孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ問題で明確な一方の支持は避けながら、中国・インド・トルコが目指すもの

2022-04-06 23:41:16 | 国際情勢
(ニューデリーで1日、握手するインドのモディ首相(右)とロシアのラブロフ外相【4月2日 朝日】)

【曖昧戦略で巻き込まれるのを避けながらも、ロシア支持の本音がにじみ出る中国】
中国は、対米共闘パートナーであるロシアを支持したい一方で、国家主権尊重の外交原則からすればウクライナの状況に一定に理解を示す必要があるということで、ウクライナとロシアのどちらにも配慮した曖昧な戦略をとっている・・・というのはいつも言われることです。

言い換えれば、“全面的にロシアを支持すれば中国も国際社会から非難される。一方でロシアへの経済制裁にも同調しないことでウクライナ問題に巻き込まれるのを避けている格好だ。”【4月3日 FNNプライムオンライン】とも。

ただ、今回の問題を機にして欧米主導の国際的流れが強まることへの反発から、本音の部分ではロシア支援に相当に傾いているようにも見えます。

ここ2、3日の国内外の動きに関する報道を見ても、欧米主導のロシア制裁に反対し、実質的にロシアを支援する意図は色濃く出ています。

****王毅氏「一方的な制裁に反対、途上国の権利守る」…ASEAN4か国外相と相次ぎ会談****
中国の王毅ワンイー国務委員兼外相は3月31日〜4月3日、東南アジア諸国連合(ASEAN)4か国の外相と、内陸部の安徽省で相次ぎ会談した。米国のバイデン政権が対中包囲網を強める中、ロシアのウクライナ侵攻を巡って米寄りの立場を取らないように促した。
 
中国外務省によると、王氏は、昨年のクーデター後にミャンマー国軍が外相に任命したワナ・マウン・ルイン氏との会談で、「一方的な制裁に共に反対し、発展途上国の権利と利益を守りたい」と述べ、米国によるミャンマーやロシアへの制裁を批判した。
 
王氏は、今年のG20(主要20か国・地域)議長国を務めるインドネシアのルトノ・マルスディ外相との会談では、「G20を分裂させる権利は誰にもない」と表明。ロシアをG20から排除するように主張している米国などをけん制した。ルトノ氏は「関係国が(侵攻の)終結を促すことが重要だ」と述べ、中国の立場に理解を示した。
 
会談はタイ、フィリピンとも行われた。3月31日の米政治専門紙ポリティコ(電子版)によると、一連の会談は、3月末に米国とASEANが予定していた首脳会議が延期された直後に開催が決まった。同紙は「中国のプロパガンダが思いがけず勝利を収めた」と評した。
 
ASEAN10か国の多くは、内政不干渉などを理由にロシアへ中立的な立場を取っている。国連の対露非難決議でもベトナムやラオスは棄権した。【4月4日 読売】
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ASEAN諸国が“内政不干渉などを理由にロシアへ中立的な立場を取っている”・・・内政どころが軍事的に侵略しているロシアに対して“内政不干渉”云々は中国外交以上に奇妙かつ無責任な対応です。

****中国大使「根拠のない非難は避けるべき」ロシア側を擁護****
ウクライナの首都・キーウ近郊の町で民間人とされる遺体が多数見つかったことについて、中国の国連大使は、「根拠のない非難は避けるべきだ」と述べ、ロシア側を擁護する姿勢を示しました。

中国の張軍国連大使は5日の安全保障理事会で、キーウ近郊のブチャで多数の民間人とされる遺体が見つかったことについて、「民間人への攻撃は容認できず、あってはならないことだ」と指摘し、事件の状況や原因を明らかにすべきだと訴えました。

その一方で、「結論が出るまでは、根拠のない非難を避けるべきだ」とも主張し、アメリカなどが「戦争犯罪だ」として非難を強めるロシアを擁護する姿勢を示しました。

その上で張大使は、「制裁は問題解決の有効な手段ではなく、むしろ危機の広がりをさらに加速させる」と述べ、日本や欧米などが続けるロシアへの制裁に反対する立場を改めて強調しました。【4月6日 日テレNEWS24】
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****中国、教育現場に“ロシア寄り”指示か 「ウクライナ政府は腐敗」などの表現****
ウクライナ情勢をめぐり、中国政府が各地の学校に対して、責任はウクライナやNATO側にあるとの政府の立場に沿うよう指示した可能性が浮上している。

