孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・サウジ関係正常化は流れが加速 内政・外交で窮地のイスラエルがイラン攻撃の可能性も

2023-03-22 23:06:18 | 中東情勢

((イラン、サウジアラビアの高官と共に記念撮影に臨む王毅氏(中央)=中国外務省のホームページより【3月11日 毎日】)

【イラン・サウジ関係正常化 流れは加速か】
中東情勢を大きく変えるインパクトがある出来事として、中国の仲介によるイランとサウジアラビアの関係正常化合意の件は、3月11日ブログ“イランとサウジアラビア 中国仲介で関係正常化へ 中東情勢に大きなインパクト”で取り上げましたが、その後も流れは加速する方向にあるようです。

****イラン大統領、サウジ訪問へ 外交関係正常化合意で招待状****
国営イラン通信は19日、政府高官の話として、今月10日に外交関係の正常化で合意したサウジアラビアのサルマン国王からライシ大統領宛てにサウジへの招待状が届いたと伝えた。ライシ師はサウジ訪問を受諾し、両国間の協力や関係の発展を強調したという。

中国の仲介で劇的に和解した地域大国同士の首脳会談では、イランとサウジの代理戦争となっていたイエメン内戦などについて、中東情勢の緊張緩和に向けた協議をするとみられる。

イランのアブドラヒアン外相は19日の記者会見で、サウジのファイサル外相と近く会談すると表明した。日付や場所には言及しなかった。【3月20日 共同】
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中国・習近平主席の仲介は、イラン最高指導者ハメネイ師からの要請だったとも報じられていますが、関係正常化はイラン、サウジアラビア双方にメリットがあるため、糸口がつかめれば大きく動き出す可能性もあります。

****「友好ムード」強調 関係正常化合意のサウジとイラン 中国の仲介で急進展****
中国の仲介により外交関係の正常化で合意したサウジアラビアとイランが、相次いで和解をアピールしている。

中東のイスラム圏では2011年、「アラブの春」と呼ばれる反政府活動が各地に広がって以来、緊張と対立が続いたが、近年は融和外交に転じて「雪解け」が進んでいる。両地域大国の接近はその潮流が定着したことを印象付けた。

国営イラン通信は19日、ライシ大統領にサウジのサルマン国王から訪問を招請する書簡が届き、ライシ師が歓迎の意を表したと伝えた。サルマン国王は10日に合意に達した関係正常化を称賛し、経済面の協力強化なども呼びかけた。

また、イランのアブドラヒアン外相は19日、サウジ外相と会談する都市の選定を協議しているとし、双方の間で信頼醸成が進んでいることを示唆した。両国は2カ月以内に相互に大使館を再開する方針だ。

両国が断交したのは16年のことで、イスラム教スンニ派大国のサウジがテロに関与したとしてシーア派指導者を処刑し、怒ったシーア派大国イランの群衆が首都テヘランのサウジ大使館を襲撃したことが原因だ。

サウジはこれに先立つ15年、隣国イエメンの内戦に介入して暫定政権を支援し、イエメンのシーア派民兵組織フーシ派を支援するイランと「代理戦争」を演じてきた。サウジはミサイルや無人機による攻撃に見舞われ、19年には石油精製施設が攻撃されて生産量が一時激減した。

両国の関係修復の背景について、エジプト・カイロ大経済政治学部のヌルハン・シェイフ教授(53)は産経新聞の電話取材に、「経済的な負担が重くなり、必要にかられて歩み寄った」との見方を示した。

サウジは内戦介入で戦費がかさんだ上、国庫収入を支える石油生産まで脅かされた。対するイランも核問題などで米国が連発する制裁により経済が低迷し、国民の不満が高まっていた。両国は21年には、イラクやオマーンの仲介で関係正常化を模索する直接協議を始めたとされる。だが、協議は停滞していたようだ。

ロイター通信によると、イランでは最高指導者ハメネイ師が昨年9月、協議が進まないことにいらだちを示し、中国に調停を打診。中国の習近平国家主席は昨年12月、訪問先のサウジで橋渡しに意欲をみせた。中国は今年2月のライシ師訪中に合わせ、サウジが作成した関係正常化の提案書をイラン側に渡したという。

