
(ブルガリアの首都ソフィアで12月13日、首相に就任したキリル・ペトコフ氏=ロイター【12月14日 朝日】)
【昨年表面化した政治混迷】
イギリス・フランス・ドイツなど西欧諸国と違って、(ウクライナ・ベラルーシ以外の西側諸国としての)中東欧諸国は同じヨーロッパとはいっても、やや縁遠い感じ。例えばブルガリアで検索すると「明示ブルガリアヨーグルト」の記事ばかり・・・といった具合。
普段あまり情報も多くなく、国際面で話題になるのはポーランドやハンガリーの西欧的民主主義とは異なる路線がメインでしょうか。
そんな中東欧では、昨年10,11月にはそれまでの政権が倒れるものの、そのあとがなかなか決まらないといった政治混乱が相次ぎました。
****中・東欧で深まる政治混迷、コロナ被害拡大に拍車****
ブルガリアは再び連立交渉へ
中・東欧で政治の混迷が深まっている。15日までにほぼ開票を終えたブルガリア議会選は、再びどの政党も単独過半数には届かず連立交渉に入る。ルーマニアも新政権樹立のメドが立たない。長引く政治空白は、新型コロナウイルスの被害拡大に拍車をかけている。
14日投開票されたブルガリア議会選は、今年に入って4月、7月に続く異例の3回目。過去2回は連立交渉が失敗に終わった。今回は反腐敗政治を掲げる新党「変化の継続」の得票率が約26%と、ボリソフ前首相が率いる中道右派「欧州発展のためのブルガリア市民」(GERB)を3ポイント程度リードし、勝利をほぼ確実にした。
ボリソフ氏らは汚職疑惑で批判を受け、既存政治に対する国民の不信感が高まっていた。予想以上に支持を集めた新党を率いるペトコフ氏は「ブルガリアが変革の道を歩み始め、後戻りしないことを示す時だ」と述べ、首相就任に意欲を示した。
ペトコフ氏は元起業家で米ハーバード大で学んだ経歴もあるが、政治手腕は未知数だ。連立政権樹立へ反ボリソフ氏で一致する他党と協力できるかが焦点だが、利害が複雑に絡み合い、交渉は難航する可能性もある。
北マケドニアでは10月末、ザエフ首相が地方選で敗北した責任をとって辞任を表明した。同国にとっての悲願である欧州連合(EU)加盟に向けた協議が進んでいないほか、コロナ禍で経済が大打撃を受け、人気が低下していた。
しかし、ザエフ氏は先週、「コロナの感染拡大やエネルギー危機への対処が必要だ」として一転、辞任の延期を発表。与党はその後の議会に議員を欠席させ、野党が提出していた政府への不信任決議案の投票も阻止した。野党は早期の選挙実施を求めており、政局の先行きは不透明だ。
ルーマニアも混沌としている。9月にクツ首相が閣僚を解任したことに反発した一部与党が連立から離脱し、政権が崩壊した。10月に議会はクツ氏の不信任決議案を可決した。その後、ヨハニス大統領は新首相候補に組閣を命じたが失敗に終わった。
地元メディアによると、最大与党「国民自由党(PNL)」は11月に入って野党と連立政権樹立へ協議を始めると発表した。PNLの一部支持者はこれに猛反発している。
ポーランドは東部国境に隣国ベラルーシからの移民が大量に押し寄せ、EUと連携し問題解決に取り組もうとしている。一方で、権力の乱用を法で縛る「法の支配」をめぐりEUと対立が激化するなど関係は複雑だ。
西欧に比べると、中・東欧はワクチン接種率が低く、医療体制の質も劣るとされる。コロナの感染で重症化に陥る人が多く、14日時点で人口100万人あたりの死者数(7日移動平均)はブルガリアは25人、ルーマニアが17人とEU平均(3人)を大きく上回っている。
政治の混乱で対策が後手に回っている影響は大きい。ロイター通信によると、ブルガリア南部の病院では14日に火災が発生し、3人が死亡した。【2021年11月16日 日経】
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【ブルガリア 反腐敗掲げる41歳の新首相 コロナ禍で西欧への出稼ぎ者が帰国、活性化の兆しも】
上記のような政治混乱を経て、11月末から12月にかけて、ブルガリア・ルーマニア・チェコなどでは新体制がスタートしています。
ブルガリアでは上記記事にもある“予想以上に支持を集めた新党を率いるペトコフ氏(41歳)”が新首相に就任しています。
****ブルガリア新首相に若手起業家ペトコフ氏 混乱超え、安定政治目指す****
ブルガリアで13日、新しい首相に若手起業家のキリル・ペトコフ氏(41)が就任した。同国は今年4月以降3度も総選挙があり、政治的混乱が続いていたが、ペトコフ氏率いる新党と他3党が連立に合意。新政権は政治を安定させ、深刻化する汚職の排除や新型コロナウイルス対策などに取り組む方針だ。
ペトコフ氏は米ハーバード大のビジネススクールに学んだ起業家で、総選挙の間にできた暫定政権で一時、経済相を務めた。