SNS上で拡散された中国の学校の様子。スライドのタイトルには中国語と英語で「ロシアはなぜウクライナに出兵したか」と書かれ、下には「ウクライナ政府は腐敗し、経済は疲弊し、政府軍とナチスがロシア人を殺害している」などと、ロシア政府の主張に沿った表現が並んでいる。
 
また、東部・山東省の地元政府が小学校から大学までの教育機関に出したとされる文書では、教員らに対し、ウクライナ問題での政府の「原則的立場」を学ぶよう求めている。
 
香港メディアなどは、中国政府が教育の場でもロシア寄りの姿勢を取るよう指示した可能性があるなどと指摘している。【4月6日 ABEMA Times】
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【バランス外交を維持しながら自国の利益の最大化を目指すインド 欧米からは不満も】
一方、中国同様に、国連でのロシア非難決議に棄権しているのが対米包囲網クアッドのメンバーでもあるインド。
インドは伝統的に大国に追随しない非同盟主義を原則としていますが、武器輸入などでロシア依存が高いこともその背景にあると思われます。

インドの場合は(クアッドに参加したように)確信的な中国と異なり、状況次第では・・・という部分もありますので、ロシア・中国、アメリカ・欧米・日本双方とも中立的なインドを自陣営に引き込もうと躍起になっています。

****ウクライナ侵攻を非難しないインド、我が陣営に…欧米・日本と露中が激しい綱引き****
ロシアのウクライナ侵攻を非難しないアジアの大国インドを巡り、主要国の綱引きが活発化している。欧米や日本は対露結束で同調を迫り、ロシアや中国は引き留めに懸命だ。ナレンドラ・モディ首相はバランス外交に徹し、自国の利益を拡大したい狙いがある。

■一方的
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は1日、インドの首都ニューデリーでスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相と会談した。ラブロフ氏は「インドが一方的ではなく、全体的な事実に基づいて状況をみていることに感謝する」と述べた。ロシアによる侵攻を批判する欧米の姿勢を「一方的」と断じ、同調しないインドの姿勢を評価した発言だ。
 
インドにとって、ロシアは伝統的な友好国であり、最大の武器調達先だ。欧米による対露経済制裁に参加するそぶりも見せない。
 
1週間前の3月25日には中国の王毅ワンイー国務委員兼外相がインドを訪れた。王氏はジャイシャンカル氏に、欧米の対露制裁に同調しないよう働きかけたとみられる。

■足並み
露中の動きは、ウクライナ侵攻直後から、米欧を中心とする民主主義陣営が対露包囲網の結成に向け、インドを抱き込もうとしていることを踏まえたものだ。
 
日米豪印の枠組み「Quad」(クアッド)は、3月3日にオンラインでの首脳会談を実施した。バイデン米大統領はモディ氏に「足並みをそろえてロシアを非難しよう」と呼びかけたとされる。
 
岸田首相は19日にインド入りしてモディ氏と会談した際、「力による一方的な現状変更はいかなる地域でも許さない」と確認した。3月31日に訪印したエリザベス・トラス英外相は、武器の共同開発を含む安全保障協力を深化させることでインド側と合意した。

■非同盟
それでもインドは、民主主義陣営の各国首脳らとの会談や声明などで対露批判に踏み込んだことはない。冷戦時代には、民主主義、社会主義の各陣営に寄らない非同盟主義を貫いた。今も特定の勢力に偏らず、多極的な枠組みに軸足を置く。クアッドに加わる一方、中露やブラジル、南アフリカとのBRICSも重視する。
 
対露関係が悪化すれば、中国との間で続く未画定の国境紛争に立場を示してこなかったロシアの姿勢の変化につながりかねない。クアッド関係筋によると、モディ氏は「ロシアを中国側に追いやり、国益を損ねる」と懸念しているという。
 
