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(アフガニスタンとの国境を守るパキスタン兵(2021年9月)【1月13日 Newsweek】)
【アフガニスタン撤退で、アメリカ議会で強まった“戦犯”パキスタン批判 パキスタン「もはやタリバンをコントロールできない」】
パキスタン、特にその諜報機関である三軍統合情報部(ISI)がアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンを生み、育ててきたことは周知の事実です。
その目的の最大のものは、隣国アフガニスタンにおいて宿敵インドの影響力が強まるのを防ぐためと言われています。
ただ、パキスタン政府は「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返しています。
****タリバン再登場に戦慄するインド・パキスタン****
(中略)
パキスタンはかねてアフガニスタンを「兄弟国」と見なして付き合ってきた。実際、タリバンのメンバーは、アフガニスタンにおける多数派であるパシュトゥーン人が主流。
このパシュトゥーン人は隣国パキスタン西部のペシャワールやマルダンなどに幅広く居住している。平時においてはお互いの行き来も活発だった。
そしてパキスタンの貧困層や地方住民には景気悪化や汚職などに不満を強める人々が多く、程度の差こそあれタリバンへのシンパシーを抱いていることも無視できない。
アメリカとともにソ連のアフガン侵攻に対抗するためタリバンを支援したとされるパキスタンだが、同国の外交官らはかねて「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してきた。
だが、普通に考えればパキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)は今なおタリバン、とりわけ最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」と何らかの接触を維持しているとみていいだろう。
過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認あるいは支援してきた、と言われている。パキスタンの手助けや見逃しがなければタリバンの「復活」はあり得なかった、という主張には一定の説得力がある。(後略)【2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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当然ながら、タリバンと戦ってきたアメリカには“同盟国”パキスタンの“裏切り的”タリバン支援には長年苛立っていましたが(とは言いつつも、結局パキスタンに対し決定的な対応をとらなかった、あるいは、とれなかった訳でもありますが)、混乱の中のアフガニスタン撤退という屈辱を受けて、改めてパキスタン批判が強まりました。
****米政界で対パキスタン議論 圧力か孤立回避か****
イスラム原理主義勢力タリバンによるアフガニスタン掌握を受け、バイデン米政権が、対テロ戦争の「重要同盟国」と位置付けられてきたパキスタンへの政策見直しを進めている。同国が米国の援助を得る一方で、タリバン支援を続けていたためだ。
議会ではパキスタンへの〝懲罰〟を主張する声が出ているが、専門家らには同国を孤立させれば大規模な地域紛争を招く危険があるとの慎重論が強い。
米下院外交委員会で5日に行われた公聴会では、議員と外交・安全保障の専門家らの間でパキスタン関与のあり方が議論となった。
トランプ前政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた証人のマクマスター氏は「パキスタンへの支援を停止して孤立させ、タリバンなどジハード(聖戦)勢力を保護した責任を負わせるべきだ」と述べ、民主、共和両党の一部議員が同調した。
反論したのは、同じく証人として出席したアーミテージ元国務副長官らだ。
アーミテージ氏は、パキスタンの孤立は中国、インドの領有権争いも絡む係争地カシミール地方の不安定化を招くと警告。
駐パ、駐アフガン両大使などを歴任したクロッカー氏も「パキスタンを罰する(外交政策上の)余裕はない。カシミールの暴発は中印パの地域戦争に発展する」と証言した。
こうした議論が熱を帯びるのは、アフガン政策の失敗はパキスタンが原因だとの見方があるためだ。
米国は「テロとの戦い」にパキスタンの協力は欠かせないと判断。米メディアによると2002年以降、計330億ドル(約3兆6700億円)以上の軍事・経済支援を供与してきた。
一方、1990年代のタリバン創設にも関与したパキスタンは、したたかに立ち回った。2001年のタリバン政権崩壊後も自国内に拠点を提供。タリバンを手駒に地域情勢への影響力を強め、対立するインドを牽制(けんせい)するといった狙いがあった。
タリバンが米軍やアフガン政府との戦闘を継続できたのは、パキスタンでの戦闘員徴募や訓練、武器調達が可能だったからだ。
こうした経緯から、タリバンのアフガン掌握で利益を得たのはパキスタンであるようにも見える。だが、事態はさらに複雑だ。
アフガン駐在経験のある外交筋は「勝利したタリバンが制御不能になるのを最も懸念しているのは、実はパキスタンだ」と語る。
同国内には、タリバンの影響で誕生した「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などの過激派が存在する。それらが今後、パキスタン政府への攻撃やインドへのテロなどを行うため、アフガン領を安全地帯として利用する恐れは強い。タリバンがパキスタンを利用したのと同じ構図だ。
米政界で対パ非難が強まる中、ブリンケン国務長官は9月、米パ関係を「再評価」すると表明した。だが、パキスタンが孤立感を強めれば、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて域内の影響力を高める中国との関係緊密化を一層促すことにもつながる。
