孤帆の遠影碧空に尽き

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トルコ  5月14日に大統領選挙 震災「人災」批判もあってエルドアン大統領は厳しい戦い

2023-03-14 23:32:10 | 中東情勢

(6日、大統領候補に決まって演説するクルチダルオール氏(アンカラ)=ロイター【3月7日 日経】)

【野党統一候補に最大野党党首のクルチダルオール氏】
5月14日に予定されているトルコ大統領選挙については、1月28日ブログ“トルコ 5月14日に大統領・議会選挙を前倒し実施 内政・外交、全ては選挙に向けて・・・”でも取り上げたように、野党側の有力候補の一人、最大都市・イスタンブールのイマモール市長が公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡されたことで、野党陣営は野党統一候補の選定で混迷していました。

一時は、最大野党である中道左派・共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首を統一候補とすることに右派・民族主義政党が反発し、野党連合が分裂する状況にもなりました。

****トルコ野党連合が分裂、大統領選の統一候補擁立巡り対立****
トルコの右派政党、民族主義の優良党(IYI)が3日、6党で構成されていた野党連合を離脱した。5月14日に実施される大統領選に向け、エルドアン大統領に対抗する統一候補の擁立を巡って意見が対立した。

IYIのメラル・アクシェネル党首は、他の5政党が提案した、共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首を統一候補とする案は受け入れられないと表明。CHPに所属するイスタンブール市長とアンカラ市長を候補者として提案していた。【3月4日 ロイター】
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6党連合といっても、CHPの支持率が約20%、優良党が10%強で、ほか4党の支持率は合計で1〜2%ということですから、優良党(IYI)が抜けたら野党連合は完全崩壊です。

ただ、不当弾圧で人気が高まっているイスタンブールのイマモール市長は選挙直前または最中にに有罪となる可能性があり、そうなると当選無効になります。
アンカラ市長のヤワシュ氏はクルド人有権者の支持が多くは見込めない欠点があるようです。

といったこともあって、結局優良党(IYI)も最大野党の共和人民党(CHP)クルチダルオール党首を野党統一候補にすることに同意したようです。

****統一候補にクルチダルオール氏=野党、現職と一騎打ちへ―トルコ大統領選****
トルコの中道左派、共和人民党(CHP)など野党6党は6日、5月14日の投票実施が見込まれる大統領選で、CHPのケマル・クルチダルオール党首(74)を統一候補として擁立することを決めた。首都アンカラで行った6党での会合の後、発表した。

選挙は続投を目指すレジェプ・タイップ・エルドアン大統領(69)との事実上の一騎打ちとなる公算が大きい。

クルチダルオール氏は決定を受け、エルドアン氏の強権への傾斜を念頭に「(トルコ国民に対する)抑圧に終止符を打ち、権利を拡大させる」と表明した。【3月7日 時事】 
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【エルドアン大統領は苦しい戦いか 経済失政に加えて震災の「人災」批判】
野党側は選挙戦に向けて陣容が整いましたが、エルドアン大統領の方は、以前から物価上昇・経済悪化で国民支持が低迷していたところに2月6日の大地震・・・ということで苦しい展開です。

大地震に関して救助・救援の初動が鈍かった云々の批判は、混乱状態でのことですから、どこの国でも、どんな政権でもあることでしょう。

しかし、日本並みの厳しい耐震基準があるにもかかわらず、実際にはそれが守られず、多くの建物が倒壊したことで、エルドアン大統領の失政が招いた「人災」との批判が強くあります。

****耐震基準は“骨抜き” トルコ大地震「人災」招いたエルドアン政権の腐敗****
2月6日に発生したトルコ大地震で、建物が大規模に倒壊し、街全体が消失したかのような情景は日本でも繰り返し報じられた。

トルコのエルドアン大統領は2月20日、地震によって約11万8000棟の建物が、倒壊したか、緊急に取り壊しが必要になったか、あるいは深刻な害を被ったと述べた。死者数はトルコだけで4万3000人を超えている。建物の大規模な倒壊が死者数を増大させた一因であるのは明らかだ。

エルドアン政権と建設業者の癒着
では、なぜこれほど大規模に建物が倒壊したのか。その原因として、エルドアン政権と建設業者の癒着を指摘する声は多い。

建設業界はエルドアン氏にとって重要な支持基盤だ。折しもエルドアン氏が政権を握って以来、長らくトルコでは建設ブームが続いてきた。

エルドアン氏は公正な入札を経ず、「お仲間」の建設業者にインフラ事業を発注し、手抜き工事で安全基準を満たしていない建物に対しても、一定の金額を国に納めることで行政処分を見送る措置を続けてきた。

