(イラク国会選挙で勝利した政党連合を率いるイスラム教シーア派指導者サドル師の看板=バグダッドで2021年10月11日、真野森作撮影【12月1日 毎日】)
【議席確定 新首相選出・組閣へ】
イラクで10月10日に行われた議会選挙結果については、11月30日にようやく選挙管理委員会が最終結果を発表して確定しました。
内容は暫定結果とほぼ変わらず、イスラム教シーア派指導者で愛国・改革路線のサドル師率いる政党連合が73議席を獲得して最大勢力の座を確保し、支持者が「不正」と訴えてバグダッド市内で抗議デモを行った親イラン勢力は大きく議席を減らす結果となりました。
これを受けて反米・反イランのサドル師の勢力を軸に、新首相選出・組閣に向けた駆け引きが本格化しています。
****イラク、新首相選び本格化 駆け引き激化で混迷も****
イラクで10月に行われた総選挙の結果がようやく確定し、新首相選出に向けた動きが今後本格化する。カディミ首相の続投が有力視されるものの、議席を減らした親イランの政党連合は「選挙は不正だ」と反発。政治的な空白が長引く恐れもある。
国会(定数329)選の投票日は10月10日だったが、選管当局の最終結果公表は11月30日までずれ込んだ。イスラム教シーア派指導者サドル師率いる政党連合が73議席で最大勢力の座を維持。
48議席で第2勢力だった親イランの「征服連合」は17議席と大きく後退した。イラク国内の民兵組織を通じ、存在感を強める隣国イランへの根強い反感が浮き彫りになった。
外国の干渉を嫌うサドル師はシーア派有力者ながら、イランと一定の距離を置く。37議席と躍進したスンニ派連合や、31議席を獲得したクルド民主党などとの連携も視野に入れているとされ、イラク人専門家のムスタファ・ナセル氏は「サドル師は親イラン勢力の弱体化を目指している」とみる。
昨年5月に就任したカディミ首相は欧米との良好な関係に加え、対立するイランとサウジアラビアの関係改善に向けた動きを仲介し、外交手腕に一定の評価もある。
ただ、今年11月7日には首都バグダッドでカディミ氏の住居を狙った暗殺未遂事件も発生。不満分子も多く、安定には程遠い。
イラクでは今月、駐留米軍の戦闘任務が終了予定だ。米国は助言や訓練に専念する兵力は残す見通しだが、隙を突く形で反米の親イラン民兵組織などの活動が激化する可能性もある。政治勢力間の駆け引きで首相選びの調整が遅れれば、イラクの混迷に拍車が掛かりかねない。【12月5日 時事】
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【不安定な状況続く】
記事にもあるように、11月7日、イランと距離を置き、その影響力を弱めようとするカディミ首相の自宅を無人機で狙った暗殺未遂事件が起きていますが、背後にイランがいると見られています。“暗殺というより、威嚇がその主な目的だったようだ”とも。
****イラク首相ドローン暗殺未遂、「背後にイラン」の見方が強まる****
<軽傷で乗り切ったカディミ首相は、手に包帯を巻いた姿で会見を開いたが...>
イラクの首都バグダッドでも、とりわけ厳重な安全措置が講じられた地区にあるカディミ首相の自宅が、11月7日、無人機による攻撃に遭った。
捜査当局によると、爆発物を積んだ無人機3機のうち2機は目標到達前に撃墜され、残りの1機も決定的な打撃は与えられなかったようだ。
暗殺未遂事件を軽傷で乗り切ったカディミは、手に包帯を巻いた姿でその日のうちに会見を開き、「イラクとその未来のために建設的な対話」を呼び掛けた。
無人機という最新兵器が使われたことや、10月のイラク総選挙でイラン系勢力が大敗を喫したことから、背後にはイランがいるのではないかとの見方が強まっている。
国際危機グループのイラク専門家ラヒブ・ヒジェルは、イラン系組織が新政権に影響を与えるためにやったことであり、あれが「エスカレーションの限界」ではないかと語る。
首相を狙った暗殺というより、威嚇がその主な目的だったようだ。【11月15日 Newsweek】
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カディミ首相は攻撃のあった11月7日、名指しは避けつつも「我々は攻撃したのが誰かわかっている」と述べています。
そうした隣国イランも含めた政権をめぐる暗闘のほか、イスラム原理主義勢力「イスラム国」のテロも続いています。
****イラク南部 爆弾テロで4人が死亡 「イスラム国」の犯行か****
中東のイラク南部で爆弾テロが起き、少なくとも4人が死亡した。過激派組織「イスラム国」による犯行とみられている。