バランス外交の維持で目指すのは自国の利益の最大化だ。日本からは今後5年間で5兆円規模の投資を引き出すメドをつけた。一方、ニルマラ・シタラマン財務相は1日、「国益が第一だ」と強調し、ロシアから割安な価格で原油の購入を始めたことを明かした。【4月1日 読売】
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“バランス外交の維持で目指すのは自国の利益の最大化”ということで、インドは現在の状況をフルに活用しようともしています。ロシアもそうしたインドを制裁措置の“抜け道”にしたい思惑が。

“ロシアは、米国から禁輸措置を科せられている原油についても、インドの購買力に注目。(1日に“インド詣で”した)ラブロフ氏は外相会談後、「我々は、インドが望むどんな物でも提供する用意がある。西側諸国による制裁を回避する(決済)方法も間違いなく見つかるだろう」と自信を見せた。”【4月2日 朝日】

当然ながら、そうしたロシアを利するようなインドの対応に欧米は不満も。

****西側の制裁に加わらず自国利益を最優先、対ロ輸入を増やそうとするインド―独メディア****
2022年4月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、インドが自国の利益を最優先してロシアから多くの製品や資源を購入する姿勢を見せていることに対しロシアが喜ぶ一方で、西側が不満を募らせていると報じた。(中略)

また、インドは近年、米国、日本、オーストラリアと連携枠組みの「クアッド」を作って地域における中国の影響力に抗う姿勢を見せる一方で、遠く離れた欧州で起きているロシアとウクライナの紛争に足を突っ込む意思はなく、これによりインドが西側とロシアとの対立の中で受益者となる可能性があると説明。イ

ンドの対ロ貿易額は年間90億ドルと対米貿易額の10分の1に満たないほど小規模だったものの、ロシアによるウクライナ侵攻開始後、ロシアからかなりの割り引きを受けたことですでに昨年1年間の対ロ輸入量に近い1300万バレルの原油をロシアから購入する動きを見せているとした。

その上で、中立路線を保ち自国の利益を最優先してロシアからのエネルギー輸入を増やそうとしているインドの態度に西側諸国からは不満の声が出ており、バイデン米大統領が「インドの対ロ姿勢はぶれている」と批判したことを紹介する一方、インド政府はこれらの批判を突っぱねる姿勢を保っていると伝えた。

記事はさらに、インド政府がロシアからの鉄鋼生産用のコークス輸入量倍増を検討しているほか、4月に4万5000トンのロシア産ヒマワリ油を購入する契約を結ぶなど、石油以外の商品についてもロシアからの輸入を増やそうとしていることを併せて紹介した。【4月4日 レコードチャイナ】
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そうした中立的立場を利用して「国益第一」に走っていたインドがウクライナ・ブチャでの民間人殺害を非難し、独立した調査の実施を求めたとのこと。

****インド、ウクライナでの民間人殺害を非難 対ロ姿勢硬化か****
インドは5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャでの民間人殺害を非難し、独立した調査の実施を求めた。インドはこれまで、ロシアのウクライナ侵攻に対する批判を控えてきた。

インドのティルムルティ国連常駐代表は、安全保障理事会の会合で「ブチャでの民間人殺害に関する報告は実に悲惨だ」とし「こうした殺害を明確に非難し、独立した調査要請を支持する」と述べた。

これに先立ち、ブリンケン米国務長官はインドのジャイシャンカル外相と電話協議した。米国は、ロシアの軍事侵攻を非難するようインドに繰り返し求めてきた。

ロシア製軍事装備品への依存が大きいインドは、ウクライナでの暴力停止を呼びかける一方、ロシアと西側の双方との関係に配慮して、ウクライナでの戦争を巡る国連決議では投票を棄権してきた。【4月6日 ロイター】
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上記のインドの非難には“ロシア”という言葉は出てきません。
中国も“「民間人への攻撃は容認できず、あってはならないことだ」と指摘し、事件の状況や原因を明らかにすべきだと訴えました。”【前出 日テレNEWS24】と同じと言えば同じですが、やや非難のトーンが高いとも言えるような・・・。

