つの異なる感染拡大に直面していると指摘。「今後数週間は感染率が上昇し続け、(1日当たりの感染者数の最多記録が)何度も更新されることになるだろう」とした。【12月16日 BBC】と、当分おさまる気配がありません。
****英当局“オミクロン株100万人超感染も”****
イギリスの保健当局は10日、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染者が今月末までに100万人を超える可能性があるとの見通しを示しました。
イギリスの保健当局は10日、今月中旬にも国内のオミクロン株の感染者数がデルタ株と同等になるとの見方を示しました。
イギリス国内ではすでに1万人以上がオミクロン株に感染したと推計されていますが、このままの傾向が続けば今月末までに100万人を超える可能性もあると予想しています。
一方で、イギリスの保健当局はブースター接種をすればオミクロン株に対し、感染や発症を予防する効果が70パーセントから75パーセントあるとの分析結果を公表しました。重症化を防ぐ効果はさらに高くなるとみています。
イギリス政府はブースター接種を急いでいて、これまでに12歳以上の4割近くにあたるおよそ2200万人が接種を終えています。【12月11日 日テレNEWS24】
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“12歳以上の4割近くにあたるおよそ2200万人が(ブースター)接種”・・・今年初めのワクチン接種開始もそうでしたが、少なくとも、イギリスの対応は(ようやくブースター接種を始めた)日本より非常に早いです。
ジョンソン首相は13日、オミクロン変異株による感染で、イギリスで少なくとも1人の死亡が確認されたと明らかにしていますが、患者数がこれだけ増えてくれば、(オミクロン株の毒性が低いとしても)死者も一定数出ることは当然でしょう。
【コロナ以上に頭が痛い「パーティーゲート疑惑」 与党内からも強い批判】
ジョソン首相にとって新型コロナ、オミクロン株以上に頭が痛いのは昨年末のクリマスパーティー問題(「パーティーゲート疑惑」とも)でしょう。
コロナで不自由を強いられている国民の不満が燃え上がる気配です
****コロナ規制下、英官邸でXマスパーティー? 言い訳練習動画で火に油****
英首相官邸が昨冬、新型コロナウイルス対策の厳しい規制下で禁じられていたクリスマスパーティーを開いた疑惑が浮上し、批判を呼んでいる。
英首相官邸が昨冬、新型コロナウイルス対策の厳しい規制下で禁じられていたクリスマスパーティーを開いた疑惑が浮上し、批判を呼んでいる。
8日には官邸職員が「ルール破り」をちゃかした様子を撮影した動画の存在も発覚。ジョンソン首相は議会で謝罪したが、我慢を重ねてきた国民の怒りは収まっていない。
疑惑は英紙ミラーが1日に報じた記事が発端だ。昨年12月のクリスマス前に、官邸内で職員らが宴会を開き、ワインを飲んでクイズ大会をしたという内容だった。当時のロンドンは感染者数が急増。政府は市民に自宅待機を命じ、人が集まることを禁じていた。
官邸側はパーティーの存在を否定。出席していなかったとされるジョンソン氏は「規則は守られていた」などと釈明した。
ところが8日には民放ITVが、当時の官邸報道官らが、記者会見でパーティーの存在を追及された場合に備えて問答している動画を特報。報道官はおどけた様子で「どう答えよう? 」「ワインとチーズなら大丈夫? 」「あれは会議でした。社会的距離は保っていません」などと笑いながら話す姿が映っていた。動画はパーティーからまもなく撮られたとみられる。
これに対し、国民の怒りが爆発。ソーシャルメディア上では首相の非難が続き、市場調査会社サバンタ・コムレスが約1千人に行った緊急世論調査では、54%がジョンソン氏は「辞任すべきだ」と回答した。
ジョンソン氏は8日、議会で「国民の怒りはもっとも。申し訳ない」などと謝罪。身内の保守党議員からも批判され、内部調査を進めるとしている。(後略)【12月9日 朝日】
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ジョソン首相自信もオンライン・クイズに参加していたようです。
****ジョンソン英首相、官邸で昨年クリスマスにオンラインクイズに参加****
イギリスで厳しいパンデミック対策が敷かれていた昨年12月に、ボリス・ジョンソン英首相が首相官邸で、スタッフ相手にオンラインで行われたクリスマス・クイズに参加していたことが明らかなった。英紙サンデー・ミラーが11日深夜に伝えた報道内容を、官邸が認めた。
サンデー・ミラーは11日、官邸職員を対象にした昨年12月15日のオンライン・クイズにジョンソン首相も参加した際の写真を報道した。スタッフ2人も首相と同じテーブルを囲んで同席していた。スタッフの1人は赤いサンタ帽をかぶり、もう1人はクリスマスの飾りに使うキラキラした「モール」を首に巻いているのが分かる。
イギリスのクリスマスでは、集まった家族や友人、同僚などがお互いにさまざまな内容のクイズを出し合うのが、ならわしとなっている。
官邸によると、首相は昨年、官邸でのクリスマス・クイズに「わずかな間」だけ参加し、パンデミック中に「懸命に働く」官邸スタッフをねぎらったのだという。
官邸報道官はサンデー・ミラーが掲載した写真について、「これはバーチャルなクイズだった。首相官邸のスタッフは当時、パンデミック対策に関する仕事のため出勤しなくてはならないことが、しばしばあった。そのため、仕事のためオフィスにいたスタッフは、各自のデスクからこのクイズにオンラインで参加したかもしれない」と説明した。(後略)【12月12日 BBC】
