(フィリピンのジープニー 当局は環境に優しい車両への切り替えを推進中【3月14日 Newsweek】)
【電気自動車が必ずしもエコと言えない面も それでも主流となる状況】
温暖化の原因ともなるCO2や窒素酸化物を含む排気ガスを出さない電気自動車(EV)は本当にエコで環境に優しいのか?という話はときおり見かけます。
****電気自動車は本当にエコなのか?環境に悪いと言われる理由を解説****
(中略)
電気自動車自体が環境にいいかは別物
とはいえ、「排気ガスを出さない」というイメージで誤解しがちですが、「電気自動車を使えば二酸化炭素が発生しない」訳ではありません。電気自動車が必ずしもエコと言えない理由を説明します。
製造時の二酸化炭素排出量が多い
自動車は製造時に電気を使います。電気は火力発電で作られることが多いため、間接的に二酸化炭素を排出しているのです。鉄などの鉱石の採掘から、輸送、精錬、製品への加工まで、製造工程は複雑であり評価が難しいですが、一般的には電気自動車の方が二酸化炭素排出量が多いと言われています。(中略)
走行分の環境負荷も少ないがある
同様に、電気自動車に充電する電気を作る際にも二酸化炭素は発生しており、特に火力発電では石炭や石油を燃やすため、大量の二酸化炭素が排出されます。(中略)
ここまでは、二酸化炭素排出量の問題についてお伝えしましたが、電気自動車には電池に関する環境問題も課題となっています。
電池用資源をめぐる問題
現在、車載用の電池にはリチウムイオン電池が用いられていますが、リチウムイオン電池はリチウムやコバルト、ニッケルなどのレアメタルが必要です。
詳細はこちらの記事で言及していますが、電気自動車の普及によって爆発的にリチウムイオン電池の需要が高まることで、ニッケルやコバルトの採掘に様々な問題が発生すると懸念されています。
また、採掘が進んでいくと既存の鉱山での資源が枯渇し、より採掘が難しい所を利用しなければならないため、結果的に採掘における二酸化炭素が増えてしまうといった問題も内包しています。
廃棄時の環境汚染が深刻化
電気自動車に使われるリチウムイオン電池は5年ほどで寿命を迎えますが、コバルトやニッケル、マンガンなど、土壌や水を汚染する材料が多く使われているため、そのまま廃棄することは環境汚染に直結します。
特に電気自動車への移行が早い中国では、廃棄されるバッテリーの数は急速に増えつつあり、環境汚染は既に深刻化しているといえるでしょう。今後、各国で廃棄方法の確立が課題となることは間違いありません。
リサイクル率の低さも問題に
電池の廃棄による環境汚染や、製造コストを抑えるには電池のリサイクルやリユースも重要なポイントとなりますが、現状ではリサイクルが適切に行われているとは言えない状況です。(中略)
それでも電気自動車が主流となる理由
電気自動車は環境問題が山積していますが、それでもガソリン車の代替として、自動車業界の主流となりつつあります。その理由をお伝えします。
各国の法規制に伴うガソリン車の廃止
最も大きな理由は、欧州や中国、インド、米国、日本など、主要な国がガソリン車廃止の方向で進んでいることです。
きっかけは欧州グリーンディール政策です。2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減すると決定されたことで、実質的にガソリン車が廃止となる流れが生じました。普通のガソリン車だけでなく、ハイブリッド車などエンジンのある自動車は全て販売できなくなるため、自動車業界は電気自動車への舵を切らざるを得なくなったのです。
この政策が制定された後、中国など他の国でも電気自動車の採用が加速し、今では多くの国でガソリン車を廃止する動きが進んでいるため、必然的に電気自動車が主流となりつつあります。
環境性能の向上に向けた開発も加速中
政策上、電気自動車が普及していくのは確実なのですが、環境性能の向上も同時に期待されています。例えば、より少ない電気で電池を作ることに成功すれば、製造時の二酸化炭素排出量を大幅に低減できるでしょう。電気自動車の電池をリサイクルする方法も有効です。
また、再生可能エネルギーなど、二酸化炭素排出量が少ない発電方法を行うことでも、電気自動車の二酸化炭素排出量を抑えられます。現状すぐに解決できる問題ではありませんが、将来的には「電気自動車はエコ」なのが常識となるかもしれません。
環境面以外のメリットも多い
電気自動車には、環境面以外でも、メンテナンス性の良さや維持費の低さ、乗り心地の良さなど、様々なメリットがあります。デメリットもあるため、走行距離などの使用状況や好みによっても変わりますが、今までの自動車にはない楽しみ方ができるでしょう。(後略)【2022年11月10日 FREE AID】
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【大気汚染改善に期待されるEV しかし、財政難パキスタンでは現状変更規模には至らず】
いろいろな議論はあるものの、現実問題としてはEVの普及は今後も更に進むことが予想されます。(EV普及が遅い日本ではあまり実感がありませんが)
また、大気汚染が深刻化している国では、EVへの転換は現実的政策課題ともなっています。
ひと頃(北京オリンピックの頃)、中国の大気汚染がよく話題にもなりましたが、世界にはもと汚染が深刻な国がたくさんあります。例えばインド大都市の汚染はよく話題にもなります。
