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(イエメン西部ホデイダのコーハ地区にあるキャンプで、食料などの支援物資を受け取った国内避難民(2022年1月14日撮影)【1月17日 AFP】 結構な量にも見えますが、これで家族何人がどれだけの期間、食つなぐことになるのか・・・)
【数百万人が避難を余儀なくされており、人口の約8割が援助を受けて生活】
中東イエメンでは、サウジアラビアが軍事介入して支援する暫定政権とイランが支援する反政府勢力フーシ派の内戦が続いており、数百万人もの避難民の発生と深刻な飢餓で、ここ数年「世界最悪の人道危機」と言われる状況が続いています。
主要港湾都市ホデイダが内戦の主戦場となっていることもあって、一時期国際支援も十分に届かない状況にもなっていましたが、同地域での部分的停戦で何とか支援物資が届くようにはなっているようです。
****世界最悪の人道危機、避難民に支援物資 イエメン内戦****
イエメン西部ホデイダのコーハ地区にある国内避難民キャンプに14日、食料や生活用品が届けられた。
国連はイエメン内戦による2021年末までの死者を37万7000人と推定している。この数字には戦闘の直接の犠牲者と、飢えや病気で亡くなった人が含まれている。
国連が世界最悪の人道危機と称しているイエメン内戦では、数百万人が自宅からの避難を強いられ、人道支援に頼って命をつないでいる。 【1月17日 AFP】
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ただ、石油資源もないイエメンに対する国際的関心は低く、また、世界の主要国は新型コロナ対策に忙殺されている状況で、国際支援に必要な資金が不足しているのが現実です。
****国連食糧計画、イエメン支援「削減せざるを得ない」 資金難で****
国連の世界食糧計画は22日、資金難からイエメンへの支援を削減せざるを得ないと発表し、飢餓がさらに深刻化する恐れを警告した。
WFPは声明で「来年1月から、800万人に対する食糧配給を削減する。ただし、飢饉(ききん)に陥る恐れが切迫している500万人にはこれまで通りの配給を行う」との方針を示し、「資金が底を突きつつある」と説明した。
イエメンでは2014年から、サウジアラビアが支援する暫定政府とイランが支援する反政府武装勢力フーシ派との間で内戦が続いている。国土は荒廃し、数百万人が飢饉に陥る寸前となっている。数万人が戦闘で死亡、数百万人が避難を余儀なくされており、人口の約8割が援助を受けて生活している。
WEPは、イエメンで最も弱い立場にある人々を来年5月末まで支援するには8億1300万ドル(約930億円)、飢饉寸前の人々に来年末まで食糧を配給し続けるには19億7000万ドル(約2250億円)が必要だとして、支援を呼び掛けている。 【12月23日 AFP】
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【フーシ派のUAE攻撃】
内戦の戦闘の方は、フーシ派がイラン製と思われるドローンを駆使しており、パトリオットミサイルで迎撃するサウジアラビアも対応に苦しんでいる・・・ことは、昨年12月11日ブログ“サウジアラビア 関係国との関係改善の動きはあるものの、イエメンの「泥沼」 防衛戦略の限界も”でも取り上げました。
戦況は大きく変わっていないようですが、個人的に意外に思ったのはフーシ派がUAEを攻撃したこと。
****UAE首都に無人機攻撃か=イエメン武装組織が主張、3人死亡****
アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビの工業地帯や国際空港で17日、火災や爆発が相次いで発生し、インド人2人とパキスタン人1人の計3人が死亡、6人が負傷した。国営通信が伝えた。
警察当局は「火災は両方の現場に落ちていたドローン(無人機)とみられる小型機によって引き起こされた」としており、何者かの攻撃を受けた可能性が高い。
ロイター通信によると、アブダビ国営石油会社(ADNOC)の石油貯蔵施設近くで、タンクローリー3台が爆発したほか、アブダビ国際空港の建設現場で火災が起きた。現地からの映像では、現場周辺には濃い黒煙が立ち上り、一時騒然となった。警察は「いずれも大規模な被害には至らなかった」と説明したが、詳細な調査に着手した。
イエメンの武装組織フーシ派の報道官は17日、「UAEの深部に対する軍事作戦の詳細を間もなく発表する」と述べ、攻撃を行ったと主張。ドローン20機と弾道ミサイル10発による攻撃だったとの情報もある。
