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(【12月15日 中日新聞】)
【中国の出生率は建国以来最低 このままでは人口危機も】
少子化問題は日本も深刻な状況(2020年の合計特殊出生率1.34)で、よその国のことをとやかく言える立場にありませんが、いつも言うように韓国は出生率が0.84(2020年暫定値)と異様なほど低く、また、一人っ子政策を続けてきた中国も政策転換後も出生数が期待されたほど回復せず、将来的な人口減少が予想されています。
人口動態は大きな社会問題を惹起すると同時に、長期的には経済状態の基盤に影響することで、その国のいわゆる「国勢」を左右する最大の要因となります。
****中国の20年出生率、建国以来最低****
中国の昨年の(1000人当たりの)出生率が、1949年の建国以来最低の8.5人となったことが、先週公開された国家統計局の年鑑で明らかになった。労働人口の急速な高齢化や経済成長の鈍化、人口増加の減速による人口危機が浮き彫りとなった。
政府は2016年、厳格な人口抑制策「一人っ子政策」を緩和し、子どもを2人まで認めた。今年には3人まで拡大された。
しかし、物価上昇や女性の自立が進んだことで、緩和後も期待されていたようなベビーブームは起きていない。
国家統計局の2021年の年鑑によると、昨年の1000人当たりの出生数は8.5人と、前年の10.41人から大幅に減少した。1949年の近代中国の建国以来で最低だったという。
2020年の結婚件数は、過去17年で最低となる814万組だった。新型コロナウイルスの流行初期には一部地域で長期間のロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、役所などが閉鎖されたが、年の大半は結婚手続きに関する制約はほぼなかった。
昨年初めには、離婚を申請してから成立までに30日の「冷却期間」を置く制度が導入され、離婚件数は少なくとも過去30年で初めて減少した。
さらに政府は9月、「医学的に必要」とされない人工妊娠中絶を減らすよう求めた。 【2021年11月24日】
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【「党員が結婚、出産しないことは許されない」】
この状況に危機感を抱く習近平政権の意向を受けて、党中央宣伝部傘下のネットメディア中国報道網は11月、「党員が結婚、出産しないことは許されない」とする評論を掲載しました。
****ほとんど「子づくり」強要、中国共産党の「三人っ子政策」大号令****
先週12月9日午前0時37分、中国共産党傘下の中国報道ネットが、14億中国人の安眠を吹き飛ばすような記事を掲載した。タイトルは、「三人っ子政策を実行する党員幹部の適切な行動」。
2049年に建国100周年を祝うのは「5億人の老人」
記事の紹介の前に、若干の中国の人口問題に関する話をしよう。中国は1978年末から、当時の最高実力者・鄧小平氏の方針で、経済発展のための改革開放政策を始めた。そんな鄧小平氏にとって、改革開放と表裏一体だったのが、一人っ子政策だった。このまま中国の人口が増え続けては、経済発展ができないとして、強力な一人っ子政策を進めたのだ。
1982年に定めた憲法には、「国家は一人っ子政策(計画生育)を推進し、人口の増加と経済社会の発展計画が合致するようにする」(第25条)と明記した。憲法で子供の数を定めた国など、中国くらいのものだろう。
ところが21世紀に入って、この一人っ子政策が、切実な社会問題になってきた。農村部では女の子が生まれると時に間引いてしまうため、男児ばかりが生まれ、一時は男女比が118:100(2010年)まで開いてしまった。すでに3000万人の結婚適齢期の中国人男性が「結婚難民」と化している。
もう一つは、寿命の増加に伴い、近未来に未曽有の少子高齢化社会に突入することだ。このままでは、2049年に建国100周年を祝うのは、「5億人の老人」ということになる。
そこで習近平政権は、発足した2013年末に限定的に二人目の出産を認めた。その一年後には、完全に二人っ子政策に転じ、むしろ二人目の出産を奨励するようになった。
さらに今年8月20日には、人口計画出産法を改正し、三人目の出産を認めた。三人っ子政策に転じ、三人目の出産を奨励するようになったのだ。(中略)
そんな中で中国共産党が出してきたのが、先週の記事というわけだ。以下、全文を翻訳する。
「口実を設けて一人っ子や二人っ子で済ませることは絶対に許されない」
<中国共産党中央委員会と国務院の『人口の長期均衡発展を促進させる優化生育政策に関する決定』(以下、略称で「決定」)は、こう指摘している。
