孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  「債務のわな」、コロナ禍、ウクライナ問題、政策ミスで悪化する財政 困窮する市民生活

2022-04-01 22:14:58 | 南アジア(インド)
(物資不足に見舞われるスリランカ最大都市コロンボで、ガソリンスタンドに行列する市民【3月26日 産経】)

【「債務のわな」の典型例にあげられるスリランカ】
中国の「一帯一路」政策に沿った巨額融資を受けた結果、債務返済ができなくなり、融資物件の権利などを中国に引き渡すことになる、いわゆる「債務のわな」を論じる際に必ず事例としてあげられるのがスリランカ。

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中国は巨大経済圏構想「一帯一路」関連に基づきスリランカへの投資額を増やし、それに従って対中債務も増加した。スリランカは一部について既に返済に行き詰まり、2017年には南部ハンバントタ港の権益を中国側に99年間貸与することで合意している。中国が債務返済に窮した途上国からインフラの運営権などを得る「債務のわな」の典型例とされる。【1月11日 産経】
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ただ、以前も書いたことがあるように思いますが、中国の方を持つわけでもありませんが、こうした「債務のわな」の議論は、いささか中国を一方的に悪者に仕立てている感もあります。
「ヴェニスの商人」における金貸しシャイロックに対する反ユダヤ主義的とも言えるような理不尽な非難みたいな・・・。

別に無理やり、あるいは詐欺的に中国が資金を貸し付けた訳でもなく、一番責められるべきは、後先考えずに借り入れて、その資金を非効率・無駄に使ってしまった借入国でしょう。スリランカの事例は、そういう借入国側の無謀さの典型例とも言えます。

いずれにしても、スリランカの財政悪化・債務問題は上記のハンバントタ港で終わった訳でなく、1月12日ブログ“中国「債務のわな」論議 スリランカの債務支払い条件緩和要請 ウガンダの空港改修事業”でも書いたように、今現在も続いています。

スリランカは中国に債務支払い条件の緩和を要請していますが、中国にしてみれば借り手側の開き直り的な理不尽要求でしょう。

****中国「債務のわな」で危機拡大 スリランカで波紋****
債務危機が深刻化しているスリランカで、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて中国から受けた融資が政治的な火種に浮上してきた。

スリランカは輸入代金の支払いに窮するほど財政が悪化しており、5億ドル(約570億円)相当の国債償還を控えた先週には、インドから金融支援を受けた。インド洋から中国の影響力を排除したいインドにとっては、スリランカの債務危機は新たな機会をもたらしている。

スリランカ中央銀行のニバード・カブラール総裁は、自身の公式ツイッターアカウントで、18日に償還を迎える国債の支払いを履行したと明らかにした。同国は今年、総額45億ドル相当の国債償還を控えており、今回は大型償還の第1弾だった。

しかし、スリランカの政府歳入の約3分の2はすでに利払いに充てられており、ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は議会での演説で、輸入代金の支払いに必要な外貨準備が不足していると警告した。

ラージャパクサ氏はこれに先立ち、同国を先週訪問した中国の王毅(ワン・イー)外相に対し、債務再編や交易条件の緩和、新型コロナウイルスに絡む中国人観光客のスリランカ訪問制限の解除を求めた。

一連のインフラ投資に絡む中国の融資に対しては、スリランカ与党からすでに異例の批判が出ていた。インフラ投資には最大都市コロンボにおける130億ドル相当のビジネス拠点開発、ラージャパクサ一族の地元選挙区における港湾・空港建設などが含まれる。

与党議員のウィジェヤダサ・ラージャパクシェ氏は今月に入り、習近平国家主席に宛てた6ページの書簡で、政治的な影響力を拡大するためにスリランカを「債務のわな」に陥れたとして、中国を厳しく批判した。

書簡には「スリランカに対するあなた方の友情は本物でも、誠意あるものでもないことは明らかで、罪のない人々の生活を犠牲にして自らが世界の大国になるという野心を実現するため、単にわれわれとの関係を利用しただけだ」と記されている。(中略)

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は15日、インドは経済やコロナ禍に絡む諸問題で「あらゆる手段を使って」スリランカを今後も支援していくと述べた。両国は必要不可欠な燃料、食糧、医薬品などの確保に向け、インドによる計15億ドルの融資について協議しているという。(中略)