****汚染上位100都市、インド6割超=南アジアの大気汚染深刻―調査****
昨年の世界の大気汚染状況をまとめた報告書が14日公表され、汚染度の高い上位100都市の中で首都ニューデリーをはじめインドの65都市が占めた。
パキスタン東部ラホールが最も空気の悪い都市と評価されるなど、南アジア地域の汚染の深刻さが改めて浮き彫りになった。
スイスの大気汚染調査会社IQエアが131カ国・地域、7323カ所を対象に汚染を引き起こす微小粒子状物質(PM2.5)の濃度を調べた。国別のワースト1位はアフリカのチャドで、3位パキスタン、5位バングラデシュ。インドは8位、日本は97位だった。【3月15日 時事】
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上記記事のようにパキスタンの状況も深刻。政府は電気バスの導入などにも取り組んではいるようですが、状況の深刻さにくらべると、いささか「焼け石に水」の感も。
****大気汚染大国パキスタン、電動バス導入は焼け石に水か****
約2億2400万人の人口を抱えるパキスタンでは、大気汚染が死因のトップになっており、「世界疾病負担(GBD)」による最新の調査では、2019年には大気汚染が原因で推定23万6000人が平均寿命以前に死亡することになったとされている。
パキスタンの金融中心地カラチで働くラジャ・カムランさん(50)はオートバイで通勤していたが、電動バスが導入されたのに伴い、そちらに切り替えた。出費を削減できる上、この街の汚染された空気を吸い込むのを多少なりとも避けられるようになった。
カラチでは1月、小規模ではあるが、完全電動バスの運行が始まった。自動車や工場、発電所やれんがの焼き窯、ごみ焼却によって発生する大気汚染の悪化を削減する政府の対策の一環だ。(中略)
とはいえ、電動バスの台数が十分ではないとカムランさんは言う。初回導入予定の50台のうち、現在走っているのは10台だけだ。乗るには45分も待たされることがあるという。
汚染防止技術を専門とするスイス企業IQAirによれば、都市部の大気汚染はパキスタン全土における長年の大問題だ。大気の質に関する2021年の世界ランキングでは、パキスタンは全118カ国・地域中で下から3番目だった。(中略)
道路を走る自動車数の増加に対する懸念も高まっている。パキスタン国内の自動車登録台数は2011年には960万台だったが、2020年には3070万台へと増加。ペシャワールやカラチといった都市は、より環境負荷の低い輸送手段を推進する計画を発表している。(中略)
(カラチが属する)シンド州政府のアブドゥル・ハリーム・シャイフ運輸・公共交通長官によれば、州政府は現在バスを100台追加するため、購入費用約3000万ドルの融資を求めてアジア開発銀行(ADB)と交渉中だという。(中略)
だが環境問題や都市問題の専門家は、少数の電動バスでは大きな効果は出ないのではないかと考えており、もっと範囲が広く有意義な交通改革を求めている。
<必要なのはシステム改革か>
(中略)同国の気候変動対策省はそれでも、大気汚染は引き続き国の主要な環境問題の1つだと述べている。大気汚染物質の少なくとも40%を排出するのが自動車だという。
政府は2019年11月、電動オートバイと電動人力車(リキシャ)計50万台のほか、電気自動車、電動バス、電動トラック10万台以上を5年以内に交通システムに投入するという目標を掲げた。現時点で実際に走行している台数は分かっていない。
パキスタンは2030年までに、販売される全ての自動車とトラックの3分の1、オートバイとバスの半数を電動にするという長期目標を掲げている。総合的には、2030年までの期間に温室効果ガス削減の取り組みを強化することを公約している。
北西部の都市ペシャワールでは、州政府が新たな公共交通システムの一環として、旧式のバスを引退させ、ディーゼル・電動のハイブリッドモデルで置き換えつつある。
カラチでは電動バス50台導入とは別に、州政府が水牛のふんから生成されるバイオメタノールを燃料とする車両250台による交通網を展開中だ。
とはいえ、一部のアナリストは、カラチにおける新旧のバス改革は、汚染抑制のために十分ではないと批判している。
カラチ経営研究大学都市研究所のムハンマド・トヒード副所長は、走行する自動車やオートバイの総数を削減し、大気汚染の影響に関し市民を啓発することにもっと注力すべきだと主張する。(中略)
環境問題を専門とするコンサルタント会社ダリヤ・ラボのヤシール・フサイン氏は、カラチにおける排ガス問題の解消に向けて効果を上げるには150台どころか、少なくとも1500台の電動バスが必要だろうと語る。
啓発団体「グリーンパキスタン連盟」の創設者でもあるフサイン氏は「政府は電動オートバイと電動リキシャの利用促進に向けて、長期低金利ローンも提供すべきだ」と語る。(後略)【3月18日 ロイター】
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財政危機に直面し、国際通貨基金(IMF)との協議を進めている状況、更には昨年の国土の三分の一が水没する大洪水からの復興が急務となっている・・・というパキスタンの現状では、なかなか環境対策まで手が回らないというというのが現実でしょう。
【フィリピン 「ジープニー」の転換に、負担できない運転手がストライキ】
