
(中国政府は、共同富裕の取り組みと関連する幾つかの政策を後退させている(3月10日 全人代)【4月4日 WSJ】)
【苦境の中国経済 ただし、“崩壊”はしない?】
世界経済を牽引している中国経済については、不動産バブル、新型コロナ禍等々による苦境を伝える報道は多々あります。実際、苦しいのは間違いないでしょう。
****不動産バブル崩壊で、いまや世界経済のお荷物に…中国経済を迷走させる習近平政権の断末魔上海市の「2500万人のロックダウン」が追い打ちに****
「5.5%前後の成長目標」に暗雲
2022年、中国共産党政権は、実質ベースで5.5%前後のGDP(国内総生産)成長率を実現する目標を掲げた。しかし、足許の経済状況を見ると、ゼロコロナ政策による主要都市の機能低下などで成長目標の実現はかなり難しそうだ。
その要因として、不動産バブルの崩壊、IT先端企業への締め付けの強化、およびコロナ感染再拡大による動線の寸断は大きい。3つのマイナスの要素=三重苦によって、中国経済はこれまで以上に厳しい状況を迎えることが懸念される。
秋に党大会を控える習近平政権は、求心力の低下をなんとしても避けなければならない。そのために、共産党指導部は経済の下支え策を強化するだろう。
一方、共産党政権に対する不満の高まりを抑えるため、SNS運営企業への監視を強化することになるだろう。共産党政権は貧富の格差を解消する政策運営を行っているものの、実際には経済成長期待が高い先端分野のダイナミズムをそいでいる。それは経済運営の効率性を低下させる。
また、感染者の増加に対してゼロコロナ対策も徹底せざるを得ない。中国の感染対策は世界経済の供給制約を深刻化させる要因でもある。中国の経済成長率の低下傾向は鮮明化する可能性が高い。それは、世界経済にとって大きなマイナス要因だ。
不動産規制が予想以上に市場を冷え込ませた
中国経済の減速懸念を高める3つの要因の中で、最も深刻なのが不動産バブルの崩壊だ。(中略)。
共産党政権は不動産分野での投資を積み増すことによって、高い経済成長率を目指す政策運営を行った。世界的な低金利環境とカネ余りが続く中で、中国国内では不動産価格は上がり続けるとの強気な心理が高まり不動産バブルが発生した。
しかし、いつまでも資産価格が上昇し続けることはない。2022年秋に予定されている党大会で3期続投を目指す習近平国家主席は、不動産バブルが膨張して債務問題が深刻化することは避けなければならない。その考えに基づき、2020年8月に共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を実施し、バブル潰しに取り掛かった。
しかし、3つのレッドラインは共産党政権が予想した以上に不動産市況を冷え込ませ、住宅価格の下落が止まらなくなった。その結果、中国の景気減速は鮮明化している。
恒大集団、佳兆業集団…次々と決算発表を延期
不動産市況は悪化するだろう。足許、上場規則で定められた3月末までに2021年の監査済み決算を公表できない不動産デベロッパーが増えている。(中略)
中国のGDPの30%近くを占めると言われる不動産関連セクターで企業の資金繰りはさらに悪化し、事業運営に行き詰まる企業は急増する恐れがある。それは経済成長率の低下要因だ。
IT先端企業への締め付けを強めているが…
現在、共産党政権はIT先端企業への締め付けを強めている。貧富の格差拡大阻止の姿勢を示すことに加えて、政権に対する不満を高めかねないSNSなどを抑え込む必要がある。
現時点では、習氏の政権基盤が揺らぐ状況には至っていないものの、先行きは楽観できない。例えば、不動産市況の悪化が深刻化すれば、保有してきた財産価値の急減に直面する人は増える。その結果、国民の生活が苦しくなってくる。
それは政権に対する不満を高めることになりかねない。今年秋の党大会を控える習氏は、なんとしても求心力を保たなければならない。アリババやテンセントなどへの締め付けは想定以上に強まる可能性がある。3月下旬にテンセントは共産党政権の規制強化に従うと恭順の意を示した。
それによって民間企業の創業経営者は当局からの圧力に対応しつつ、より自由度の高い国で新しい取り組みを進めようとするだろう。やや長めの目線で考えると、IT先端企業への締め付け強化によって中国から海外に流出する生産要素(ヒト、モノ、カネ)は増えると考えられる。
上海市のロックダウンが追い打ちに
また、新型コロナウイルスの感染再拡大も中国経済の成長率を下押しする。3月に入り習氏は徹底したゼロコロナ政策を調整する考えを示した。