同国では昨年、当時のボリソフ政権の汚職体質を批判する抗議デモが各地で発生するなど汚職問題が深刻化。ペトコフ氏は11月の3度目の総選挙を前に仲間と「反腐敗」の中道政党を立ち上げ、選挙では単独過半数に及ばないものの第1党となり、社会党など3党と連立を組んだ。
4月の1回目の総選挙では、ボリソフ氏率いる中道右派政党が第1党となったが、単独過半数に至らず、他党との連立政権づくりに失敗。7月の2度目の総選挙ではポピュリズム政党が第1党となったものの、単独過半数に届かず、連立協議も不調に終わり、政治的混乱が続いていた。【12月14日 朝日】
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ブルガリアでは、経済停滞、ひいては社会停滞・政治混乱を反映して長年西欧への出稼ぎ・人材流出が続き、人口は900万人近くから、700万人まで落ち込んでいましたが、コロナ禍で出稼ぎ者がブルガリアに帰国するという形で「活性化」の兆しも見えるようです。
****コロナで出稼ぎ者帰国、ブルガリアに一筋の光****
人口流出が加速していた東欧にコロナで若者らが戻り、経済に活気
2011年にブルガリアの首都ソフィアを出てフランスに向かったニコ・アレクシエフさん(29)は、もはや本国に戻って生活することはないだろうと思っていた。
だが、西欧諸国に出稼ぎに来ていた数万人の外国人労働者と同じように新型コロナウイルス禍で職を失ったアレクシエフさんは、2020年6月に帰国した。それから1年余り、ソフィアで就職したアレクシエフさんに再び国を離れる考えはもうない。
欧州では数十年にわたり、東欧から大量の移民が西欧へと流入した。だがここにきて、このトレンドに反転の兆しが出ている。
エストニアでは2017年以降、本国への帰国者が国外への移住者を上回っている。ポーランドは2016年以来、移民流入が純増となっており、この傾向はパンデミック(世界的な大流行)で加速した。1990年以降、市民の約4分の1を失ったリトアニアでは昨年、人口が小幅増に転じた。長年続いていた若者の国外流出にコロナ禍で歯止めがかかったためだ。
ただ、ブルガリアほど状況が劇的に反転した国は他にない。
国連の予測では、コロナ禍が発生するまで、ブルガリアはリトアニアに次いで世界で2番目に人口減が最も加速すると見込まれていた。ブルガリアの人口は1980年代終盤の900万人近くから、今では約700万人まで落ち込んでいる。
ところが、昨年には国内への人口流入がおよそ10年ぶりに純増に転じ、流入が流出を約3万人上回った。その大半がブルガリア国民だ。
ここで問題になるのは、これらの帰国者がこの先も国内にとどまるかどうかだ。その答えは、東欧と西欧の双方に大きな影響をもたらす。
西欧諸国では人手不足が深刻化しており、求人の多くは外国人労働者が担ってきた職種だ。半面、技能労働者や若者の流出に悩まされてきたブルガリアのような国では、本国帰国者が経済に活力をもたらしている。
欧州外交評議会(ECFR)のオグニアン・ゲルギエフ客員研究員は「中・東欧から西欧を目指す移民の波はピークに達した」と話す。ゲルギエフ氏が昨年行った調査では、長年外国で暮らしてきた数万人のブルガリア人がコロナ禍で本国に戻ったことが明らかになった。
同氏はこうした帰国者について「かなりの割合で母国にとどまる」とみている。「これは経済にとって追い風だ――ブルガリアだけでなく、ルーマニアやポーランドのような国でもそうだ。東欧諸国に戻っても、質の高い暮らしは可能だとの認識が生まれている」(中略)
とはいえ、ブルガリアの生活水準は欧州諸国の大半と比べて見劣りする。同国は欧州連合(EU)で最も貧しく、政府機関への不信感も根強い。
コロナワクチンの接種率は3割に満たず、EU内で最下位だ。汚職に取り組む国際非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、ブルガリア市民の約2割は昨年、医療制度を利用するのに賄賂を支払ったと答えた。その割合はEU内ではルーマニアに次ぐ2番目の高さだ。
ブルガリア国立統計研究所の人口統計学者、マグダレナ・コストバ氏は、帰国者の多くが長期的に母国にとどまるのかについて、懐疑的な見方を示す。経済的な機会や教育、基本的なサービスの利用状況は他の欧州諸国の方がなお圧倒的に望ましいと同氏は指摘する。
コストバ氏は「近年、生活環境に改善が見られたが、その多くはソフィアだ」とし、「首都以外はそうではない」と述べる。
過疎化が最も進むブルガリアの北西部はゴーストタウンと化している。同地域にビジネスを誘致しようと、道路や橋、鉄道の整備にEU資金が充てられた。しかし、ここに定着した工場でさえ、多くの仕事が自動化に取って代わられた。外国の出稼ぎ労働者からの送金で建てられた郊外の住宅の並びも暗い雰囲気が漂う。(後略)【12月30日 WSJ】
