(新潟県見附市の織物工場で働くベトナム人技能実習生(2019年)。コロナ後は技能人実習生の多くが解雇され帰国もできず行方不明になっている【12月17日 Newsweek】)
【外国人労働に依存する日本社会の現実】
日本は基本的に「移民は認めていない」という前提にたつものの、現実には多くの職種で外国人労働者に依存する社会となっていることは、とやかく言うより、コンビニやファストフード店の現状を観れば一目瞭然です。
(今日の話題ではありませんが)「社会に必要だがあまり日本人がやりたがらない分野」において技能実習生などの名目で働くそうした外国人労働者の労働環境に関して多くの深刻な問題があることは常々指摘されるところです。
****(未来のデザイン:3)仕事 食が、職が、おびやかされる****
■生活に重要な働き手、低賃金 安さ求める消費行動が、はねかえってくる悪循環
コロナ禍では、日常生活を支える働き手の重要性が再認識された。でも、賃金は低く抑えられていることが少なくない。なぜか。
山本勲・慶応大教授(労働経済学)は「安いものや便利さを求める消費行動が、労働者としての自分にはねかえる悪循環が続いている」と指摘する。安くないと物が売れないので、企業はコスト削減のため、労働者の賃金を抑える。賃金が伸びないと安いものしか買えず、さらに企業の「安売り合戦」が加速する、という構図だ。
さらにもう一つ、山本教授が指摘する要因が、外国人労働者の存在だ。「社会に必要だがあまり人がやりたがらない分野で、低賃金でも働いてくれる外国人を雇うことで、目先の人手不足を補っている」
既に日本は実質的な「移民大国」とも言われる。厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、日本で働く外国人は2020年時点で172万人(特別永住者などのぞく)。ここ5年で倍近くに増えた。
食料品製造業では、約14万人が働いており、他産業と比べて外国人の割合が高いといわれる。「15年くらい前から外国人が増えて、今は9割。常に人手不足だからね」。
千葉市の鶏肉加工工場で働く中国生まれの女性(60)は話す。週6日、午前7時~午後5時すぎまで鶏の内臓を取ったり解体したりして、月収は17万円程度。昨春、50人以上が感染し、操業を一時停止した。
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日本だけではない。欧州では農業の担い手だった外国からの労働者が入国できなくなり、農産物の収穫が滞った。
米国では、移民が多く働く食肉工場で大規模感染が起き、スーパーから一時、牛肉が消えた。世界各地の労働環境に詳しいNPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子共同代表は指摘する。
「米国の食肉工場では、移民や貧困層が長時間、過密な労働環境で、低賃金で働いている。先進国の消費をこうした人たちが支えているのは、世界共通の構図」
ただ、今後も外国人が来る保証はない。阿部正浩・中央大教授(労働経済学)は、「アジアで労働力の奪い合いが激化しており、日本の働く場としての魅力を磨かないと、今後は選ばれない懸念がある」と見る。
阿部教授は18年、パーソル総合研究所と共同で「30年、人手は644万人不足する」とのリポートを発表した。不足分を補う策としたのが、働く外国人・女性・高齢者を増やすことと、人工知能(AI)やロボットによる生産性向上だ。(後略)【1月4日 朝日】
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【ニューヨーク市 合法的な永住者で30日以上同市に在住する人は、市民権がなくても市長や市政監督官、市議会などの自治体の公職選挙で投票権が認める】
今日の話題は、そうした労働環境ではなく、外国人と政治参加の問題。
冒頭に書いたように、日本は「移民は認めていない」という前提なので、政治参加の問題は表面化しにくい面がありますが、移民を前提にしたアメリカなどでは様相が異なるようです。
アメリカ国内住む権利としての永住権と、政治参加が許される市民権は異なります。
米国市民になると、その個人には選挙権と公的な職業に就く権利が与えられますが、米国市民になるには2つの方法があります。1つは米国に生まれる、もう1つは帰化による方法です。
外国生まれの者が米国市民になるためには、まず永住権取得者になることです。次に5年間永住権取得者でいることで市民になるための基本的な要求を満たすことになります。そして、市民権の請願前の30ヶ月米国に滞在することです。【イデア・パートナーズ法律事務所HPより】