「老齢化は全世界的な人口の趨勢であると同時に、わが国が発展するにあたって直面している重大な挑戦でもある。予測では、第14次5カ年計画の期間(2021年〜2025年)にわが国の人口は、中度の老齢化の段階に入る。2035年前後に重度の老齢化の段階に入り、経済の運行が全領域で、社会建設が各節目で、社会文化が多くの方面で、多大な影響を受けることになる」
三人っ子政策を系統立てて支持し実施していくことは、子育ての潜在能力を伸ばすのに利のあることであり、人口の老齢化の進展を緩和し、世代間の和諧を促進し、社会全体の活力を増強するものである。
「決定」が発出されたことは、具体的に重要な現実的意義と歴史的意義がある。各(中国共産)党員幹部は、わが国の人口発展の重要性と緊迫性を覚醒し、認識すべきである。
そして、政治の位置づけを格上げし、国情と国策意識を増強させるべきだ。自分と自分の家族の老年生活の需要、また国家の人口の長期発展など多くの角度から、自分と自分の家族の思想、行動を、(中国共産)党中央(委員会)が決定し、配置してきたものと統一し、積極的に行動を起こし、三人っ子政策を自覚し実行していくのだ。
わが国の人口はマイナス成長になってきている。その原因は多くある。一部の人は食べているものが健康的でないため、個別の男女が生育能力を失っている。一部の人は先天的もしくは後天的な要因で生育をしようとしない。
就学が困難、費用が高い、医者に診てもらうのが困難、費用が高いといったことで、多くの夫婦が子供を作りたがらなくなっている。ある人は独身を選択し、子育てをしたがらない。ある人は子供を作らないことを結婚の条件にするといったことだ。
だが、われわれが認識すべきなのは、三人っ子政策に対して、国家はすでに政策措置を出してきており、国民の生育の難題を解決しようとしていることだ。国家が法によって三人っ子政策を実施することは、家庭の人々の需要の高まりであり、国家の人口発展の需要でもあるのだ。
一人ひとりの党員幹部は、あれこれの主観的原因によって、結婚や生育を拒むことはできない。またあれこれの原因で、一人もしくは二人だけの子育てをしてもならない。三人っ子政策を実行することは、一人ひとりの党員幹部が国家の人口発展の責任を受け持つことであり、一人ひとりの党員幹部が国家の人口発展の義務を履行することでもあるのだ。
もちろん、党員幹部の中には、年齢や身体などの原因で、すでに子供の生育ができない人もいるだろう。しかし自分の家族や周囲の人たちを積極的に教育、指導、促成し、三人っ子政策を自覚させ、実行させていくことはできる。
自分の家族や周囲の人たちが結婚せず、生育しないことを黙認したり放任したりすることは、絶対に許されないのだ。自分の家族や周囲の人があれこれと口実を設けて一人っ子や二人っ子に済ませることを黙認したり、放任したりすることは、絶対に許されないのだ。
注視すべきは、「決定」が出て以来、多くの生育年齢の夫婦が、三人っ子政策に対する反応が微弱であることだ。多くの党員幹部が、三人っ子政策について発光発熱し、具体的に実現させていくことが求められているのだ。
生においては患い憂い、死においては安らかで楽に。常に懐は謙虚で、安らかにあって危機を思う。一人ひとりの党員幹部は終始、政治的に高度な立ち位置につき、国家の新たな生育政策を積極的に自覚学習し、宣伝し、実践していかねばならない。いまから起ち上がり、自分から起ち上がり、三人っ子政策を自己の身に落とし込み、積極的に自己の力で貢献していくのだ>
以上である。中国共産党は、「三人産め!」「産まぬと許さぬ」「家族や周囲にもそうさせろ」と迫っているのである。
国民に「三人っ子」を強制しておいて「中国の民主」と胸を張るのか
この記事を読んで思い起こすのは、習近平政権のスローガンの一つである「国家があって初めて家庭がある」(有国才有家)という言葉だ。そして国家を指導するのが共産党だから、全国の家庭は共産党の指導に従い、三人ずつ子供を産みなさいということなのだろう。
中国は最近、「民主サミット」を開いたアメリカに対抗して、「中国式民主」を吹聴している。だが「中国式民主」は、明らかに日本やアメリカとは「異質な民主」である。【12月15日 近藤 大介氏 JBpress】
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中国報道ネット記事は、短く省略するつもりでしたが、あまりに面白く全文を引用しました。
余計なことですが、“一部の人は食べているものが健康的でないため、個別の男女が生育能力を失っている。”って、党メディアが認めていいのですかね・・・。そもそもその科学的証拠は?