地元メディアなどによると、イラク南部のバスラにある病院の前で、7日、爆発物を取り付けたバイクが爆発した。
近くにあった車両が燃えるなどして少なくとも4人が死亡し、およそ20人がけがをした。今のところ、犯行声明は出ていないが、バスラ市長は記者団に対し、「イスラム国によるものとの痕跡がある」と明かした。
バスラは、油田があるため厳重に警備されており、2017年を最後に大規模なテロは起きていなかった。イラクでは散発的に「イスラム国」による攻撃やテロが続いており、5日には、北部の村が襲撃され、一時占領下におかれた。【12月8日 AbemaTIMES】
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【米軍、戦闘任務終了】
こうした不安定な状況を更に悪化させるかもしれないのが、米軍の戦闘任務終了。
****米軍、イラクでの戦闘任務終了 撤収せず、訓練などで協力****
イラクに駐留する米軍中心の有志連合部隊は9日、戦闘任務を終了した。司令官の声明をロイター通信が伝えた。両国は今年7月の首脳会談で同任務の年内終了に合意していた。駐留米軍は撤収せず、イラク軍の訓練や情報提供などで協力を続ける。
米軍は2003年開戦のイラク戦争後、11年末にいったん完全撤収した。しかし、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大を受け、イラク軍のIS掃討支援を目的として14年に再駐留。現在は約2500人規模となっている。
イラクではISの残党によるテロなどが散発的に起きている。最近では3日に北部マフムール近郊で少なくとも13人が死亡する攻撃があったほか、7日には南部バスラでの爆弾テロで4人が死亡した。【12月10日 毎日】
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なお、米軍に対する攻撃(親イラン勢力?)は続いているようです。
****バグダッド中心へのロケット弾攻撃****
アラビア語メディアは、19日早朝、バグダッドの官庁、外国公館の集まる地域(グリーンゾーン)に2発のロケット弾攻撃があったと報じています。
イラク軍筋によると、そのうち1発は、イラク防空軍の対空ミサイルが撃墜したが、もう1発は祝典広場に落下した由
誰がどこを狙ったかは調査中の由なるも、2発の落下板したところは米大使館から近い由(後略)【12月19日 「中東の窓」】
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【大きくなりそうな中国の存在感】
アメリカが手を引くと、そこに中国が・・・というのは最近のパターンですが、イラクでも中国の存在感が高まりそうです。
****中国企業、イラクに学校1000校建設へ****
イラク政府は中国企業2社と契約を結び、今後2年間で国内に学校1000校を建設する。政府関係者が19日、明らかにした。
国営イラク通信によると、建設・住宅・地方自治・公共事業省の関係者は「教育部門における不足を解消する」ため国内で計8000校の建設が必要だと述べた。
政府は16日、ムスタファ・カディミ首相立ち合いの下、中国電力建設集団が679校を、サイノテックが321校を建設する契約を締結した。
この関係者によると、まず今後2年間で1000校の完成を見込み、「間もなく」建設工事に着手する。建設費は石油で賄うという。
その後、第2工期として3000校、最終工期として4000校を新たに建設する予定だ。
国連児童基金(ユニセフ)のウェブサイトは、「イラクでは数十年にわたる紛争と投資不足により、かつて地域で最も優れていた教育制度が破壊されてしまった」と指摘している。「2校に1校は損傷し、修復が必要」な状況で、人口約4000万人の就学年齢の子どものうち、320万人近くが学校に通えていない。 【12月20日 AFP】
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サイノテックって台湾企業かと思いましたが・・・・
中国の進出はとかくその問題点が指摘はされていますが、こういう学校建設ということであれば「上出来」ではないでしょうか。
教育はまさにイラクが必要としている分野であり、20年後、30年後のイラクを支える力を育てることになります。
詳しいことは知りませんが、日本や欧米企業では考えられない格安で請け負ったのでしょうか。
それにしても、2年間で1000校、最終的には8000校を建設というのは・・・桁違いのスケールです。