パキスタンのカーン首相の安全保障補佐官を務めるユースフ氏は今月、米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、対パ非難の高まりは米国など西側諸国がアフガン政策失敗を糊塗(こと)するための「スケープゴート」探しだと批判した。【2021年10月13日 産経】
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【タリバンを支援してきたパキスタンにとってもタリバン復権は副作用も】
上記記事にもあるように、タリバンとパキスタンの関係は、カジミール情勢、中国の影響力などもあって複雑な面もありますが、パキスタンとしても(国軍、ISIではなく、少なくともパキスタン“政府”は)自国内のイスラム過激派「パキスタンのタリバン運動」(TTP)の活動活発化やアメリカなどのパキスタン批判を警戒して、タリバンの復権には慎重な面もあるようです。
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旧ガニ政権を手厚く支援してきたインドにとって、タリバンのアフガン全土掌握は大きなダメージだ。これをもってパキスタンに「外交的勝利」が転がり込んできた、といえなくもない。
アフガニスタンはインドに対して大きな外交カードであり優位性となる。パキスタンのイムラン・カーン首相がタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景はこういう事情があるのだろう。
しかしタリバンの復権はパキスタンにも大きな副反応をもたらす。今後パキスタンがアフガン支援でタリバン寄りの姿勢を見せた場合には、陸軍基地の目と鼻の先でテロ組織アルカイダの頭領オサマ・ビン・ラーデンの潜伏を許すなど数々の失態を大目に見たうえ、借金まみれのパキスタンを見捨てずに付き合ってきた米国との関係が一気に悪化する恐れもある。(中略)
しかし、タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒して再び政府に牙を剥く恐れもある。2014年に北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロなどをきっかけに同国陸軍は情け容赦ない過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を断行、タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやったが、彼らが再びパキスタンに舞い戻ってくる可能性もある。
パキスタン国内には、本家タリバンと緩やかに連携している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が跋扈する。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのも彼らの仕業だった。
パキスタン当局、特に軍はタリバンが再びテロ集団を迎え入れるなど暴走しないよう働きかける一方、指導部に対しては自国の過激派を扇動しないようくぎを刺しておく必要がある。【前出 2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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【国境「柵」をめぐるタリバンとパキスタンの対立 かつてのようにパキスタンの言いなりではない今のタリバン】
このように“微妙”な関係にもあるアフガニスタン・タリバンとパキスタンですが、両国国境にパキスタン側が設置した「柵」を巡って対立があるとも報じられています。
****タリバンとパキスタンがまさかの「仲間割れ」、現地の勢力図に大きな変化が****
<パキスタンが設置していた国境の「柵」をめぐり、両軍兵が衝突。互いを必要とするはずの両者は妥協点を見いだせるか>
昨年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧すると、隣国パキスタンでは歓喜の声が上がった。なにしろタリバン運動の発祥地だし、アフガニスタンに友好的な政府ができるのは大歓迎。一貫して親米政権を支持してきた天敵インドの影響力低下も必至だ。
しかし、そんな蜜月の終わる兆しが見えてきた。両国の国境、いわゆる「デュアランド線」での不穏な動きだ。
昨年12月19日にはアフガニスタン東部の国境地帯で、パキスタン側の設置した有刺鉄線のフェンスをタリバン兵が実力で撤去した。年末の30日にも似たような摩擦が南西部であった。フェンスの設置は2014年から、国境紛争と密輸を防ぐためと称してパキスタン側が進めていた。
この2回目の摩擦を受けてタリバン政権は強く反発。国防省の広報官は年頭の1月2日に、パキスタン側には「有刺鉄線で部族を分断する権利はない」と主張した。ここで言う「部族」は、国境の両側で暮らすパシュトゥン人(アフガニスタンでは多数派だ)を指す。別のタリバン広報官は、「デュアランド線は一つの民族を引き裂く」ものだとし、その正当性を否定した。
この国境線は1893年に英領インドとアフガニスタンの合意で成立した。だが1947年にパキスタンが独立して以来、歴代アフガニスタン政権はデュアランド線に異議を唱え続けてきた。
自分たちはパキスタンの代理勢力ではない
ただ、タリバン側の動きには他の思惑もありそうだ。自分たちはパキスタンの代理勢力ではないと、対外的に主張したいのかもしれない。多数派のパシュトゥン人にすり寄るためという見方もできる。
フェンスの存在が国境を越えた人流・物流の妨げになるという現実的な問題もある。タリバン構成員には今も、パキスタン側に家族を残している者が少なからずいる。
年明け早々、パキスタンとタリバンは交渉を通じて国境間の緊張を解くことで合意した。だが容易ではない。パキスタンの外相も「外交的に解決できると信じたい」と、心もとない発言をしている。