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【ルーマニア 宗教界が助長するワクチン不信 新首相はコロナ対策が課題】
ルーマニアでも11月末にようやく新政権が発足しました。
****ルーマニアで新連立政権 政治混乱に終止符期待****
ルーマニアで25日、国防相を務めたニコラエヨネル・チウカ氏を首相とし、中道右派、国民自由党と中道左派、社会民主党などで構成する連立政権が宣誓就任した。新型コロナウイルス感染拡大を巡る対策などが課題となる。AP通信が報じた。
10月に当時のクツ首相の不信任決議が可決され、政治混乱が続いていたが、終止符が打たれることが期待されている。チウカ氏は議会で「緊迫した状況を終わらせる決心をしている」などと訴えた。【2021年11月26日 共同】
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“新型コロナウイルス感染拡大を巡る対策”ということで興味深いのは、ルーマニアなどキリスト教の東方正教会の信徒が多い国でワクチン接種への国民の不信感が非常に強く、その傾向を宗教界が助長していること。
****「祈れば救われる」「ワクチンに悪魔」東方正教会の信徒多い国で接種率低迷****
キリスト教の東方正教会の信徒が多い国で、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいない。国民の約9割が正教会信徒のルーマニアでは、信仰上の理由に加えて虚偽の情報も広がり、接種率の低迷を招いている。
長時間の礼拝
19日午前、ブカレスト郊外のルーマニア正教会で日曜礼拝が行われた。200人近くの信徒らのうち、4割ほどはマスクを外している。3時間以上、密閉空間で礼拝に参加し、最後に同じスプーンでワインを飲み回す儀式が行われた。
「神が守ってくれるからワクチンは接種しない。ワクチンには『悪魔』が入っている」。毎週礼拝に参加するマリン・シェルバンさん(58)はそう断言した。別の未接種の女性(42)は「教会は最も安全な場所だから大丈夫」と話し、全く気に留めない。
人口約1900万人のルーマニアでは10月に1日当たりの新規感染者が1万8000人に達し、11月に死者の累計が5万人を超えた。ワクチン接種が進まない中、5月以降、他の欧州連合(EU)加盟国と同様に行動制限を緩和し、感染が広まった。接種完了率は12月にようやく40%に届いたが、EUでブルガリアに次いで低い。
10月には集中治療室(ICU)が満床になり、隣国ハンガリーなどに患者を移送した。政府は10月以降、屋外でのマスク着用を義務化し、ワクチン未接種者の飲食店入店などを禁止した。その結果、12月には1日当たりの新規感染者は2000人未満に低下した。
ただ、米ジョンズ・ホプキンス大の統計によると、10万人当たりの感染死者数はブルガリアが436人で世界で2番目、ルーマニアが302人で10番目に多く、上位10か国のうち6か国が東方正教会信徒が過半数の国だ。
東方正教会の信徒が多い国ではワクチン接種率が低い。ワクチン接種について、ルーマニア正教会は公式には否定していないが、大都市コンスタンツァの大主教は「毎日お祈りする人は救われる。ワクチン接種は勧めない」と公言している。
ルーマニアなど東欧諸国では、正教会は選挙で大きな集票力を持つため政治への影響力も強く、政府が干渉しづらいという事情もある。
フェイク
虚偽情報の拡散も深刻だ。18日に訪れた南部スロボジアのワクチン接種会場は閑散としていた。「『死にたくないから打たない』『3世代先まで子供ができなくなる』など、あらゆるフェイクニュースが広がっている」。(中略)
熱心な正教会信徒で、反ワクチン運動で一躍有名になった男性(43)のブログには、「ワクチンは遺伝子を変える生物兵器だ」などと主張する投稿があふれている。男性は医療従事者だったが、11月、コロナに感染して死亡した。
死者急増
ニコラエ・チウカ首相は今月23日、会合で「ワクチンは重症化と死を防ぐ」などと接種を呼びかけた。政府は接種者には全員100レイ(約2600円)の食事券を配り、最高191万レイ(約5000万円)が当たるくじ引きも始めた。だが、12月の接種率は約1・6ポイントの上昇にとどまる。(後略)【12月26日 読売】
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【金銭疑惑の「チェコのトランプ」から新首相へ 人権重視で中国との対立も予測】
チェコでも政権交代が起きています。