BBCはこの行政処分免除について、1960年代から続いており、今回の地震の被災地でも7万5000棟の建物にこの処分免除が与えられていたと報じている。

トルコは地震の多い国であり、1998年には近代的な耐震基準も制定され、翌99年には施行された。しかしそれは実際には徹底されず、骨抜きにされてきたわけだ。

エルドアン氏がスピードとコストを優先する建設業界に対して行政処分免除を与え、それと引き換えに業界からの支持をかためてきたことは、前回の大統領選が行われた2018年に全国で700万件以上の免除申請があったことからも裏付けられる。エルドアン政権の腐敗が今回の「人災」を招いたと批判される所以だ。

一方エルドアン氏は、倒壊した建物は近代的な耐震基準が施行される以前に建てられたものだとして政権に対する批判を退け、建設請負業者ら100人以上に逮捕状を出し、すでに10人以上を拘束している。

加えて、被災者に対し20万戸の住宅を建設すると約束し、それらを断層から離れた頑丈な地盤の上に建設すること、高層にはせず高くても3〜4階建てにすること、「正しい方法」で建設することなどを明言した。

エルドアン氏は、「テントやコンテナで生活している人々は1年以内に頑丈で安全かつ快適な家に住み始める」とも述べている。

今回の建物倒壊の全責任を業者に負わせ、自身は「被災したかわいそうな国民を迅速に救済するヒーロー」の座に収まるつもりらしい。

繰り返される人災
エルドアン政権と癒着した「お仲間」業者の手抜きのせいで、国民の命が失われたり生活に大きな支障が出たりしたのは、今回の地震が初めてではない。

2020年に西部イズミル県沖で大地震が発生した際には、214棟の建物が倒壊したり、深刻な被害を受けたりし、114人が死亡した。BBCはこの地震後、同県では67万2000棟が直近の行政処分免除の恩恵を受けていたと報じている。
にもかかわらずエルドアン政権は、今回の地震発生の直前にも新たな行政処分免除法案を検討していた。

2021年にトルコ南部で山火事が発生し、少なくとも9人が死亡、数千人が避難を余儀なくされた際には、「お仲間」建設業者が環境に配慮していなかったことや、政権が空中消火機を保有していなかったなどが批判された。

今回のエルドアン氏の約束も、一時的に批判を免れ、選挙で勝ち抜けるための方便にすぎない可能性は排除できない。少なくとも彼が、権力の座を明け渡す気配は微塵もない。【3月1日 FNNプライムオンライン】
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エルドアン政権は、被災者への現金給付などで被災者に「寄り添う」姿勢をアピールしています。

****トルコ急ぐ生活支援、現金給付も 大地震1カ月、シリアは支援遅れ****
トルコ・シリア大地震は6日で発生から1カ月が過ぎた。トルコ政府は現金支給などの生活支援策を急ぎ、エルドアン大統領は被災者に「寄り添う」と強調する。国民が長引くインフレに疲弊する中、支援が十分に行き届くかどうか先行きは不透明だ。

両国の犠牲者は5万2千人を超えた。隣国シリアでは内戦の影響で国際支援の遅れが目立つ。窮状は深まる一方で、被災者向けのテントが届いていない人々もいる。

トルコ政府は被災家族に1万トルコリラ(約7万2千円)の現金支給を決め、これまで106万世帯に給付。被災地から転居した家族には1万5千リラを支援する。【3月6日 共同】
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物価高が進むトルコで“1万トルコリラ(約7万2千円)”がどれだけのバラマキ効果を生むのか?

エルドアン大統領に“権力の座を明け渡す気配は微塵もない”のは間違いありませんが、かねてからの経済失政に加えて、上記のような「人災」批判・・・震災復興のバラマキをやったとしても“選挙で勝ち抜ける”のはかなり厳しい状況です。

****経済に影響必至、大統領再選に強まる逆風 トルコ地震1か月****
トルコ・シリア大地震で大きな被害が出たのを受け、トルコ国内でエルドアン大統領に対する批判が高まっている。被災地の再建には膨大な費用が見込まれ、経済低迷に悩む国民の暮らしを圧迫する公算が大きいからだ。(中略)

捜査当局は、2月6日の地震で多数の建物が倒壊したのは建築基準を守らず手抜き工事が行われたのが原因だとして、これまでに建設業者約250人を逮捕した。エルドアン氏は「不正を行った者に法の裁きを受けさせることが政府の義務だ」とし、厳罰で臨む姿勢を強調している。トルコ国内では地震で約4万6千人の死亡が確認された。