消息筋によれば、パキスタン政府はフェンス設置へのタリバンの理解を得つつ、越境往来を増やせるような譲歩をするつもりだという。だが、その程度でタリバンの不満は収まるまい。
それでもパキスタンに対するタリバンの経済的・外交的依存の大きさを考えれば、彼らもこれ以上の関係悪化は避けたいだろう。
パキスタン側にも、早期の事態収拾を図りたい事情がある。タリバンとの緊張が高まれば、最近パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)への対処が難しくなるからだ。
タリバンの仲介で、アフガニスタンを拠点とするTTPとパキスタンは昨年11月に停戦1カ月の休戦協定を結んだが、TTPはその延長を拒んでいる。交渉再開にはタリバンの協力が不可欠だ。
ただしタリバンも、TTPには強く出られない。国内のTTP基地へのパキスタン軍の攻撃を黙認するという選択肢もない。
パキスタンとタリバンの関係は持ちつ持たれつだ。しかし今のタリバンは、かつてのようにパキスタンの言いなりではない。【1月13日 Newsweek】
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タリバン側に“かつてのようにパキスタンの言いなりではない”という思いがあるとすれば、パキスタン側には“いったい誰のおかげで今のタリバンがあると思っているのか”という本音もあるでしょう。
【パキスタン・タリバン運動(TTP)をめぐるタリバンの“微妙”な対応】
上記のようにタリバンとパキスタンの“微妙”な関係のなかでも、とりわけ微妙なのがタリバンのパキスタン・タリバン運動(TTP)への対応。
パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)をパキスタン軍は厳しく掃討してきましたが、タリバンの仲介で一応「停戦」が昨年11月に成立しました。
****パキスタンのイスラム武装勢力「停戦継続は困難」…メンバー釈放巡り政府と対立****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は9日、政府との間で先月9日から1か月続いた停戦について、「継続は困難」だとして延長しない方針を示した。TTPが挙げるメンバーの釈放が実施されず、軍が掃討を継続した、などと主張した。双方による戦闘が再発する恐れがある。
TTPの報道官名で出された声明では、メンバー102人の釈放が9日までに実現せず、双方が和平を話し合う協議会に政府関係者が来ないと批判した。さらに政府側が停戦を破って、掃討作戦やTTP関係者の殺害をこの1か月に何度も行ったと非難した。
地元紙ニューズは10日、最高指導者のヌール・ワリ・メスード司令官も音声で停戦延長を拒否する意向を示したと報じた。ニューズによれば、直近1週間で100人近くが釈放されたが、TTPが要求する102人とは異なる可能性がある。
停戦は、双方と関係があるアフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの仲介で実現した。政府とシャリーア(イスラム法)に基づく極端な統治を求めるTTPの隔たりは大きい。【12月10日 読売】
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****TTP、パキスタン政府との一時停戦終了を表明 タリバンが仲介****
パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は9日の声明で、パキスタン政府との間で11月から1カ月間実施していた一時的な停戦を終了することを明らかにした。一時停戦は、TTPと友好関係にあり、パキスタンの軍情報機関とも近いとされるアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが仲介していた。(中略)
TTPは、パキスタン西部にある部族地域を拠点とする複数の武装組織の連合体。アフガンのタリバンと友好関係にある。2012年には女子教育の重要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんを銃撃したほか、軍などを標的としたテロを繰り返している。
TTPのメンバーの多くは現在、パキスタン軍の掃討作戦から逃れる形でアフガン東部に潜伏している。
一方、アフガンのタリバン暫定政権の外務省幹部によると、パキスタンでテロを繰り返すTTPの存在は、国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた。
ただタリバンにとってTTPは友好関係にあるため、強制的に追い出すこともできず「パキスタン政府と和平合意を結んでもらうのが最善策」と考え、両者の仲介を試みたという。【12月10日 毎日】
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“国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた”とも指摘されるTTP幹部がアフガニスタン領内で殺害されました。
****イスラム武装勢力の幹部殺害 パキスタンから逃亡****
パキスタン軍関係者などによると、隣国アフガニスタン東部ナンガルハル州で10日、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の幹部が殺害された。殺害の経緯は不明。副指導者に次ぐ立場と指摘され、TTP報道官も務めていた。
死亡したのはムハンマド・ホラサニ氏。軍は、ホラサニ氏がパキスタン治安当局へのテロ攻撃を数多く手掛けた後にアフガンへ逃亡し、新たな計画を練っていたと指摘している。
パキスタン政府とTTPは昨年11月、1カ月の停戦で合意。TTPが12月に停戦延長を拒否して以降、軍との戦闘が激化していた。【1月11日 共同】
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TTP幹部殺害にタリバン、パキスタンがどのように関与していたのか、関係はないのか・・・想像はいろいろできますが、真相はわかりません。