(ミャンマーの首都ネピドーで2021年2月、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官(右)の訪問を受けたゼーゴウン僧院のカウィサラ師=国軍のウェブサイトから【12月19日 朝日】)
(ミャンマー・ヤンゴンでクリスマスケーキを切る、ミン・アウン・フライン国軍総司令官(右)とカトリック教会のチャールズ・ボ枢機卿。国軍情報班提供(2021年12月23日撮影)。 【12月24日 AFP】)
【国境地帯での戦闘で多数の避難民 国軍による住民拷問・殺害も】
クーデターで実権を掌握した国軍が支配するミャンマーでは、依然として国軍と民主派勢力・少数民族武装勢力の戦闘が報じられています。
****ミャンマーのカレン州で戦闘 住民2500人がタイへ避難****
ミャンマー東部カレン州で、ミャンマー国軍と少数民族カレンの武装勢力の間で戦闘が起き、住民約2500人がタイに避難した。国軍が民主派を摘発したことをきっかけに戦闘に発展したとみられる。
ミャンマーのクーデター後に国軍に免許を剝奪(はくだつ)されたメディアなどによると、武装勢力「カレン民族同盟」(KNU)が支配するレイケイコー村で14日、ミャンマー国軍が、国民民主連盟(NLD)の元国会議員を含む30人余りを逮捕したのが発端。
15日には国軍とKNUなどカレン民族の武装組織の間で戦闘が起きた。国軍は民主派勢力による「統一政府」の武装組織が駐留しているとみなす一帯に砲撃したという。
ロイター通信はタイの地元当局者の話として、戦闘は国境から約500メートルのエリアで起き、砲弾がタイ領内にも着弾したと伝えた。戦闘で国軍兵士十数人が死亡したとの情報がある。
タイのメディアによると、17日までに少なくとも2500人が川を渡ってタイに避難した。人道支援団体によると、このうち545人は子どもだという。
国軍は3月にもクーデターを批判して市民の抗議デモを支持するなどしたKNUの支配地域に空爆をしている。【12月19日 朝日】
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こうした混乱の中で国軍による残虐行為も表面化しています。
詳細は明らかではないものの、イスラム系少数民族ロヒンギャへの殺害・レイプ・放火など“民族浄化”的な非人道的行為を行ったとされるミャンマー国軍ですから、さもありなん・・・という感も。
****ミャンマー軍、村民らを拷問にかけ集団殺害=BBC調査報道****
ミャンマー軍が7月、数カ所の村で一般人を集団殺害し、少なくとも40人の男性が犠牲になったことが、BBCの調査報道で明らかになった。
目撃者や生存者によると、軍兵士たちは村で住民たちを整列させ、男性を選んで殺害した。兵士には17歳ほどの若者もいたという。当時の動画や写真からは、男性たちの多くは拷問を受けてから殺害され、浅い墓地に埋葬された様子がうかがえる。
殺害は7月に、ミャンマー中央部サガイン地域にある反政府勢力の拠点、カニ郡の4カ所で実行された。(中略)
BBCはカニ郡で目撃者11人に話を聞き、イギリスに本部を置くNGO「ミャンマー・ウィットネス」が収集した携帯電話の動画や写真と照らし合わせた。同NGOは、ミャンマーにおける人権侵害を調べている。
ロープで縛られ
集団殺害の規模が最も大きかったのは、イン村で実行されたものだった。男性14人が拷問や殴打を受けて死亡した。死体は森の中のくぼみに投げ込まれた。
目撃者の1人(特定されないよう名前を伏せた)はBBCに、男性たちがロープで縛られ、殴打された後に殺害されたと話した。
兄弟、おい、義理の兄弟を1人ずつ失ったという女性は、「見ていられなかったので頭を垂れ、泣いていた」と話した。「やめてほしいとお願いした。兵士たちは聞く耳を持たなかった。兵士たちは女の人たち向かって、『夫はこの中にいるか? いるなら最後の弔いをしてやれ』と言っていた」
何とか生き延びた男性は、兵士たちが男性たちを、何時間も恐ろしい残虐行為を加えた末に殺害したと話した。
「男性たちは1日中、縛り上げられ、石やライフルの銃床で殴打され、拷問を受けた」
「兵士の一部は見た目が若く、たぶん17歳か18歳だった。反対に、かなり年を取った人もいた。女性も1人いた」
