孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国「債務のわな」論議 スリランカの債務支払い条件緩和要請 ウガンダの空港改修事業

2022-01-12 23:16:12 | 中国
(スリランカ・コロンボでラジャパクサ大統領(右)と写真に納まる中国の王毅国務委員兼外相=9日(新華社=共同)【1月10日 産経】)

【外貨準備高が不足するスリランカ 中国に債務支払い条件の緩和を要請】
スリランカは親中派マヒンダ・ラージャパクサ元大統領のもとで2000年代以降に中国による巨大投資で道路や港湾開発を進めましたが、借金が膨らんで返済に窮し、中国の融資で整備した南部のハンバントタ港の運営権を99年間にわたり中国企業に譲渡することになりました。

このことは、中国の融資に頼り「一帯一路」事業を進めることの危うさ、いわゆる「債務のわな」のリスクの代表事例としてことあるごとに取り上げられます。

政権はその後、ラージャパクサ元大統領の腐敗・縁故主義への批判から、いったん反ラージャパクサで対中依存を修正する政策を進めるシリセーナ前大統領に移りましたが(ただし、“中国にハンバントタ港を99年間貸与する政策に否定的な閣僚は解任するといったことも行ってる”【ウィキペディア】とも)、2019年からマヒンダ・ラージャパクサ元大統領の弟であるゴーターバヤ・ラージャパクサ氏が大統領職についています。

ゴーターバヤ・ラージャパクサ現大統領のもとでは、兄のマヒンダ・ラージャパクサ元大統領が首相に返り咲き、親中国政策を進めています。

そのスリランカの外貨準備高が不足、債務返済の困難が再び話題となっています。

****領事館を閉鎖、支払いは茶葉で…スリランカ、外貨準備の不足が深刻に****
インド洋の島国スリランカの外務省は27日、在ナイジェリア大使館やドイツのフランクフルト、キプロスのニコシアにある領事館を31日から一時閉鎖すると発表した。同省は声明で「外貨の節約や支出の削減が必要だ」と説明。背景にはコロナ禍で拍車がかかった経済危機がある。
 
同国では新型コロナウイルスの影響で主要産業の観光業が打撃を受け、外貨準備高が不足。債務の返済に苦労している。輸入に使う外貨の不足で食料の供給が滞り、燃料や小麦粉、砂糖などの必需品の値上がりも招いている。
 
21日には、スリランカ特産の紅茶をイランに輸送し、イラン産石油の輸入による2・5億ドル(約280億円)の支払いにあてることでイラン政府と合意した。外貨が足りないため、茶葉で払うというわけだ。
 
スリランカは国営イラン石油公社から輸入した石油代金の返済を迫られており、毎月500万ドル相当の紅茶をイランに輸送し、返済したことにする。スリランカ政府が、紅茶の代金を自国の業者に支払うという。
 
スリランカの外貨準備高は1年間で約7割減り、今年11月には約15・9億ドルに。1カ月分の輸入がまかなえる程度しかないという。

通貨ルピーの下落も続き、格付け会社フィッチ・レーティングスは、今後数カ月内の債務不履行(デフォルト)の可能性が高まったとして、スリランカを格下げしていた。(後略)【12月28日 朝日】
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上記のような苦しい外貨準備・財政事情にあるスリランカは、中国に対し債務支払い条件の緩和を要請しています。

****対中債務に苦しむスリランカ 中国に債務緩和を要求 総額3900億円****
中国の融資でインフラ整備が進むスリランカのラジャパクサ大統領は11日までに、中国側に対して対中債務支払い条件の緩和を要請した。ロイター通信などが報じた。

新型コロナウイルス流行による経済状況の悪化を理由としているが、対中債務処理に苦慮していることが浮き彫りとなった形だ。中国に依存する財務体質の是非が問われそうだ。

ラジャパクサ氏は9日、スリランカを訪問した中国の王毅国務委員兼外相と会談し、新型コロナのワクチン支援に謝意を述べつつ、「(コロナ禍で)経済危機に直面したスリランカにとって大きな助けになる」と発言。支払期限の延長など債務の返済条件の緩和を検討するよう求めた。王氏の反応は分かっていない。スリランカの対中債務は33億8千万ドル(約3900億円)に上るとみられている。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」関連に基づきスリランカへの投資額を増やし、それに従って対中債務も増加した。スリランカは一部について既に返済に行き詰まり、2017年には南部ハンバントタ港の権益を中国側に99年間貸与することで合意している。中国が債務返済に窮した途上国からインフラの運営権などを得る「債務のわな」の典型例とされる。

それでも親中派ラジャパクサ氏が率いるスリランカの対中接近は修正されていない。昨年11月には、日印と協力して進める予定だった最大都市コロンボの港湾開発事業を中国企業に発注することを決めた。

スリランカは経済状況が悪化しており、外貨準備高は昨年11月末時点で約15億ドルにまで減少。米外交誌ディプロマットは経済的苦境について、「中国融資で建設されたインフラの収益が低いことが一因となっている」と指摘した。

