(ジョージアの旗とともに、ウクライナやEUの旗を掲げるデモ参加者=8日、ジョージアの首都トビリシ【3月9日 CNN】)
【ジョージア 与党が進めるロシアの外国代理人法に似た法案に抗議デモ ロシアはデモの背後に「他国」がいると非難】
旧ソ連のジョージア(旧国名はグルジア)は、南コーカサスにある共和制国家で、北はロシアに接し、西は黒海に面しています。国内に一方的に分離独立を宣言している親ロシア派支配地域「南オセチア共和国」と「アブハジア共和国」が存在しています。
この国が世界の注目を集めたのは、ミハイル・サーカシビリ元大統領のもとで、2008年に南オセチアに侵攻し、これに対抗するロシアとの間で戦争が起きたことですが、戦いはロシア側の圧勝に終わっています。
その後、サーカシビリ元大統領率いる「統一国民運動」に代わって政治を担っている政党が「ジョージアの夢」です。
****グルジアの夢=民主グルジア(ジョージアの夢)*****
2012年4月19日、実業家出身の政治家ビジナ・イヴァニシヴィリにより設立された。(中略)
政党連合「グルジアの夢」の中心政党として南オセチア紛争を引き起こしたミヘイル・サアカシュヴィリの統一国民運動を破り、長らく与党の地位にあった同党を追い落として政権交代を達成した。
EU加盟を目指す親欧米路線でありながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政党である。(中略)
イヴァニシヴィリのグルジアの夢(民主グルジア)を中心としたグルジアの夢連合は、初めは彩なイデオロギー志向を持つ6つの政党により構成された。この中には、市場主義的かつ親西側的なリベラルや、外国人嫌悪を掲げる過激なナショナリスト、2003年バラ革命で失脚したかつてのシェワルナゼ政権の代表者たちを含んでいた。(後略)【ウィキペディア】
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「EU加盟を目指す親欧米路線でありながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政党」ということで、その性格は曖昧なところがありますが、“ロシアの息がかかっており、実のところジョージアのEU加盟を阻止しようとしている”と見る向きもあるようです。
そのジョージアで政権・与党が、欧米勢力の影響を警戒するロシアの法律とよく似た“外国から資金を受けた団体を規制する法案”の成立を強行しようとして、大規模な反対デモに直面しました。
****ジョージアで大規模デモ、一部が暴徒化 「外国工作員」法案巡り****
旧ソ連の構成国だったロシアの隣国ジョージアで7日、外国から資金を受けた団体を規制する法案が議会の第1段階審議で可決されたことに対し、数千人規模のデモが行われた。参加者は警察に火炎瓶や石を投げつけるなど暴徒化し、警察は催涙ガスなどで鎮圧に乗り出す事態となっている。
この法案は外国から20%以上の資金拠出を受けた団体に「外国エージェント」としての登録を義務付けるなどの内容。違反した場合は多額の罰金が科される。
反対派は、この法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標である欧州連合(EU)加盟が遠のくと懸念している。
一方、ズラビシビリ大統領は、この法案が議会を通過した場合は拒否権を行使する方針を表明。反対派の味方だと述べた。【3月8日 ロイター】
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結局、政権・与党側は激しい反対デモに抗しきれず、法案を撤回すると発表するに至っています。法案は議会で廃案となっています。
****ジョージア与党、「外国人代理人」法案を撤回 抗議デモ受け****
旧ソ連構成国ジョージアの与党は9日、2日間にわたる激しい抗議デモを引き起こした「外国の代理人」に関する法案を撤回すると発表した。
与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。(中略)
欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。
ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【3月9日 ロイター】
与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。(中略)
欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。
ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【3月9日 ロイター】
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法案を潰した反対デモについて、ロシアは“「ロシア国境で問題を起こす」ために「国外から仕組まれたものなのは間違いない」”(ラブロフ外相)と、ウクライナ・欧米側の画策・扇動を批判しています。
****ロシア外相、ジョージアの大規模デモ「他国の仕業」****
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は10日、ジョージアの大規模デモについて、ロシアとの国境で緊張を高めるために他国が扇動していると非難した。
ラブロフ氏は、ジョージアのデモが2014年にウクライナの親ロシア派政権の崩壊を招いた「マイダン革命」に類似しているとし、「ロシア国境で問題を起こす」ために「国外から仕組まれたものなのは間違いない」と主張した。
ジョージアでは今週、外国とつながりのあるメディアなどに登録義務を課す「外国のエージェント(代理人)」法案をめぐり、同様の法律がロシアで反体制派の取り締まりに利用されているとして、首都トビリシの議会の外で大規模な抗議活動が行われた。与党は9日、法案を取り下げた。【3月11日 AFP】
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法案を廃案に追い込んだデモは、ジョージアの民主主義の空洞化、与党「ジョージアの夢」によるロシア的統治を危惧する国民の声でした。(与党側にちらつくロシアの影と同様に、デモへの「他国」の支援は“あり得る話”でしょう)
****デモ隊に放水銃の攻撃、ジョージア「ロシアそっくり法案」はなぜ今だったのか****
<NGO弾圧法案が議会に提出され、市民が大規模デモで抗議。法案は取り下げられたが、国民の大多数がEU・NATO加盟を求めるこの国で、民主主義の空洞化が進んでいる>
(中略)焦点になっていたのは、活動資金の20%以上を外国から得ている団体を「外国の代理人」として登録することを義務付ける法案だ。
10年前にロシアでそっくりの法律が導入され、NGOや独立系メディアの弾圧に使われた。それが7日、ジョージア議会でも審議が進んだ(編集部注:その後9日に取り下げられた)。
かつてソ連の一部だったジョージアは、ロシアと国境を接しながらも、一時は強力な親欧米路線を取っていた。ところが近年の政治には、ロシアの影がちらつく。
それでも国民の大多数はEU・NATO加盟を希望している。最近の世論調査では、EU加盟支持が75%、NATO加盟支持が69%に達した。
それだけに一般市民の間では、ロシアに対する警戒感が強い。2012年にロシアで外国代理人法が施行されたときは、多くの市民団体が活動休止に追い込まれた。
2021年には、ロシアの人権団体メモリアルが最高裁から解散命令を受けた(メモリアルは2022年にノーベル平和賞を受賞)。
ジョージアでも同じことが起こるのではという危機感が、トビリシでの大規模デモにつながった。
「(外国代理人法を)葬り去るために、社会全体が結束した。皆ロシアで起きたことを知っているからだ」と、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ジョージアのエグゼクティブディレクターを務めるエカ・ギガウリは語る。「ウクライナでは戦争が起きているが、ジョージアでもロシア的統治との戦いが起きている」
ちらつくロシアの影
近年、ジョージアの民主主義は、空洞化が目立つようになった。国家権力の抑制と均衡が乏しくなり、与党「ジョージアの夢」が異例の存在感を示すようになった。
その設立者である大富豪ビジナ・イワニシビリは現在、公職には就いていないが、舞台裏から政府に大きな影響を及ぼしていると広くみられている。
そんななかで外国代理人法が採択されれば、ジョージアの民主主義は大きく後退していただろう。当局は、市民団体や独立系メディアに嫌がらせをしたり、ひょっとすると黙らせたりする強力な権限を手にすることになるからだ。
ジョージア政府は既に、ミハイル・サーカシビリ元大統領の扱いをめぐり国際的な批判を浴びている。サーカシビリは2003年のバラ革命で強権体制を倒し、強力な親欧米・反ロシア路線を主導したが、在任中の権力乱用を理由に禁錮6年の判決を受けた。