しかし、感染急増によって、金融と経済の中心地である上海市がロックダウンを余儀なくされた。共産党政権はゼロコロナ対策を徹底せざるを得ないことを認めたといえる。常住人口約2500万人の上海市のロックダウンは、これまでの都市封鎖を上回る負の影響を中国にもたらすはずだ。(中略)
それによって節約心理は強まり、個人消費が減少する。動線遮断によって生産活動も停滞する。(中略)
不満を抑えるための対策がさらなる不満を呼ぶ
不動産バブル崩壊、民間IT先端企業への締め付け強化、感染再拡大が互いに共鳴するようにして中国経済の成長率は一段と低下するだろう。全人代で発表された5.5%前後の実質GDP成長率の実現はかなり難しい。
一つのシナリオとして、不動産セクターではデフォルトが増え、地方政府の財政や銀行セクターに負の影響が波及する展開が予想される。
それによって人々の不平不満は高まる。それを抑えるために習政権はSNSの監視や相対的に成長期待が高いIT先端企業への締め付けを強めざるを得なくなる。感染を抑えるためにゼロコロナ対策も強化しなければならない。
人々の自由はより強く制限される。都市部と農村部での戸籍制度の違いに起因する社会保障面での格差の拡大なども重なって、将来への不安を抱く人は増えるだろう。
世界経済の足を引っ張る状況は当面続く
それに加えて、ウクライナ危機を背景とする天然ガスや原油価格の上昇が、国営・国有企業の事業運営コストを増加させる。社会心理の不安定化の恐れが高まる中で中国の企業が最終価格にコストを転嫁することは難しい。中国全体で企業業績は悪化し、雇用と所得環境の不安定化懸念は高まる。
景気下支えのために財政と金融政策が総動員されたとしても、債務残高の増加によって経済全体で資本の効率性が低下しているため、景気減速を食い止めることは難しい。
今後の展開によっては想定以上に中国経済の減速が鮮明化し、資金の流出圧力が強まる恐れもある。2022年の中国経済の成長率を4.5%程度と予想する経済の専門家もいる。中国経済はかなり厳しい状況に追い込まれている。
それは世界経済にとって大きなマイナスだ。リーマンショック後の世界経済は米国の緩やかな景気回復と、中国経済の成長に支えられて相応の安定を維持した。中国経済の成長率の低下傾向は鮮明化し、世界経済全体の成長ペースも鈍化するだろう。
それに加えて、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。その状況下、ゼロコロナ対策によって上海市の港湾施設の稼働率は低下し、世界全体での供給制約に拍車をかける。当面、中国経済は世界経済の足を引っ張ることが懸念される。【4月4日 真壁 昭夫氏 PRESIDENT Online】
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ただ、日本の中国嫌いの人々が以前から繰り返し主張(願望)するような一気の崩壊とはならないでしょう。少なくとも、これまでも何回も“崩壊”が言われながらも中国経済は成長を続けてきました。
おそらく、中国嫌いの人々が見落としているのは中国指導部の問題対応能力(強引な強制力も含めて)でしょう。言い換えれば、危機に際して何もしないほど「中国も馬鹿ではない」ということ。
****なぜ、中国経済のバブルは弾けないのか?****
「中国経済混乱“金返せ!”恒大集団の経営悪化」「中国版“リーマンショック”の恐れ!?」「不動産業界に倒産の波 世界が警戒―」
そんなヘッドラインが世界のメディアを賑わせたのは2021年8~9月のこと。マンションを中心とする不動産デベロッパーの中国恒大集団が、巨額の債務を抱えて経営難に陥っており、世界経済への影響も必至だというのだ。
あれから半年たった今、「あれ? 結局、中国恒大の問題ってどうなったんだっけ?」と思う方は少なくないのではないだろうか。
中国経済をめぐる議論は、長年、この繰り返しだった印象を受ける。
「上海株が暴落、ついに成長神話も崩壊か」「ゴーストタウンが予兆する経済崩壊」などと報じられるのに、いつのまにか危機は終わっている(ように見える)。本書はそんな「中国経済の謎」を解き明かす。
センセーショナルな報道は、必ずしも誇張とは言えない。人口14億人の中国で起きるトラブルは、日本はもとより、世界の多くの国にとってケタ違いに巨大であることが多い。
中国恒大の債務合計額は、2021年6月の時点で約2兆元(約35兆円)と言われるし、2016年の中国のマンション空室は約1200万戸と、カナダの全人口を住まわせるに十分な数だった。