UAEは隣国サウジアラビアなどと共にイエメン内戦に介入し、イランの支援を受けるフーシ派と対立。同報道官は「UAEは最近、部隊や兵器を送るなどイエメン侵略を激化させている」と批判した。【1月17日 時事】
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UAEはサウジアラビアともに「連合軍」としてイエメンに対し軍事介入していましたが、その支援相手はサウジアラビアが支援する暫定政権ではなく南部分離独立派であり、UAEとしての“利益を確定”したところで、サウジアラビアを残してさっさと一人イエメンから撤退した経緯があります。
****サウジがドバイに仕掛けた経済戦争の真意****
中東の経済覇権を狙うサウジの野望から見えるもの
(中略)サウジとUAEは戦略的同盟の枠組みの中で、つねによい関係を維持し、「イラン」からの脅威に対峙してきた。
「トルコとカタールがムスリム同胞団を支援して、湾岸諸国の安全保障を脅かしている」という認識をも共有してきた間柄だ。レベルの差はあれ、イスラエルとも国交を正常化すべきだとの認識さえ共有している。実際にUAEは2020年にイスラエルと国交を正常化している。
イエメン戦争で裏切りを感じたサウジ
だが、微妙なずれもあった。UAEがイエメン戦争に参戦した目的は、紅海のバブ・アル・マンデブ海峡の支配だ。海峡の入り口にあるぺリム島にUAE軍が上陸して、全島民を追放。島民の住宅を没収し、島民は半島の砂漠の難民キャンプでのテント暮らしを強いられている。
さらに海峡近くの都市ダバブを占領し、1万人にも及ぶ住民が砂漠の難民キャンプでのテント暮らしになっている。またモカ珈琲の発祥の地・モカの港も、UAE軍が支配して立ち入り禁止にした。(中略)
UAEは統一イエメンを再度南北に分けて、「南イエメン」を復活させようとしている。UAEに忠誠を誓う非政府武装勢力に資金援助をし、半島南部にぺリム島、ダバブ、モカの港を含んだ海岸線を支配させている。
つまり、UAEはサウジとフーシ派との戦いの間隙を突いて、ぺリム島や戦略的港湾をUAE軍支配下に置き、イエメン南部の独立派を支援した。
その目標が達成されるとイエメン戦争撤退を決意して、サウジに何の相談もなしにUAE軍をイエメンから完全撤退させてしまったというわけだ。
サウジはそのUAE撤退後もイエメン戦争を続けている。(中略)サウジはUAEに裏切られたと感じている。(中略)
サウジとUAEはなるべく不和を表に出さないようにしているが、両国間に生じた溝は深い。
現在のイエメンは、サウジがハディ暫定政権を、イランはシーア派武装組織フーシを、UAEは分離派「南部暫定評議会」(STC)を支援するという三つ巴の代理戦争が行われている状況だ。(後略)【2021年3月3日 東洋経済online】
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撤退したUAEを何故今更?(UAEがイエメン撤退後、どのようにイエメン情勢に対応しているのかはよく知りません)
そのあたり、下記のようにも。
“今回hothy軍(フーシ派)が特にUAEを狙ったのは、最近南イエメン等で、政府軍に代わり、UAEの支援する南イエメン勢力軍がますます大きな勢力をなしていること、またサウディの南部等のドローン攻撃では、攻撃しても攻撃しても、サウディに甚大な打撃を与えていないことから、アブダビとドバイという重要な目標がそろっているUAE を指向したのかもしれない。”【1月18日 中東の窓「hothy軍のUAE攻撃」】
“最近、UAEがイエメンでの軍事行動を活発化させてきたことが攻撃の背景にあるとみられる。”【1月19日 毎日】
【サウジアラビア主導の連合軍の報復】
サウジアラビアとUAEの関係は“なるべく不和を表に出さないようにしている”ということですが、“(サウジの)ムハンマド・ビン・サルマン皇太子とアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子は今年(2021年)7月にリヤドで最後の会談を行った際、サウジアラビアとUAEの関係と戦略的協力を強化するための道筋を協議した。”、また、昨年12月には(サウジの)ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が湾岸協力会議(GCC)首脳会議に向けた湾岸諸国訪問の2番目の目的地であるアブダビ訪問するなど、協力関係維持発展がアピールされています。【12月8日 ARAB NEWSより】
ということで「連合軍」の枠組みは今も顕在のようで、フーシ派のUAE攻撃に対し、サウジアラビア主導の連合軍が直ちに報復攻撃を行っています。