日本も戦前・戦中は「産めよ増やせよ」でしたから、国家が個人の家族計画に関与することは別に驚きでもありませんが、党員は今後一人っ子、二人っ子では「党への忠誠」を疑われることになるようです。
ましてや結婚しないなんて・・・。
【中国の若者の多くが出産を望まない事情】
ただ、いくら共産党が笛を吹いても、なかなか踊れない事情も。
****人口大国の中国の「少子化」が日本以上に深刻になりそうな理由=中国****
日本では少子高齢化が叫ばれて久しいが、中国の少子化は日本以上に深刻化する可能性がある。中国国家統計局によると、2020年の出生率は1000人当たり8.5人で、過去最低となった。中国メディアの百家号はこのほど、中国の若者の多くが出産を望まない理由について考察する記事を掲載した。
記事によると、中国の若者の多くが出産を望まないのは「3つの理由」が考えられるという。
記事によると、中国の若者の多くが出産を望まないのは「3つの理由」が考えられるという。
その1つが「高すぎる住宅価格」だ。中国の現在のマイホーム価格はもはや若者が買えるような価格ではなく、親の資金援助を受けても20ー30年のローンを組む必要があり、そのあまりに大きなプレッシャーのため子どもを産む余裕がないと分析した。
2つ目は「一人っ子で育った若者が多いため」だ。一人っ子政策の時に生まれた今の若者は、全体的にわがままで努力したがらない傾向が強いという。子育てには時間と体力が必要で、産むのも育てるのも忍耐が必要なので出産したがらないのだと説明している。
3つ目は「経済的な理由」だ。仕事が不安定で食べていくのも難しい現状で、子どもを産んで育てる余裕などないと指摘した。中国では35歳を超えると再就職先を見つけるのも非常に難しくなるため、将来への不安も関係しているという。また、「仏系」と呼ばれる低欲望の草食系が増えており、お金がないこともそうだが、生活上の様々な困難や競争で若者は疲れ果ててしまっていることも要因だとしている。
中国政府は、出生率向上のために今では3人目の出産も容認するようになったが、少子化の傾向は止まる気配がない。塾を禁止するなど教育費の負担軽減を狙った政策も行ってはいるが、さらなる有効な対策が求められていると言えそうだ。【1月1日 Searchina】
2つ目は「一人っ子で育った若者が多いため」だ。一人っ子政策の時に生まれた今の若者は、全体的にわがままで努力したがらない傾向が強いという。子育てには時間と体力が必要で、産むのも育てるのも忍耐が必要なので出産したがらないのだと説明している。
3つ目は「経済的な理由」だ。仕事が不安定で食べていくのも難しい現状で、子どもを産んで育てる余裕などないと指摘した。中国では35歳を超えると再就職先を見つけるのも非常に難しくなるため、将来への不安も関係しているという。また、「仏系」と呼ばれる低欲望の草食系が増えており、お金がないこともそうだが、生活上の様々な困難や競争で若者は疲れ果ててしまっていることも要因だとしている。
中国政府は、出生率向上のために今では3人目の出産も容認するようになったが、少子化の傾向は止まる気配がない。塾を禁止するなど教育費の負担軽減を狙った政策も行ってはいるが、さらなる有効な対策が求められていると言えそうだ。【1月1日 Searchina】
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【かつては強制不妊手術 今では不妊治療拡大】
中国当局は一人っ子政策時代は人権を無視した中絶手術の強要を行っていましたが、今では逆転。不妊治療を拡充する方向とか。
****中国「一人っ子政策」の呪縛、出産奨励に壁****
出産適齢期の女性が減り若者が結婚に後ろ向きな中、当局は不妊治療を拡大
中国が40年前に「一人っ子政策」を導入した当時、政策担当者は出生数が余りに急激に落ち込んだ場合には単に政策を軌道修正すればよいと考えていた。だが現実には、それほど容易ではないことが分かってきた。
出生数が毎年減少の一途をたどる中、中国は人工妊娠中絶を行う診療所を閉鎖し、夫婦への妊娠・出産支援を手厚くするなど、ここにきて全く逆方向へと急きょかじを切っている。
だが、2016年に撤廃した一人っ子政策は、出産適齢期の女性の減少、結婚や家族形成に後ろ向きな一人っ子世代という負の遺産をもたらした。
これに加え、中国は諸外国よりも不妊症が大きな問題になっているようだ。北京大学の研究者らが行った調査では、出産期にある夫婦の約18%が不妊症の問題を抱えている。世界平均は15%程度だ。
中国政府は長年、女性に結婚を遅らせ、小さな家族を持つことを奨励してきた。研究者らは妊娠を目指す女性の年齢が高めであることが相対的に不妊症の比率を押し上げている可能性があるとみている。また、これまで人工中絶が広く行われてきたことも一因ではないかとの指摘も出ている。
