孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・新疆ウイグル自治区  中国の考える「人権問題」 収容所送りにされた少女の証言

2022-01-17 23:18:26 | 中国
(ウイグルに暮らす人々【1月17日 デイリー新潮】)

【中国の考える「人権」・・・人権とは固定されたものでなく、社会の発展状況により異なる】
昨日ブログでは、中国の新疆ウイグル自治区における人権問題に対するアメリカの「二重基準」とも言うべき対応を取り上げましたが、今日はその人権問題そのものについて。

中国は常々欧米諸国が指摘するような人権侵害は新疆において存在しないと主張していますが、そもそも中国が「人権」に関してどのように考えているのか・・・ということについて、中国側の説明が以下の記事です。

****人権についてどのように理解すべきか―中国人専門家が「我々の考え」を紹介****
米国や米国に近い立場の日本や西欧諸国では、新疆などについて「中国での人権問題は深刻だ」とする声が大きい。しかし中国側は「人権問題が深刻なのはむしろ米国」と主張している。

西南政法大学人権研究院の張永和院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、人権問題についての中国側の考えを紹介した。以下は、中国新聞社が発表した記事に日本人読者の理解を助けるために、若干の補足内容を追加して再構成したものだ。

■米国が強制労働を叫ぶのは、自国の黒人奴隷の記憶と関係?
米国は、新疆ウイグル自治区では綿花収獲について強制労働が存在するとして、米国企業に対して関連品の輸入を禁止した。

しかし、西南政法大学人権研究院の調べによると、新疆において綿つみは、高収入を得られるので人気のある仕事だ。新疆では、綿つみのシーズンになると休暇を取る労働者もいる。工場などが追加賃金を提示する場合もあるが、綿つみの方がさらに稼げる仕事だからだ。

このように、新疆にはいわゆる「強制中絶」や「強制労働」は存在しない。一つ一つの事例で分かるように、米国は新疆関連問題などを持ち出しては事実と異なる理由をつけて中国を圧迫している。

米国はかつての、黒人を奴隷として綿畑で強制労働させた光景を故意に、中国の新疆に「接ぎ木」しているのかもしれない。

翻って米国は、自国に存在する深刻な人権問題をわざと無視している。そして、事実を捏造(ねつぞう)して人権問題を理由に他国を非難して、圧力を加えて制裁するのは、米国の常とう手段だ。新疆問題についても、このことが改めて示された。

■人権とは固定されたものでなく、社会の発展状況により異なる
人権とは、人類文明が共通して求めてきたものだ。どの国家もそれぞれが、自らの人権問題に取り組むことができる。そして中国の人権に対する理解や扱いも、自国の発展とともに進歩してきた。

中国は西側諸国の人権概念を認めることができる。しかし中国は、人権概念は多様と認識している。さまざまな国や地域では、人権やその他の権利は異なって理解され実現されるとの考えだ。

西側諸国の人権についての主流の考えは、「人権とは天(神)から与えられたものであり、確定したものだ」である。中国人の研究者は、人権の発展は段階的なものではないかと議論している。すなわち、国の発展段階が異なれば、社会や文化の構造が異なるので、人権の理解や人権問題で実現できることにも違いが生じるとの考えだ。

中国は例えばアフリカの一部国家の人権状況や概念が西側や中国とは異なることに理解を示ことができる。

しかし西側諸国は人権について狭い理解をしている。そして西側諸国が人権問題で中国など他国を批判し続けるのは、外交などで自らが優位に立とうとする「利益」のためだ。

一方で、中国は人権問題について「発言は少なく行動は多く」の姿勢だ。2019年に中国で発表された白書「人民の幸せを図る:新中国における人権事業の発展70年」では、中国が人権関連で多くの努力と貢献をしたことが示されている。

■人権問題の論争で、中国は主導権を握ってよい
中国の人権事業の発展は現在のところ、「受動」から「能動」への転換期にある。米国など西側の一部国家は中国に対して、いわゆる「人権外交」の攻勢をかけ、常にいざこざを起こしてきた。

中国は自らの潔白を示す反論をせねばならない。そのため中国は人権問題について、しばらく「受動」の状態を続けざるをえないかもしれない。

しかしながら中国はすでに、人権関連の作業で転換期をすでに迎えている。2020年から21年にかけては、西側諸国に存在する人権関連の構造的な問題が露呈した。

新型コロナウイルス肺炎の流行に対しての西側国家の実績はひどいものだ。死亡した人が過去に経験した大戦争における戦死者よりも多いということは、人権の中でも最も基本となる生存権すら保障されていないということではないのか。