事実とすれば、中国が間に入ったことで協議が急進展した形で、中東で求心力を増している実態をうかがわせる。

しかし、サウジを含むペルシャ湾岸諸国に基地を持ち、地域の治安を維持してきた米国の役割を中国が担えるのか。

駐エジプトと駐イスラエルの米国大使を務めたダニエル・カーツァー氏は、カイロ・アメリカン大の季刊誌「カイロ・レビュー」(電子版)で、「(中国は)米国に依存し、ちゃっかり利用している状態だ」と評し、安全保障まで影響力を及ぼす気があるかについては「極めて疑問だ」という見方を示した。【3月22日 産経】
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【イエメン情勢にも変化が】
サウジアラビアが重視しているイラン・サウジ代理戦争としてのイエメン内戦の負担を軽減したいということについては、具体的な動きも見られます。

****イラン、フーシ派への武器供給停止に合意****
イランは、イエメンの反政府勢力フーシ派への武器密輸を停止することに合意した。米国およびサウジ当局者が明らかにした。

サウジとイランは先に、中国の仲介により、外交関係を正常化させることで合意しており、今回の動きはその一環だという。同地域で続いている内戦の終結に向けた新たな展開となりそうだ。

サウジとイランはイエメン内戦でそれぞれ異なる勢力を支援しており、サウジはイランが支援するフーシ派と激しい戦闘を繰り広げていた。フーシ派がサウジにミサイルやドローン(無人機)による攻撃を仕掛けるなど、内戦は国境を越えて拡大している。

米国とサウジ当局者らは、イラン政府がフーシ派への武器提供を中止すれば、フーシ派に対して紛争終結に向けた合意の受け入れを迫る圧力となる可能性があると述べた。

イラン国連代表団の報道官は、同国が武器供給を停止するかどうかについてコメントを控えた。イランはフーシ派への武器供与を公に否定しているが、国連の査察団は、フーシ派から押収した武器がイランから提供されたものであることを何度も確認している。

サウジとイランが断交から7年ぶりに外交関係の正常化で合意したことを受け、両国の当局者はイランがフーシ派に対し、サウジへの攻撃を停止するよう迫るだろうと述べた。

サウジ当局者の1人は、イランが国連の武器禁輸措置を尊重することで同国からフーシ派への武器密輸が阻止されることを期待していると説明。武器供給が途絶えれば、過激派によるサウジへの攻撃が難しくなると指摘した。

米国とサウジの当局者は、双方が2カ月以内に大使館を再開させるとの合意を着実に実行するか確認したいとしている。米国の当局者の1人は、サウジとイランによる外交関係の正常化合意により「近い将来の(イエメン)内戦終結に向けて弾みがつく」可能性があると述べた。【3月16日 WSJ】
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【イスラエル・ネタニヤフ首相にとっては外交的失策】
今回の中国仲介外交で完全に“蚊帳の外”に置かれたアメリカは、中東における存在感の低下をさらすことにもなりましたが、“ペルシャ湾岸諸国に基地を持ち、地域の治安を維持してきた米国の役割を中国が担えるのか”と言えば、中国もそこまで中東に踏み込む考えはないでしょうから、アメリカの影響力を軽視することも誤りでしょう。

アメリカ以上にショックを受けているのがイスラエルかも。
サウジアラビアなどアラブ諸国との関係改善を進めて、核開発を止めないイラン包囲網をつくろうという戦略だっただけに、完全にその戦略が破綻してしまいました。

昨日も取り上げたように、イスラエル国内ではネタニヤフ首相が進める「司法改革」で大きく揺れていますが、そうした国内問題にかまけている間に外交で大きなミスをしでかしたとの批判も浴びています。

****イスラエル窮地 置き去りで孤立くっきり サウジ、イランとの関係改善を優先****
中東の2大国、サウジアラビアとイランが中国の仲介で外交関係の正常化に合意し、イスラエルが窮地に陥っている。

イランの核開発を警戒するイスラエルは「包囲網」構築のため親米サウジとの国交樹立を推進してきたが、サウジが電撃的にイランとの関係改善に踏み切ったからだ。置き去りにされたイスラエルの孤立が浮き彫りになった。