コペンハーゲン大学の人類学者、アヨ・ウォールバーグ教授は、複数回にわたる中絶手術は女性の体に影響を及ぼすとし、その結果として不妊症になることもあり得ると話す。同氏には中国の不妊治療研究に関する著書がある。
数十年にわたる出産制限は深い傷を残しただけでなく、多くの地方政府に金銭的な義務をもたらしており、出生率押し上げに向けた財政余力を奪う構図となっている。
山東省は時に極端な出産制限を導入したことで知られる。1991年には同省聊城市の一部で「100日間、子どもゼロ」と言われるキャンペーンが展開された。
香港のフェニックス・テレビジョンが制作した2012年のドキュメンタリー番組では、地元当局者が一人っ子政策で認められている第1子であっても、妊娠が発覚した女性を中絶クリニックへ強制的に送り込んでいた実態が描かれている。当局者は出生データを低く抑えることを狙っていたという。
聊城市在住のある男性教師(45)は「年を重ねた大人ならほぼ誰もが当局がやったことについて何かしら耳にしている」と話す。「だが、どこにも書かれていないことだ」
中国当局は数年後になって、過度に残酷な出産制限措置を禁止した。これには一人っ子政策に違反した夫婦に対する投獄やむち打ち、所有物の破壊などが含まれる。山東省衛生委員会の当局者は、同省は出産を促すため家族計画に関する法律を見直していると述べたが、それ以上のコメントは控えた。
山東省は現在、規定を順守してきた数百万組の夫婦に損害賠償や補助金を支払っている。支給対象には、唯一の子どもが死去、または身体的な障害を負うなどして身内による支援が得られない退職者や、人工中絶といった出産制限措置に絡み負傷した女性が含まれる。山東省衛生委員会によると、2019年のこうした支出は総額50億元(約906億円)余りに上った。
人工中絶の利用も減った。中国国家衛生健康委員会のデータによると、山東省が100日キャンペーンを実施していた1991年には、約1400万件の中絶手術が行われた。これに対し、2020年は900万件弱だ。
さらに特筆すべきことに、主に中絶・避妊手術、子宮内避妊器具挿入の目的で利用される家族計画センターの数は全国で2810カ所に激減した。これは2014年の1割にも満たない水準だ。
一方で、体外受精(IVF)の実施ラウンド数(各ラウンドには計4~6週間の複数のステップがある)は2013年の48万5000件から18年にはおよそ倍増となる100万件に達した。米疾病対策センター(CDC)によると、米国における18年のIVFラウンド数は、報告を寄せた456カ所の施設で30万件余りだった。
前出のウォールバーグ教授は「何年も(出産)制限を実施しておきながら、中絶手術よりも不妊症を扱う診療所の方がこの先、より重要になるであろうことにあぜんとする」と話す。
同氏の研究によると、中国の体外受精には意外にも長い歴史がある。(中略)
中国の出生数は2020年、前年比18%減った。1月に公表予定の21年データも大幅減が見込まれている。中国の出生率(1人の女性が産む子どもの数の指標)はすでに1990年代初頭に人口維持水準を割り込み、2020年には1.3人となった。これは日本の1.34人よりも低い水準だ。
国家衛生健康委によると、中国には現在、不妊症センターが536カ所あるが、大半は北京や上海といった裕福な大都市部に集中しており、質にもばらつきがある。病院大手は不妊治療サービスを家族計画クリニックに追加しているほか、当局は小規模な都市にも不妊治療を普及させようと取り組んでいる。
国家衛生健康委は2025年までに、体外受精サービスを行う施設を人口230万~300万人当たり少なくとも1カ所設ける目標を掲げている。全国レベルでは目標の達成に近づいているものの、経済発展が遅れている省では既存のサービスでは拡大する需要に追いつけないと話している。(中略)
北京大学の研究教授(経済学)で実業家としても知られる梁建章氏は、中国は手厚い出産・育児支援を提供しない限り、出生率の低下に歯止めをかけることは難しいとの見方を示す。梁氏は長年、出産制限の撤廃を唱えてきた人物だ。
「すべてはカネにかかっている」と梁氏は話す。「市民の考えを変える、あるいは何らかの価値観を無理やり押しつけることはできない」
同氏の試算によると、人口維持水準まで出生率を押し上げるには、中国政府が現金給付や税還付、住宅・保育園費用の補助などを通じて子ども1人当たり平均100万元(約1800万円)の援助を実施する必要がある。【1月4日 WSJ】
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「すべてはカネにかかっている」のは欧米・日本での少子化対策ですが、中国の場合はカネ以外の国家による強制力が作用する危険性もあります。一人っ子政策時代の強制中絶のように露骨でもなくても、子供数が少ない者を社会的に冷遇するとか。そのあたりが「中国の民主」の怖いところです。