中国はこれらの問題を指摘して反論してきた。特に米国については、人権侵害が顕著だ。例えば、米国には多くの児童労働者が存在し、2003年から16年にかけて児童労働者452人が労働災害で死亡したとの、米国メディアによる報道もあった。

中国は米国における人権問題の状況を総括して、相手が仕掛けた言葉の罠(わな)から飛翔して主導権を握る必要がある。【1月15日 レコードチャイナ】
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上記の中国側主張について、部分部分においては、「そうかも・・・」と思えるものもあります。

戦前日本において、朝鮮人労働者の「強制労働」があったか否かで日韓がずっと揉めているように、「強制労働」ひとつとっても判然としないものもあります。

確かに新疆において綿つみ作業は“いい仕事”なのかも・・・・強制ではなく、自らの意思で従事している者も多いかも・・・そのあたりは事実関係を積み上げていかないとわかりません。

よく指摘される「ウイグル族百万人が収容所に・・・」ということに関しても、個人的には以前から「百万人というのはとんでもなく大きな数字だけど、本当だろうか? “南京30万人”の類の部分はないのか?」という疑念は若干持っています。もちろん“百万人”でなくても、問題の本質は変わりませんが。(下記記事によれば「百万人」でも少なすぎるとのことのようですが)

アメリカに深刻な人権侵害が存在していること・・・それは間違いない事実です。日本にも。
ただ、それらと新疆で行われていると言われる事柄が同列に論じられるものかどうかは別問題でしょう。

【政府が定めた「信用できる」の基準を満たしていない者は、カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない】
“人権の発展は段階的なもの”・・・・ここらになると判断が難しくなります。
ただ、どんな社会であっても最低限守られるべき人権というものが存在すると考えます。伝えられる新疆の状況はその“最低限”を大きく逸脱しているように見えます。

もっともらし人権解釈ですが、「なら、新疆のこういう事柄は人権侵害にあたらないということか?」と問えば、「そういう事実はない。でっちあげだ。」という話にもなって、話がそれ以上進みません。

その新疆で行われている具体例をあげる記事が下。

(中略)現地で何が起きているのか。顔認識や音声認識など、最先端技術を駆使した「統治」の実態を長期取材、『AI監獄ウイグル』(新潮社)を上梓した米国人ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が寄稿した。
 
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新疆ウイグル自治区で生まれ育ったメイセムは、高校を優秀な成績で卒業、中国の一流大学に進学した。その最中の2014年から、中国政府はウイグル住民に独裁的な魔の手を伸ばすようになる。

大量の監視カメラが町中に出現し、ショッピングモールやガソリンスタンドへ入るときにも、IDカードの提示が要るようになった。
 
北京で生活するメイセムにとっても、大学生活はつらいものだった。国を動かしているのは漢族であり、「ウイグル人は時代遅れで、過度に信仰心が篤く、少し頭の悪い存在」と見下されていたのだ。教室で挙手しても、教授たちに日常的に無視される。ただしメイセムは努力を惜しまず勉強に励み、トルコの大学院に進む。

「外の世界を見てみたかった」――だがこの選択が、メイセムが海外に住んでいるという事実が、彼女と家族の日常を狂わせることになる。最初の予兆は2016年、夏休みに故郷カシュガルに戻ったときのことだった。

「信用できる」基準を満たしていない
メイセムの実家の扉を、また親切なガーさんがノックした。家々は10世帯ごとのグループに分けて管理されており、グループ内の住民は互いに監視し合い、訪問者の出入りや友人・家族の日々の行動を記録することを求められている。ガーさんは、10世帯のグループの班長として、最近派遣されてきた礼儀正しい女性だった。

 彼女は、メイセムの家の居間に政府のカメラを設置する必要があると説明した。
「ご不便をおかけしてほんとうに申しわけありません」とガーさんは丁寧に言った。
「でもこの決定については、わたしにはどうすることもできないんです。あなたの家で何か怪しいことが行われている、と地元の警察から通知があったものですから」
 
ガーさんから手渡された1枚の紙には、当局の支援を受けて監視カメラを設置する方法が書かれていた。メイセムと家族は、この命令が下された理由をはっきりと認識していた。

メイセムは海外に留学中だった。さらに留学先はイスラム教の国だ。そのせいで彼女が“容疑者”とみなされたのだ。2015年のある時点で中国政府は、アフガニスタン、シリア、イラクなどの国が含まれる「26の要注意国」の公式リストにトルコを指定することを決めていた。