派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」が庶民の足であり、また、観光的にも目玉のひとつとなっているフィリピンでは、この「ジープニー」のEV等への転換を進めていますが、その負担の大部分が低収入の運転手にかかってくるということで、抵抗する運転手のストライキに発展しています。
****フィリピン名物「ジープニー」が消える日****
<運転手や事業主ら10万人以上が全土でストライキを実施>
ど派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」は、フィリピン庶民の足として欠かせない交通手段だ。その運転手や事業主ら10万人以上が3月6日から1週間、全土でストライキを実施。マニラ首都圏だけで4万台以上のジープニーが姿を消し、学校や企業がオンラインへの切り替えを迫られるなど混乱が続いている。
ディーゼルエンジンを搭載したジープニーは環境負荷が大きく、大気汚染の元凶とされる。政府は2017年から電気自動車または欧州排ガス規制「ユーロ4」対応エンジンを搭載した車両への移行を進める「公的車両近代化プログラム」を推進してきた。
だが、基準を満たす車両の価格は従来の10倍以上。買い替えに補助金が支給されるとはいえ、低収入の運転手に払える額ではなく、抗議のストに踏み切った。
それでも彼らの声が当局に届く気配はない。サラ・ドゥテルテ副大統領は、ストは共産主義の反政府勢力に扇動された行為だと一蹴した。【3月14日 Newsweek】
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外交面で注目されるマルコス大統領に比べ、就任後、大きく取り上げられることがあまりないサラ・ドゥテルテ副大統(ドゥテルテ前大統領の長女)ですが、さすが父親譲りというか、(噂どおり)父親以上に強気な性格のようです。
【世界をリードする欧州でも、35年からガソリン車新車販売を事実上禁止するとなると・・・】
一方、EVを含む環境問題で世界をリードすることを経済的・政治的戦略ともしている欧州EUですが、“ガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する”となると、さすがに容易ではないようです。
****エンジン車の新車販売禁止法案、EU理事会で承認延期 ドイツ反対に*****
欧州連合(EU)域内でガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する法案について、EU加盟国で構成する理事会による正式承認が延期され、法案が宙に浮いている。自動車大国ドイツが土壇場で反対の意向を示し、合意が困難となったためだ。
法案は、35年までに乗用車と小型商用車の新車を、二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車にする内容。実現すれば、35年以降はガソリン車に加え、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新車も事実上販売できなくなる。
EUは50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。EUの欧州委員会が気候変動対策の一環として提案した同法案を巡っては、EU各国と欧州議会が昨年10月に政治合意。今年2月には欧州議会が法案を採択したことで、欧州理事会の正式承認を残すだけとなっていた。
しかしドイツのウィッシング運輸相は2月28日付の独大衆紙ビルト(電子版)で、合成燃料「eフューエル」を使用する新車販売が認められない限り、「法案には賛成できない」と表明。ショルツ独首相も3月6日の記者会見で欧州委に対し、「35年以降にeフューエルをどう使用できるかに言及した提案を期待している」と対応を求めた。
法案は、EU加盟27カ国のうち15カ国以上が同意し、なおかつ同意した国々の人口総計がEU総人口の65%以上となることが承認の条件だ。欧州メディアによると、ドイツ以外にイタリアやポーランド、ブルガリアも賛成しない意向を示しており、承認が見込めないことから、今月7日に予定されていた承認手続きは延期された。
ドイツが使用を求めるeフューエルは、CO2と再生可能エネルギー由来の水素を合成させてできる合成燃料の一種だ。燃やせばガソリン同様CO2が出るが、製造時に大気中に含まれるCO2を回収して利用すれば、地球温暖化防止につながるとされ、実用化に向けて開発が進められている。
ドイツがeフューエルを認めるよう求めるのは雇用対策の側面が大きい。電気自動車(EV)は動力に内燃機関を必要としない。欧州自動車部品工業会が21年に公表した調査結果によると、EVシフトによってEU域内では40年までに内燃機関製造にかかわる最大約50万人の雇用が失われ、EV用バッテリー生産などの新規雇用を差し引いても27万5000人の雇用減となる。eフューエルはガソリン車などの内燃機関で使えるため、雇用維持に一定の役割を果たすとみられる。【3月16日 毎日】
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EV販売台数で世界断トツの中国では・・・、EV導入が全く進まない日本では・・・と、話は尽きませんが、長くなりますのでまた別機会に。