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普段なら何の問題にもならない事柄ですが、当時のイギリスでは、同居人以外が屋内で集まることが厳しく制限され、職場のクリスマスパーティーは禁止されていました。その最中に首相官邸で数十人のクリスマスパーティーが開かれていたというところが問題となっており、繰り返しパーティーの存在を否定し、首相の参加を否定していながら、ボロボロとウソがバレる展開も最悪。
野党はもちろん、与党からも批判が出ています。
もともと決して「誠実な人柄」という訳ではなく、アクが強い(ただし、オープンで飾らない)タイプのジョンソン首相ですが、首相のコロナ対策への与党議員の大量造反には、上記のクリパ問題で高まった首相への不信感も影響していると思われます。
****英、ワクチンパス導入可決も保守党98人造反 与党内で不満広がる****
英議会は14日、イングランドで一部の会場やイベントに入場する際に新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するワクチンパスポートを導入する案を賛成369、反対126で可決した。ただ、ジョンソン首相率いる与党・保守党の98議員が造反し、オミクロン変異株の感染抑制に向けた首相の対応を巡り与党内で不満が広がっていることが示された。
同法案の可決を巡っては、野党・労働党による支持が大きく寄与した。保守党議員の多くは一部の制限措置が厳格だと指摘しているほか、ナイトクラブなどへの入場にワクチン接種証明書や陰性証明書の提示を求めることを疑問視する声も上がっている。
しかし、保守党の関係者によると、与党内で不満の声は広がっているものの、ジョンソン首相がすぐに退陣に追い込まれるほどではないという。ただ、今回の採決が首相にとって「警鐘」となり、対策の見直しにつながることを望んでいるという。
英議会は同日、イングランドでのマスク着用義務化拡大についても賛成441、反対41で可決したが、保守党の40議員が反対票を投じた。【12月15日 ロイター】
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保守党にコロナ規制への反発が強いのは、ロンドンなど都市部と異なり、地方では行動の制約に対して国民の反発が強い事情があります。
ただ、“ジョンソン氏の求心力低下は避けられそうにない。最新の世論調査では、支持率は就任後最低の24%に落ち込んだ。今回反対票を投じた保守党議員の一人は英メディアに「首相は態度を改めなければならない」と語り、不信任投票への賛同も辞さない考えを示した。”【12月15日 読売】という側面も
【「あと1回ストライクを取られれば、アウトだ」】
与党内以上に深刻なのが、当然ながら国民評価。
16日に行われた補欠選挙で、保守党は200年近く維持してきた牙城選挙区の議席を争い、野党・自由民主党に敗れました。
****英下院補選、与党が岩盤選挙区で敗北 不祥事響く****
英イングランド中部ノースシュロップシャーで16日行われた下院補欠選挙は、自由民主党のヘレン・モーガン候補が勝利した。同地区は与党保守党の牙城だが、ジョンソン首相の人気低下が響いたとみられる。
首相と保守党には不祥事が相次いでいる。最近では、昨年のロックダウン(都市封鎖)下で首相官邸でパーティーを開いていたと報じられ、各方面から批判された。今月公表された各種世論調査では、支持率が野党労働党と逆転し、ジョンソン氏の退陣を求める声もでている。
ノースシュロップシャーの補選は、保守党議員がロビー関連法違反で辞職したことに伴い実施された。政府は、汚職防止規制の改正で辞職回避を狙ったが、党内外から反発が出て取り下げた。
モーガン候補は勝利演説で「ノースシュロップシャーの人々は英国民を代表して声を上げた。『ボリス・ジョンソン、保守党は終わった』と。この国はリーダーシップを求めている。ジョンソン首相、あなたはリーダーではない」と述べた。【12月17日 ロイター】
首相と保守党には不祥事が相次いでいる。最近では、昨年のロックダウン(都市封鎖)下で首相官邸でパーティーを開いていたと報じられ、各方面から批判された。今月公表された各種世論調査では、支持率が野党労働党と逆転し、ジョンソン氏の退陣を求める声もでている。
ノースシュロップシャーの補選は、保守党議員がロビー関連法違反で辞職したことに伴い実施された。政府は、汚職防止規制の改正で辞職回避を狙ったが、党内外から反発が出て取り下げた。
モーガン候補は勝利演説で「ノースシュロップシャーの人々は英国民を代表して声を上げた。『ボリス・ジョンソン、保守党は終わった』と。この国はリーダーシップを求めている。ジョンソン首相、あなたはリーダーではない」と述べた。【12月17日 ロイター】
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保守党は昨年末以来、補欠選挙で自由党や労働党に敗れる展開が続いています。
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保守党のオリヴァー・ダウデン委員長は、「ノース・シュロップシャーの有権者は現状にうんざりしていて、我々をこらしめたかった。それは分かる。そのメッセージははっきりと聞こえた。しかし、これが潮目の変化になるとは思わない」と述べた。
しかし、保守党の下院議員、サー・ロジャー・ゲイルは、今回の結果はジョンソン首相の最後通告に等しいとBBCラジオに述べた。「あと1回ストライクを取られれば、アウトだ」とゲイル議員は述べ、今回の補選は「首相の働きぶりへの信任投票だったと見なくてはならない」と批判した。【12月17日 BBC】
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