一方、政府が必要な措置を怠ったとの見方も根強い。トルコでは北西部で1999年に起きた地震で1万7千人以上が死亡し、建築基準が厳格化されたが、政府は金を払えば耐震補強の追加工事義務が緩和される〝抜け穴〟も設けた。欧米メディアによると、「地震税」と称する特別税で少なくとも30億ドル(約4千億円)を徴収したが、どう使われたかも不透明だ。

大きな被害が出て住民の姿が激減した南部イスケンデルンの車販売業の男性(60)は「友人夫妻が地震で負傷し、搬送先で亡くなった。エルドアン氏は被災者の救助に全力を注がなかった。住民が街からいなくなり、商売もできない」と怒りをぶちまけた。

被災地からは210万人が避難したとされ、最大都市イスタンブールにも大量の避難民が流入した。同市の会社員、エネスさん(27)は「地震で人口が増大して家賃はさらに上がり、就職も厳しくなるだろう。耐震基準を守って建物が建てられたか分からず、地震も怖い。最近のエルドアン氏の政治は国民のためになっていない」と不満をあらわにした。

2003年に首相に就任したエルドアン氏は14年の大統領選で勝利。憲法改正で実権が首相から大統領に移行された後の18年の選挙でも当選し、大きな権力を持つ大統領となった。しかし、近年は新型コロナウイルスの感染拡大に加え、景気浮揚重視の低金利政策で急激なインフレを招いた。

エルドアン氏は1日、被災地の復興が見通せないなかで大統領選を予定通り5月14日に実施すると表明した。「1年以内に被災地を再建して住民の元に返す」とも訴え、再建に向けた建設の入札も近く始まる見通しだ。専門家からは「拙速な建物の再建より都市計画の策定が先だ」との指摘も聞かれる。

トルコの政治評論家、クルカナト氏は産経新聞の取材に電子メールで回答し、「地震は(政府の)腐敗や無能力ぶりを明らかにした。選挙でエルドアン政権に対する批判となって現れるだろう。すでに経済低迷で大きく支持を落としてもいる」との見方を示した。

主要野党6党は6日、最大野党の共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首を大統領選の統一候補として擁立すると決定。エルドアン陣営との間で激しい論戦が展開されそうだ。【3月7日 産経】
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こうした不利な状況でも“大統領選を予定通り5月14日に実施する”というエルドアン大統領の考えはよくわかりません。(未曽有の災害を理由に選挙の延期もできないことはないでしょう)

もともと選挙は当初6月18日に行われる予定でしたが、エルドアン大統領が5月14日に前倒した経緯があります。

選挙結果に自信を持っているのでしょうか?
生活に苦しむ国民の声、震災の「人災」批判が届いていないのでしょうか? だとしたら、“まずい”状況です。

あるいは、選挙までに起死回生の外交・軍事サプライズに出るのか?

****トルコ大統領選、野党候補が現職を10ポイント超リード=世論調査****
新たに発表された各世論調査によると、5月14日実施のトルコ大統領選で、野党候補のケマル・クルチダルオール氏が現職のタイイップ・エルドアン氏に10%ポイント以上の差をつけてリードしている。

同時に実施される議会選を巡っても、「国民連合」と呼ばれる野党ブロックが、エルドアン大統領の公正発展党(AKP)とその連合相手に少なくとも6ポイント差をつけてリードしている。

エルドアン氏は生活費危機で人気が低下。また、先月の大地震を受けてAKPの地盤も揺らいでいる。

アクソイ・リサーチが11日発表した世論調査(8日実施)では、6日に野党統一候補として擁立が決まったクルチダルオール氏の支持率が55.6%と、エルドアン氏の44.4%を上回っている。

また、野党勢力の支持率は44.1%。与党連合は38.2%となっている。【3月14日 ロイター】
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良くも悪くも個性的で目立つ存在だった(ときにスタンドプレー的に)エルドアン大統領が敗退すれば、中東情勢の大きな変化要因ともなります。

中東だけでなく、同氏に振り回されてきた感もあるアメリカとか、トルコにNATO加盟を阻まれているスウェーデンなども選挙結果に注目しているでしょう。

もっとも、(随分と先走った話にもなりますが)クルチダルオール氏が勝っても、中道左派・共和人民党(CHP)と右派・民族主義の優良党(IYI)では肌合いが違いそう。どこまで連合が続くのか・・・・・イスラエルの「反ネタニヤフ連合」みたいな感じも。 

CHPとIYIの連合が混乱するときクルド系は?・・・といった話は「先のまた先」の話。

コメント
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