****イエメン空爆、約20人死亡=UAE首都攻撃に報復か―サウジ連合軍****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビア主導の連合軍は17日夜、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の首都サヌアにある拠点などを空爆し、ロイター通信はフーシ派高官の情報として約20人が死亡したと伝えた。
フーシ派は17日、連合軍の一角を占めるアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに向けてドローン(無人機)やミサイルを使った攻撃を行ったと主張。その報復とみられる。
(中略)UAEの外務・国際協力省は声明で「国際法に反するテロ攻撃に対して反撃する権利がある」と報復を示唆していた。
フーシ派は「(UAE国内の)より重要な施設に攻撃対象を広げることもいとわない」と対決姿勢を強めており、イエメンをめぐる緊張が一段と激化する恐れもある。【1月18日 時事】
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こうした状況を受けて、原油価格は7年ぶりの高値に急騰しており、世界経済にも影響が出ています。
【民間人犠牲者が多いサウジの空爆】
なお、サウジアラビアはフーシ派への攻撃を続けていますが、サウジアラビアの空爆は民間人を巻き込むことが多いことでは「定評」があり、そのあたりは今回も。
****イエメン、反政府勢力支配の北部で空爆 子ども含む60人以上死亡か*****
内戦が続く中東のイエメンで21日、反政府勢力フーシが支配する北部の収容所が空爆され、子ども3人を含む60人以上が死亡したと、ロイター通信が国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の話として報じた。フーシと対立するサウジアラビア主導の有志連合軍による攻撃だという。
ロイター通信などによると、空爆されたのはフーシの根拠地がある北部サアダ県の収容所。AP通信は赤十字国際委員会の報道官の話として、死傷者が計100人以上にのぼるとの情報を伝えた。
この空爆より前に西部の港湾都市ホデイダでもサウジ主導の空爆があり、その後、イエメン中でインターネット回線が停止しているという。
サウジはイエメン南部を拠点とする暫定政権を支援し、2015年からアラブ首長国連邦(UAE)などと有志連合軍を組んでイランを後ろ盾とするフーシと内戦を続け、すでに6年以上が経過している。
今月17日にはUAEの首都アブダビの国営石油公社の敷地内にドローンとミサイルの攻撃があり、同公社の従業員の3人が死亡し、6人が負傷した。フーシ側が「UAE領内で軍事作戦を実行した」との犯行声明を出していた。【1月22日 朝日】
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【アメリカ・バイデン政権はフーシ派を国際テロ組織として再度指定することを検討 再指定で国際支援は更に困難に】
また、フーシ派のUAE攻撃を受けて、アメリカ・バイデン政権は国際テロ組織として再度指定することを検討していると報じられています。
****米政権、フーシ派のテロ組織再指定を検討 UAE攻撃受け****
バイデン米大統領は19日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がアラブ首長国連邦(UAE)を無人機(ドローン)やミサイルで攻撃したことを受け、フーシ派を国際テロ組織として再度指定することを検討していると述べた。(中略)
バイデン氏は、約1年前に国際テロ組織指定を解除されたフーシ派について再指定することを支持するかとの質問に対して「検討中だ」と答えた。
フーシ派と国際的に認められたイエメンの政府およびUAEも加わるサウジアラビア主導による連合軍との対立を終わらせることは「非常に難しい」との認識も示した。【1月20日 ロイター】
バイデン氏は、約1年前に国際テロ組織指定を解除されたフーシ派について再指定することを支持するかとの質問に対して「検討中だ」と答えた。
フーシ派と国際的に認められたイエメンの政府およびUAEも加わるサウジアラビア主導による連合軍との対立を終わらせることは「非常に難しい」との認識も示した。【1月20日 ロイター】
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ただ、アメリカが1年前に(トランプ前政権が政権交代の前日にどさくさ紛れに指定した)テロ組織指定を解除したのは、深刻な飢餓の危機に対する国際支援を進めるためには、一定にフーシ派の協力が必要だったからであり、再指定ということになると、冒頭にも取り上げた国際支援は更に難しくなることが懸念されます。