ただ、中国にはそれをカバーする経済規模と金融システムがあり、経済当局には勉強家で独創的な施策を打ち出すテクノクラートがいる。また、合法性や適正手続を無視して強引に政策を実行できる一党独裁制だ(もちろんそれには多くの弊害もある)。
だから少なくとも今までは、政治・経済・社会の破滅的な崩壊は回避できたと、著者トーマス・オーリック氏は説く。(後略)【4月2日 DIAMONDonline】
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【最近目にしなくなった「共同富裕」 長期的には格差是正のための根本対応が必要だが・・・】
現在の中国社会・経済が抱える極めて大きな、かつ政治的に危険な問題は格差の拡大でしょう
その改革の方向として昨年ぐらいから習近平政権が強調しだしたのが「共同富裕」
習近平版「文化大革命」とも言われるような社会・経済統制政策と併せて、中国が更にディストピア化するのではという懸念も。また、この路線がこれまでの成長を支えてきた民間セクターの活力をそいでしまうのでは・・・との懸念もありました。
ただ、最近はこの「共同富裕」と言う言葉、あまり目にしなくなったようにも思えます。
具体策として注目された不動産税導入も延期されました。
当面は前出のような経済苦境にあって、「それでころではない」といったところのようです。
****習氏の「共同富裕」政策、成長重視で尻すぼみ 国家主席3期目続投にらみ、中国経済の成長に軸足****
中国では、最重要政策目標の一つである「共同富裕」への取り組みが後退しているように見える。これは、習近平国家主席が権力を掌握してから10年近くが経過した今でも、中国経済の変革と不均衡是正がいかに困難な課題なのかを浮き彫りにするものだ。
昨年の大半の期間、習氏は「共同富裕」と称される自身の看板政策を積極的に宣伝してきた。同政策は、中国の富の再分配の強化を目指したもので、同国のエリート層が著しい経済発展から過大な恩恵を受けているとの懸念がその背景になっていた。
この政策は、利益拡大のため市場での影響力を巧みに利用していると見られていたハイテク企業への締め付けなど、習氏の多くの取り組みの基盤になっていた。
しかし、ハイテク企業への締め付けは、一部で継続されているものの、他の部分は尻すぼみになっている。これは、中国経済の減速を受けて、成長率押し上げがより優先されるようになったためだ。
昨年は「共同富裕」という文言が、国営メディアや学校、習氏らのスピーチの中など、あらゆるところにあふれていた。昨年秋の中国共産党の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で採択された「歴史決議」は、習氏を毛沢東と並ぶ指導者に位置付けたが、その中でこの共同富裕の文言が8回も登場した。
しかし、今年3月に李克強首相が発表した1万7000字の中国経済に関する「政府活動報告」の中で、共同富裕の文言が使われたのは1回だけだった。
中国財務省の最新の予算報告の中では、共同富裕キャンペーンへの中央政府の予算配分に関する明確な目標は示されなかった。共同富裕政策の主要な試験導入地に指定されていた浙江省の新たな経済計画では、比較的貧しい家庭への富の配分を強化するはずの同政策への言及はほとんどなかった。
中国政府は、共同富裕の取り組みと関連する幾つかの政策を後退させている。先月、社会保障制度の財源になる可能性のあった新たな不動産税の適用拡大計画を棚上げした。同税が不動産価格の下落につながることを懸念するエリート層や政策担当者らが、この計画に反対していた。同税が試験導入されているのは現在、上海と重慶だけだ。
中国財務省は同税の適用地域拡大見送りの背景について、条件が「まだ熟していない」と指摘しただけで、詳細を明らかにしなかった。
共同富裕が後退している理由の一つは、習氏が経済の力強い成長の継続を必要としている時に、これまでに導入された一連の政策が企業のオーナーらを動揺させ、成長を減速させたことだ。習氏は、国家主席3期目の続投が決まるとみられる今年の党大会に向け準備を進めているところだ。
しかし、エコノミストや学者らは、一段と思い切った内容で、痛みを伴う可能性もある変革なしには、共同富裕の目標は達成できないことが明確になってきたと指摘している。しかし、そうした変革を容認する用意が習氏にあるようには見えない。
それには、中国の課税や社会保障の制度の全面的な見直しが含まれる。中国の税制は先進国ほど累進的ではなく、より所得の低い労働者に大半の負担がのしかかる。政治的なつながりがより強い傾向にある上位層の税率引き上げは、抵抗に直面している。