移民に対する対応はアメリカ国内でも様々で、メキシコ国境に押し寄せる移民はバイデン政権を揺るがす問題ともなっています。
そうした状況にあって、いわゆるリベラル色の強いニューヨーク市は、市民権のない者(つまり外国人)に自治体選挙での投票権を与えることを決定しています。
****市民権を持たない人に投票を認める理由****
ニューヨーク市議会に喝采だ。多様性の受け入れや代議制に向けた意義ある一歩を踏み出した。
12月9日、ニューヨーク市は市民権のない人に自治体選挙での投票権を与える全米最大の都市となった。ニューヨーク市は「Our City, Our Vote(我々の都市、我々の投票)」条例案を3分の2を超える賛成多数で可決した。
この条例では、合法的な永住者で30日以上同市に在住する人は、市長や市政監督官、市議会などの自治体の公職選挙で投票権が認められる。条例は2023年1月に施行される。
市民権を持たない人々に自治体選挙で投票権を認めるのは法的に健全で賢い政策だ。これは地域社会を強化し、より多くの住民に対し自分の生活に影響を与える政治への投資を認めることになる。そして市民権を持たない人に投票権を認めることは、米国の伝統と理想に根ざしたものとなる。
誤解のないように言っておくが、ニューヨーク市の動きは不法滞在者に投票を認めるものではない。この条例が主に対象とするのは、グリーンカード(永住権)や就労許可証の保持者、不法入国した若者を救済する制度「DACA」の適用を受ける者などの合法的な移民だ。また、この新条例は市民権を持たない人に連邦選挙の投票権を認めるものでもない。
市民権のない人々の投票を認める最も強い根拠は、理解が最も簡単なものだ。米国では市民権のない人々約1500万人が合法的に暮らし、ニューヨーク市には約80万人が存在する。こうした我々の隣人は税金を払い、子どもを学校に通わせ、商売を始め、地域社会に貢献している。彼らも他の人々と同様に、リーダーを選び、自治体政治での発言権を得ることができてしかるべきだ。
市民権のない人に投票権を与えれば、市民活動への参加を促すこととなり、結果それを認めた都市を強化することにつながる。投票する人が増えるほど、リーダーや政策はその選挙区を正確に反映したものとなる。
ニューヨーク州の共和党はこの条例に対抗措置をとると誓い、「条例案が法令となるのを阻止するために必要なあらゆる法的措置」をとると述べてきた。
だが、合衆国憲法は市民権のない者による投票を禁じていない。連邦最高裁は1874年、マイナー対ハッパーセットの裁判で「市民権は、すべての場合において投票権を持つための前提条件とされているわけではない」と確認している。
市民権のない人に投票を認めることは、新しいことでも、急進的なことでもない。そう知ったら人々は驚くかもしれない。市民権のない人々による投票は米国の建国にまでさかのぼる歴史がある。サンフランシスコ州立大学のロン・ヘイダック教授によると、1776〜1926年まで、米国の自治体や州、一部の国の選挙で市民権のない人が投票でき、中には公職に就ける人もいた。
今日でも、ニューヨーク州の憲法は「すべての市民はすべての選挙で投票する権利がある」と定めているものの、市民権のない人は投票することができないとは言っていない。この区別は、今後予想されるニューヨーク市の条例に対する法廷闘争で重要となるだろう。
有権者の拡大に向けた、ゆっくりとしながらも成長しつつあるうねりがあり、同市の動きはその一部を形成するものだ。
米国で市民権のない人に投票を認めているのはメリーランド州の9つの市、サンフランシスコ市などわずかな法域だ。マサチューセッツ州やイリノイ州、コロンビア特別区でも市民権のない人の投票に関する条例が検討されている。今回ニューヨーク市が投票を認めたことは、もっと多くの自治体が同様の措置を進める上で道を切り開く可能性がある。
市民権のない人に投票を認める根拠には実務的な部分もある。もし永住権保持者が国籍を取得して市民になろうとしたら、手数料や法的費用の金銭がかかるほか、時間を要する点が特に重要となる。
米紙ニューヨーク・タイムズは2019年、国籍の取得希望者がそのプロセスにかかる時間は平均で10カ月だと報じた。それはグリーンカード保持者が国籍取得の申請にかかる最低5年間の期間に上乗せするものになるという。市民となりうる人々の案件が、滞留する我々の移民システムを通過する間、一切市民としての声を上げられないという状況は公正ではない。
米国が「代表なくして課税なし」という考えや、「政府は人々の間に樹立され、その正当な権力は統治される人々の同意に由来する」とする独立宣言の考えに基づいて建国されたことを考えてみよう。市民権を持たない人の投票を禁止することは、どちらの原則にも反しているように見える。