スリランカ中銀のデータによると、同国の対中債務は2020年末時点で約35億ドル(国営企業への融資は除く)で、これは対日債務にほぼ匹敵する。スリランカの債務で最大規模(36%)を占めるのが外貨建て国債を通じた借り入れだ。

スリランカの対中債務は債務全体の約10%にすぎないが、米当局者や一部の学者らは、中国が一帯一路を通じていかに債務危機を引き起こしているかを裏付ける証拠だと指摘している。(中略)

スリランカの債務問題は過去2年間に深刻化した。観光収入と海外出稼ぎ労働者からの送金という、外貨の主要獲得手段がコロナ禍で打撃を受けたためだ。

ラージャパクサ氏は昨年9月、長年のインフレ高進や通貨安、輸入コスト増大などを受けて、経済の非常事態を宣言。コメや砂糖など生活必需品の供給を軍に管理させ、政府の保証価格で販売した。

昨年11月以降、ムーディーズ、フィッチ、S&Pグローバル・レーティングの主要格付け3社はいずれも、スリランカのソブリン格付けをジャンク級(投資不適格級)内でさらに引き下げている。(中略)

元スリランカ中銀副総裁のW.A.ウィジェワルデン氏は「外貨準備は危機的な状況で、燃料や医薬品、食糧、工業原料といった必要不可欠な物資さえ輸入できないほど減っている」と述べる。

同国の有力エコノミストからは、貴重な外貨は市民の生活必需品を確保するために用いるべきだとし、債務再編が実現するまで返済を凍結するよう政府に要求する声も上がる。スリランカでは停電が頻発しており、粉ミルクや調理用ガス、燃料など必要な輸入品が不足している。

ウィジェワルデン氏は「そうしなければ、品不足が値上げや長い行列を招くことになる」とし、「いずれは社会・政情不安につながる」と述べる。

ところが、ラージャパクサ大統領は天然資源も限られる小国のスリランカは、開発や雇用創出で外国資本に頼らざるを得ないと述べ、中国からの投資に頼る方針を変えない意向を示唆している。【1月19日 WSJ】
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【石油代金を茶葉で物納 1日13時間停電】
外貨不足による最近の苦境は以下のようにも。

****石油代金は茶葉 親中スリランカに「最悪の経済危機」****
インド洋の島国スリランカが経済危機に直面している。外貨不足で輸入が停滞した結果、石油などの物資不足が深刻化。政府は一部輸入品の〝代金〟として特産の茶葉による物納にも踏み切った。

「独立以来、最悪の経済危機」(米外交誌ディプロマット)に直面する中、中国への債務負担も重く、親中ラジャパクサ政権は対応に苦慮している。(後略)【3月26日 産経】
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****スリランカ、1日13時間停電 経済危機が深刻化****
スリランカで経済危機が深刻化している。政府は31日、全国規模で実施している計画停電を1日13時間に延長すると発表。医薬品も底を突き始めており、緊急性のない手術を延期する病院も出てきた。
 
人口2200万人のスリランカは外貨不足のため基礎的な輸入品の代金すら支払えない状況だ。1948年の独立以来、最悪の経済危機に直面している。
 
国営電力会社は先に、全国的な計画停電を1日当たり7時間から10時間に延長していたが、さらなる延長に追い込まれた形だ。
 
スリランカでは火力発電用の石油が不足し、今月初めから深刻な電力不足に陥っている。火力発電用の石炭・石油は輸入に頼っているが、代金を支払うための外貨が不足している。
 
電源の40%超は水力で賄われている。しかし、当局によると、降水不足のため大半のダムの水位が大幅に低下している。
 
複数の病院で医薬品や麻酔薬、薬品などの在庫が払底。緊急手術を優先するため、緊急性のない手術は延期されている。
 
首都スリジャヤワルデネプラ・コッテにある、国内最大のスリランカ国立病院では、病理検査も停止した。ただ、電力の供給は問題ないという。
 
燃料価格も高騰を続けている。ガソリンは今年初め時点に比べ2倍近くに、ディーゼルは76%値上がりした。 【3月31日 AFP】
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【債務問題・外貨不足を深刻化させたコロナ禍にウクライナ問題】
スリランカの債務問題を深刻化させたのは、前出【WSJ】にもあるように、“観光収入と海外出稼ぎ労働者からの送金という、外貨の主要獲得手段がコロナ禍で打撃を受けた”ことですが、最近のウクライナ問題も更なる悪化要因になっています。