中国の税制では根本的に、習氏の「共同富裕」の政策課題が示唆する教育や衛生、その他のサービスの水準を達成できるほどの歳入が得られていないとエコノミストは指摘する。このため、民間企業や大物実業家に富を再分配するよう求める圧力が生じている。
中国の個人所得税は、国内総生産(GDP)比で1.2%にとどまる。ちなみに米国や英国は約10%だ。国際通貨基金(IMF)によると、社会保障負担による収入は、GDP比で6.5%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均9%を下回っている。
オックスフォード大学中国センターのアソシエートでエコノミストのジョージ・マグナス氏は、「こうした変革には、多くの政治的なイニシアチブが必要だ。政府がそれを進んで行おうとするとは思わない」と話す。(中略)
「共同富裕」という語句の誕生は、何十年も前にさかのぼる。毛沢東と鄧小平が社会の不平等と格差の低減を目指すという社会主義的な理想を表現するためにこの言葉を使っていた。
しかし、データからは、中国経済の世界への開放が始まって以降、貧富の差は広がり、社会的流動性が停滞していることが分かる。習氏はこの傾向について、共産党の継続的な支配に対する脅威だと考えている。世界不平等研究所によると、中国の上位10%の富裕層は、同国の家計の富の68%を保持している。
習氏は昨年1月、共同富裕の実現は待ったなしだと当局者に伝えた。このことは、同氏がこの問題を重視していることを示唆する。中国経済は新型コロナの第1波の収束後に力強く回復したため、政策立案者らは、習氏の目的を果たすような変化を推し進めるチャンスが到来したと考えた。
しかし、その後に設けられた規制は、暴利をむさぼる、もしくは金融リスクを取り過ぎているとみられていた業界の取り締まりを中心とするもので、革新を促したり、低・中所得層の機会を広げたりするための、より抜本的な改革ではなかったと、エコノミストは指摘する。
不動産開発業者に対する規制強化は、彼らのリスクテーキングの姿勢を低減させた一方で、不動産市場の低迷のきっかけになった。ハイテク企業や営利目的の学習塾・家庭教師業界に対する締め付けは、独占的な行為を後退させたが、業界での大規模なレイオフ(一時解雇)につながり、中国上場企業の市場価値が何十億ドルも吹き飛んだ。
国全体の成長は急速に鈍化しており、エコノミストの多くは、中国が約5.5%に設定している今年の政府成長目標を達成するのに苦労するとみている。
ハイテク企業や起業家は共同富裕の取り組みに何十億ドルもの寄付を表明しているが、エコノミストらによれば、そうした1回限りの資金提供は長期的な社会制度の改革に向けた持続的戦略にならない。その一方で、民間の起業家精神を廃れさせるような、政府の引き締め策による打撃が何年にも及ぶとみられる。(中略)
一部のエコノミストは、成長が力強く回復すれば、中国は今秋の共産党大会後に共同富裕を復活させることが可能かもしれないとみている。
しかし、中国国民が成長からより大きな恩恵を受けるための手助けとして、習氏が果たしてさらなる思い切った措置をとる意思があるのかどうかは不明である。オックスフォード大のマグナス氏や他のエコノミストらによれば、最も簡単な方法の一つは、より多くの収入――および権限――を政府から民間部門へ移管することだが、それは習氏の意向に逆らうことになる。
テキサスA&M大学経済学部教授のガン・リー氏は、別のアプローチとして個人に対する相続税あるいはキャピタルゲイン税の導入の可能性を指摘する。裕福な世帯からより多くの富を移すものだが、これらもまた反対に直面する可能性が大きい。
エコノミストの中には、地方政府の資金調達手段を中国は変更する必要があるが、これは中央政府の権限低下につながる可能性があるため、中国の政治環境の下では同様に難しいと指摘する声もある。
現状では、地方政府は多くの社会保障の提供を担っており、一般的に多額の負債を抱え、自力での資金調達能力は限られている。このため、大規模な福利厚生プログラムを引き受ける意欲はほとんどない。
カリフォルニア大のシー氏によれば、地方政府当局者はインフラなど結果が早く出るプロジェクト、あるいは半導体分野の自立性実現や軍事力強化の達成など中国指導者にとって戦略的に重要と思われる項目に関するプロジェクトへの投資を好む傾向がある。【4月4日 WSJ】
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現状の問題から目標実現を先延ばしするのはやむを得ないとして、格差是正のためのより根本的対応については習近平主席の一強支配力をもってしても難しいようです。