近くのジー・ビン・ドゥイン村では7月下旬、浅い集団墓地から、切断された12人の死体が見つかった。子どもの可能性もある小さな死体や、障害者の死体が含まれていた。
60代男性の死体は、付近のスモモの木に縛り付けてあった。BBCはこの死体を映した動画で、男性が拷問を受けたことを明確に示す形跡を確認した。男性の家族によると、軍が村に入ってきた時、男性の息子と孫は逃げたが、男性は高齢だから危害は加えられないだろうと考え村に残ったという。
一連の集団殺害は、民主政府の復権を求める武装市民グループが軍を攻撃したことに対する罰とみられる。武装市民グループの集合体である国民防衛隊(PDF)と軍の戦闘は、集団殺害前の数カ月間、この一帯で激化していた。
男性が殺害の対象となったのは、BBCが集めた映像や証言などから明白だ。ミャンマー各地で最近、男性の住民たちが集団で「罰」を受けている。
犠牲者の家族は殺された男性たちについて、軍への攻撃と無関係だったと訴えた。イン村で兄弟を失った女性は兵士に対し、自分の兄弟は「パチンコ(投石機)すら扱えない」と言って懇願したという。すると兵士は、「黙れ。私たちは疲れている。お前を殺すぞ」と答えたという。
「起こりうる」と軍報道官
ミャンマーではクーデーター以降、外国人記者の活動は禁止されている。民間メディアのほとんどは閉鎖され、現地での取材はほぼ不可能になっている。
BBCは今回の疑惑について、ミャンマー情報省の副大臣で軍報道官のゾーミントゥン将軍にただした。将軍は、兵士らが集団殺害を実行したことを否定しなかった。
「起こりうることだ」と彼は言った。「私たちを敵として扱うなら、私たちには自衛権がある」。
国連は現在、ミャンマー軍が犯したとされる各種の人権侵害について調査を進めている。【12月20日 BBC】
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“将軍は、兵士らが集団殺害を実行したことを否定しなかった。”・・・・恐怖を広めることによって事態を鎮静化させようとの考えでしょうか。
拘束して裁判にかけているスー・チー氏についても、国民への“みせしめ”的な対応を強めています。
****スーチー氏、囚人服で出廷 国軍、権威失墜狙いか****
ミャンマー国軍のクーデターで政権の座から追われ、社会不安をあおった罪などで有罪判決を受けたアウンサンスーチー氏が17日、首都ネピドーの特別法廷で開かれた審理に囚人服姿で出廷した。法曹関係者が明らかにした。国軍は司法も統制下に置いており、スーチー氏の権威をおとしめる狙いがあるとみられる。
17日は汚職の審理だったが、スーチー氏は白いシャツに茶色のスカートの囚人服で、英BBC放送ビルマ語版によると、毅然とした様子で審理に臨んでいたという。スーチー氏は10件以上の容疑で訴追されている。【12月17日 共同】
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なお、20日は無線機を違法に輸入したとされる罪について判決が予定されていましたが、特別法廷は判決言い渡しを27日に延期しています。
【市民の心のよりどころになっている僧侶 ただ、そうした信仰に頼る姿勢に批判の声も】
出口が見いだせない状況にあって僧侶たちの存在が市民の心のよりどころになっていますが、そうした信仰に頼る姿勢に批判の声も。
****「僧侶に会ってる場合か」批判も 葛藤深まるミャンマーのお坊さん****
国軍がクーデターで権力を握り、多くの市民が犠牲になっているミャンマーで、僧侶たちの存在が市民の心のよりどころになっている。国民の約9割を占める仏教徒にとって、尊敬の対象である僧侶との触れ合いは「心の平和」を取り戻す数少ない機会だ。
ただ、国軍と武力闘争を続けている一部の市民からは、信仰に頼る姿勢に批判の声も上がっている。
■戻ってきた「日常」の風景
日の出前の午前5時。最大都市ヤンゴンの通りを約60人の僧侶がひたひたと裸足で歩く。手には金属製の器「鉄鉢」を抱えている。僧侶の到着を知らせる鐘の音が鳴ると、住民が一人、また一人と現れ、皿に盛った野菜や米を鉄鉢によそった。托鉢(たくはつ)の僧侶に食事をお裾分けする場面だ。