「自分は“信用できない”と判断されたんじゃないか、政府はわたしをもう信用していないんじゃないかと不安になりました」
 
彼女の直感は正しかった。ガーさんは、政府が定めた「信用できる」の基準をメイセムが満たしていないようだと説明した。カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない、と。

居間にカメラ、さらに家族全員の“検査”
「選択の余地などありませんでした」とメイセムは振り返った。
「わたしたちにできることなんてなかった。当局に抵抗すれば、逮捕されるだけですから。みんながみんなを監視して、密告し合っていた。誰も信用なんてできません。わたしたちは地元の電気店に行って、適切なカメラを探しました」(中略)
 
購入後、技術者が家にやってきて、壁に埋め込まれたプラスチック製のケースのなかにカメラを設置した。そのためカメラを勝手にいじったり、電源を切ったりすることはできなかった。居間だけでなく、小さなマンションの広い範囲が映り込んだ。くわえて、音声も記録された。(中略)
 
メイセムと母親は居間を使いつづけた。しかし、いつものように本を並べたり、文学や世界情勢についての率直な議論をしたりするのは避けた。
 
だがこれでは足りなかった。その1ヵ月後、政府からの新たな通知をもってガーさんが戸口にやってきた。家族全員で地元の警察署に出向き、“検査”を受けろ。一家が怪しいと判断されたため、こんどは家族全員への“検査”が義務づけられたのだった。そこで身体検査に加えて、採血、声と顔の記録、DNAサンプルの採取が行われた。

「役所に来てください」
「ある日、地区の当局から携帯電話に連絡がありました」とメイセムは振り返った。陳全国という人物が新疆のトップに就任してからおよそ1週間後、2016年9月のことだった。

「役所に来てください。今日は大切なお話がありますので」と職員は言った。(中略)「外国からの帰国者は全員、再教育センターに行ってもらいます」と職員は言った。

「大切な会合がありますので、出席してください。その場所で1ヵ月にわたって勉強することになります」 職員は“その場所”がどんなところなのか具体的には説明しなかった。

「1ヵ月?」とメイセムは声をあげた。「大学院に戻らないといけないんですけど!」
予定では、2週間後にトルコに戻って修士課程の最終年をはじめることになっていた。(中略)

「すべての市民の義務である」
メイセムは、再教育センター行きの車の後部座席に乗り込むよう命じられた。1ヵ月分の服を取りに家に戻る機会は与えられなかった。
 
1時間ほどたつと、目的の建物が視界に入ってきた。メイセムは、口から心臓が飛びだしそうなほどの緊張に襲われた。
「銃をもった迷彩服の軍人がいました。特殊部隊の黒い制服を着た警察官もいた。たくさんの人が、アサルト・ライフルや巨大な棒をもっていました」 のちに彼女はその棒が、スパイク付きの電気ショック警棒だと知ることになる。(中略)メイセムは扉の上の看板の文字を読んだ─―「わが国家の防衛は、すべての市民の義務である」(中略)

「拘留センターに連れていけ」
 (中略)メイセムは(「政治を勉強するためと言われてここに来た」と、命じられた窓拭きを)拒否した。するとセンター長は机から書類の束を引っぱりだし、それから誰かに電話をかけた。「若い娘がいてな、窓を拭きたくないというんだ。なので、そちらでしばらく教育してくれないだろうか?」(中略)

建物の外にパトカーがやってきた。「拘留センターに連れていけ」とセンター長は運転手に指示した。“拘留”という言葉がはるかに大きな意味をもつことなど、そのときのメイセムは知る由もなかった。(中略)

メイセムを乗せた車はすぐに、ふたつ目の収容所に着いた。看守たちが「拘留センター」と呼ぶその施設は、大きな鉄扉がついた大規模な建物で、さきほどよりも多くの特殊部隊員がまわりを警備していた。

「性悪女!」「売春婦!」
「なかに入ってください」と看守が言った。うしろで扉が閉まると、自分が長いセメントの廊下の端にひとり立っていることにメイセムは気がついた。およそ10メートルおきに設置されたカメラのレンズが彼女のほうに向けられていた。
 