ところが、サーカシビリは収監中に体調を大きく崩し、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インターナショナルは今年3月2日、治療目的の釈放をジョージア政府に訴えた。さもないとサーカシビリは、「死亡、生涯にわたる障害、または心身に取り返しのつかないダメージを受ける重大なリスク」があるという。
一方、政府寄りのメディアでは、数カ月前から複数のNGOの活動を攻撃する記事が目立つようになっていた。こうしたNGOは欧米の政府から多額の支援を受けており、ジョージアの国益を傷つける活動をしているというのだ。
「政府はわれわれのイメージを失墜させたと確信したところで、(外国代理人法案を)押し通そうとした」と、選挙監視団体「公正な選挙と民主主義のための国際社会(ISFED)」のエグゼクティブディレクターを務めるニーノ・ドリゼは指摘する。
これに対して、ジョージアの夢のイラクリ・コバヒゼ党首は、「(外国代理人法案は)ロシアと同じ法律だというキャンペーンがあるが、これは嘘だ。また、法案が通れば、ジョージアがEU加盟から遠ざかるという声もあるが、これも嘘だ」と主張する。
外国のスパイと同義語
(中略)この法案が提出されたタイミングについては、いくつかの解釈がある。
ISFEDのドリゼは、ジョージアの夢が権力基盤を固め、反対意見を抹殺しようとしている可能性を指摘する。ジョージアでは来年の議会選挙で、比例代表制が導入される。そうなれば、いずれかの党が単独過半数を獲得するのは難しくなる。
一方、ジョージアの夢は、ロシアの息がかかっており、実のところジョージアのEU加盟を阻止しようとしているのではないかと、TIジョージアのギガウリは推定する(同党は表向きはEU加盟推進を掲げている)。
EUは2022年、ウクライナとモルドバについては加盟候補国の地位を与えたが、ジョージアは法の支配やメディアの独立、司法の独立についてさらなる改革が必要だとして、認定を見送った。
今回の法案についても、EUの外相に当たるジョセップ・ボレル上級代表は7日、「EUの価値観や基準と相いれない」と改めて強調した。米国務省のネッド・プライス報道官も、言論の自由と民主主義にダメージを与える恐れがあるとの見方を示していた。
ジョージアの市民団体のリーダーたちも同じ考えだ。
「この国と、この国の民主主義の質が懸かっている」とギガウリは語る。「この国の今後の行方にも影響を与える。現時点で、正しい方向に向かっていないことは確かだ」【3月13日 Newsweek】
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【モルドバ 親ロシア派によるインフレ抗議デモ アメリカはロシアによる政権転覆計画と非難】
一方、ジョージア同様に旧ソ連構成国で、やはり国内に親ロシア派支配地域「沿ドニエストル共和国」を抱えるモルドバでも混乱が起きています。ただし、モルドバでの反政府デモを行っているのは親ロシア派です。
現モルドバ政権は反ロシア・親欧米的な政権ですが、ウクライナ戦争ではロシアがウクライナを攻撃するミサイルが領空を通過する状況にもあります。
反政府デモに先だって、ロシアは西側が親ロシア派支配地域に駐留するロシアの「平和維持軍」への攻撃を画策していると批判していました。
****ロシア、西側に警告 モルドバ親ロ地域への脅威「ロシアへの攻撃」****
ロシア外務省は24日、モルドバ東部の親ロシア派支配地域に駐留するロシアの「平和維持軍」に対するいかなる脅威的な行動もロシアへの攻撃と見なすと西側諸国に警告した。
旧ソ連構成国モルドバは東部にロシアが軍を駐留させる沿ドニエストルを抱えており、ロシア国防省は23日、ウクライナが偽旗作戦を展開して沿ドニエストルに侵攻する計画だと非難。モルドバ政府はこれを否定し、国民に平静を呼びかけている。
ロシア外務省は「米国、および北大西洋条約機構(NATO)加盟国とウクライナを保護する国に対し、さらなる無謀な行動を取らないよう警告する」とし、「彼らの安全を脅かすいかなる行動も、国際法上、ロシア連邦への攻撃と見なされる」とした。
ロシアがウクライナに対する全面侵攻を開始してからこの日で1年が経過。ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアが標的にするのはウクライナだけでないのは「明白」だとし、ロシアはモルドバを「圧迫」する方策を検討していると述べている。【2月25日 ロイター】
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****ロシア、モルドバでウクライナが「挑発」と主張…「駐留兵士に危害なら対応」****
(中略)モルドバ、ウクライナ両政府は、露軍の発表について、全面的に否定している。