****スリランカ、ロシア・ウクライナの観光客途絶で苦境****
南アジアの島国、スリランカがロシアのウクライナ侵攻で債務危機の悪化に直面している。両国とも、スリランカの観光業の最大級の収入源だったからだ。紛争の経済的影響でデフォルト(債務不履行)の恐れが高まったと専門家は警鐘を鳴らしている。

スリランカはここ数カ月、外貨準備が枯渇するなかで石油など必需品の輸入に窮する状況が続いており、停電や電力不足に苦しんでいる。2022年に支払期日を迎える対外債務は元利合計70億ドル(約8100億円)と推定される。

ラジャパクサ大統領率いる政権は、観光業と輸出の回復で外貨準備が再び増え、危機を切り抜けられるとしていた。

「すべての望みが絶たれた」
この戦略に不可欠なのがロシア、ウクライナの2国で、それぞれ22年のスリランカの観光市場で1位、3位を占めている。ロシアは、スリランカの主要輸出品である紅茶の第2の輸出市場でもある。

貿易と観光の途絶は世界的な原油価格高騰とともに、この戦略に壊滅的打撃を及ぼしているとスリランカのシンクタンク、アドボカタのムルタザ・ジャフジー会長は指摘する。「すでに経済危機が本格化していた状態で、戦争に至った」。これで「もうすべての望みが絶たれた」という。

スリランカはアジアで最大のハイイールド債(低格付け債)発行国で、約450億ドルの長期債務を抱え込んでいる。減税やコロナ禍による観光業の崩壊後、数度にわたる信用格付けの引き下げで借り換えはできない状態だ。

コロナ下でデフォルトに陥ったアフリカ南部ザンビアや中米ベリーズのような国に仲間入りする恐れに直面している。

スリランカ政府は2、3月にそれぞれ18億ドルの外貨建て債務の期日を迎えるが、中央銀行の統計に基づくアナリストの推計によると、使える外貨準備は10億ドルに満たない。

渡航制限でインド・西欧からの観光客途絶える
コロナ対策の旅行制限でインドや西欧諸国からの渡航が途絶えるなか、当局がロシアやウクライナからの観光客を頼みの綱とするようになっていたスリランカにとって、紛争の影響は迷惑このうえない。

スリランカ観光開発局によると、ロシア、ウクライナからの1月の旅行者数は約2万人で、全体の4分の1強を占めた。18年1月の数字は10%弱だった。

ウクライナの領空が閉ざされる一方、経済混乱でロシア人観光客も減るのではないかと業界関係者は危惧している。
「他の国から訪れる人が減るなかで、ウクライナとロシアからはかなりの数の旅行者が来ていた」とスリランカ・ホテル協会を率いるM・シャンティクマー氏は話す。「その彼らが戦争のせいでいなくなり、また大きく落ち込んでしまう恐れがある」

スリランカ紅茶局のジャヤンパティ・モリーゴダ局長は、ロシア通貨のルーブルが下落し、ロシアの銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済システムを使えなくなれば、長引く紛争が紅茶の輸出に「深刻な」影響を及ぼすことになると話す。

数時間に及ぶ停電や、先週の中銀による利上げにつながった急激な物価上昇など、スリランカの人の経済危機による痛みは増している。

ラジャパクサ政権は停電を終わらせると約束し、インド国営石油会社インディアン・オイルと供給契約を交わしたとロイター通信は報じている。

だが多くの投資家は、スリランカが債務を返済できなくなるのは時間の問題だとみている。7月には10億ドル分の国債が償還を迎えるが、アナリストの推計では、スリランカは3月、アジア決済同盟(ACU)を通じた延べ払いでインドに10億ドルを返さなければならない。(後略)
(2022年3月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)【3月8日 日経】
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【化学肥料禁止で招いた食料生産低迷・価格上昇】
また、政策判断の誤りが食料価格高騰を招いている側面も。

****スリランカ、食料高騰 化学肥料禁止で生産低迷 貧困層、新たに50万人****
南アジアの島国スリランカで食料が不足し、価格が高騰している。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が化学肥料や農薬の輸入を原則禁止したからだ。外貨不足や地下水の汚染に対応した措置だが、農家の生産性の低下を招いた。