2月1日に起きたクーデターの直後は、市民のデモを国軍が武力で抑えつけた。一時はヤンゴンの通りから人影が消えたが、10月下旬ごろから徐々に人出が戻り、托鉢が再開した。
カレーを振る舞った会社員の男性(57)は「クーデター後に貧困が広がり、食事を振る舞う住民の数は減った。私も生活は苦しいが、10年続けてきた習慣を再開できて、穏やかな気分だ」と笑顔を見せた。
ヤンゴンの僧院では200人以上の市民が袈裟(けさ)や食事の寄付に訪れていた。僧侶への寄付は功徳を積むための善行と信じられている。
この僧院の僧侶ワジラ師によると、クーデター後の景気の悪化で寄付金は減ったが、「クーデター後、怒りや不安を抱えた多くの人が、できる範囲の寄付を持ち寄っている」と語る。
デモに参加して拘束された僧侶も少なくない。ワジラ師の僧院はデモの参加を禁じたが、社会の混乱を目の当たりにし、僧院を出て森の中で瞑想(めいそう)を始めた若い僧侶もいるという。
市民癒やすため? 現れた老僧に群がる人々
北西部ザガイン管区では、めったに公に姿を見せない著名な僧侶マハボディミャイン師(80)が、クーデター後に連日托鉢に現れ、話題になっている。この僧侶は森の中で数十年瞑想したと言われ、国内で知らない人はいない存在だ。多くを語らず、取材に応じないため、真意は明らかではないが、ネットでは傷ついた市民を癒やすためとの解釈が広まった。その姿を一目見ようと、連日数千人が僧院を訪れている。
約800キロ離れたヤンゴンからバスに揺られてやってくる人も。数十分ほどの托鉢の姿を見るため、舗装のない森の一本道は砂ぼこりをあげて走る車で混雑している。
批判も起きた。ザガインでは若者が武器を手に国軍と戦い、大勢が犠牲になった。そのザガインに見物客が集まる事態に、SNS上では「クーデターが起きたのに僧侶に会いに行っている場合か」「国軍との戦いに集中すべきだ」などの投稿が拡散した。
批判は僧侶にも向くことがある。ミンアウンフライン国軍最高司令官は、クーデターでアウンサンスーチー氏を拘束した翌日、スーチー氏と関係の深いゼーゴウン僧院のカウィサラ師と面会した。スーチー氏の状況などについて説明したとされるが、面会は国軍の統治を認める行為とみなされ、SNSで非難が集中した。6月、乗っていた国軍機が墜落し、カウィサラ師は亡くなった。
国軍の武力弾圧による犠牲は、社会の分断ももたらした。国軍と徹底抗戦する道を選んだ人もいれば、日常生活に戻ることを選んだ人もいる。「国軍寄り」とみなされた市民が殺害される事案も相次いでいる。
僧侶たちの胸の内は複雑だ。北東部シャン州の僧侶(36)は、もともとスーチー氏を支持していたが、今は迷っているという。「政治努力でクーデターを防いでいたら、市民が死ぬことも武器を手に戦うこともなかったかもしれない。僧侶は政治と距離を置くべきだが、政治について日々思い悩まずにいられない」【12月19日 朝日】
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【権力にすり寄る動きも】
国軍側が住民統治の一環として強い影響力を持つ宗教界に接近するのは当然のことでしょう。宗教界の側がその誘いにどのように対応するのか・・・。
信徒の安全を考えれば無碍には断れない・・・という側面もあるのでしょうが、ただ、無批判な権力へのすり寄りとも見えるような行為には批判も。
****ミャンマーのカトリック枢機卿に批判 国軍総司令官とクリスマス祝う****
ミャンマーで、カトリック教会のチャールズ・ボ枢機卿がミン・アウン・フライン国軍総司令官と共にクリスマスケーキを切っている写真などが公開され、24日にはボ氏に対する怒りの声が広がった。総司令官は国軍に対する抗議デモや衝突の弾圧を指揮し、キリスト教徒が多い地域でも多数の死者が出ている。
国営英字紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ボ氏は23日にミン・アウン・フライン氏と面会。両氏はクリスマスキャロルに耳を傾け、「平和と繁栄に関する事柄について話し合った」という。
2015年にフランシスコ教皇によって枢機卿に任命されたボ氏は、自身のツイッターアカウントに、笑顔の両氏が一緒にナイフを持ち、クリスマスケーキを切る写真を投稿した。