サウジイとイランが約7年に及んだ断交の解消で合意した10日、中東の多くの国が歓迎する意向を表明したのと対照的に、イスラエルでは新旧政権の当事者が非難合戦を展開した。

イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)によると、ラピド前首相は合意を受け、「外交の完全かつ危険な失敗だ」とネタニヤフ政権を批判した。対する同政権の高官は、合意は「イスラエルと米国(の影響力)が弱いために起きた」として、ラピド前政権とバイデン米政権をあげつらった。

イスラエルは2020年、トランプ前米政権の支援を受け、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国との歴史的な国交正常化合意にこぎつけた。その後もイランの軍事的脅威を踏まえ、同国の核保有を警戒するイスラム教スンニ派の大国、サウジとの国交樹立を目指してきた。

しかし、イランとの関係改善の合意発表で、サウジがイスラエルよりもイランとの和解を優先したことがあらわになった。サウジは当面、イスラエルとの和解には消極的だという観測も欧米メディアで出ている。

「イスラエル史上最も右寄り」とされる対パレスチナ強硬派のネタニヤフ政権が昨年12月末に発足した後、イスラエル軍はパレスチナ人約80人を殺害した。このため、パレスチナ独立国家の建設をイスラエルとの関係正常化の条件に掲げるサウジ政府が、態度を硬化させている可能性が高いからだ。

ネタニヤフ政権は、司法の政府や国会に対する権限を縮小する改革案を推進し、国民の大きな反発を呼んでいる。約2カ月にわたって反政権デモが断続的に続き、11日のデモには国内各地で50万人が参加したといわれる。

ネタニヤフ氏はイランに対する強硬姿勢で、治安に敏感な有権者の評価を得てきた面がある。国内の政策に没頭している間にサウジにはしごを外された格好で、手痛い外交上の失策となりかねない。【3月13日 産経】
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【追い詰められたイスラエルがイラン攻撃に出る可能性も むしろ危険が増す中東情勢】
野党側は、ネタニヤフ首相が「内政で混乱を引き起こし、対イラン外交を怠った」と非難しています。

もとよりイスラエルは、アメリカなどが復活を目指している現行のイラン核合意について「イランが秘密裏に核開発を進める可能性がある」として強く反対しています。

内政の混乱から国民の目をそらすべく、また、外交での失敗への批判をかわす狙いで、イランに対し実力行使に出るのでは・・・との懸念がアメリカサイドからは出ているようです。

しかも、昨日ブログでも指摘したように、イスラエルに対し、バイデン政権のグリップが効かない状態にありますので、イスラエルのイラン攻撃の可能性も増してきます。

****米国務省高官が「中東戦争」を懸念 水面下における世界の地政学リスクは「中東」****
(中略)(経済アナリストの)ジョセフ・クラフトは「一言で言うとアメリカの中東外交の失敗。中東におけるアメリカの影響力が著しく低下し、そこに中国が付け込んだ」と指摘した。またアメリカの国務省高官の話として「ウクライナ問題や台湾有事より、いま一番の懸念事項は中東戦争」と述べた。

その理由について「イスラエルでは週末、ネタニヤフ政権の司法制度改革案に抗議する大規模なデモが実施され、主催者によると50万人が参加した。このような様々な国内の問題を抑止するためネタニヤフ政権は外に敵を作ろうとしている」と分析。

この原因として「アメリカのトランプ政権時代はネタニヤフ政権との関係は良好だったのでイスラエルが勝手なことをすることはなかった。しかしバイデン政権は周辺の中東諸国、さらにネタニヤフ政権とも関係が悪く、止められない」と解説した。

さらに「これは中東やアメリカだけの話ではなく、中東戦争が起きた場合、日本は一気にエネルギー不足に陥る。さらにウクライナ情勢を考えても原油高騰でロシアの財政を助けることになる。現在、水面下における世界の地政学リスクは中東だ」と述べた。【3月15日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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イスラエルの行動による中東情勢緊張を待ち望んでいるのは、原油価格上昇で財政改善を期待するロシアかも・・・。

これまでの中東の対立軸であったイランとサウジアラビアの関係がかいぜんすることで中東情勢が安定に向かうのでは・・・という思いとは逆に、現実はむしろ発火の危険が高まっているという認識のようです。
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