アメリカの要請(あるいは恫喝)が奏功して、対ロ姿勢硬化となるのかどうか・・・もう少し様子見ないと・・・。

【ロシア・ウクライナ双方との関係を活かして存在感を高めようとするトルコ】
ロシアとウクライナ、双方との関係を利用して、存在感を高めるべく仲介にも意欲をみせているのがトルコ・エルドアン大統領。3月29日にはトルコ・イスタンブールでウクライナ・ロシアの停戦協議も行われました。

トルコの場合は、中国・インドとは異なり国連のロシア非難決議には賛成しており、ウクライナへドローンも供与していますが、一方でロシアとの関係も維持しています。

****ウクライナ戦争のおかげで「トルコが危機から立ち直る」とは、どういうことか?****
<度重なる失政で国際的にも孤立していたエルドアン政権だが、日和見的立場のおかげで好機がもたらされている>

ロシアのウクライナ侵攻がトルコにチャンスをもたらしている。東西冷戦時代と同じく、トルコはロシアに対する防波堤だから、ではない。

現今の危機に伴うチャンスは、もっと複雑で厄介な現実の産物だ。そこには、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と与党が描く自立した大国という自国像、国内とシリアでのクルド人の分離・独立運動の脅威、欧米に対して募る失望と恨みといった要素が絡んでいる。

野望とトラウマが入り交じる動機に駆られて、エルドアンは危機の比較的早い時点でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に手を差し伸べた。両首脳は複数回、電話で会談。シリアやリビア、おそらくはウクライナをめぐっても立場が異なるにもかかわらず、両国関係は深まり、トルコと欧米の間の不信感に拍車を掛ける形になった。

トルコは2019年にロシア製S-400地対空ミサイルシステムを配備した。これを受けてアメリカは翌年12月、トルコ当局の武器調達部門に対する制裁を発表している。トルコのNATO追放を求める声が再び高まり、エルドアン政権の外交政策に対する深刻な懸念も持ち上がった。

トルコは今も「西側」なのか。「東寄り」に移行しているのか。中東で、東地中海地域で、イスラム世界で、リーダーの座を目指しているのか――。これらの問いの答えは、どれも「イエス」だ。

わずか数カ月前までトルコは国際的に孤立していた。対欧州関係はキプロス問題やシリア難民の扱いをめぐって緊張化し、中東のほとんどの主要国と対立。アメリカのジョー・バイデン政権にはほぼ無視された。

昨年後半になる頃には、深まる孤立や急激な通貨危機の中、自業自得のダメージを修復しようとしたが、焦りの色は隠せなかった。

どっちつかずが強みに
そこへきてウクライナ侵攻が発生した。トルコの反応については、2つの正反対の主張が浮上している。

一方によれば、エルドアンはウクライナの主権を支持し、殺傷能力のあるドローンを提供。2月末には、ボスポラス海峡の軍艦通過を制限する措置を発表した。これらはトルコが依然、西側の安全保障体制の重要な一部であることを示す証拠だという。

だがもう1つの主張では、トルコはそれほどウクライナ寄りではない。ロシアに経済制裁も領空飛行禁止措置も科しておらず、国内のエーゲ海沿いのリゾート地には、オリガルヒ(新興財閥)の超豪華ヨットが(おそらくトルコ政府の許可を得て)集まっていると、批判派は強く指摘する。

いずれにしても、トルコは「親ウクライナ」も「反プーチン」も徹底できない。この事実自体が、トルコが自身の影響力と主体性を強化しつつ、かつての役割を再び担うチャンスを生んでいる。

近年の不必要に攻撃的な外交政策のせいで忘れられがちだが、05~11年頃のトルコは中東で建設的な役割を果たそうとしており、その経済力を活用して地域内の各国と良好な関係を築いていた。

トルコは戦争終結の力になれるのか。人道回廊の設置をめぐる貢献は可能だし、仲介役に最適の国だろう。3月29日にイスタンブールで行われた停戦交渉は、希望の持てる一歩だ。【4月5日 Newsweek】
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なお、停戦協議野の方は、ブチャなどでのロシアの残虐行為が表面化しているなかでも、オンライン形式で続いていると報じられています。

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