中国外務省の汪文斌報道官は10日の記者会見で、スリランカの債務の問題について、「一時的な困難を早く克服できると信じている」と答えるにとどめた。

中国側は、途上国における「債務のわな」に関する批判に反発している。王毅氏は6日、ケニア訪問中に「いわゆるアフリカの『債務のわな』という見方は全く事実ではなく、一部の人々が下心を持って騒ぎ立てているものだ」と主張。債務のわなへの懸念が強まれば途上国の間で中国離れが進む可能性もあり、習近平政権は警戒している。【1月11日 産経】
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上記記事のように、スリランカの対中債務の苦境は「債務のわな」の事例として見られるのでしょうが、中国側の視点に立てば、貸したカネを返してもらうのは当然のことで、それを「わな」呼ばわりされるのは承服できないでしょう。(反ユダヤ的難くせをつけられるシャイロックみたい)

今回の対中債務支払い条件の緩和要請も、見方によっては、国際的に何かと批判にさらされることが多い中国の足もとを見た、「弱者の恫喝」みたいな感じもします。
「もし我が国が返済できなくなったら、困るのはあなたたち中国でしょう。また「わな」云々と批判にさされますよ。それが嫌なら返済条件を緩和して・・・」みたいな。

あくまでも、個人的想像の話です。

スリランカ中央銀行総裁は、2022年に期日を迎える債務を全て返済すると表明しています。

****スリランカ、今年の債務は完済へ 外貨準備増強に包括策=中銀総裁****
スリランカ中央銀行のニバード・カブラール総裁は12日、同国政府が2022年に期日を迎える債務を全て返済すると表明、外貨準備の縮小に対応する包括的な計画を作成する方針を示した。

同国は昨年末、中国との通貨スワップ協定(15億ドル)を利用して外貨準備を31億ドルに拡大した。現在、インド、カタールと総額29億ドルの与信枠・通貨スワップ協定について協議を進めている。

22年は45億ドルの債務が返済期限を迎える。まず今月18日に国際ソブリン債(ISB)5億ドルの期日が到来するが、すでに資金の手当てはできているという。

総裁は政府主催のイベントで「債務を返済しなければ、問題が大きくなる。債務など国内経済の問題に対処するより包括的で長期的な計画が必要だ」と述べた。

総裁によると、過去2年間は新型コロナウイルスの流行で約90億ドルの観光収入が失われたが、観光産業は今後2─3カ月で回復し、外貨準備の増強につながる見通し。

中国に新規の融資を求める可能性があるとも発言した。

一部のアナリストは、将来的に国際通貨基金(IMF)への支援要請が必要になる可能性を指摘しているが、総裁は「IMFは数ある選択肢の1つにすぎない。私たちは今辿っている道のりが最適だと考えている。IMFは万能策でも魔法の杖でもない」と述べた。【1月12日 ロイター】
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“観光産業は今後2─3カ月で回復し、外貨準備の増強につながる見通し”というのは、中央銀行総裁のお言葉ながら、現在の世界のコロナ状況を見ると非常に甘いような感じがしますが・・・(行けるものなら、私もすぐにでもスリランカへ飛んで、外貨準備改善に及ばずながら寄与したい気持ちは多々ありますが)

【「債務のわな」論議の対象となっているウガンダ・エンテベ国際空港改修事業】
「債務のわな」に関しては、借入国側が否定コメントを発表しています。もちろん、中国側の意向を受けてのものでしょうし、借入国にしても「わなにはめられた」というのは、自分たちの無能をさらす話にもなりますので。

****「中国による債務のわなは存在しない」=ケニア、ウガンダに続きナイジェリアも否定―中国紙****
2021年12月20日、環球時報は、ナイジェリア政府関係者が中国による「債務のわな」について否定したことを報じた。

記事は、ナイジェリア通信の18日付報道として、同国の債務管理事務室の責任者がメディアの取材に対し「わが国はこれまでも、これからも国家資産を担保に中国から金を借りることはない」と語るとともに、今年9月30日現在の同国の債務総額379億ドルのうち、中国からの借款は9.47%の35億9000万ドルに留まっているとした上で「これらの借款は国家資産を担保にする必要がなく、優遇されているものだ」とコメントしたことを伝えた。

そして、責任者の発言について、現地メディアからは「SNSや大手メディアの間で『ナイジェリアを含む一部アフリカ諸国は中国に対する負債水準が高くなっており、重要な国有資産の流失危機に直面している』という事実に基づかない情報が流れる中、ナイジェリア政府が国民に対して情報のファクトチェックに努めるよう求める狙いがある」との見方が出ていると紹介した。

その上で、ナイジェリア政府が近年「中国による債務のわなに陥っている」という指摘に対して再三反論しており、先月下旬にブリンケン米国務長官が現地を訪れて中国からの借款に言及した際にも、オンエアマ外相が記者会見で「中国による債務のわなは存在しない。わが国は良好な借款処理体制を持っており、良い信用状況を保っている」と反論したことを伝えた。