予想できたように、共和党はニューヨーク市の条例に素早く反対を表明してきた。共和党全国委員会のロンナ・マクダニエル委員長は「外国人の市民に我々の選挙を決めさせることは容認できない。共和党全国委員会はあなたの投票を守る闘いを続ける中で、法的な手段を入念に検討する」と声明で述べた。
彼女の言葉はほとんど笑い草だ。なぜなら共和党が全米で主導している立法は一貫して、投票へのアクセスを制限する方向に向いているからだ。ニューヨーク大学の非営利機関「ブレナン司法センター」の分析によると、今年に入り19の州が投票をより困難にする33の新法を通過させた。共和党が任命した保守派判事が多数を占める米最高裁は、何年もかけて投票の権利を少しずつ崩してきた。法律上も、道徳上も、共和党に投票権の保護で愚痴をこぼすゆえんなどないのだ。
ニューヨーク市は、市民権のない人に投票権を認める方向に向かう正しいことをした。これは同市にとって、そして民主主義にとって良いものとなるだろう。【12月31日 CNN】
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【東京都武蔵野市 全国的に注目された住民投票条例案の顛末】
日本でも年末に外国人の政治参加の話題が注目されました。東京都武蔵野市が市議会で議論された、18歳以上で、市の住民基本台帳に3カ月以上登録されていれば外国人にも住民投票資格を認めようとの条例の審議です。
日本はアメリカとは制度も実情も全く異なりますがし、NY市の事例とは中身は全く異なりますが、発想の面で共通するものも多いとも思われます。
****外国人も住民投票、武蔵野で火花 全国初じゃない条例案、なぜ今****
東京都武蔵野市が市議会に提案した住民投票条例案への反対運動が激しさを増している。多様な声を市政に反映したいとして、外国籍の住民の参加を認める内容だ。反対派は「外国人参政権の代替になり得る」と主張する。同様な条例が既にある中、なぜ過熱するのか。
「民意そのものがゆがみかねない」。同市を含む選挙区が地盤の長島昭久・衆院議員(自民)が9日朝、JR吉祥寺駅前でこう訴えた。自民系会派の市議も条例案への反対を訴えた。(中略)
反対派が問題視するのは、18歳以上で市の住民基本台帳に3カ月以上続けて登録されている者という参加要件に外国籍住民が含まれている点だ。市長選などでの参政権がないのに住民投票に参加を認めれば、民意がゆがむというのだ。
長島氏は「外国籍の住民は少なくとも3年以上、市内に住む人という要件は必要」と訴える。
松下玲子市長は「条例案は多様性を認める社会につながる」と意義を強調する。今年3月のアンケートでは外国籍の住民を投票資格者に含めることに73・2%が賛成だった。
さらに、市役所周辺では街宣車が大音量で反対を訴え、排外主義的な団体も「自治体乗っ取り条例」などと声を張り上げてきた。
一方、賛成派は上野千鶴子・東大名誉教授らが名を連ねた声明を11月に発表し、「威圧的な宣伝や脅迫まがいの行動が跋扈(ばっこ)している」と指摘している。
市内の男性(35)は「こういう制度がなければ外国籍の方が意見表明する場はない。むしろ必要な制度」。パート勤務の女性(64)は「長く住まないと地域のことは分からない」と反対だった。
■10年前、自民が反対
武蔵野市によると、外国籍の人が住民投票に参加できるのは約40自治体。「在住期間3年以上」など条件を設ける自治体もあるが、2006年施行の神奈川県逗子市と09年施行の大阪府豊中市は武蔵野市と同じ条件で認める。
武蔵野市の住民投票条例案は、自治基本条例に基づく。自治基本条例は、自治体運営の基本理念などを定め、地方分権一括法が施行された00年以降、全国で制定が相次ぎ、約400自治体が定める。
だが、野党時代の自民党がその動きにブレーキをかけた。11年、「国家の否定が根底にある条例」とする資料を都道府県連に配布。憲法改正をめざす日本会議も同調。自民党のプロジェクトチームの参謀役だった八木秀次・麗澤大教授(憲法)は「それ以降、潮目が変わった」と語る。制定阻止の運動が盛り上がる中、自治基本条例や住民投票条例を作る動きは鈍化した。
明戸隆浩・立教大助教(多文化社会論)によると排外主義的な団体による自治基本条例への反対も約10年前から活発化しており、「他の自治体の動きが沈静化していた中、武蔵野市が条例案を提出し、標的にされてしまった」と話す。
■反対派の論理、飛躍
山元一・慶大教授(憲法学)の話 「外国人参政権の代替になり得る」という反対派の主張は論理が飛躍している。
憲法はたしかに国政選挙での選挙権を日本国籍のある人に限っているが、市長や市議を選ぶ選挙権を外国籍の住民に与えることは禁じていない。