プーチン露大統領は21日、「沿ドニエストル共和国」を巡る問題解決で、モルドバの主権と領土保全を尊重することを明記した2012年の外交政策に関する大統領令を破棄した。
ロシアは昨年2月のウクライナ侵略前、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)のロシア系住民にウクライナ軍が攻撃したと見せかける挑発行為を繰り返し、侵略開始の口実にした。モルドバに対しても、同様の挑発を繰り返していると懸念する声もある。【2月25日 読売】
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その後、親ロシア派政党によるデモも。
こうしたロシアが仕掛ける動きについて、「モルドバを直接軍事攻撃するのはハードルが高い。情報戦などを積極的に行っているだろう」(筑波大の東野篤子教授)、「(併合された)クリミアを想起させる。(ロシアが)資金面などで関わっている可能性が極めて高い」(慶応大の廣瀬陽子教授)との見方も。【3月4日 読売より】
親ロシア派によるデモは、表面上はインフレ対策を求める抗議という体裁をとっています。インフレで市民生活が苦しくなっているのは事実です。
****モルドバで反政府デモ 50人超拘束 ロシア関与との情報****
ウクライナに隣接する東欧の旧ソ連構成国、モルドバの首都キシナウで12日、高騰している光熱費の支払いを政府が補償することを求める4500人規模の反政府デモが起き、デモ隊の一部が警官隊と衝突した。
ロイター通信によると、警察当局はデモ隊50人以上を拘束。モルドバ政府高官のスピヌ氏は「これは抗議デモではなく、政情を不安定化させようとするロシアの試みだ」と非難した。
ロイター通信やタス通信によると、デモはモルドバの野党勢力が11日までに呼び掛けていた。デモに先立ち、同国警察当局は「露諜報機関が工作員をデモ隊に紛れ込ませ、デモを過激化させようとしている情報がある」とし、工作員7人を拘束したと発表していた。
デモ隊は12日中に解散を発表したが、政府に13日中にも光熱費の補償を約束するよう要求。政府が拒否した場合、再び混乱が起きる可能性がある。
モルドバでは2020年、親露派のドドン前大統領から親欧米派のサンドゥ大統領に政権交代。ただ、国内に親露分離派地域「沿ドニエストル」を抱えるほか、同国議会内外にも親露派勢力が存在し、ロシアと連携してサンドゥ政権の打倒を狙っているとされる。
ロシアによるウクライナ侵略の開始後、モルドバでは世界的なエネルギー高に伴う光熱費の上昇やインフレの加速で国民の反発が強まり、デモが頻発。今年2月、サンドゥ政権は国民の不満解消を図るため内閣を刷新していた。【3月13日 産経】
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ジョージアではデモの背後に「他国」がいるとロシアが欧米を非難していますが、モルドバでは「ロシアはモルドバ政府を弱体化させようとしている」とアメリカがロシアを非難しています。
****米高官 ロシアがモルドバ政権転覆を計画と非難****
アメリカ・ホワイトハウスの高官は10日、ロシアがウクライナの隣にあるモルドバの政情を不安定化させようとしていると非難しました。
ウクライナの西隣にあるモルドバには、親ロシア派が支配する地域があるほか、先月にはモルドバ国防省がロシアのミサイルが領空を通過したと発表するなど、ロシアとの緊張が高まっています。
ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、「ロシアはモルドバ政府を弱体化させようとしていて、最終的には親ロシアの政権を作ろうとしていると考えられる」と指摘。
ロシアの情報機関とつながりのあるロシア関係者が、モルドバ政府への抗議活動を利用し、反乱を作り上げようとしていると明らかにしました。
さらに、別のロシア関係者らが、意図的に抗議活動を起こす訓練を行うことも予想されるとしています。
一方、モルドバのサンドゥ大統領が「差し迫った軍事的な脅威はない」としていることについては、アメリカも同意するとしています。
カービー調整官はその上で、モルドバに3億ドルのエネルギー関連支援を行い、今後も情報共有など支援を続けると明らかにしました。【3月11日 日テレNEWS】
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ウクライナ戦争によるロシアと欧米の対立の影響が、親ロシア派支配地域を抱えるもともと不安定な政治状況のジョージアとモルドバに及び、両国ともに揺れ動いています。