****「チェコのトランプ」に租税回避地使った金銭疑惑、野党5党連合の党首が新首相に****
ロイター通信によると、チェコのミロシュ・ゼマン大統領は28日、野党5党連合を率いる中道右派・市民民主党のペトル・フィアラ党首を首相に任命した。新政権は12月中旬にも発足する。
「チェコのトランプ」とも呼ばれた富豪のアンドレイ・バビシュ首相は租税回避地を使った不透明な金銭疑惑が明らかになり、野党5党は「反バビシュ」を掲げて10月の下院選に勝利。連立政権樹立で合意していた。【2021年11月29日】
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フィアラ氏は12月17日に新政権をスタートしています。
“フィアラ首相率いる新政権は、ゼマン大統領やバビシュ前首相による親中親ロ、反米反欧路線を転換して、米国やドイツとの関係強化に乗り出す構え”とのことで、中国と敵対する「次のリトアニア」になすのではとの予測も。
****人権外交で中国を敵視、「次のリトアニア」になるのはおそらくこの国―米華字メディア****
2021年12月21日、米華字メディア・多維新聞は、新政権が発足したチェコが対中強硬路線に舵を切って「次のリトアニアになり得る」と報じた。
記事は、チェコで先日、5党の連立政権が発足したと紹介。フィアラ首相率いる新政権は、ゼマン大統領やバビシュ前首相による親中親ロ、反米反欧路線を転換して、米国やドイツとの関係強化に乗り出す構えだとし、政治アナリストからは新政権の発足が「チェコ共産主義時代の完全な終結を象徴する」との見方も出ていると伝えた。
そして、新たに就任したリパフスキー外相が記者会見で「チェコの名声と地位を回復するのが外相としての第一目標」とし、今後人権外交を展開しつつ、中国やロシアとの関係を見直す意向を示したほか、人権を侵害する外国人の資産凍結、入国拒否、取引禁止などの制裁について米国が定めた「グローバル・マグニツキー人権問責法」をチェコ国内で推進する姿勢を見せたと紹介している。
また、36歳のリパフスキー外相は中道左派のチェコ海賊党に所属しており、チェコ下院外交委員会の副委員長を務めていた時期には、中国に対して強硬的な立場を取る「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)のメンバーとなるなど、中国本土に対して敵対する立場を持ち続けてきた一方、台湾には友好的であり、今年10月にはチェコを訪問した台湾の呉ショウ燮(ジョセフ・ウー)外交部長と夕食を共にしたと伝えた。
さらに、リパフスキー外相は来年2月の北京五輪について外交的ボイコットも主張していることを紹介。リパフスキー外相の反中、親台の姿勢からは、今後中国とチェコとの関係が変化し、チェコが第二のリトアニアと化する可能性が高いと評している。【12月23日 レコードチャイナ】
記事は、チェコで先日、5党の連立政権が発足したと紹介。フィアラ首相率いる新政権は、ゼマン大統領やバビシュ前首相による親中親ロ、反米反欧路線を転換して、米国やドイツとの関係強化に乗り出す構えだとし、政治アナリストからは新政権の発足が「チェコ共産主義時代の完全な終結を象徴する」との見方も出ていると伝えた。
そして、新たに就任したリパフスキー外相が記者会見で「チェコの名声と地位を回復するのが外相としての第一目標」とし、今後人権外交を展開しつつ、中国やロシアとの関係を見直す意向を示したほか、人権を侵害する外国人の資産凍結、入国拒否、取引禁止などの制裁について米国が定めた「グローバル・マグニツキー人権問責法」をチェコ国内で推進する姿勢を見せたと紹介している。
また、36歳のリパフスキー外相は中道左派のチェコ海賊党に所属しており、チェコ下院外交委員会の副委員長を務めていた時期には、中国に対して強硬的な立場を取る「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)のメンバーとなるなど、中国本土に対して敵対する立場を持ち続けてきた一方、台湾には友好的であり、今年10月にはチェコを訪問した台湾の呉ショウ燮(ジョセフ・ウー)外交部長と夕食を共にしたと伝えた。
さらに、リパフスキー外相は来年2月の北京五輪について外交的ボイコットも主張していることを紹介。リパフスキー外相の反中、親台の姿勢からは、今後中国とチェコとの関係が変化し、チェコが第二のリトアニアと化する可能性が高いと評している。【12月23日 レコードチャイナ】
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反腐敗を掲げる41歳のペトコフ・ブルガリア首相や人権重視のフィアラ・チェコ首相など、総じて、従来の淀んだ政治体制を刷新しようという流れのように見えます。