メイセムは中庭へと連れていかれ、待つように言われた。頭は真っ白で、ただただ戸惑っていた。10人の看守がまわりを取り囲むように立った。

「ここでは誰が偉いのか、この女に教えてやろう」と看守のひとりが叫んだ。
ふたりの男がメイセムを地面に押し倒し、靴を脱がせ、脚をもって体を外へと引きずりだし、隣の小さな中庭に引っぱっていった。そこには、不機嫌そうな表情をしたべつの数人の男女がいたが、彼らも意に反して連れてこられたのは明らかだった。

「この尻軽女が」と看守たちは叫んだ。「性悪女!」「売春婦!」
 
メイセムはなんとか逃れようと手足をバタバタさせた。数分後、看守たちは笑いながらうしろに下がった。
 
すでに正午ごろになり、8月の灼熱の太陽が空高くに昇っていた。看守たちはメイセムの体をもち上げ、手錠と拘束具がついた鉄の椅子に引っぱっていき、腕と足に手錠をかけた。

「とんでもなく不快な気持ちでした」と彼女は私に言った。「それはタイガー・チェアでした。そう、誰もが噂で耳にしたことのある拷問椅子です。あの人たちは、そうやって見せしめにする。体を捻じ曲げて苦しめるんです」

炎天下で8時間放置
ほかの囚人たちもその様子を見ていた。「彼らはまるで患者でした。自動車事故で負った頭の外傷から回復し、人格を失った患者みたいに」とメイセムは言った。

「考えることも、質問することも、感情をあらわにすることも、話すことさえできないようでした。みんな虚ろな眼でこちらを見るだけ。しばらくすると彼らは、建物のなかへと追い立てられていきました」
 
看守たちは、炎天下の中庭にメイセムを8時間にわたって放置した。彼女の肌は真っ赤になり、熱傷を起こしてひりひり痛んだ。(中略)
 
それから、彼女は監房に連れていかれた。一般的な住宅の居間と同じ30平方メートルほどの室内には、20人ほどの女性がおり、2台のカメラが設置されていた。(中略)
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ウイグル自治区研究の第一人者でドイツ出身の人類学者、アドリアン・ゼンツによれば、2016年から2017年にかけて新疆の学校、警察署、スポーツセンターがつぎつぎに拘留施設へと改修され、くわえて地域の治安維持の予算が92.8%増加していた。

「収容されている人数は最低でも10万人、最大で100万人強にのぼると考えられます」とゼンツは私に説明した。100万人強というのは、ウイグル人住民1100万人の約10分の1に相当する。
 
これはゼンツが調査をはじめたばかりの早い段階の数字、のちに彼は推定値の上限を引き上げ、2017年の春以降、拘留施設に収容された人数は最大で180万人にのぼる可能性があると訴えている。【1月17日 デイリー新潮】
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収容施設における拷問や非人道的対応、監視などは、極めて残虐なものですが、多くの強権支配国家に共通するものです。

それ以前の、当局から“信用できない”と思われた段階で、家の中に監視カメラを設置することを強制される・・・というあたりが、いかにも現代中国らしい印象です。

前出の西南政法大学人権研究院の張永和院長は、こういう話をどのように説明するのでしょうか?
おそらく“でっちあげ”だと言うのでしょうね・・・。

なお、記事にも出てくる自治区トップの陳全国党委書記は昨年末に交代が発表されています。

****中国、新疆ウイグル自治区トップ交代****
中国国営新華社通信は25日、中国共産党が新疆(しんきょう)ウイグル自治区トップの党委書記を陳全国(ちん・ぜんこく)氏(66)から、広東省ナンバー2の馬興瑞(ば・こうずい)省長(62)に交代させる人事を決定したと伝えた。陳氏は、少数民族ウイグル族への同化政策を強化させたと指摘されている。

陳氏は新たなポストに移る予定だと伝えられている。習近平政権は、同自治区の統制強化を成果として位置づけており、陳氏が中国共産党・政府の要職に起用されるとの見方もある。

陳氏は、2016年にチベット自治区トップから横滑りし、新疆ウイグル自治区のトップに就任。昨年7月には、新疆での人権侵害に関与したとして米政府の制裁対象となった。

一方、馬氏は国有企業の中国航天科技集団の総経理(社長)や、国家宇宙局の局長などを経て13年から広東省で勤務。17年から省長を務めていた。【12月25日 産経】
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チベット・新疆で剛腕をふるった陳氏の交代で変化はあるのでしょうか?
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