また、ナイジェリア以外のアフリカ諸国も「債務のわな」を否定しており、ケニアは今年3月に「公共資産を借款の担保にはしていない」と改めてコメントしたほか、先月末には「中国がウガンダ唯一の国際空港を接収しようとしている」との報道に対して、ウガンダ民間航空管理局の報道官がSNS上で「わが政府がこのようのな国家資産を放棄することはあり得ない」と否定したと紹介している。【12月23日 レコードチャイナ】
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上記記事にあるウガンダの空港改修事業については、以下のようにも。

****ウガンダが債務不履行なら空港差し押さえ、中国が否定****
中国政府は、ウガンダが中国に対する債務を返済できなかった場合、ウガンダ国際空港を差し押さえる可能性があるとの見方を否定した。

中国は、同空港の拡張工事のため2億ドルをウガンダに融資したが、ウガンダ議会は先月、融資には重い義務を伴う条項が盛り込まれており、債務不履行に陥れば空港が差し押さえられる可能性があるとの報告書をまとめた。

これを受け、ウガンダの国民から反発の声が出ており、地元メディアは「ウガンダが中国の現金を目当てに貴重な資産を明け渡している」と報じた。

在ウガンダの中国大使館は28日遅く「事実無根で悪意がある見方で、ウガンダを含め、中国が途上国と築いている良好な関係をゆがめるだけだ」とし「中国への返済が行われなかったことを理由に中国が差し押さえたアフリカのプロジェクトは一つもない」と述べた。

西側諸国の間では、中国が返済能力のない途上国に資金を融資し「債務の罠」に陥らせているとの批判が出ている。【2021年11月29日 ロイター】
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在ウガンダ中国大使館は声明で、「アフリカ諸国と同様、中国も経済的な命綱を外国に支配され、不当な扱いや搾取、抑圧に苦しんだつらい経験がある」と述べているそうですが、それはともかく、事情はもう少し複雑なようです。

****中国との契約に盲点、ウガンダに動揺走る 一帯一路事業****
エンテベ国際空港の改修工事巡る借款契約の細則、財務が中国政府系銀行の監督下に

中国の習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」による融資は、途上国の経済を大きく変貌させてきた。ここに来てウガンダなどで返済期間が迫る中、中国政府は時には返済期限を延長することもあるものの、契約義務の遂行をどこまで厳しく迫るかに注目が集まっている。

ウガンダのエンテベ国際空港への中国融資を巡る目下の動揺は、中国政府の債務国に対する影響力がいかに契約の細則に及んでいるかを浮き彫りにしている。

ウガンダ政府が6年前に結んだ2億ドル(約230億円)の空港建設契約に、ある条項が含まれていることが最近になって明らかになり、国内で政治的な混乱を引き起こしている。その条項は、中国国有銀行がエンテベ空港の財務に関し多大な支配力を行使できる立場にあることを示唆している。(中略)

エンテベ空港は、(中略)改修が必要な状態にあったことは疑いの余地がなかった。

この計画の下、中国輸出入銀行がウガンダに資金を貸し付け、ウガンダは北京に本社を置く中国交通建設集団に、旅客・貨物機施設の新設と滑走路2本および関連誘導路の修復コストを支払う。空港の改修は約4分の3が完了し、ウガンダの首都カンパラに向かう高速道路に接続している。この道路も別途、中国の資金で建設された。

融資案によると、プロジェクトは2期に分けられ、それぞれ2億ドルと1億2500万ドルを利率2%、返済期間27年で借り入れ、返済総額は4億1791万ドルになる。(中略)

今年10月になって、野党政治家率いる議会委員会は、空港運営者であるウガンダ民間航空局の全ての収入と経費について、南アフリカのスタンダードバンク・グループのカンパラ支店にある中国輸出入銀行の管理する口座を通す取り決めがあったことを明らかにした。スタンダードバンクには、中国最大の国有銀である中国工商銀行(ICBC)が出資している。
 
これはつまり、通常は国庫や議会に委ねられている財政監督権を中国の政府系銀行に委ねることになる。それに伴い、どの債権者へ先に支払うかを巡る影響力も手放す格好となる。さらに、急拡大する観光や輸出からの収入をウガンダ政府が活用する能力も制限される。(中略)

融資の詳細を明らかにした議会委員会を率いるジョエル・セニョニ議員は、ウガンダの航空当局の「予算は今や、中国輸出入銀行が承認しなければならない」と指摘。「あきれるばかりだ」と続けた。

議会に説明を求められたウガンダのマティア・カサイジャ財務相は、そのような条件に同意したのは誤りだったとしつつ、中国の交渉担当者が、受け入れるか否かのどちらかしかない条件を提示したと話した。その上で、融資は返済するとし、空港が中国の手に落ちる可能性はないと述べた。最初の融資返済は4月に期限を迎える。

融資条件に関しては、中国が空港の支配権を持つというセンセーショナルな報道もあったため、在ウガンダ中国大使館は断固として反論している。

大使館は、中国だけが「投資とインフラ融資への関与でそれほどの深みと広がり」をウガンダに提供したと述べたが、融資の詳細については説明せず、この記事のためのさらなるコメントは控えた。【12月28日 WSJ】
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