住民投票でも同様だ。投票を認める外国籍の住民の要件について「自治体との特段に緊密な関係を持つ人」との裁判例はあるが、「3カ月以上在住」がただちに問題だとはいえないだろう。外国籍の住民にどこまで投票権を与えるか、各自治体が判断すればよい。それこそが憲法の保障する住民自治だ。【12月11日 朝日】
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昨今の日本のいわゆる右傾化・保守化の流れのなかにあっては「難しい」と予想された条例案でしたが、12月13日の総務委員会では可決されました。
****武蔵野市議会、委員会で可決 外国人に住民投票資格、条例案****
外国籍の住民にも開かれた住民投票条例案について、東京都武蔵野市議会の総務委員会が13日審議し、賛成多数で可決した。
条例案は日本での在留期間に条件をつけず、18歳以上で、市の住民基本台帳に3カ月以上登録されていれば投票資格がある内容。21日に予定される本会議で成立すれば、神奈川県逗子市、大阪府豊中市に次いで全国3例目となる。
この日の委員会では、条例案の廃案か継続審議を求める陳情が提出された。市内外から5千筆以上を集めたという。審議では、自民と公明の会派が「市内に長く暮らす日本人と、住んで3カ月の外国人とを同じレベルで考えるのはナンセンス」「市民の間で理解が進んでいない」などと今議会での条例案成立に反対する討議をした。
一方、立憲や共産などが賛成の立場をとった。「今や外国籍市民はコミュニティーの一員。受け入れるのにふさわしいかを議論すること自体に違和感がある」と述べる市議もいた。【12月14日 朝日】
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しかし、本会議での採決はやはりハードルが高かったようです。舞台裏では非常に厳しい状況もあったようです。
****武蔵野市の外国人住民投票案否決の舞台裏は“地獄”だった! 重圧で涙ぐむ市議も続出***
東京都武蔵野市で、外国籍の住民も住民投票に参加できるようにする住民投票条例案が21日、市議会で否決された。その舞台裏では、市議たちにさまざまなプレッシャーがかけられていたという。
この条例案をめぐっては反対のため街宣車が市内を走り回り、賛成派も〝ファクス攻勢〟で応戦。重圧で涙ぐむ市議もいたほどだった――。
日本人と同じ条件で外国籍の人に投票権を認める市の住民投票条例案を松下玲子市長が11月、議会へ提出すると、外国人参政権や安全保障問題と結び付けた批判など、インターネット上を含め議論を呼んだ。
全国的な注目度の高さを受けて、21日に開かれた市議会の傍聴席はほとんど埋まった。報道陣も殺到し、用意された記者席では足らず、立ち見が出たほどだ。
注目の採決は賛成11票、反対14票で否決。同条例案を推進していた松下氏は「否決という結果になりました。重く受け止めたい」と報道陣に話す一方で、「さらに検討を進める」と再提案の意志を示した。
また松下氏は、反対派によるヘイトスピーチにも言及。「ヘイトスピーチとも取れることがたびたび起こったことは残念だ」と指摘し、「私が見聞きした内容を言語化するのははばかられる。『外国人の方は自分の国に帰りなさい』という内容のものがあった」と明かした。
反対派の過激さばかりが取り上げられるが、賛成派も〝ファクス攻勢〟を展開していた。作家・志茂田景樹氏の息子である下田大気武蔵野市議は「どの議員もそうだと思うが、ファクス、メール、電話が何百件とありました。会派室にあったロール式のファクスは、紙がなくなったままです」と振り返った。
下田氏は事前に反対と表明していた。
「賛成派がツイッターでキャンペーンを呼び掛けたことで一気に賛成派からのファクスやメールが増えました。脅しはなかったけど、『差別主義者だ』とか『次の選挙は票を減らす』とかはありました」
それでも下田氏は反対を貫いた。「やはり市民の理解が得られていないのが一番大きい。混乱の中で進める意義が見いだせなかった。外国人への投票権付与は置いておいて、まずはケンケンガクガクの議論が必要。(住民投票する)案件があるわけじゃないので、そんなに急ぐことはない。再来年の4月に市議選があるのでそこで争点になるのではないか」
下田氏以上に注目されたのが、キャスティングボートを握っていた会派「ワクワクはたらく」の2人だ。この日の本会議で同会派の本多夏帆市議が涙声で反対を表明。事実上、この瞬間に否決が決まった。
下田氏は「彼ら2人にかかっていたので、僕以上の圧というか、いろんなところから連絡があったんじゃないですか。ここ1週間は相当なプレッシャーがあったと思いますよ」と思いやった。(後略)【12月22日 東スポ】
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