国営メディアも、両氏がクリスマスツリーの前に並んで座る様子や、ミン・アウン・フライン氏が2000万チャット(約130万円)の寄付をボ氏に手渡す様子を捉えた写真を公開した。
2月の軍事クーデターで、国家顧問だったアウン・サン・スー・チー氏が拘束されて以来、ミャンマーは混乱の中にある。現地の監視団体によると、抗議デモの弾圧により1300人以上が死亡している。
各
地で国軍と戦うための武装集団が結成され、キリスト教徒が多い地域で起きた戦闘でも多数の死者が出ている。 【12月24日 AFP】
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権力掌握が続けば、その権力になびく動き、現実支配体制への接近で実益を得ようとする動きも出てきます。
****ミャンマー国軍トップと会談=影響力維持狙いか―インド高官****
インドのシュリングラ外務次官が22、23の両日、隣国ミャンマーを訪れ、クーデターで権力を握った国軍のミンアウンフライン総司令官と会談した。市民弾圧が国際的な批判を浴び、孤立を深める国軍と関係を維持することで、影響力を保つ狙いとみられる。
インド外務省によると、シュリングラ次官は民主体制への早期復帰や政治犯の解放を呼び掛けた。また、インド製の新型コロナウイルスワクチン100万回分を供与したほか、食料支援を表明した。次官は拘束されたアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の関係者とも会談した。【12月24日 時事】
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“民主体制への早期復帰や政治犯の解放を呼び掛けた”とは言っても、現時点で司令官と会談すること自体が、国軍支配を正当化し、“民主体制への早期復帰や政治犯の解放”を遠のかせることにもなります。
【「23年8月」にやり直し総選挙 おそらく「香港型」】
今後については、国軍のミンアウンフライン総司令官は23日、最大都市ヤンゴンで演説し、総選挙を2023年8月に行う考えを明らかにし
****ミャンマー選挙は「23年8月」、国軍トップ言及 スーチー氏排除か****
ミャンマー国営紙は24日、ミンアウンフライン国軍最高司令官が2023年8月に総選挙を実施すると述べたと報じた。今年2月にクーデターを起こし、実権を握った国軍はこれまで、23年8月までに総選挙を実施するとしていたが、具体的な実施時期は明言していなかった。
国営紙によると、ミンアウンフライン氏は最大都市ヤンゴンで23日、国軍幹部らを前に演説し、「23年8月に複数政党による民主的な総選挙を実施するよう、できる限りの努力をしている」と述べた。ただ、「国の平和と安定に応じて」実施するとの条件もつけており、治安の悪化などを理由に先延ばしする可能性もある。
ミャンマーでは、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が20年11月の総選挙で圧勝したものの、国軍は不正があったと主張してクーデターを決行。国軍は将来的に総選挙をやり直すとしていた。
ただ、国軍は次の総選挙にスーチー氏らNLD幹部を参加させない方針とみられる。スーチー氏は10件以上の罪で訴追され、一部の罪について今月6日、禁錮刑の有罪判決を言い渡された。裁判は続いており、最近は囚人服姿を着て出廷するようになった。国軍報道官によると、スーチー氏は刑務所には送られず、軟禁生活が続いているという。
国軍統制下の選挙管理委員会は5月、NLDを解党する方針も表明。国軍系の政党が議席を得やすくするため、現在の小選挙区制から比例代表制への選挙制度の変更も進めている。【12月24日 朝日】
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“総選挙”とは言いつつも、要するに「香港型」の管理された選挙、結果のわかった選挙、批判勢力は排除された“儀式・パフォーマンス”としての見せかけの選挙でしょう。
もちろん、スー・チー氏の勢力は排除されますし、香港のように、国軍支配体制への忠誠が立候補資格になるのかも。