スリランカ農業省によると、コメの収穫量は「マハ」と呼ばれる3月までのシーズンで通常より3割減る見通しだ。ほかの農産物も生産が低迷し、トマトの価格は2020年12月に比べて約3倍になった。価格の高騰はスリランカ料理に欠かせない青唐辛子やニンニク、玉ねぎ、ココナツといった食材にも及ぶ。

食料不足の主因は、21年前半にラジャパクサ氏が打ち出した化学肥料の使用禁止令と輸入禁止だ。同氏は19年11月の大統領選で、農家に化学肥料を無料で供給すると公約した。だがこの政策を大きく転換し、スリランカの労働力の3割の農民に「有機農業」を求めた。

農業に詳しいペラデニヤ大(スリランカ)の教授は「肥料を巡る急な政策変更が失敗するのは明らかだった」と話す。化学肥料の輸入停止は「危険な政策で、スリランカの食料安全保障に影響を与える」と指摘する。

国連食糧農業機関(FAO)によると、アジア地域でコメの値段が上昇している国はスリランカくらいだ。同国では食品価格の上昇率が21年12月に前年同期比で20%、22年1月には24%以上になった。

複数のエコノミストは、スリランカのインフレ率が足元で16.8%に達し、アジアの国別ではパキスタンに次いで2番目に高いと指摘する。

消費者の不満も募る。最大都市コロンボの4人家族はこれまで、1.5斤のパンを分け合っていたが、いまでは1斤で我慢している。1日2食で過ごす日も増えてきた。北部のアヌラーダプラの公立学校に勤める教師は「おなかを空かせて登校し、倒れた生徒も何人かいる」と打ち明ける。

世界銀行のスリランカ担当ディレクターは「スリランカの人口の10%強が貧困ラインを下回る生活を強いられている」と話す。02年以降は減少していた同国の貧困層が再び増加に転じたという。

世界銀行はスリランカを中所得国のカテゴリーに入れ、1日3ドル20セント(約370円)を貧困ラインと定める。貧困層は256万人(人口の1割程度)と推定される。生産低迷などの影響から、主に農村部で、新たに50万人が貧困層に転落した。

21年後半の世論調査でラジャパクサ政権の支持率は、19年の大統領選後から30%ほど下がった。危機感を強めた政権は農民が一定の収入を確保できるよう財政措置を準備する。大統領の弟のバジル・ラジャパクサ財務相は2290億スリランカルピー(約1300億円)の救済策を打ち出した。

大統領も2月にアヌラーダプラで開かれた政治集会で「肥料危機の最中だが、農家の収入を2倍に増やすと約束する」と表明した。【3月4日 日経】
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政権維持のためのバラマキ的財政支出で財政状況は更に悪化するのでしょう。

なお、化学肥料に関しては“化学肥料を使用しないことで農業生産力が落ちることを懸念した農民団体や農業関係の企業からの反発があったばかりでなく、ローカルの市場では農作物の価格が上がり、市民の生活を圧迫しました。
さらに中国からの圧力もあって、結局、半年ほどで化学肥料の輸入禁止は解かれました。”【3月23日 アジア保健研修所HP】とのこと。

【IMF支援をあおぐ可能性も 最大の問題は政権の縁故主義】
今後については、IMF支援をあおぐことも選択肢として浮上しているとのこと。

****スリランカ、通貨切り下げ IMF支援へ環境整備か****
スリランカの中央銀行は7日、通貨スリランカルピーを最大10%強切り下げると発表した。同国は財政状況の悪化で債務不履行(デフォルト)リスクが高まっている。ロイター通信は通貨切り下げが国際通貨基金(IMF)の金融支援を要請するための環境整備とする専門家の見方を伝えている。(中略)

今回の措置は通貨の柔軟性を重視するIMFへの救済要請を見据えた動きでもある。スリランカは中国やインドからの2国間融資に頼ってきたが、財政の悪化が一段と進むなかIMFへの要請が現実的な選択肢として浮上している。【3月8日 日経】
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債務のわな、コロナ禍、ウクライナ問題もさることながら、ゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領の兄マヒンダ・ラージャパクサ元大統領が首相を、弟のバジル・ラジャパクサ氏が財務相を務めるという縁故主義が適切な政策判断を阻害しているように思えます。そうした体質には非効率、腐敗・汚職がつきまといます。
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